pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
01月05日
23:08

ふぃるめも128 パラサイト・ウォーズ

 
 

 今回は、2019年12月20日~2020年1月10日の日本上映開始作と、バンコク・スクリーニング・ルームでのクリスマス上映作など10作品を扱います。(含再掲1作)

 ※当初予定していた第20回東京フィルメックス特別招待作&特別上映作は、次回「ふぃるめも129」へ延期します。(今週末投稿見込み)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第128弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■12月20日公開作

『The Upside 最強のふたり』

フランス発ヒット作のリメイク。マンハッタンの夜をフェラーリで疾走し、ニコール・キッドマンやゴルシフテ・ファラハニらが華を添え、黒人青年はバスキア的才能を開花させといかにもハリウッド。主人公2人の微妙な関係性に『ブレイキング・バッド』のタッグ感催す巧さ。

"The Upside" "The Untouchables" https://twitter.com/pherim/status/1204955428385198080

とはいえフランスオリジナル『最強のふたり』の痺れる感じには欠けるし、意中の人との交接もチョイ役にジュリアナ・マルグリーズ出演は良かったけどシーンとしては残念すぎた。1年以上前にバンコクで観ていたけれど、過去ツイート見当たらず。この2,3年こうした粗漏はしてないつもりだったので少し驚く。

ちなみに12/20劇場公開ながら、『人生の動かし方』の邦題でもうずっと長らくアマプラ公開しているのは内緒、なのかな? というより恐らく今年以降、こうして映画館公開前から同地域の動画サイトで公開されるケースが日本でも恒常化していくのでしょう。

考えてみればこれまで動画サイトのほうが日本でのみ公開を待つ形で劇場興収が守られてきたことのほうが、日本語の壁や日本市場の特殊性ゆえという部分も大きかった。つまりこれも単なるNetflixやAmazon攻勢の顕れであり、大きくみれば新自由主義的市場拡大の一環なのだとも。

一昨年秋~昨年初頭のNetflix“ROMA”の一件は、いま思えばなんと高らかな嚆矢だったか。

  『ROMA/ローマ』連ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1079693012672798720




『冬時間のパリ』
ジュリエット・ビノシュ主演新作は、書籍編集者と女優、売れない作家と政治家秘書の二組の夫妻による恋愛群像コメディ。裏で抜き差しならない相互不倫を進行させ、表ではデジタル社会の文芸を論じ合う四人の真摯さ自体が可笑しい。オリヴィエ・アサイヤスの洗練された軽妙さ活きる。

"Doubles vies" "Non-Fiction" https://twitter.com/pherim/status/1206049955112075266

前項で「この2,3年こうした粗漏はしてないつもり」と書いたばかりで反証発見。本作は昨年『ノン・フィクション』の邦題にて東京国際映画祭で観ているし「ふぃるめも98 十年十色」で扱ってもいながら、どうもツイートはしてなかったらしい。やばめ。




■12月21日公開作

『サイゴン・クチュール』

仕立て屋9代目の娘が、60年代から現代へタイムリープしモードと格闘するうちアオザイの価値を見直すSF成長譚。南ベトナム期サイゴンで欧米のガールポップに憧れた主人公の感性が、今日ではレトロ味ある独創性を放つ面白展開。服の逐一が目に麗しい異色ファッション映画良作。

"Co Ba Sai Gon" "The Tailor" https://twitter.com/pherim/status/1207127440419479553

  初見時ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1113775523161731074

『サイゴン・クチュール』“Cô Ba Sài Gòn”は↓企画にて鑑賞。坂川直也さん@sakaganの #ベトナム映画 講義は、度々引用される四方田犬彦さんを想わせる濃さで、メモ速度を越える情報量に飽和した思考が夏目深雪さん@miyukinatsu司会の四者トークにより整理&立体化された感。

  ベトナム映画の夕べ ~歴史・女性・娯楽~: https://jfac.jp/culture/events/e-vietnam-cinema/




■12月27日公開作

『パラサイト 半地下の家族』

ぶっちぎりの面白さ、全感覚移入を誘う演出の巧緻、圧倒的に鋭い風刺性。豪邸の中庭を隔てる大ガラスの眼福感、地下への潜航が催す探検感、そして映画には本来至難の“臭い”への挑戦と、次々に繰り出される仕掛けに眩暈の連続。至宝ソン・ガンホがポン・ジュノ監督作を選び続けるのも納得の至高作。

