今回は5月下半の日本公開作を中心に。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第88弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■5月19日公開
『イカリエ-XB1』
チェコ製宇宙SF、共産主義下の1963年作。流行する謎の眠り病、放射線と核の脅威、正体不明のダークスター。傑作においては時代と場所の制約が、その表現性を後代には追随不能の高みへと押し上げる。本作はその好例。スタニスワフ・レム原作の翻案としても楽しめ、終幕の雄大さは殊に秀逸。
"Ikarie XB 1"
『イカリエ-XB1』、4Kデジタルリマスターがきょう5月19日から日本公開。いかにもスタニスワフ・レムな哲学宇宙SFで、凝った舞台美術の細部まで鮮明に映り出る、4Kレストアが活きた作品だなと。一方新宿では沼野充義翁のアフタートークも組まれたらしく、静かに熱いレムトークを想像するだに裏山垂涎。
■5月25日公開
『友罪』
神戸連続児童殺傷事件に基づく薬丸岳原作の映画化。罪負う者は幸福になれないのか。少年Aのその後を巡り、あり得たかも知れない彼の煩悶を描く。
『64-ロクヨン-』の瀬々敬久監督による、答えの出ない問いを次から次へと敷き詰め、瑛太がラストで見せる表情の怪演へと集約させる構成が見事。
"友罪"
『犬ヶ島』
ディストピア日本のゴミ島に隔離された犬たちが、少年の到来により団結し権力に立ち向かう。『グランド・ブタペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督十八番のオシャレ美術マジック炸裂、ゴミ溜めの醜さをそのままに宝石箱へ変えてしまう。並び立つ名優の声も痺れる再見必至の眼福作。
"Isle of Dogs"
『ゲティ家の身代金』
リドリー・スコット監督新作。ゲティ・ミュージアムのゲティ家に起きた誘拐事件を映画化。『悪の法則』の緊迫感に史実性が加わり、静かな迫力を全編に途切らせない匠の技の冴える一作。各場面にきちんと見応えあるヴィジュアルが配給されるあたり
『プロメテウス』を想起させた。
"All the Money in the World"
ケビン・スペイシー全出演部の撮り直しという話題性も。しかし代役に立ったクリストファー・プラマーがよくハマってて残念感は薄い。スペイシー好きだけど、ここはプラマーで良かった感。ゲティ本人に寄せたケビン・スペイシー特殊メイクによるオリジナル版予告編もご紹介。↓
■5月26日公開作
『男と女、モントーク岬で』
作家として成功した男が、昔の恋人との再会を果たす。シュレンドルフ監督や主演スカルスガルドらの出身地を反映したヨーロピアンな空気感が、NYロングアイランド島東端の荒涼風景に不思議な異化をもたらしている。浜辺の砂に足やタイヤが囚われる象徴描写は殊に印象的。
"Return to Montauk"
『軍中楽園』
中台衝突下の1969年、砲声響く金門島の娼館を舞台とする青春映画。大陸に家族を残す国民党軍の老兵、各々に事情を抱え春をひさぐ娼婦たち、出産、殺人、逃亡と相次ぐ事件。台湾映画が得意とする叙情性に充ちた物語は趣深く、1990年代まで実在したという軍運営の娼館描写自体が興味深い。
"軍中樂園" "Paradise in Service"
『ファントム・スレッド』
期待値をはるかに越える映像美が、そのまま胸えぐる猛毒へ化けゆくポール・トーマス・アンダーソン監督新作は、過去傑作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(いずれ血に染まる:聖書)』を抑制の幻糸で緊縛し乗り越える。不可視の悪魔が愛欲と美の極北へと降り立つ終盤描写は言絶。
"Phantom Thread"
『ルイ14世の死』
太陽王が迎える死。体の末端から始まる壊疽は、日蝕のようにその闇を広げだす。病床の周囲をゆきかう従者や医師は陽炎のようで、生の気配がそこにはない。全編で気だるく横たわり続ける王がある瞬間、視線だけでスクリーンを突き破る。表現者ジャン=ピエール・レオの精髄が露出する。
"La mort de Louis XIV"
■日本公開中/公開終了作品
『レディ・プレイヤー1』
跳躍する金田バイクから高層スラム倒壊まで視覚ギミックの楽しさ充溢、一切の中だるみを許さないスピルバーグ安定のSF娯楽作。VRヘッドセットをかぶり躍動する主人公たちに対して、3Dメガネをかけ座っているだけな自分の内に窮屈さやら妬みやらの発露を感覚したのは新鮮。映画のVR化前奏作。
"Ready Player One"
『ブレードランナー 2049』
再見。ドゥニ・ヴィルヌーヴはその触感にこそ表現の本核があり、物語や演技演出などの表層はこの表現性の媒体でさえあれば良い。というのが初期作『渦』以降ヴィルヌーヴ映画に触れるごと深まる観想で、本作も期待を存分に更新してくれた。大抵の酷評は筋立てを巡る枝葉で的外れ。
"Blade Runner 2049"
余談。
『ブレードランナー 2049』は昨年バンコク公開時に観たあと、日本でのロードショー全国最終週に銀座で再鑑賞しました。そして初見時にも再見時にもツイートしないまま時がたつなど。劇場で観たけれど未ツイートの作品、時々出ちゃうんですよね。できるだけ疎漏なく参りたく。
日本で『ブレードランナー 2049』の映像情報が流れ始めた2016年末の連ツイより下記引用。
『ブレードランナー 2049』予告編。退廃都市の闇はリドリー・スコット監督作直系の肌合いながら、橙色の鈍い陽光に照らされ砂塵を被る廃墟場面は足音や指先描写などヴィルヌーヴが得意とする生理感覚の喚起力が際立ち、これだけで嬉しくなります。
この数年で一気に注目を浴びた本作監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ、出身はカナダのケベック州で、当初は公用語のフランス語で作品を撮っていました。もちろん当時日本の劇場で公開されることはなかったけれど、2000年作
“Maelstrom(渦)”は飯田橋の日仏学院で一度か二度だけ上映されました。
(略)それを良しとすることはたぶん、映画を通して現実を生きる営みと言い換えられる。そしてドゥニ・ヴィルヌーヴが凄いのは、ハリウッド戦線に躍り出た近作
『複製された男』や
『ボーダーライン』等でも、初期にあった生理への喚起力が健在であることです。
引用元 pherim tweet: https://twitter.com/pherim/status/812436566178041856
※↑初期作の日本公開時については、リプで訂正情報もいただいています。
おしまい。
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