今回は、2018年1月4日~1月19日の日本上映開始作を中心に11作品を扱います。
(含再掲1作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第102弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■1月4日公開作
『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』
誕生から突然死へ至るホイットニー・ヒューストンの生涯を、関係者におもねらず暗部まで扱う秀作ドキュメンタリー。麻薬漬けの晩年や親類との不仲など、『ボディガード』による頂点以降の描写が痛切ながら力あり、儚くも唯一無二の軌跡に惹き込まれる。
"Whitney" https://twitter.com/pherim/status/1077922714034159616
『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』は明日1/4日本公開。2018年後半は
『ボヘミアン・ラプソディ』からクラプトン、ピアソラ、C.ゴンザレス
『黙ってピアノを弾いてくれ』などなど怒涛のように良作音楽映画が公開されましたが、個人的に最も鬼気迫るものを感じたのは本作です。震えました。
■1月5日公開作
『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
60年代のロンドンカルチャー沸騰模様を、マイケル・ケインが茶目っ気たっぷりに遊覧する。現在の老紳士イメージの彼と、銀幕中の若かりし姿との激しい交錯が往時の煌めきを際立たせる。階級差別に麻薬、ビートルズにストーンズと奔流の如き90分。
"My Generation" https://twitter.com/pherim/status/1080449207905935360
『迫り来る嵐』
旧式の大規模工場、やまない雨、重い泥水。肉体労働者の住まうドヤ街、宵夜の女娼たち、猟奇殺人。大陸の此岸より見つめる香港返還の騒擾と、過去二十年の人心や風景の変貌、とり残された男のみる夢。『薄氷の殺人』の漆黒、『殺人の記憶』の哀切を貫き通す、極東ノワール秀作来了。
"暴雪将至" "The Looming Storm" https://twitter.com/pherim/status/1079382582481940480
’97年の旧式工場という舞台設定も良かった。世界が香港返還に湧きたつなか、中国内地のさびれた工業町で誰知らず進行する謎事件という明暗対照。
■1月11日公開作
『喜望峰の風に乗せて』
コリン・ファースのひとり大航海。素人ながらヨットの単独無寄港世界一周レースに挑み、議論を呼ぶ結果を残したドナルド・クロウハーストを巡る伝記的構成。疑惑の航程が進むにつれ、原題
"MERCY"の響きが次第に重奏化する。耐え忍ぶ妻役レイチェル・ワイズの表情演技が沁みる。
"The Mercy" https://twitter.com/pherim/status/1081105276319674369
■1月12日公開作
『未来を乗り換えた男』
ユダヤ人作家が書いたナチスの影忍び寄るマルセイユ舞台の小説を、現代へと翻案した意欲作。難民排斥やヘイトの気運高まる港町の描写が、驚くほど違和感なく原作の筋にハマる。リアリズムを貫徹する映像だからこそ、目に見えない歴史の幽霊が一層不気味な光彩を帯び迫り来る。
"Transit" https://twitter.com/pherim/status/1081535150544932864
『ヒューマン・フロー 大地漂流』
難民の現場に世界各地で取材した艾未未(アイ・ウェイウェイ)監督作。中国当局による拘束履歴をもつ現代美術作家ならではの先鋭性は影を潜め、淡々としかし旺盛に撮り進める。難民のかこつ窮状を“観光”する感が否めない点は素か、或いは露悪的に議論喚起を意図したか。
"Human Flow" https://twitter.com/pherim/status/949651246671052801
バンコクでの国連UNHCR #難民映画祭 2017での
『ヒューマン・フロー 大地漂流』鑑賞時ツイート。他の上映作や、ソンタグと倫理面を絡めたご反応への引用RTなど連ツイしています。↓
https://twitter.com/pherim/status/949651246671052801
■1月18日公開作
『夜明け』
痛みを抱える者同士の衝突と交錯を描く、広瀬奈々子監督デビュー作。柳楽優弥演じる怪しげな青年の誠実さが明らかとなるに従い、小林薫扮する朴訥で気のいい職人が危うさを醸しだす展開の妙に唸る。個を貫くことの哀切と恍惚。母体となった是枝+西川美和率いる制作集団“分福”共々今後が楽しみ。
