今回は、6月第1~3週(6/1~16)の日本公開作を中心に10作品を扱います。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第89弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■6月1日公開作
『レディ・バード』
さびれた田舎町でカトリック系女子高で窒息しそうな少女の青春。あまりにありふれているのにラストまで充実しきった不思議。
『ブルックリン』とは対極の主演シアーシャ・ローナンはち切れんばかりの魅力炸裂。
『フランシス・ハ』主演のグレタ・ガーウィグ初監督作、この人の後続作気になる。
"Lady Bird"
『ビューティフル・デイ』
世界が壊れているのか。壊れているのは自分なのか。"初めからお前は存在しなかった(You were never really here)"という原題をもつ本作は言葉で語らず物語を響かせる。地獄と再生。自我の破壊が暗闇を呼ばず朗らかに明るいのは、壊されることでようやく“自分になる”からだ。
"You Were Never Really Here"
試写メモ39「壊れているのは世界なのか」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2878
『50回目のファーストキス』
山田孝之&長澤まさみ主演でハワイ舞台の記憶喪失系ラブコメ。"勇者ヨシヒコ"シリーズの福田雄一監督によるハリウッド秀作リメイクとあって中弛みなく全編安定、脇役も佐藤二朗&ムロツヨシと手堅いヨシヒコ布陣でクスリ笑いの連波に隙がない。各役者ファン必見の娯楽良作。
"50 First Kisses"
『デッドプール2』
笑い過ぎて腹筋つる勢いだった前作を余裕で超えてきた。映画愛アメコミ愛溢れる小ネタ満載、意外性にも充ちてかつメタギャグ連発から物語的にもきちんと落とす展開にうならされた。あと幸運を操る新キャラのドミノが放つ世界肯定の空気感、すごく良い。感動するとは思ってなかった。
"Deadpool 2"
■6月9日公開作
『ザ・ビッグハウス』
想田和弘監督新作は、たった一つの建物の一日だけを"観察"する。一切は語られず、淡々と映し撮られる。祝祭に湧くその光景を通して、力による自己正当化の原理から、宗教と政治の熱狂、人種・階級格差まで、トランプ大統領下で揺れるアメリカ社会の全局面が炙り出される様は圧巻。
想田和弘監督へのインタビュー記事 by pherim
試写メモ37「観察映画における瞑想性をめぐって」: http://tokinoma.pne.jp/diary/2817
■6月15日公開作
『ワンダー 君は太陽』
先天性の障害により異形の顔をもつ少年。残酷なまでにあっけらかんといじめは起こる。子供は大人の価値観を精確に反映するから、同時に救いの手も差し伸べられる展開は観客をも救いあげる。ならばそこで君はどう振る舞うか、この(例えば日本)社会はどうか。そう問いかけてくる一作。
"Wonder"
Boy living with Treacher Collins has 53 surgeries by age 11:
https://goo.gl/9yDpRx
■6月16日公開作
『ゲッベルスと私』
ナチス宣伝相ゲッベルスの秘書だった103歳の女性による告白。それは稀有の内幕語りであり、かつアーレント“凡庸な悪”の一典型にも映る。老化した皺の陰翳を過剰なほど仔細に捉えた映像が、「何も知らなかった」「私に罪はない」と語る時その深層に轟く晦渋の呻きを鮮明に響かせる。
"Ein deutsches Leben" "A German Life" https://twitter.com/pherim/status/1009265307708416000
試写メモ後日更新予定:
『母という名の女』
メキシコ映画。17歳で子を生んだ少女とその母親の確執は、子とその父である少年を巻き込み恐るべき展開へ。前作『或る終焉』で圧倒された若手監督ミシェル・フランコ、言いしれない欲望が露出する凄味ある人間描写に、事前の高い期待値も軽く凌駕された観。継承を暗喩する終幕にも震撼。
"Las hijas de Abril"
■日本公開中作品
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』
終幕に呆然。高い期待値を最高の形で裏切るっていう、これができるの本当凄い。マーベル秀作『ウィンター・ソルジャー』の監督ルッソ兄弟を登用し、DCコミックスの長所たるダーク調をも圧倒を志す気概。喜怒哀楽全部盛りでIMAX3Dの威力も十全の娯楽怪作。
"Avengers: Infinity War"
■日本公開未定作
"Goodbye Christopher Robin"
『クマのプーさん』作者A.A.ミルンと息子クリストファー・ロビンを巡る物語。ミルンが幼い息子のため紡ぎ始めた子熊の物語は世界的ベストセラーとなり、そのせいが親子関係に亀裂が生じる過程を、重くならずバランス良く描きだす。戦間期英国の細やかな家庭描写も印象的。
"Goodbye Christopher Robin"
"Goodbye Christopher Robin"で描かれる父子関係は、『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)をめぐる個別特殊の事例ながら、第一次大戦で心に傷を追った夫と彼を見守る妻が第二次大戦へ息子を送り出すという、敵味方を超えた当時の普遍状況を描く点も興味深い。息子の成長譚としても良作。日本公開未定。
余談。
末尾の
"Goodbye Christopher Robin"は、
『クリストファー・ロビン』のタイトルで今秋日本公開、11月公開の情報なども。半年先になるとけっこう変わり得るのですが、本作に公開中止となるような論争要素はなく、またクリストファー・ロビンをユアン・マクレガーが演じるディズニー実写映画
『プーと大人になった僕』も9月に日本公開予定であることから、周辺業界も巻き込んだ“そういう流れ”が想像されます。2018年作のディズニー映画を先におけば、2017年作のイギリス伝記映画の集客も見込めますからね。
ちなみにユアン・マクレガー出演作の原題は
"Christopher Robin"、若干ややこしいのです。
おしまい。
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