今回は1月25日~2月2日の日本上映開始作を中心に、日本公開未定作、イスラーム映画祭4上映予定作ほか11作品を扱います。
(再掲3作、次回以降にて数調整予定)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第103弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■1月25日公開作
『ナチス第三の男』
ラインハルト・ハイドリヒによる、ヒトラーとヒムラーに次ぐ権勢を得るまでの階梯と、彼の暴虐を暗殺によってせき止めた若きチェコ人兵士達の勇壮。ローラン・ビネの原作「HHhH プラハ、1942年」を重厚に映画化。ナチス権力を象る内部儀式的な場面群の迫力ある再現に目を奪われる。
"The Man with the Iron Heart" https://twitter.com/pherim/status/1084772346613837825
■1月26日公開作
『500年の航海』
フィリピン映画。航海途上で病死したマゼランの船隊に乗り、初の世界周航を遂げたマラッカ出身の奴隷エンリケを主人公とする、時空間融通無碍な奇天烈作品。撮影は35年に及び、エンリケ演じるキドラット・タヒミック監督の親類も4代に渡って出演する。何もかも破格なインディペンデント魂の極をゆく快作。
"Balikbayan #1 Memories of Overdevelopment Redux VI" https://twitter.com/pherim/status/1085136091047387137
■2月1日公開作
『バーニング 劇場版』
村上春樹原作。寡作ながら撮れば全て傑作のイ・チャンドンゆえMAX期待値で足を運ぶも余裕で超えてきた。3人の言動に絞る黒澤明『羅生門』のミニマル構成を想い起こさせ、夕暮れの赤や夜闇の藍など圧倒的な色彩で全編を覆い尽くす。現代韓国社会の様々な側面がスティーブン・ユァン演じる謎の富豪青年の佇まいに結晶する様はまさにイ・チャンドン魔術。
"Burning" https://twitter.com/pherim/status/1086468613412814848
きのう日本公開の『バーニング 劇場版』、NHK放送版との比較ツイを見るかぎり、やはり結構質の変わる編集が為されていたようですね。この場面はお茶の間で流せないよなあ、など思いつつ観てました。
オマケ:国境越しに北朝鮮の音が聴こえる場面で連想されたメコンツイート。↓
https://twitter.com/AsiaeNne/status/1081357116659527681
■2月2日公開作
『ともしび』
シャーロット・ランプリングが演じる、ある人生の終わりの始まり。夫は収監され、息子とは絶縁状態の孤独な老婆の日々。感情と表情の釣り合いもとれないほどの内面の混乱と変容を演じきる彼女を観るうち気づかされる。私達のこの日常に、演技でない表情など存在しないという端的な事実。
"Hannah" https://twitter.com/pherim/status/1086983674967412742
『ともしび』、きのう日本公開。余りにも淡々とある生活が映され続けるために、その一見平坦な時間こそに静かな感動を覚える作品が好きだ。例えばオリヴィエ・アサイヤス監督&マギー・チャン主演"Clean"、ミシェル・フランコ監督&ティム・ロス主演"Chronic"(或る終焉)の系譜。
"Chronic"tweets: https://twitter.com/pherim/status/734869221834772480
『ゴッズ・オウン・カントリー』
ヨークシャーの自然描写が冴えわたる秀作LGBT映画。異邦者の到来に触発されたダメ息子の成長過程や二人の関係性、翻弄される家族の暮らしぶりがこの自然表現の基調を崩さないのは、音と映像の連なりに極めて精緻な演出の裏打ちがあるからだ。その先にひらける眩しき終焉は感動的。
"God’s Own Country" https://twitter.com/pherim/status/1087539220552474625
『ゴッズ・オウン・カントリー』、昨春タイで観た時は、“ああ本当にいい映画だけど、日本での配給ないパターンだ”と予感。ところがなんと、本作を日本でもと願うSNSの声が実りましたね。情熱的に推し続けた皆さんに脱帽、感謝感激です。2月2日ついに公開。
https://twitter.com/pherim/status/1081255269223391232
昨夏バンコクにて鑑賞時のツイート:
