今回は、1月25日~1月31日の日本上映開始作と日本公開未定作、
《VISUAL DOCUMENTARY PROJECT 2019 短編ドキュメンタリー上映会》全上映作から計12作品を扱います。
末尾では、きょう1月24日から始まる中国の春節(旧正月)にちなんだYoutube短篇 by iPhone11なども。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第131弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■1月25日公開作
『彼らは生きていた』
ロード・オブ・ザ・リング3部作ほかのピーター・ジャクソン監督が、第一次大戦の記録映像にデジタル修復+着色を施す意欲作。サイレントフィルムを読唇術で分析し退役軍人がアテレコするなど、大英帝国博物館&BBC史料を蘇らせる試みの総体が新ジャンルの幕開けを予感させ圧倒的。
"They Shall Not Grow Old" https://twitter.com/pherim/status/1218159652321366016
『彼らは生きていた』には、ロード・オブ・ザ・リング~ホビット3部作を成したピーター・ジャクソン監督が、過去の社会関係資本を全投入して挑む野心作という側面も。観れば誰の目にも明らかなこの達成こそ偉業と言え、同監督が後世に名を残すとすればむしろ本作に拠るのだろうとさえ。
『プリズン・サークル』
日本の刑務所におけるTC(Therapeutic Community=回復共同体)の試み。更生へ向けたその有効性が端的に描かれ、若い民間職員らの熱意が胸を打つ。また撮影へ至る困難が映像の端々から窺われ、受刑者の来し方に迫る砂絵アニメは絶妙、全面導入には遠い現状も指摘される良構成。
"Prison Circle" https://twitter.com/pherim/status/1220179353645936640
試写メモ73.1「回復共同体、という物語。」:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3647
『プリズン・サークル』坂上香監督インタビュー:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3648
■1月31日公開作
『母との約束、250通の手紙』
息子の将来はフランス大使か大作家かと夢多きパワフル母ちゃんの愛情を一身に浴びたロマン・ガリによる自伝小説
『夜明けの約束』の映画化作。シャルロット・ゲンズブール熱演する、ポーランドでのユダヤ蔑視に挫けず大戦の機運をも呑み込む母の愛の底知れなさに眩暈する。
"La promesse de l'aube" "Promise at Dawn" https://twitter.com/pherim/status/1221269279938473984
『男と女 人生最良の日々』
1966年のクロード・ルルーシュ監督作『男と女』から53年を経て、齢80代となった主演2人とほぼ還暦の子役たちで続編を撮る驚愕の一篇。失われた記憶の残滓と一回性の人生ゆえの夢想が響き合う。終盤で突如始まる、夜明けのパリの石畳を疾走する’76年の短編映像に謎の感涙。
"Les plus belles années d'une vie" https://twitter.com/pherim/status/1222434877229809664
"Claude Lelouch Rendezvous - Ferrari racing through the streets of Paris"
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
豪邸に暮らす大作家の死を巡る謎解き夜。気取った南部訛りの探偵役ダニエル・クレイグや、ドラ息子役クリス・エヴァンスのこれまでと一味異なる演技が痛快で、脇役陣も個性派粒揃い。唯一血筋外の看護師がもつ、嘘つくと嘔吐もよおす資質がまた可笑しい。
"Knives Out" https://twitter.com/pherim/status/1220541924680978432
■日本公開未定作
“How to Ting”
おまちかねタイGDH映画新作。留学帰りのインテリアデザイナーが、実家お掃除から心の大掃除へ。昔の男から借りたままのフィルムカメラを起点に広がる心の波紋描く繊細さは
『ダイ・トゥモロー』のナワポン監督ならでは。こんまりメソッドのフェイク動画が基調にひっそり貢献する様が面白い。
"ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ" https://twitter.com/pherim/status/1220909531271585793
『ダイ・トゥモロー』:https://twitter.com/pherim/status/1145897333097291776
『バッド・ジーニアス』のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン主演(長い)。この若さで韓流ともBNK48系アイドルとも異なる世界標準の演技派タイ人女優、貴重。
『バッド・ジーニアス』:https://twitter.com/pherim/status/1044201278140633089
■VISUAL DOCUMENTARY PROJECT 2019 短編ドキュメンタリー上映会 at 東京ウィメンズプラザ
https://jfac.jp/culture/events/e-vdp2019/
『私たちは歌で語る』“Through Songs, We Share Stories”
インドネシア1965年の大虐殺を生き延びた女性たちの合唱団。事件の無惨を声高に訴えるのでなく、コーラスにより描きだす。淡々と続く語りと生活描写の孕む、「(傷負う当事者が)真実を伝えようとするのは、苦しむためでなく癒やされるため」というメッセージは説得的。
[動画全編]https://www.viddsee.com/video/through-songs-we-share-stor...
