今回は、2月28日~3月7日の日本上映開始作と、《若尾文子映画祭》上映作から10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第134弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■2月28日公開作
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』
この高精細は期待値の遥か上。特に仏植民農園からデニス・ホッパー登場までの流れが鮮明化。初期版より長く完全版より短い182分編集も中弛みなく巧い。にしてもローレンス・フィッシュバーン18歳、のち
『マトリックス』他の強面二重顎が信じがたいほどの華奢男。
"Apocalypse Now Final Cut" https://twitter.com/pherim/status/1229245990235865089
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
中国映画第8世代を牽引する、’89年生まれのビー・ガン監督新作が現象させる夢幻の深淵。劇中人物と同時に3Dメガネをかけるという一見ちゃちな仕掛けが齎す、後半60分ワンカットの劇場体験に驚嘆する。時代時代の制約を作品昇華へ転じる真の画期作きたこれ。
"地球最后的夜晚" "UN GRAND VOYAGE VERS LA NUIT" "Long Day's Journey into Night" https://twitter.com/pherim/status/1233025952046665728
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』『凱里ブルース』を巡り書きました。
フー・ボーら新世代の共通項。タクラマカン砂漠ロプノールの《エリア51》的想像力とUFO、中国“天安門以前”の若者文化など。
【映画評】地球最後の晩餐 ビー・ガン監督インタビュー/キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2020/02/29/41571/
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』
フィンランド映画。レーピンと思しき謎名画を巡る老美術商と孫の冒険。扇情的な台詞や過剰演出に頼らないクラウス・ハロ監督前作『こころに剣士を』同様の、北欧家具のようにストイックな簡潔さが齎す妙趣。オークションでの静かな白熱が手に汗握る。
"Tuntematon mestari" "ONE LAST DEAL" https://twitter.com/pherim/status/1231418118867542016
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』、きのう日本公開。現在アマプラ他で観られる、クラウス・ハロ監督前作
『こころに剣士を』ツイを紐づけ。コロナ下のお供に。《異なる世代同士が、信念を通し連帯する》という通底テーマに北欧小国ゆえの歴史性を感じたり。
『こころに剣士を』:https://twitter.com/pherim/status/811406175497375744
『レ・ミゼラブル』
移民や低所得者層が暮らし、スラム化した団地の並ぶパリ郊外モンフェルメイユ。新人警官の瞳に映る、かつてユゴーの小説“レ・ミゼラブル”の舞台となった一帯を襲う現代的混沌の諸相。制度の疲弊とむきだしの感情との衝突が生む剣が峰を、同地出身の新鋭ラジ・リが劇しく切りとる。
"Les Misérables" https://twitter.com/pherim/status/1232142772452282369
パリ郊外の“貧困区”へ焦点化した映画、即ちフランス「郊外映画」の系譜を以下ツリー形式で幾つかまとめる。コロナ禍に考慮し、なるべく動画サイト等で観られるものから。
まず
『12か月の未来図』。監督オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルは本作のため当地中学へ2年通ったとか。
→https://twitter.com/pherim/status/1234164785815515136
『ディーパンの闘い』“Dheepan”パリ郊外映画③
冴えない団地管理人が実は元《タミル解放の虎》の英雄で、東欧系ギャング達も白目むくガチ戦闘展開の果てカンヌ最高賞獲得。主演自身が“虎”出身で、難民/貧困/宗教対立ごった煮をインド映画ノリかつシリアスにやり切る驚愕の作。
→https://twitter.com/pherim/status/1234173461729177601
『身をかわして』“L'Esquive” パリ郊外映画④
ラジ・リ版『レ・ミゼラブル』の劇的ルーツな名作。チュニジア出身のアブデラティフ・ケシシュ監督、『アデル、ブルーは熱い色』で世界ブレイクを果たす前段に本作と『クスクス粒の秘密』(神作! アマプラ他有)を置く流れが面白い。
→https://twitter.com/pherim/status/1234164785815515136
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Heritiers”パリ郊外映画⑤
移民社会下の高校生へアウシュヴィッツを説く点が類稀。ちな生徒側主役を演じた黒人青年は脚本にもクレジット、その後本国で2度上映中止の
『メイド・イン・フランス パリ爆破テロ計画』でイスラム過激派演じる。
→https://twitter.com/pherim/status/1234592506035109888
『ある過去の行方』“Le Pass锓گذشته”パリ郊外映画⑥
