今回は4月下旬~5月上旬の日本公開作から11作品を扱います。
(含再掲1作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第87弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■4月21日公開作
『タクシー運転手 約束は海を越えて』
韓国現代史中の悲劇、光州事件を扱う。序盤、ソン・ガンホ軽重の演技幅この全開ぶりは久々とニヤリ。閉鎖された光州潜入後の中盤、ヤバいよこれ韓国映画史上の画期作だよと興奮。軍による虐殺描写の凄惨と人情描写の厚みに終盤、自失。ソン・ガンホさんマジ卍。
"택시운전사"
『タクシー運転手 約束は海を越えて』では、光州へ入ったソン・ガンホ演じる主人公が、地元の運転手たちから始め爪弾きにされる。やがて盟友となった運転手の一人に招かれ、家族の食卓に加わるとても幸福な場面が、あまりにかつて自身体験した光景そのもので驚いたし涙した。
「韓国光州で目的地に着けず、一人疲れて凹んでいると~」:
https://twitter.com/pherim/status/814369389495451649
■4月28日公開作
『マルクス・エンゲルス』
パリでの出会いに始まるマルクスとエンゲルスの二十代を描く。再現性の高い演出により時代状況をうまくとり込みながら、「ヘーゲル法哲学批判序説」から「共産党宣言」へ至るマルクスの思想展開を端的に切りとるラウル・ペック監督の手腕に感心。対照的な夫婦関係も印象的。
"Le jeune Karl Marx"
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
カンヌ最高賞獲得も納得のスウェーデン映画。ある現代美術キュレーターが体験するドタバタと巻き込まれるスキャンダル。アートワールドの制度的疲弊と業界人の浅薄さを巡るあるある話てんこ盛りで、移民や性差など現代の諸相を簡潔にえぐる巧みさも秀逸、楽しめた。
"The Square"
『犯罪都市』
右腕一発で相手を失神させる太っちょ人情刑事が、中国の朝鮮系マフィアの残虐サイコ兄貴と対峙する。マ・ドンソク演じるユーモアと仁義に富む主人公はソン・ガンホの系譜継ぐ韓国映画定番の役柄と言え、中国マフィアと韓国ヤクザの抗争描写ともども楽しめる。筋肉こそ正義な優しい世界。
"The Outlaws"
『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命』
現実の混沌とモダニズムの理想との対決をそのまま擬人化したようなジェインvs不動産王ロバート・モーゼスの構図が、一見アリと巨人との対峙に映る様こそ20世紀消費文化の狂瀾を鋭く風刺する。有機的内実こそ都市の命という洞察はなお意義深い。
"Citizen Jane: Battle for the City"
■5月4日公開作
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
ナンシー・ケリガン殴打事件と五輪本番での号泣が世を沸かせたトーニャ・ハーディングの伝記コメディ。ホワイト・トラッシュ=白人貧困層のガラの悪さをネタに笑いをとるブラックなアンチ・サクセスストーリーはしかし、こうも殺伐とした背景があるならあんな事件も起こるよねと妙な説得力を醸し出す。
"I, Tonya"
『ホース・ソルジャー』
世界最強&最新鋭を誇る米国特殊部隊が、騎乗の激闘を強いられた9.11直後の史実を基にしたアクション良作。騎馬隊による対戦車戦、陸路アフガニスタンへ潜入したグリーンベレー隊員12人の陥る孤立、対タリバン結束を目的とする軍閥首領達への調略描写など見どころ多く面白い。
"12 Strong"
■5月11日公開作
『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』
ジェイク・ギレンホール主演、ボストン・マラソン爆破事件をめぐる実話ベースの被害者青年復活劇。両足切断のどん底に突き落とされた冴えない男が、家族恋人との葛藤やメディアからの英雄視に耐えつつ再生を遂げていく。《アメリカまだまだイケる》物に特有の熱気充満する一作。
"Stronger"
元ツイート(ふぃるめも77): https://twitter.com/pherim/status/927795807033495553
『モリーズ・ゲーム』
五輪出場に挫折したのち、セレブの集うポーカールームの経営者となった実在の女性をジェシカ・チャステインが好演。劇作家出身で過去作に
『ソーシャル・ネットワーク』『スティーブ・ジョブズ』他をもつアーロン・ソーキン監督&脚本作だけあって言葉の応酬が端的かつスリリングで楽しめた。
"Molly's Game"
■5月12日公開作
『ラジオ・コバニ』
IS占領下のクルド人街コバニで、手作りのラジオ局を始めた一人の女子大生。彼女の声が次第に市民の希望となってゆく。鬼畜の所業をくり返すIS戦闘員が家族のため出稼ぎで戦うただの親父と分かる尋問場面、クルド人女性防衛隊の激しい実戦模様など、映しとられるシリア北部の壮絶。
"Radio Kobani"
『枝葉のこと』
そして男はズンズン歩く。筋は通したい、けれど軋轢ばかり巻き起こる。歳はもうおっさん目前、しかし大人になり切れない。ただ歩く。前に進めば何かあるとか信じてない、でも止まった奴は終わりだろ。という監督主演・二ノ宮隆太郎むき出しの自意識が全編の型とリズムを貫く強靭作。
余談。
『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』、原題
"Stronger"、当然ながら序盤は同じくボストンマラソン爆弾テロを描く
『パトリオット・デイ』と全く同じ画が幾度も登場する。本作はより感情描写に焦点化した感。日本公開未定ながら、DVD化前の2018年中に小規模ロードショーされると予想。
↑と、つぶやいたのは昨年11月。この半年の間にもDVD販売/動画サイト環境をめぐる自身の認識が、実情を追うかたちでずいぶん変わったことに気づかされる。今や日本公開前の新作映画が、日本リージョン以外の動画サイトで観られるケースすら目立つように。
ここから読み取れるのは、日本特殊に劣化した海外映画配給体制が早晩迎えるだろう崩壊の予兆だ。どのようにエクスキューズを重ねようと、現在の甚だしい新作公開の遅延や邦題の冗長化、入場料や販売パンフレットの高額状況等々は怠慢横並びに由来し永続不能。
しかしバブル期に築かれた業界慣行を当人たちが変革できる可能性はゼロなので、外圧と世代交代により変わる。この外圧はすでに準備済み、バブル世代も隠退まで秒読みに入ったので、準備はもう整いましたね、という話。ミニシアター受難の時代は続きますの。
おしまい。
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