"기생충" "Parasite" https://twitter.com/pherim/status/1208610623967248386




■1月2日公開作

『さよならテレビ』

東海テレビ製作の内幕物ドキュメンタリー。不祥事“セシウムさん”騒動の傷もつ報道部を、内部の人間が鋭くえぐる姿勢に感銘。『ヤクザと憲法』他名作連発の稀少局とはいえ、良心が作品へ結実する過程に安堵を覚える。中心人物3人の内面吐露は迫るものあり、流れを裏切る終幕が最高。

https://twitter.com/pherim/status/1208937086587269120

なお1/2公開の『さよならテレビ』、同じ圡方宏史監督作『ヤクザと憲法』と同様に、キャラ付けが明確すぎる点にあざとさをみる向きもあるだろうけど、本作では敢えて作為を顕わにするラストで巧く着地した感。ちな『ヤクザと憲法』は2016/1/2公開。五輪的歩み、今後も期待。

  『ヤクザと憲法』https://twitter.com/pherim/status/676339757610237952
 
 
 

■1月3日公開作

『エクストリーム・ジョブ』

だめんず麻薬捜査班が、フライドチキン屋に偽装し潜伏捜査を始めるも揚げるチキンが人気沸騰、一躍有名店となるポリス物コメディ。ご都合主義な設定や無理筋アクションといった個別にはマイナス点な各要素が、圧倒的なテンポの良さゆえ全て欠かせない妙味へ転じる笑撃作。

"극한직업" "Extreme Job" "極限職業" https://twitter.com/pherim/status/1209690847941279744

1/3公開の『エクストリーム・ジョブ』、韓国コメディ映画の長所が詰まる良作です。画としては『殺人の追憶』の不穏や『オールド・ボーイ』の鬼迫を各所でキメつつ、しっかりローコンテクストに笑わせる。今月の映画TL席巻必至な大作『パラサイト 半地下の家族』(↑)のいわば対極。

『エクストリーム・ジョブ』での“ローコンテクストの笑い”、例えばなぜチキンか。インドネシアやマレーシアでも韓流バカ受けの現状下、バーガー店の選択はないのです。これ日本コメディ筆頭の三谷幸喜作にない視点で、『テルマエ・ロマエ』がイタリアでウケたのもご当地文脈に触れたから。チキン偉大。




■1月10日公開作

『ティーンスピリット』

エル・ファニング本人の熱唱がシビれる一作。英国離島の移民母子家庭に育った十代娘のデビューまで描く時間軸のため、近年の音楽映画秀作群より人生描写は薄く、2010'sの名曲を背に直線的に疾りぬけるスピード感がむしろ良い。覚醒へ至るラスト一本道の表情演技は神懸かり的。

"Teen Spirit" https://twitter.com/pherim/status/1212588000523063296




■Bangkok Screening Room 12/24-25 限定上映
 https://bkksr.com/movies/its-a-wonderful-life

『素晴らしき哉、人生!』
1945年のクリスマスイヴが舞台のフランク・キャプラ名作。銀河同士が会話交わす冒頭のブッ飛び感、苦境下で嵌まり込む権力や金の奴隷状態からの解放描く今日感。エンタメでこそ新作に超えがたい魅力を古典はもつと再認識。失った優しさを呼び起こすのは他者の優しさという真理。

"It's a Wonderful Life" https://twitter.com/pherim/status/1211098227191140352

『素晴らしき哉、人生!』は、Bangkok Screening Roomの心憎い12/24-25限定上映を鑑賞。聖夜に別の世界を垣間見ることで“再生”する物語の下地として、ディケンズ『クリスマス・キャロル』が自然に想起される。ディケンズ作は1843年12月19日出版、キャプラ作は1946年12月20公開。遠くまで来たものですね。

ディケンズ『クリスマス・キャロル』関連では、そのものの映画作も多くあるけれど、出版時のディケンズ31歳の窮地をハートフルに描き、昨年末日本でも公開された『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』がなお印象深く。

  『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』: https://twitter.com/pherim/status/1066597532204056576

ちなみにフランク・キャプラ『素晴らしき哉、人生!』(1946)は“哉”+“!”。クラシック名作邦題に寄せた新作邦題、時々ありますね。ウィル・スミス、エドワード・ノートン出演の『素晴らしきかな、人生』(2016)は、内容がキャプラ作とも呼応し、原題“Collateral Beauty”より成功した稀少例。