離婚の為テヘランから呼び寄せられた元夫(イランの名優Ali Mosaffa)の目を通したシングルマザーの元妻マリー=アンヌの日常。移民社会ゆえの緊張や煩雑さが、人間関係の複雑さに拍車をかけ事態が一層混迷化する図の今日性。
→https://twitter.com/pherim/status/514046180540432385
以降ツイ予定作メモ
→
『最強のふたり』https://twitter.com/pherim/status/1204955428385198080 (米版)
→クレール・ドゥニ
『35杯のラムショット』https://twitter.com/pherim/status/941948192672817152
→クレール・ドゥニ
『死んだってへっちゃらさ』https://twitter.com/pherim/status/939502846529101824
→(番外)
“Paradise Suite”https://twitter.com/pherim/status/871678721413009408
■2月29日公開作
『娘は戦場で生まれた』
陥落間近のアレッポで子を産むと決断する母。未来の娘への語りかけが全編を占める本作がもつ、シリア紛争描く過去の傑作全てを凌ぐ訴求力。その切実な願いや声音に宿る絶望の昏さに並置された、喜びと光差す一瞬とを封じ込めた映像の、ほとばしるような生命力に圧倒される。
"For Sama" https://twitter.com/pherim/status/1231801801977950208
拙稿「紛争地に響く痛切な祈り 『娘は戦場で生まれた』」:
http://www.kirishin.com/2020/03/10/41757/
■3月6日公開作
『シェイクスピアの庭』
稀代のシェイクスピア俳優で熟練監督のケネス・ブラナーが、グローブ座焼失&ロンドン撤退後の早逝した息子想うシェイクスピア翁を自ら演じ監督するのだからもう、その筋にしか伝わらない蘊蓄の宝庫(ってことは門外漢の私にも伝わる)。名優揃いな脇役達のキメ台詞も逐一楽しい。
"All Is True" https://twitter.com/pherim/status/1234326411931832320
■3月7日公開作
『ダンシングホームレス』
路上生活者からなるダンス集団《新人Hソケリッサ》。新宿中央公園やバスタで野宿する身体の微震から、新たな踊りが世に生まれ落ちる。団員個々の来し方と振付師アオキ裕キを変えた9.11テロを巡る語りが胸を打つ。また70歳小磯松美翁の悠々たる体躯の揺らぎは殊に見惚れる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1235032788547416064
■若尾文子映画祭
http://cinemakadokawa.jp/ayako-2020/
『刺青』
谷崎潤一郎原作、増村保造監督、新藤兼人脚本1966年作。手代の男と駆け落ちした先で騙され、背に女郎蜘蛛を彫られた商家の娘。若尾文子演じる溌剌とした娘が、蜘蛛に魂を奪われたように魔性化しゆく道のりを背の柔肌で見せるキメ画演出が凄い。4K修復版でより研ぎ澄まされた、瑞々しさから鋭き妖艶への跳躍。
"Irezumi" https://twitter.com/pherim/status/1234012161044668417
『赤い天使』
従軍看護婦のみたリアル。肉欲露わな戦傷兵を憐れむ主人公の逡巡が、芦田伸介扮する軍医への思慕に昇華する構成が表現する、混沌の底に蠢く情動のうねりは見事。どす黒い血液にモノクロームの強さ想う。終始笑わない若尾文子が、酸鼻を極めた血みどろの肉体群がるなか一人立つ図の凄絶。
"Red Angel" https://twitter.com/pherim/status/1235395995057324032
『青空娘』
スッキリ快晴作。祖母の死に際「実は不倫の子よ」と出生の秘密を聞かされ上京するが、待っていたのは家族の蔑視と女中扱い。という筋立ての暗さが、若尾文子の澄んだ笑みの引き立て役にしかならないほど瑞々しさが全編に溢れて可憐。1957年作で、戦後の空気色濃い昭和描写がまた愛おしい。
"The Blue Sky Maiden" "Jeune fille sous le ciel bleu" https://twitter.com/pherim/status/1236149676899893248
余談。
今回《若尾文子映画祭》上映作として扱った3作は、すべて増村保造監督作。
すでに観ている溝口健二
『赤線地帯』ほかも次回扱う予定ですん。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
03月09日
14:11
1: kimidori
「ラスト・ディール」は気になってました。フィンランド映画なんですね!
めっちゃ雑にいうと、歴史的経緯からフィンランドはロシアが嫌いらしいので、その中でレーピンがどう評価されているのかが気になります。
03月09日
14:46
2: pherim㌠
レーピンは住む土地がロシア革命でフィンランドへ編入されたあとも住み続け、ソ連の要請に応じなかったようです。本作でマクガフィン化される意味はそのあたりにも。
あとバルト三国なども含め、政治的なソ連≒ロシアへの忌避感情が、サンクトペテルブルク文化への評価にどの程度影響しているかはたしかに気になるところですね。あまり考えたことがありませんでした。
03月14日
16:15
3: kimidori
コメント見てから、家にあったレーピンの画集を見直してしまいました。政治的なメッセージのある絵も多いけど、やっぱり内面を抉るような人物画が素晴らしいです。
西洋絵画的な流麗さと、ロシア絵画の持つ内面の描写の鋭さがマクガフィン化に選ばれた理由なのかも(←憶測①)。
サンクトペテルブルクは土地的にも北欧に近く、どちらかというと洗練された雰囲気の町だった記憶があります。文化的にも北欧・西欧に近いかもしれません(←憶測②)。
なんでもいいけど、もう一遍レーピン、みたい。