pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
04月11日
23:30

ふぃるめも110 希望のおきて

 
  

 今回は4月5日~12日の日本上映開始作と日本公開未定作、上映特集《ベトナム映画の夕べ ~歴史・女性・娯楽》@アテネ・フランセ文化センターから11作品を扱います。(含再掲2作)


 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第110弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■4月5日公開作

『希望の灯り』

旧東ドイツの巨大スーパーで働く、わけあり青年の寡黙な慕情。そこは荒涼とした夜空に浮かぶ輝点のように、東西統一後の変化から置き去りにされた郊外の心優しき人々を包み込む。フォークリフトの軌跡とバッハの音色が深く静かに流れゆく物語へ随伴する、映画という幸福にみちた2時間。

"In den Gangen" "In The Aisles" https://twitter.com/pherim/status/1112225278086897665




『マックイーン:モードの反逆児』
醜悪こそ美の端源と世に知らしめる、才能のヤバさに痺れ通し。コックニー訛りの異端児が伝説の“ハイランド・レイプ”をへて業界のトップを駆け抜け、その絶頂で自死するまでを鮮烈に圧縮。ファッション界を描く幾多の良質ドキュメンタリーの中でもベスト級の秀作。

"McQueen" https://twitter.com/pherim/status/1111205751467331584

『マックイーン:モードの反逆児』では、ルーツとしてスコットランド北西部のスカイ島が登場する。北東大西洋の荒々しさを背負う点はビョークに通じ、キルトを媒介にヴィヴィアンの色遣いが連想された。ちな『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』公開明日まで。(3/29)

  『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
   https://twitter.com/pherim/status/1076680088538628096


補記:マイケル・ナイマン音楽




■4月6日公開作

『12か月の未来図』

パリ名門校の理想も高いエリート教師が、ひょんなことから郊外の移民貧困区にある公立校へ赴任する。上層家庭の白人の子ばかりを相手にしてきた手法が一切通じず奮闘する教師を、ドゥニ・ポダリデスがユーモラスに好演。多民族化や教育格差が生む諸相を巧くとり込んだ良作成長譚。

"Les Grands Esprits" https://twitter.com/pherim/status/1112640074380804096




■4月12日公開作

『多十郎殉愛記』

極妻以来20年ぶりの中島貞夫監督新作。“時代劇”をウェルメイドな様式美として楽しむ感覚が久々によみがえった。抜刀隊隊長演じる寺島進の圧倒的ラスボス感と、桂小五郎扮する永瀬正敏の寡黙な存在感はさすが。これに比べ主演の若い高良健吾&多部未華子が浮くのもまた様式美の一環なのだと想起する。

https://twitter.com/pherim/status/1115445905568686081




『芳華-Youth-』
文革期の軍歌劇団に属す若者の瑞々しい日々から、毛沢東の死と中越戦争をへて現代までを描く秀作。誠実な選択を重ねながら落伍しゆく青年と、心を病む少女の軌跡。時代に呑まれながら、目前の一事に専心する各々の道行きが切なくも眩しい。バレエと京劇が融合する舞踊場面は垂涎必至。

"芳华" "Youth" https://twitter.com/pherim/status/1114084747435622400

  試写メモ54「損なわれないもの、音色、傷痕。」:
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3267

『芳華-Youth-』名場面、中国では発禁だったテレサ・テン(鄧麗君)の名曲を、文芸工作団の若者達が夜中に隠れて聴き、その音色と歌唱法に心酔します。物語は1976年に始まり、動画で流れる「儂情萬縷」(からみあう愛情)は78年発表。“昼は老鄧(鄧小平)の話を聞き、夜は小鄧を聴く”


あした4/12公開の『芳華-Youth-』を巡り書きました。政治抑圧の下いかに文化は受け継がれ得るかを軸に、昨今のイスラーム弾圧や戦間期ロシアからのバレエ流入などを絡める試み。
【映画評】『芳華-Youth-』 損なわれないもの、音色、傷痕 2019年4月21日 キリスト新聞社 http://www.kirishin.com/2019/04/08/24406/

  よみめも50 井口淳子『亡命者たちの上海楽壇: 租界の音楽とバレエ』音楽之友社:
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3273

上記参考図書を巡り後日ツイート予定。




『アレッポ 最後の男たち』
砲弾の雨降るアレッポで、爆撃地へ日夜急行し生存者を救うホワイト・ヘルメットの男達。良き父であり真面目な学生であった彼らの素顔と、突如訪れた余りにも残酷な日常。終幕のテロップで、それでも映画に希望を前提する自身の蒙昧さを知る。この現実を知る意味を考える。

"De sidste maend i Aleppo" https://twitter.com/pherim/status/1114411871233175552

『アレッポ 最後の男たち』は来週4/13より日本公開。
個人的には国連UNHCR #難民映画祭 2017にて初鑑賞。

  日本公開未定時ツイ(ふぃるめも74): https://twitter.com/pherim/status/914722756356333568




『マローボーン家の掟』
町の人々を避け、山里の奥深く古い屋敷で暮らす4人兄妹。彼らの両親にまつわる暗い過去が、恐怖そのものと化し一家を襲う。外部からの目撃者であり救済者である少女の視点を通して観客心理をわしづかみにする、実力派若手俳優そろい踏みの極上サイコ・ホラー、ついに日本公開。