https://twitter.com/pherim/status/1024250746890477568
そして12月半ばツイート:
https://twitter.com/pherim/status/1074509842285355009
『ゴッズ・オウン・カントリー』"God’s Own Country"、国内映画館で限定上映され、立ち見客続出 映画TL席巻中うれしい。以前ツイキャスで話した《傑作なのに、LGBT要素が入るだけで一般公開されないor激しく遅れる作品群》の典型。ほんとにね、配給会社の偏見だけが壁なのな。
■日本公開中作品
『ANON アノン』
士郎正宗“攻殻機動隊2”のハリウッド版変奏曲。『ガタカ』で衝撃デビューしたアンドリュー・ニコル監督による哲学的近未来SF。夢も希望もない諦観の下、冷ややかに生を蕩尽し続ける謎の女役アマンダ・サイフリッドの射抜くような空虚目線に見惚れ通しの百分間。盗視覚POVの愉悦と哀切。
"Anon" https://twitter.com/pherim/status/1083679006929502210
昨春バンコクにて鑑賞時のtweet(ふぃるめも93):
https://twitter.com/pherim/status/997075137286488065
『ANON アノン』は渋谷/梅田で今月開催の #未体験ゾーンの映画たち2019 上映作。昨春バンコクで観た際は
『LUCY/ルーシー』や古くは
『マイノリティ・リポート』から連なる未来UI表現が爽快だった。日本未公開作も多いクライヴ・オーウェン出演作ゆえ、限定公開とはいえ嬉しう。
『LUCY/ルーシー』: https://twitter.com/pherim/status/524617754158985216
※『ANON アノン』ばなし、末尾余談にて続く。なお上映延長の模様。
『タレンタイム~優しい歌』
真の傑作。マレーシアの多民族多文化模様が、ありえないほど精緻な技巧により一筋の物語へと練り上げられたヤスミン・アフマド渾身の遺作。マレー系優遇社会での華僑印僑の屈折、死者への悔恨、少数者の葛藤、描かれる赦しと愛の全てが混淆し共鳴し合い舞台上で昇華する。
"Talentime" https://twitter.com/pherim/status/845620216679714824
『タレンタイム ~優しい歌』、好評を受け、アップリンク吉祥寺にて上映延長との由。善哉善哉。1月20日(日)、21日、24日(木)~31日(木)→
https://joji.uplink.co.jp/movie/2019/1019?fbclid=IwAR1Fpz...
pherim note「霊性と情熱」: https://note.mu/pherim/n/n5abe0e209b0e
早逝したヤスミン・アフマド不朽の名作『タレンタイム』部分。↓動画1:55からストーリーとは無縁に現れる少女の指先が、作品の核心を語り切る。本物の表現は表層をむしろ裏切る。
「連れていってくれ、あなたの元に。偏見にしばられた世界は僕の永遠の敵。愛しい人よ」(歌詞訳抜粋)
歌詞全文→: https://note.mu/pherim/n/n5abe0e209b0e (コメント欄にて)
『アリー/ スター誕生』
白状しよう。レディー・ガガ主演とは知らず、ハスキーな深く幅ある声も謎の存在感も素敵でこやつ何者ぞと、バンコクのがらあき観客席にて初見の女優にしんみり感動してました。あと天才肌のダメ男役がハマってたブラッドリー・クーパー、歌唱演技でもガガに十分張ってたな。
"A Star is Born" https://twitter.com/pherim/status/1085495049876434944
『ミスター・ガラス』
奇怪ヒーロー集合譚。過去作キャラが対決する“シャマラン独りアベンジャーズ”、
『アンブレイカブル』少年役の18年を経た成長と、
『スプリット』で翻弄され耐えた少女の覚醒に静かな感動を覚える。ガラスの脆さをまとい野獣の咆哮に憑依したのは監督の心の叫び、創造と現実を巡る信仰告白だったんだね。
"Glass" https://twitter.com/pherim/status/1088276311829753856
■日本公開未定作品
"I Still See You"
近未来幽霊SF。幽霊が幽霊なりの仕方でなにかを伝えようとする切なさ。十代アイドル起用の恋愛物にありがちな甘さを残すも、成人したベラ・ソーンの演技は凄味あり間違いなく今後の注目株女優。監督スコット・スピアーとのタッグは日本映画
『タイヨウのうた』リメイクに続く2作目。
"I Still See You" https://twitter.com/pherim/status/1083340561120018432