"Through Songs, We Share Stories"
※Youtube動画更新発見したゆえ追記。(別動画URL表記も残しておく)
『落ち着かない土地』“An Unquiet Land”
ホーチミン市舞台のドキュメンタリー。摩天楼からサイゴン川隔てる対岸の未開発地域で暮らす74歳のホン婆さんが、強制収用された土地奪還のため権力者に叛旗を翻す。亡夫が元ベトコン兵士と語られ、水はけ最悪の環境が描写される後半からぐっと深み増す意欲作。
[動画見当たらず]
"An Unquiet Land" https://twitter.com/pherim/status/1206159469714952192
サイゴン滞在時、ずっと気になっていたのが川向うの緑地だった。超大規模再開発の看板を見てクロントイ対岸やヤンゴン川対岸が上海の浦東になる日も想像された。
『落ち着かない土地』でホン婆さんは叫ぶ。「ベトナムは千年戦ってきた。中国、フランス、アメリカ、今は汚職だ」
ホーチミン=サイゴン滞在時ツイ(開高健引用):
https://twitter.com/pherim/status/445432273077170176
“旅する”と“映画を観る”は、同じ試みの別の形と思ってきた。想像力の欠如を贖うための。『落ち着かない土地』の監督はダナン在住のアラサー女子で、上映後に声をかけ話しつつ寝台列車の母子のことを少し想った。若い母親の父と叔父は、ベトナム戦争を南北に別れ戦ったという。
→https://twitter.com/pherim/status/440796189546397696
“はっきりしてるのは、立派なもの、美しいものが、戦争でたくさん消えちまったってことだ。少しでも残ってたら、せいぜいどっかの闇市で物々交換に使われるだけでしょうよ。『南の住人は親戚を探し、北の住人は品物を探す』って、よく言ったもんだ”
バオ・ニン『戦争の悲しみ』→https://twitter.com/pherim/status/1222168614771425286
『物言うポテト』“Unsilent Potato”
強姦されたカレン族の聾唖女性が、因習的な曖昧処理を拒んで立ち上がる。女性/少数民族/障碍/貧困/性暴力という幾重もの抑圧状況を撮るため、村人の目を避け夜中に移動したという制作陣による、ミャンマー現代映す好作品。主人公女性の声にならない叫びが心に残る。
"Unsilent Potato" https://twitter.com/pherim/status/1229763600568336391
極私的ミャンマー体験は、友人を訪ねたヤンゴン滞在、学生時のバングラデシュ南東端仏教村放浪、シャン族カレン族など少数民族系の読書や博物館展示と、主に3軸からのアクセスに収束される。てか環状線現代化に取り組む技師を長谷川博己が演じた映画、未ツイートと今更判明。
ヤンゴン滞在時環状線動画:https://twitter.com/pherim/status/852116477293416449
『物言うポテト』鑑賞は前ツイでいう3軸目に当たるけれど、こうしてみるとつくづく読書や映画鑑賞は旅の延長線上にあり、旅もバンコク転居も幼少時の見知らぬ近所探検の延長戦でしかないと思い知らされる。
「書を捨てて町へ出よう」の限りにあらず。なべて世は恵みなり、よ。
『アジア三面鏡2018:Journey』:https://twitter.com/pherim/status/1238836077261021185
話を戻す。下院審で4回敗訴した『物言うポテト』主人公の聾唖女性は、映画公開によりネピドー上院審にて勝訴。声を挙げる被害女性らが続出中という。それ自体はドキュメンタリー映画がもつ力の一端を示す吉事だが、それだけでは済まない世界がその先には待つものだなとも。(続
というのも本スレッドは、“VISUAL DOCUMENTARY PROJECT 2019”(by国際交流基金アジアセンター&京都大学東南アジア地域研究研究所) 全上映作を扱うものだが、2017年の同企画で上映されたミャンマー人監督は、政治家批判を理由に現在入獄中と知る。彼らの声を恐れる必要が政府にあるという、身も蓋もない現実。
『鉱脈』(Vein): https://twitter.com/pherim/status/815898919360073728
『叫ぶヤギ』