"Marrowbone" https://twitter.com/pherim/status/1113289143084130304

今週末4/12公開の『マローボーン家の掟』、アニャ・テイラー=ジョイが外部の日常と4人兄妹が生きる狂気の世界とをつなぐ役柄を、『ウィッチ』『スプリット』に続き好演してます。(『ミスター・ガラス』より1年前の作) 正気を保ちながら怪異を受容するしなやかな救済者の眼差しは彼女の持ち味ですね。

  "Marrowbone"(ふぃるめも92): https://twitter.com/pherim/status/948785058432692224

(日本公開未定時連ツイ) アニャ・テイラー=ジョイ、正気の日常世界と狂気に満ちた怪異なる世界をつなぐ役柄を、『ウィッチ』『スプリット』に続き好演。ちな"Marrowbone"の次男役チャーリー・ヒートン(若手注目株!)とはマーベル新作"The New Mutants"でも共演。これもマーベルながらスリラーっぽい。

一応紐づけ。チャーリー・ヒートン(Charlie Heaton)は『ストレンジャー・シングス』ジョナサン役が一番有名かも。ウィノナ・ライダーの長男役で、一見貧相だけど、中盤からがんがん頼もしくなるお兄さんを好演してました。

  『ウィッチ』: https://twitter.com/pherim/status/886105903593697280
  『スプリット』: https://twitter.com/pherim/status/862930331124375553





『魂のゆくえ』
ある牧師の信仰への懐疑と決断。監督ポール・シュレイダーは自身の過去作『タクシードライバー』を更新する。アマンダ・セイフライドの表す慈愛はジョディ・フォスターの成熟態であり、イーサン・ホークの見せる苦悩はデ・ニーロの精確な現代版だ。日常へ映り込む国家の影が凄まじい。

"First Reformed" https://twitter.com/pherim/status/1114741539383545856




■《ベトナム映画の夕べ  ~歴史・女性・娯楽~》@アテネ・フランセ文化センター
 https://jfac.jp/culture/events/e-vietnam-cinema/

『サイゴン・クチュール』
仕立て屋9代目の娘が、60年代から現代へタイムリープしモードと格闘するうちアオザイの価値を見直すSF成長譚。南ベトナム期サイゴンで欧米のガールポップに憧れた主人公の感性が、今日ではレトロ味ある独創性を放つ面白展開。服の逐一が目に麗しい異色ファッション映画良作。

"Co Ba Sai Gon" https://twitter.com/pherim/status/1113775523161731074

『サイゴン・クチュール』“Co Ba Sai Gon”は↓企画にて鑑賞。坂川直也さん@sakaganの #ベトナム映画 講義は、度々引用される四方田犬彦さんを想わせる濃さで、メモ速度を越える情報量に飽和した思考が夏目深雪さん@miyukinatsu司会の四者トークにより整理&立体化された感。

  よみめも50『CROSSCUT ASIA #5 ラララ♪ 東南アジア』国際交流基金アジアセンター:
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3273

『サイゴン・クチュール』の国内一般上映は今秋予定との由。




■日本公開未定作

“Happy Death Day 2U”

学園ラブコメ版『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。パラノーマルシリーズ脚本家による監督作“Happy Death Day”の、同スタッフ&キャストによる続編は、量子物理専攻の学生3人を加えた新要素が巧い。ど文系主人子が数式暗記→自殺をくり返し理論完成を目指すくだりの意味不明な明るさは良い。

"Happy Death Day 2U" https://twitter.com/pherim/status/1103497214066810880

“Happy Death Day 2U”で主人公は前作同様、死ぬたび男友達の部屋で起きるが周囲の関係性が毎回微妙に変化する。日本ではホラー枠で同時公開されそうだが、本作では変化を求め自ら様々な死を選び、死の恐怖は序盤で超越される。謎の殺人犯と模倣犯が等価な点も併せ、東浩紀のゲーム的リアリズムを想起。

“Happy Death Day 2U”、前作とあわせ今夏日本公開決定、ただし日時未確定の模様。




『クルスク』"Kursk"
原子力潜水艦クルスク沈没の映画化作、あの強面レア・セドゥが旦那の帰港待つ妊婦とか、救助能力あるのにロシア官僚制に助力を拒まれる米国司令官の苦渋顔をコリン・ファースが演じるとか、さすが製作リュック・ベッソンわかってる感しかない秀作。錆びた港湾都市や艦内の木製インテリアとか見どころ満載。

"Kursk" https://twitter.com/pherim/status/1083983926463361024

ソ連末期の困窮する港湾都市や艦内装備等の質感再現への気合の入れようが素晴らしい。子どもたちが野を駆けて丘に登り、出港するクルスクを誇らしく見送るシーンに『この世界の片隅に』の呉描写が想起されしんみり。 ※追記用メモ





おしまい。
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