  『素晴らしきかな、人生』https://twitter.com/pherim/status/833981382451867649




■日本公開中作品

『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』
映像も役者も良く、宇宙大活劇として楽しめた。けれど2代目ダースベイダー卿気取るカイロ・レン改心の物語には他の何事も集約されないし収束しない。このAI世紀にR2-D2の雑な扱いは哀しく、C-3PO記憶消去の一幕がせめてもの。予定の新3部作へ期待繋ぐ禊は上々。

"Star Wars: The Rise of Skywalker" https://twitter.com/pherim/status/1215467264704573440




『ラスト・クリスマス』
ワム!の同題名曲を奇天烈な解釈により映画化。聖夜商戦向けスター採用ラブコメで、スローンズの竜姫エミリア・クラークのお相手役を東洋人がという文脈で観たため、Brexitに移民貧困、LGBTや心身問題まで巻き込む展開に心中喝采。『シンプル・フェイバー』の監督新作と知り深く納得。

"Last Christmas" https://twitter.com/pherim/status/1211546979001438209

母役出演し、クロアチア挽歌を熱唱するエマ・トンプソンの着想から始まったという『ラスト・クリスマス』での「奇天烈な解釈」↑、ジョージ・マイケルの命日も関連しそう。“Last Christmas, I gave you my heart”と歌った彼が53歳で迎えた命日、なんと12/25なのでした。震撼

『ラスト・クリスマス』では、エマ・トンプソン↙と並ぶ脇役をミシェール・ヨー↘が演じることも象徴的。本作同様ヘンリー・ゴールディングが主演した『クレイジー・リッチ!』で、ヨーの扮する母役に凝縮された「白人社会で華僑が味わう苦渋」の昇華を深読みしたくなる構成。

  『クレイジー・リッチ!』https://twitter.com/pherim/status/1045900873870659586

『ラスト・クリスマス』はバンコクの、偶然にも『クレイジー・リッチ!』と同じ劇場にて鑑賞。日本では、実は試写状を戴きながら観に行けず。配給宣伝の姿勢として《おしゃれラブコメ》を全面化するしかないのは理解できるけど、余波で「ポール・フェイグ監督作」が強調されないヴィジュアルになっており見逃した模様。不覚。

  『シンプル・フェイバー』https://twitter.com/pherim/status/1103130986798145541

ともあれこれと同様に、関心があり試写状さえ頂戴しながら観に行けずの作品が今年は多く、この残念連鎖の低減を来年の抱負の一つとしとう。






 余談。

 映画にハマった時期が3度あります。

 初めは中3~高校時代。お年玉等を注ぎ込み、初めて学校をサボった日には早稲田松竹で観た『愛人 ラマン』に衝撃を受けました。次は学部休学期、職場至近のギンレイに通うなど。
 3度目がタイ移住後の現在。異文化摩擦からの逃避で夜ごとシネコンへ通い出しました。

 バンコクへ越したのが13年初夏。備忘録として始めた映画ツイートは、この間に映画館/試写室で観た作品の記録だけで1300本を超えました。
 2015年秋に初めてお声がけ頂いた媒体記事執筆の流れは、国際交流基金企画本とスタジオ・ボイス誌にお誘い頂くに至った今年、一段飛躍した感があります。ありがたいことです。

 しかし一方で、今年2019年は、観た作品の本数こそ最多となりながら、観たい作品をしっかり観られず、書きたい作品を逃すことも過去最多の年となり。そこで来年の抱負は、機会を逃さないことといたしとう。

 みなさま今年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。どうぞ良いお年を。

 (2019/12/31筆)




おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh

コメント

2020年
01月05日
23:23

上記バンコク・スクリーニング・ルームは、東京でいうと場所が移る前のユーロスペースの雰囲気&規模のミニシアターです。

12/25には、本文言及の『素晴らしき哉、人生!』のほか、“The Farewell”も観ました。“The Farewell”は大手シネコンでもやっていたのですが、たまたま時間の都合からこちらにて。ちょっと良い思い出に。

https://twitter.com/pherim/status/1212219760630362112

ちなみに、“The Farewell”ツイート↑は、pherim映画ツイートとしては初の4桁RTにあと少しで届きそうです。というわけでよろしければ、ぜひ。(๑◕ܫ◕๑)

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