pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
09月22日
10:22

ふぃるめも121 サタンに見出されたレディボーイ

↑右画像:スタジオ・ボイス9/20発売号、若手監督取材@香港 by pherim 掲載。
 
 

 今回は、9月6日~9月27日の日本上映開始作から11作品を扱います。(含再掲1作)


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第121弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■9月6日公開作

『帰れない二人』

激動の現代中国を生き抜く市井の男女を捉える安定のジャ・ジャンクー節。日本で言えば昭和から抜け出たような人物らの若き日描く回想さえ2000年代という中国社会の急変を、彼固有のフィルム作法が強靭に映し撮る。泥臭い人間模様の執拗なる反復と、沸騰と静寂の往還がひたすら良い。

"江湖儿女" "Ash Is Purest White" https://twitter.com/pherim/status/1172827488830935041

 試写メモ68: 監督インタビューを行いました。近日更新




『ラスト・ムービースター』
名優バート・レイノルズが、自身をモデルとする老俳優に扮したロード・ムービー。すべてが相容れないぷっくり不良娘が、かげがえのない心の旅の伴侶となりゆく珍道中の醸す温もり。ひと筋の潮流を成しつつある、A24製作マッタリ系映画の系譜に秀作また一つ。幸福なる遺作。

"The Last Movie Star" https://twitter.com/pherim/status/1168760871352336384




『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
北極航路探索に消えた祖父を追うロシア没落貴族の少女描く仏+デンマーク合作アニメ。氷世界を映す色面描写の美に震える。氷原を照らす陽光や灰空の変化を描く語彙の豊富さはまさに北極圏版ポニョ。輪郭は消え、色光だけが形をなす極寒世界の孫娘冒険活劇。

"Tout en haut du monde" "Long Way North" https://twitter.com/pherim/status/1168361416757170176

  試写直後ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1149609774750715905




■9月13日公開作

『サタンタンゴ』

438分のタル・ベーラ大作。“タンゴ”の語の醸す熱さ艶やかさ彩りのすべてが反転した裏世界、まさにサタン。此の現実は仮初めの夢であり、彼の現実こそ世界なのだと懐い出させるこの蠱惑、この地獄からの恩寵にただ戦慄する。観終えたあと外の景色が変わって感じられる真性のカルト作。

"Sátántangó" "Satantango" https://twitter.com/pherim/status/1174162136920023042

  試写直後ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1143485535001837568




『プライベート・ウォー』
シリアで落命した女性記者メリー・コルヴィンの戦場体験。片目を失いPTSDに襲われながら戦争の真実に迫る姿を、弱さ醜さも込みでロザムンド・パイクが演じ切る。紛争ドキュメンタリーの名手マシュー・ハイネマンによる映像はゼロ距離の迫真性。狂気の現実を貫く信念の極。

"A Private War" https://twitter.com/pherim/status/1173797556259676163

『プライベート・ウォー』監督マシュー・ハイネマンによる2017年のドキュメンタリー秀作『ラッカは静かに虐殺されている』。“シリアを扱うというだけで、どんな良作でも驚くほど客が入らなくなった”とは、映画配給に携わるある友人の弁。劇映画展開の背景に潜む表現の切実。

  『ラッカは静かに虐殺されている』https://twitter.com/pherim/status/983181188251533314

『プライベート・ウォー』の戦場近接描写にキャスリン・ビグロー『ハート・ロッカー』を連想する声も多い。が、極私的にはリビアの陣幕でカダフィ大佐へ肉薄する接見場面こそハイライトで、ハイネマン監督’15年作『カルテル・ランド』(ビグロー製作総指揮)を彷彿とさせる。

  カダフィ大佐実物との場面画像比較→https://twitter.com/pherim/status/1175405083283976192
  『カルテル・ランド』https://twitter.com/pherim/status/725153999662514184


  カダフィ接見場面の元となったABCインタビュー映像(2011年3月):近日動画付き解説ツイ

『プライベート・ウォー』主人公メリー・コルヴィンをモデルの一人とする隻眼の女性記者が語り手となる『バハールの涙』、ゴルシフテ・ファラハニの熱演が忘れがたい2019年ベスト級の傑作でした。

