今回は12月22日~29日の日本上映開始作と、第19回東京フィルメックス上映作などから11作品を扱います。(含短編1作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第101弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■12月22日公開作
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
シチリア島で起きた少年誘拐殺人事件をベースとしつつ、たびたび映り込むギリシア式神殿の廃墟が物語の時間軸を現存在から引き剥がす耽美的悲恋物語。パレルモ出身の監督2人組による映像は、土地を知り抜くゆえの繊細さと豊かさに充ちた独特の余韻を跡へ連ねる。
"Sicilian Ghost Story" https://twitter.com/pherim/status/1074298385010634752
『家(うち)へ帰ろう』
アルゼンチンからポーランドへ、70年ぶりに故郷をめざす老仕立て屋。労苦のはて孫たちに囲まれる誇らしさ、ドイツを避け欧州横断を試みる頑固さ、マドリッドやパリなどで彼を助ける人々の彩りと温かさ、そのすべてがホロコースト生存の一点へ収束しゆく圧巻のロードムービー。
"The Last Suit" https://twitter.com/pherim/status/1075960790056747009
■12月28日公開作
『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
77歳お婆ちゃんの意気軒昂ぶりに刮目の84分。苛烈すぎるメディアバッシングを跳ね返しパンク・ファッションを生んだ反骨精神が、デザインのみならず販路やスタジオ運営など、いまだ業態の隅々まで染み渡っている様に感服。まさに波瀾万丈、そして最強。
"Westwood: Punk, Icon, Activist" https://twitter.com/pherim/status/1076680088538628096
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
太め女子に起きた天啓のような勘違いが、見える世界を一新させる。身体特徴による差別に敏感な風潮を逆手にとって笑わせ、感動させる巧さにうなる。いま抱える劣等感こそ幸せへの鍵だと教えてくれる今年最高のラブコメ、万人にお奨めしたい(滅多にない)。
"I Feel Pretty" https://twitter.com/pherim/status/1076418201011933185
■12月29日公開作
『アタラント号』
船暮らしの新婚夫婦と不思議な老水夫と猫たちを主人公とする、夢見るような一篇。理想と現実、田舎娘のパリへの憧れと青年のプライドとの衝突を描く物語の軸に、いつも優しく寄り添う老水夫の佇まいに魅了される。29歳で夭折した伝説的監督ジャン・ヴィゴ代表作(1934)の4Kレストア版。
"L'Atalante" https://twitter.com/pherim/status/1077178900348719107
ここで自ら財団を作り4Kレストア化の流れを推進するマーティン・スコセッシによるジャン・ヴィゴ紹介動画を。公式アカウント@vigoatalante が触れてないのは、権利問題からかも。ならば私が、的お節介でした。
■日本公開中作品
『ヘレディタリー/継承』
音や影、環境の全体が本能的な恐怖を誘う映画体験。物語の怖さでも驚かせ系でもない演出の斬新さにまず呑み込まれる。やがて作品世界と主人公の作るドールハウスとが相互陥入を始め、音響の不吉や名作群からの引用場面が激しく交錯し精神支配の“継承”へと至る、ホラー表現の画期作。
"Hereditary" https://twitter.com/pherim/status/1078192681652674560
■第19回東京フィルメックス上映作 https://filmex.jp/2018/
『幻土』"A Land Imagined"
移民労働現場が舞台のシンガポール・ノワール。映像の幻惑と演技の抑制が、心のうめきと無機質な世界を輪郭づける。アジア近隣各国の土砂からなる埋め立て地の海岸線にこの都市国家の寄る辺なさが仮託され、鍵となるネットゲームのバグ画面が足下の無根拠を可視化する。妖しげに渇きゆく夜。
"幻土"(中文) "A Land Imagined""
『幻土』の謎と闇にのめり込んでいく感触は、観ながら『薄氷の殺人』や『迫り来る嵐』(日本公開1/5)など中国ノワール秀作群を想わせた一方、決定的に何かが異なるという感覚も抱かせる。それはシンガポール映画の多くに通底する、情感であれ妖艶であれ醒めた距離感、渇いた明るさ。今後要考察。
ref. 『In the Room』: https://twitter.com/pherim/status/805206172147953664
『あなたの顔』"你的臉"
蔡明亮/ツァイ・ミンリャン監督新作の主役は「顔」だ。セリフもなく映され続ける「顔」は、属性や個性が切り離された「物」へと姿を変える。複雑な表面をもつ「物」がふと動く、語りだす。瞬時に「顔」が蘇る。地味だが不可欠のバイプレイヤーとして、坂本龍一の音が寄り添う。
"Your Face" https://twitter.com/pherim/status/1068397996054765568
ref. 蔡明亮『郊遊 ピクニック』: https://twitter.com/pherim/status/520384832598077441
検索で見つかる感想ツイートの過半が不評サイドなのはともかく、たまにみる映画批評サイトでセリフによるストーリーの不足が嘆かれていたのは意外に感じた。直訳タイトルが“顔”かつ“あなたの”なのに。非言語の物語にこれほど満ちた映画も少なかろうに、という驚き。
『エルサレムの路面電車』"A Tramway in Jerusalem"
アモス・ギタイ監督新作は、エルサレムの市電でロケ撮されたオムニバス。異質な人々が偶然乗り合わせて起こるドラマが、多民族多宗教混淆の街そのものを象徴する。駅名の車内アナウンスが会話へ介入して生じる一瞬の沈黙に味わいがあり、暗転する幕間に残る走行音が独特の余韻を引く。
https://vimeo.com/287726639
"A Tramway in Jerusalem" https://twitter.com/pherim/status/1067321916388560896
『ガザの友人への手紙』 "A Letter to a Friend in GAZA"
アモス・ギタイ監督とイスラエルやパレスチナの俳優が、ガザ地区をめぐる古今のテキストを朗読する。立場・世代が錯綜する中「家畜化後の若い世代」など強い言葉も登場し、終盤で読み下されるカミュ《ドイツ人の友への手紙》が一切を普遍化させる。傾聴者の重い表情も印象的。
"A Letter to a Friend in GAZA" https://twitter.com/pherim/status/1067426121631772675
『シベル』
トルコ北東部の山村、口笛で会話する唖者の少女シベルが周囲からの差別に抗う。茶畑の谷を挟んで村人がさえずり合う口笛文化の描写が清々しいだけに、少女が逃亡者の男を匿ったことから熾烈化する村八分の迫力に背筋が凍る。中心人物の5名以外は村の素人を起用したゆえの臨場感が凄まじい。
"Sibel" https://twitter.com/pherim/status/1069187820806230016
※後日、監督&主演女優舞台挨拶の模様ほかツイート予定。
余談。がんこ爺さんがアルゼンチンからポーランドへ旅する上記
『家へ帰ろう』、ユダヤ人がよく就いた職業である仕立て屋の老主人公が旅する目的は、70年一度も会っていない、生きているかどうかもわからない命の恩人との再会です。実はドイツ語がわかるのに絶対拒否する姿勢は、イスラエル在住のレビ先生に伺った事情ともダブります。
レビ先生(テルアビブ大学)との雑談キャス:
https://twitcasting.tv/pherim/movie/509651883
このツイキャスのなかでは、
『エルサレムの路面電車』も動画紹介含め扱っています。
いつのまにか、扱う作品の公開日時を過ぎてからの投稿が、当記事群のデフォルト姿勢になってしまいました。あまり意義のない遅れなので、来年は少し未来方向へ巻き返した投稿ペースを目指そうと思います。ふぃるめも的ことしの反省。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh