pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
04月02日
23:47

ふぃるめも109 イスラーム映画祭4 上映全12作品

 


 今回は、渋谷・名古屋・神戸にて2019年3月~5月開催のイスラーム映画祭4 上映全12作品を扱います。(再掲3作品)


 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第109弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■イスラーム映画祭4 @渋谷, 名古屋, 神戸 3/16-5/3
 http://islamicff.com/

  イスラーム映画祭4をめぐる過去日記「遊弋するイスラーム」:
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3228



『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』
実話ベースの少女受難物語。自身11歳で強制結婚させられた監督が放つ迫真性に圧倒される。また純正イエメン映画としては日本初公開の本作、田舎の部族因習と都市インテリ層の意識格差や儀式作法の描写など、極めて構築的に生活の諸相を見せる手際が全編眼福。

"Ana Nojoom bent alasherah wamotalagah" "I am Nojoom, Age 10 and Divorced" https://twitter.com/pherim/status/1087904149738409984

『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』、主人公の弟が丁稚奉公へ出されたサウジの場面があるなど構成が実に緻密でした。本作は3~5月渋谷・名古屋・神戸にて開催の《イスラーム映画祭4》上映予定の一作。4度目となるイスラーム映画祭、今回はイエメンに焦点化、楽しみです。

  試写メモ52「隠された星の片隅で」:
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3192




『イエメン:子どもたちと戦争』
幼い3人兄妹が、内戦下のイエメンを生きる人々へのインタビュー行脚を始める。子供ならではの直截な質問への応答がもつ親しい体温が印象的。『わたしはヌジューム』(↑)のハディージャ・アル=サラーミー監督最新作にしては作りが拙速に見えたのは、撮影環境の反映ゆえか。

"Yemen: Kids and War" https://twitter.com/pherim/status/1107634475955937282




『気乗りのしない革命家』
観光業者カイスの目に映る、イエメン首都サナアの混沌。商売の邪魔でしかないデモへ懐疑的なカイスの目前で、政府による虐殺が発生する。'12年作の本ドキュメンタリーには、アラブの春による人々の興奮と期待が映り込む。誰も想像しなかった内戦の今日からの、不穏な呼び声。

"The Reluctant Revolutionary" https://twitter.com/pherim/status/1107075576907481088

いただいたリプ→「韓国映画の『タクシー運転手』を連想しました。デモに懐疑的なタクシー運転手が光州事件に遭遇。」(https://twitter.com/numatakazuya/status/11076472633361039...)への返信として↓

まさしく。韓国随一の名優ソン・ガンホが演じ切る、飄々とした人物が目前のうねりへ全人生を賭けるまでの変容を、『気乗りのしない革命家』は地の表情で見せる点が秀逸でした。『タクシー運転手 約束は海を越えて』、朴槿恵失脚下で韓国映画人の意気が見せる真骨頂でしたね。

  『タクシー運転手 約束は海を越えて』(ふぃるめも87):
  https://twitter.com/pherim/status/965029881430994944




『僕たちのキックオフ』
スタジアム廃墟に暮らすクルド人青年が、サッカー熱に浮かされ民族対抗の親善試合を企画する。アラブ化政策の余韻残すキルクーク住民の心情描写など構成が巧み。モノクロに近い画面を駆け抜ける黒馬やクルドチームの赤色が映え、コメディ基調ながら映像詩的な妙趣に富む良作。

"Kick Off" "Kick Off Kirkuk" https://twitter.com/pherim/status/1107941024427474945




『ナイジェリアのスーダンさん』
南インド・ケーララ州のマラヤーラム語映画。町のクラブチームへ助っ人にやって来たアフリカ人青年と、オーナー親父ほか周囲の人々との交流を描く本作は、笑い泣かせる物語の内に若い男女の意識格差や外国人への偏見、障害者病者への労りなどを巧く忍ばせる良作でした。

"Sudani from Nigeria" https://twitter.com/pherim/status/1108316773860835340




『二番目の妻』
ウィーンに暮らすクルド移民一家を通し「スカーフを被り欧州に暮らす人々」の普遍を描く秀作。家を守るため母は、息子の妻という形で西洋の法と規範を欺きつつ、夫へ二人目の妻を迎えさせる。息子や新妻ほか家族の面々の抱える事情や願望が衝突し、次第に軋み始める“家”の描写は圧巻。

"Kuma" "The Second Wife" https://twitter.com/pherim/status/1108566819097309184

『二番目の妻』は、欧州のムスリム家庭を舞台に湿潤な人間ドラマを描き切りました。これはファティ・アキンなど欧/イスラームの文化衝突を描く名作群とも異なる肌合いで、イスラーム伝播のニュアンスからは、500年前のオスマン朝ウィーン包囲とは“北風と太陽”のような対極ぶりだなどという妙な感慨も。

この“映画にみるイスラーム伝播”の点で特に興味深かったのは『ナイジェリアのスーダンさん』(↑)の宗教ギミック。それは非イスタンブル経由のドームなしモスク建築の系譜など、バルカンやペルシャを伝う“陸のイスラーム”とは別の“海のイスラーム”とでも言うべき文物で眼福でした。

  pherimツイキャス「インド更紗とモンスーン貿易風」:
  https://twitcasting.tv/pherim/movie/172737802




『イクロ クルアーンと星空』
インドネシア映画。天文台の望遠鏡を覗きたい少女に、天文学者の祖父が出した課題はクルアーンの朗誦だった。現代インドネシアにおける"イスラームと科学"を巡る諸相を背景に、子供の活力溢れる展開が楽しい一作。いじめっ子が朗誦に努める場面は成長譚の類型として新鮮。

"Iqro : Petualangan Meraih" https://twitter.com/pherim/status/980416907378532352

『イクロ クルアーンと星空』は、前回イスラーム映画祭3にて初上映。ここでイスラーム映画祭3全上映作の連ツイご紹介。『イクロ クルアーンと星空』の上映後トークにて主演少女が喋る動画なども投稿してます。今年は『イクロ2』上映告知も製作間に合わず、来年が楽しみです。

  イスラーム映画祭3 上映全作(ふぃるめも85):
  https://twitter.com/pherim/status/974967879383662593




『幸せのアレンジ』
NYブルックリンの学校へ赴任した新米教師、正統派ユダヤ教徒ラヘルとムスリマのナシーラ。二人は女性校長による“女の権利”の押しつけや、親族からの結婚圧迫に晒され意気投合する。個の自由を謳歌するLGBTの親戚の家へ一度逃れて、正統派ユダヤの生活に価値を見出し直す流れは見事。

"Arranged" https://twitter.com/pherim/status/1111480833653665792

『幸せのアレンジ』に登場する、ウーマンリブ時代を勝ち抜いてきたのだろう女性校長の、アメリカ的「女の自由」こそ至高で、若い2人を伝統的宗教の因習から救い出すことこそ正義と信じてやまない態度がありそうで可笑しい。異なる宗教に敬虔な者同士は対立すると子供ですら思い込んでいる場面の痛切。

『幸せのアレンジ』、今回のイスラーム映画祭4ラインナップ中でもかなり異色で、気になり少し調べると共同監督Diane CrespoとStefan C. Schaefer (@stefancschaefer)が組む他作発見。良映画の予感しかしない。
  
  “Clutter”: http://bit.ly/2VePhmD
  “My Last Day Without You”: http://bit.ly/2VbFT3b





『乳牛たちのインティファーダ』
事実上の専売下でキブツからミルクを買わされていたパレスチナの町が、18頭の乳牛を合法的に入手する。その後イスラエル当局の強引な摘発に抗う実話自体の寓話性を、ユーモラスなクレイアニメが見事に昇華。抵抗者を牛へ置き換えクリシェを回避し訴求力を増す斬新な面白さ。

"The Wanted 18" https://twitter.com/pherim/status/1112908220522065920




『判決、ふたつの希望』
ベイルートの下町で起きた些細な諍いが、国論を二分する法廷劇へ。マロン派キリスト教徒で身重の妻をもつ自動車修理工と、不法就労で糊口をしのぐパレスチナ難民の土木監督。勢いで吐く一言がお互いの全人生を否定する。個の悔いや赦しを置き去り妖怪化する社会対立の不気味。

"Qadiyya raqm 23" "The Insult " https://twitter.com/pherim/status/1031536542676738048

※「ふぃるめも94 漂流する蟹のうたう」より再掲




『西ベイルート』
レバノン内戦下で東西に分断されたベイルートに暮らすムスリム少年とクリスチャンの少女。同監督最新作『判決、ふたつの希望』(↑)の明瞭な対照構図とは真逆の、見通し利かぬ混沌世界を描く技量にうなる。とりわけ中盤の、無法地帯で魔窟と化した娼館へ迷い込む展開の奥深さに震撼。

"Beyrouth Al Gharbiyya" "West Beirut " https://twitter.com/pherim/status/1112167137651519488

『西ベイルート』の中盤で、常に狙撃の危険を伴う廃墟街の奥向こうに現れる娼館の女将。『スター・ウォーズ』の巨大ガマガエル風な親分ジャバ・ザ・ハットとか『千と千尋の神隠し』の湯婆婆は本当にいたんだ、とたじろぐこの存在感をご査収下さい。イスラーム映画祭4全体を通してもインパクト最大値。

  女将gif: https://twitter.com/pherim/status/1112523279879725057




『その手を離さないで』
トルコ南部国境域シャンウルファの施設で暮らす、シリアの戦争孤児たち。実際の難民の子らを起用し、家族への愛にも故郷への想いにも充たされることのない日々を子供の目線から描く。ユーゴ内戦を経験したボスニア人のムスリマ監督による映像は真に迫り、痛ましくも瑞々しい。

"Bırakma Beni" "Never Leave Me" https://twitter.com/pherim/status/1111927696718610432

  少女と鳩(画像): https://twitter.com/pherim/status/1111927696718610432






 余談。こうした映画祭企画やミニシアターの特集上映企画、興味と余裕がある限り通うようにしていますが、全作鑑賞が複数回続いているのはイスラーム映画祭だけかもしれません。もともと根気のある人間ではないため全作コンプみたいな方角へ気が向かわないということもありますが、やはりイスラーム映画祭のセレクションは、機会的にも質的にもそうせざるを得ない魅力があるように思います。

  イスラーム映画祭2 上映全作(ふぃるめも53):
  https://twitter.com/pherim/status/820427801664724992

 名古屋は現在開催中、神戸はこれからGW開催です。
 来年も今から楽しみです。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
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