タイ深南部パタニのムスリム地区に暮らす女性同士のカップルはLGBT団体を設立するが、地域の理解を得るのは容易でない。
危険地帯とレッテル貼りされる深南部国境域を、別アングルから眼差す試み。家庭や個人史水準から社会・国家の水準まで、暴力の余韻と予感に満ちた静けさは鮮烈。
[動画見当たらず]
"Screaming Goats" https://twitter.com/pherim/status/1339933944997810177
言うまでもなく本作はタイ国内非上映。ちなみに本作の京都上映を観たタイ人観客のFacebook投稿がタイ語圏で炎上し、監督への反発が強化されたという。監督Thunska Pansittivorakulはタイ深南部出身の1973年に生まれ。ドキュメンタリー作家としての履歴もすでに厚く、本作動画は見当たらないながら多くの過去作本編または予告編を観ることができる。
『あの夜』“Katong Gabii”
フィリピン・ダバオの夜市で起きた爆弾テロの生存者2人を追う。妻と息子を亡くしたトラック運転手はプロテスタント、重傷を負った露天商の女はムスリマで、ミンダナオ島の複雑な政治抑圧状況を各々に象徴する。ぬめるような“明けない夜”の漆黒を淡々と撮る眼差しが印象的。
[Vimeo動画] https://vimeo.com/322372200
"That Night" "Katong Gabii" https://twitter.com/pherim/status/1222534196771450882
フィリピン映画といえばラヴ・ディアスやタヒミック、Netflix進出や弟子筋の活躍も華々しいブリランテ・メンドーサらの長回しが生む肉迫表現は今や定番だけれど、同じ夜市を撮りながらドゥテルテの騒擾を突き放す“Katong Gabii”の静謐の中、リアルの重さ深さは全身へ響き渡る。
メンドーサ系ツリーへ紐づけ。
→https://twitter.com/pherim/status/1150715223172452352 諸々衰微の目立つ昨今とはいえ、こうしてマイナー映画の公開に関しアジア圏で他に見ぬ成熟度を示す現状には、素朴に感謝いたしとう。
cf.御茶ノ水アテネフランセ
@afcc1970
《フィリピン・シネマ・クラシックス》2月末開催
http://athenee.net/culturalcenter/program/ph/philippineci...
□おまけ
“女儿”
中国旧正月の民族大イベントに併せた、Apple広告戦略の鋭さに脱帽。
『ジョーカー』撮影のローレンス・シャーに撮らせて世界を黙らせ、中国四大女優(四大名旦)の周迅を起用し中国全土を沸かせる。かつてクリストファー・ドイルが重たい機材を担いでしたことを、手の平サイズで。
Directed by Theodore Melfi, Cinematography by Lawrence Sher"女儿" "Chinese New Year — Daughter" https://twitter.com/pherim/status/1216286754585497600
余談。
NetflixやAmazon Prime公開作はスルーしておきながら、iPhone撮影のYoutube作品を扱うのもどうかと思いますが、ま、追々。ただ動画サイト言及を始めると、ドラマやTV/サイト公開のアニメ新作を扱わない理由も消えてキリがなくなり。
いずれも観てはいるのです、そこそこ旺盛に。
それとはべつに。
中華圏の旧正月が年中行事最大のイベントであることは、当ふぃるめも開始のきっかけとなった移住先タイの最大イベントがソンクラーン(タイ正月)であることと考え合わせ、日本の正月に比較するとなかなか趣深いなと感じます。
現行の日本の正月って、言うまでもなく西暦なんですよね。この近代導入的な根無し草性の一点に限ればクリスマスと大差ない。ところが日本国内ではクリスマスこそ商業的だの性夜だのと毎年揶揄の声も聞かれるのに、正月に関してはまったく聞きません。しかしこの無音にこそ、実のところ節操の無さはより強固に根付いているとも言えます。これは天皇制も然り、とはいえ自身どちらも素朴に受け入れなんとなく肯定もするありふれた日本人のひとりではありますけれど。
次回ふぃるめもは、香港映画特集となる見込み。
おしまい。
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