今回は3月13日~3月28日の日本上映開始作から10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第135弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■3月13日公開作
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
情愛の深さを物理衝撃で感覚させる異次元演出の極ゆくグザヴィエ・ドラン監督新作は、スターが宿命的に背負う虚飾の底に潜む人間のリアルをえぐり出す。ガブリエル・ヤレドの音楽を背にこの研ぎ澄まされたキャスティングによる剣舞のごとき衝突と混淆をみる愉悦。
"The Death and Life of John F. Donovan" https://twitter.com/pherim/status/1236501228214837249
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のキャスティングは、どうしてこんなことが可能なのというほどに絶品で、グザヴィエ・ドランどんだけ愛されてるのかと。ギャラや事務所判断でなく、まず自分の物差しで出演を決める本質主義な彼らに選ばれる辺り、テレンス・マリックにも近い至高の玄人受け感あり。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』でジェシカ・チャステイン出演場面を全カットという、グザヴィエ・ドラン当時29歳の強心臓。
→https://www.cinemacafe.net/article/2020/03/06/66149.html
そんななか健闘してたサラ・ガドン、
『ルーム』『ワンダー 君は太陽』とすくすく成長中のジェイコブ・トレンブレイ君。
『ルーム』:https://twitter.com/pherim/status/717280334274887680
『ワンダー 君は太陽』:https://twitter.com/pherim/status/1009617239719346177
グザヴィエ・ドラン作品は、俳優が声域競う感情の肉弾戦の奏でる律動こそ本領との観があり、旋律的な心象は正直薄い。ところが『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』は音楽的構成への意識が鋭く感じられ、鑑賞後ガブリエル・ヤレドの音楽と知り納得。要はかなり好みの曲調でした。
ヤレド言及ツイ:https://twitter.com/pherim/status/916831530755932160
『ミッドサマー ディレクターズカット版』
夜も明るいカルトコメディ。アリ・アスター前作
『ヘレディタリー/継承』の箱庭が白夜の花畑展開した世界観。笑いを痙攣化し社会を裏返す
『ジョーカー』にも通じる、叫びの共有化により善悪の彼岸へ至る本作のウェルメイド性が齎す感性の貫通力に戦慄する。
"Midsommar: The Director's Cut" https://twitter.com/pherim/status/1238658264977440768
『衝動 世界で唯一のダンサオーラ』
踊りを息する、ロシオ・モリーナ。コンテンポラリー文脈&現代劇場建築で浮かないフラメンコ、の意味を観ながら書きだし終幕時ノート4頁埋まってた。空間を覆い尽す気迫と律動。革新の急先鋒こそ伝統の本質的継承者たる逆説の体現者とは彼女のような存在なのだろう。
"Impulso" https://twitter.com/pherim/status/1236860510483574784
■3月14日公開作
『コロンバス』
静謐な物語進行の全体が、建築劇映画という新領域を提案する。サーリネンのノース教会など著名なモダニズム建築を主人公視点で観る図は新鮮。全編小津リスペクトに溢れ、気づけば男女の最接近点が旅立ちの起点となる構成、微妙な距離感を保つ人物配置の水平性もまた建築的なのだった。
"Columbus" https://twitter.com/pherim/status/1237570383189966848
■3月20日公開作
『人間の時間』
キム・ギドク新作は、なんとクルーズ船が舞台!転用された退役軍艦の漂流は驚天動地の絶頂へ。オダギリジョー&藤井美菜演じるハネムーンカップルの命運も、アン・ソンギ翁の醸す不敵な沈着さも全てが深い寓話性を纏って埒外の結末へなだれ込む。ギドク哲学満載の過激怪作ここに極まる。
"인간, 공간, 시간 그리고 인간" "Human, Space, Time and Human" https://twitter.com/pherim/status/1239884103664582656
追記用メモ:この役が日本人であることの意味を考える
超絶問題作でありながら炎上回避する巧緻に長ける
『The NET 網に囚われた男』:https://twitter.com/pherim/status/815542150607687680
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
三島に少しでも関心あるかた必見。殊に学生側随一の天才・芥正彦との論理激闘が真摯で熱い。主軸の討論は一部観たこともあり実は期待してなかったが、対峙の場形成への経緯、楯の会や全共闘現存者の証言など逐一興味深い。三島の諦念の深さへ迫る終幕も秀逸。
"" https://twitter.com/pherim/status/1237935013615693825
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』で一つ鮮やかだったのは、討論会場を去る三島の晴々した表情と、市ヶ谷駐屯地へ至る“避けがたい”流れとの対照性。暴発に備え実は前席に潜んでいた楯の会メンバーによる、世間で嗤われながら実は実弾演習もしていた等の回想がこれを支える。今日との隔絶想う。
『恐竜が教えてくれたこと』
オランダ離島のひと夏を舞台に、“地球最後の恐竜の孤独”を想う少年のうつむきがちな心が、父なき奔放な少女との出逢いで弾ける物語。しょうもないが愛おしい周囲の大人たちの醸す世界観は穏やかで瑞々しく、世界自然遺産ワッデン海望むテルスヘリング島の風光が清々しい。
"My Extraordinary Summer with Tess" https://twitter.com/pherim/status/1240491757596315648
■3月21日公開作
『馬三家からの手紙』
米国のスーパーで売られたハロウィーン飾りの箱に、“労働教養所”で使役される男性の告発英文が。世界の非難を浴び当該施設は表面上閉鎖、男性は解放される。しかし華僑系カナダ人監督が追うその後の展開は想像を超えていく。現代中国の収容所的側面を鮮やかに伐り出す衝撃作。
"Letter from Masanjia" https://twitter.com/pherim/status/1241237376241815552
■3月27日公開作
『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』
マテ茶をすする好々爺ふたりの図かわゆす。カンヌ最高賞2度獲得の名匠が撮るウルグアイ前大統領の質実。旧型ワーゲン乗り回し畑耕す今日と銀行強盗ほか武勇伝との鮮やかな対照に覗く、ボスニア出身クストリッツァ監督の鋭い消費社会批判。
"El Pepe, Una Vida Suprema" https://twitter.com/pherim/status/1242280322005266438
■3月28日公開作
『グリーン・ライ 〜エコの嘘〜』
多国籍企業が連呼する“環境に優しい”=《グリーン・ウォッシュ》の実態に迫る。論理と検証で攻めるいかにもドイツ製ドキュメンタリーな出来映え。東南アジアでLCCに乗ると、下界が見渡すかぎりパーム林というのもありがちで説得力感じざるを得ず。リアル世界残酷物語。
"Die grüne Lüge" "The Green Lie" https://twitter.com/pherim/status/1243007411331297281
余談。
『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は坂本龍一の音楽でも知られてますが、動画冒頭のBGM“戦闘”のクレジットは上野耕路&窪田晴男。エレキで奏でるアラブの響きにやられた子供の自分は、初見のお名前を手がかりに未知の音楽領域探検の旅へ出たのでした。ネットなんてなかった頃の話。
→https://twitter.com/pherim/status/1239011121085861888
ところで先日、第1回大島渚賞記念上映会で坂本龍一x黒沢清x小田香トークを聴いたのだけど、生で坂本龍一見るの初めての割に感動ないなぁとか思ってました。ところが今になって気づいたけど、初めて見たのは柄にもなく男子高校生が連れ立って行った再生YMOコンサートで約20年前。たしかその後にも生でみる機会はあり、記憶再生能力もいよいよテキトーになってきたなと。
映画音楽と大島渚をめぐる3人のトークは案外面白かったです。そのうちツイートするかも。
おしまい。
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