  『バハールの涙』https://twitter.com/pherim/status/1084289785571639296

  試写メモ51「太陽の少女たち」
  https://tokinoma.pne.jp/diary/3158





■9月14日公開作

『今さら言えない小さな秘密』

自転車に乗れない秘密を抱えて自転車修理工になったラウルが、自転車選手からも憧れられる伝説の中年親父となり煩悶するハートフルコメディ。他人にとっては小さな世界の小さな悩み、でも当人には乗り越えがたい壁。それが時に人生の強力なバネにもなるというほのぼのした寓話の楽しみ。

"Raoul Taburin" https://twitter.com/pherim/status/1175608615933054978




■9月20日公開作

『レディ・マエストロ』

女性指揮者があり得なかった時代に、常人には耐えがたい犠牲を払い道を切り拓いたアントニア・ブリコの生涯。NYからアムス、ベルリンと舞台が移りゆくなか再現される戦間期バイロイトやベルリン・フィルの様子から、意外な形で助力するLGBTsの友人など脇役まで逐一興味深い。

"The Conductor" https://twitter.com/pherim/status/1174520093415374848

※後日追記可能性高め




■9月27日公開作

『ヘルボーイ』

デッドプールよりマッチョなダークヒーロー、HELLBOYが闘いまくる。ギレルモ・デル・トロ版『へルボーイ ゴールデンアーミー』(2004)を造形面で継ぐ作り込みが良く、ストーリーとかほぼなく闘いまくる良ポップコーンムービー。ミラ・ジョヴォビッチのラスボスはバイオからの魔転生感。

"Hellboy" https://twitter.com/pherim/status/1175247399209451520




『WEEKEND ウィークエンド』
ゲイクラブで知り合った二人のある週末。ノッティンガムのありふれた街なかを舞台とし、会話を軸に映し出される濃密な二日間。心の動きを遅延させゆくテープレコーダーの効果が見事。過剰を排し丹念に場面場面を織り込むアンドリュー・ヘイ監督のミラクルな時間感覚に唸らされる。

"Weekend" https://twitter.com/pherim/status/1176688395088584706

  2016年初見時の上映後企画 橋口亮輔+鈴木敏夫対談ツイ+α:
  https://twitter.com/pherim/status/804552147350081537





『パリに見出されたピアニスト』
駅の公共ピアノを弾く不良少年の旋律に、音楽学校ディレクターが天才性を見出す成功譚。現代フランスの社会格差を反映させ、坂茂設計のラ・セーヌ・ミュージカルやサル・ガヴォーなど観光要素も抑えつつ、ラフマニノフ難曲からショスタコーヴィチまで聞かせる手際良さ。

"Au bout des doigts" "In Your Hands" https://twitter.com/pherim/status/1176327584222564353




『ホテル・ムンバイ』
2008年ムンバイ同時多発テロの映画化作。格差・宗教など現代インドの複雑性を反映させつつ、パニック渦中への没入感が物凄い。凶悪陰惨な無差別テロを主題としながら、実行犯らが無知を利用されているだけの、根はどこまでも無垢で純朴な青年として描かれているのが最も切ない。

"Hotel Mumbai" https://twitter.com/pherim/status/1175974139456184322





 余談。
 
 当ふぃるめも記事シリーズで個別の言及作品をどう扱うかまだ考えてませんが、8月に行った香港取材滞在の記事が9/20発売の『STUDIO VOICE Vol.415』へ掲載されています。
 
  『STUDIO VOICE Vol.415』アジア芸術特集号:
   https://twitter.com/pherim/status/1174642955597959168


 デモと警察が衝突し、催涙弾の薬莢散らばる香港市街を淡々と練り歩き、これからの香港映画を担うアラサーの新進気鋭監督たちへインタビューして回りました。
 
 映画ツイートはそもそも、バンコク移住後に夜ごと映画館へ入るようになり、メモを残さないとどんどん忘れていくので、と備忘録として始めた試みでした。ですからふぃるめも更新を始めた頃には、商業誌からの取材依頼が来るなど想像もしていなかった展開です。ご笑覧いただければ幸。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
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