"I Still See You"、謎の大事故で都市文明が崩壊した後の、幽霊が現れだした田舎町と学校が舞台です。近未来というかパラレルワールドで女の子が幽霊現象の謎に挑む流れ。廃墟化した摩天楼エリアへの侵入は眼福物。予告動画、導入部の雰囲気がけっこう好みだな。日本公開未定。
■イスラーム映画祭4上映予定作 (2019年3~5月、渋谷・名古屋・神戸元町にて開催)
https://www.facebook.com/islamicff/
『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』
実話ベースの少女受難物語。自身11歳で強制結婚させられた監督が放つ迫真性に圧倒される。また純正イエメン映画としては日本初公開の本作、田舎の部族因習と都市インテリ層の意識格差や儀式作法の描写など、極めて構築的に生活の諸相を見せる手際が全編眼福。
"Ana Nojoom bent alasherah wamotalagah" "I am Nojoom, Age 10 and Divorced" https://twitter.com/pherim/status/1087904149738409984
『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』、主人公の弟が丁稚奉公へ出されたサウジの場面があるなど構成が実に緻密でした。本作は3~5月渋谷・名古屋・神戸にて開催の《イスラーム映画祭4》上映予定の一作。4度目となるイスラーム映画祭、今回はイエメンに焦点化、楽しみです。
→https://twitter.com/islamicff/status/1068761640366047233
余談。
『ANON アノン』、単館ながら上映延長、4月にも上映回確認。
昨春バンコクで観た際は、これ凄い良いけど公開微妙かもと思ったのを覚えている。
『トランセンデンス』『マイノリティ・リポート』『LUCY/ルーシー』『ゴースト・イン・ザ・シェル(実写版)』の系譜、個人的には大好きだし欧米ではそれなりに受ける文脈もあるんだけど、ストーリーなおざりでSF要素が突出すると、日本ではなぜか評判イマイチになるんだよね。物語不可欠市場。
それって娯楽映画全体の流れに逆行してみえるけど、そこには色々と闇が広がってそうな気も。映画TL上では映画配給をめぐる「日本市場独特のダサさ」がけっこう話題になったんだけど、直に関連してますね。思うところはあるのだけど、全体としては悲観しかないので反応しませんでした。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』実写版をめぐっては、あまりにも酷評ばかりが跋扈していたので、この監督はこの監督なりに、士郎正宗の原作も押井守アニメ版もガチ・リスペクトの上での肉襦袢ほかダサさ満開なわけで、そこは読み取ってあげようよ、と試みるなど↓。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』実写版をめぐる連ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/849979804958851072
正直ね、物語的側面にのみ反応してたおじさん達のほうがダセえんだよなとは思ったかな。あと、にじみ出る団塊Jr的傲岸さとか無自覚なあたりがもう21世紀ですよいい加減、という。
不純な者どもはいまだ手つかず
処刑もされず殺されることもない
苦しんだことのない者は その存在に価値はない
この世に居場所などないのだ
奴らは ただ寝ている
お前は他の者とは違う
お前の心は汚れていない
喜ぶがいい
失意の者はより進化した者なのだ
Your heart is pure. The broken are the more evolved. Rejoice!
上記引用は、
『ミスター・ガラス』の前継作
『スプリット』における主人公のセリフです。作品ツイート中におけるM・ナイト・シャマランの「創造と現実を巡る信仰告白」、本人の口から如実に語られた言葉は以下の通り↓
M・ナイト・シャマラン「私たちはみな、自分の力を恐れている」:
https://logmi.jp/business/articles/303947
とても勇気づけられる語りです。記事中における低所得層児童の成長は、アニャ・テイラー=ジョイ演じる少女が本作で見せるそれそのものです。
おしまい。
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