https://twitter.com/pherim/status/1082232119739314178
(いただいたリプへの応答として) とりわけ
『誰も知らない』の柳楽優弥イメージがまだ強い人は驚くかもですね。個人的には近年
『ディストラクション・ベイビーズ』などリビドーを持て余した役柄の印象を抱いていたので、
『夜明け』での生命力が逼塞しかけているような繊細な感情表現は新鮮でした。
『TAXi ダイヤモンド・ミッション』
マルセイユへ舞台を移すシリーズ5作目。リュック・ベッソンの元祖
『TAXi』から20年、おなじみジベール署長は市長へ出世、キャラも半数は非白人と隔世の感。過去作の文脈あってのネタも多く、カーチェイス・コメディというジャンルを立てたTAXiシリーズすらマニエリスムへ突入し得る、この驚き。
"Taxi 5" https://twitter.com/pherim/status/1082555059701833730
■1月19日公開作
『バハールの涙』
『バハールの涙』
傑作。ISの暴虐により幸福を奪われた女性弁護士と、戦場で夫を失ったジャーナリスト。クルド人、ヤズディ教徒、性差別という何重もの抑圧下で、わが子の奪還を胸に女性のみの戦闘部隊の長となる主人公を演じるゴルシフテ・ファラハニの、芯の強さと怯えの同居する凜とした眼差しが忘れがたい。
"Les filles du soleil" "Girls of the Sun" https://twitter.com/pherim/status/1084289785571639296
試写メモ51 「太陽の少女たち」:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3158
『かぞくわり』
折口信夫「死者の書」を下敷きとした、奈良・~舞台の家族劇。ねずみ講ビジネスや新興宗教、ヒッピー的コミューンなど鬱っぽい昭和ギミックの連打が懐かしく不思議な一作。こういう作品が出てくる社会構造そのものにもメタで絡む面白さがある。
https://twitter.com/pherim/status/1082994748397240321
■日本公開中作品
『ボヘミアン・ラプソディ』 3画面スクリーンX初鑑賞@バンコク。
端的に言います。ヤバ目です。目がヤバい。空撮やステージ上から観衆を見渡す場面の没入感だけでなく、専用の編集が全編異次元の語りを生んでました。目を別々に動かすカメレオンが羨ましくなるレア体験、満喫。
(ScreenX体験マンガ:https://twitter.com/oyusugoi/status/1081136545980067841)
"Bohemian Rhapsody" https://twitter.com/pherim/status/1081884794428960769
『ボヘミアン・ラプソディ』Dolby Atmos版鑑賞tweet(ふぃるめも100):
https://twitter.com/pherim/status/1074860781747920896
余談。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』の項でバンコクUNHCR主催難民映画祭のツイートをしましたが、奇しくもこの記事余談を打つ今も現在進行系で、在バンコクUNHCRの動向が気になり続けていたりします。
サウジ18歳女性、バンコクの空港でパスポート奪われ立ち往生、を巡る連ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/1082011517816516608
これ、イスラム信仰を捨てたいという彼女の意思が起点になっているのですが、実はちょうど
『バハールの涙』の新聞向け記事を書きあぐねていたところで、イスラーム/女性/報道などの軸が重なり若干オーバーヒート気味な状態が続いていたりします。
いいかげん文章は書き出せていますが、本当は数日前に出稿予定だったもので、新年早々やれやれでございます。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
01月08日
11:39
1: いなだ つつみ
未来を乗り換えた男 の、過去のことを現代に置き換える方法はいろんなことを理解するのにつかえると思います、
01月13日
14:13
2: pherim㌠
マルセイユって、仏ナショナリティ視点では歴史的に外部からの大波の予兆を示す街であり続けたんですよね。その意味でも迫力ある設定なのだろうと。