今回は
4月3日~4日の日本上映開始作と、
《フィリピン映画生誕百周年記念 フィリピン・シネマ・クラシックス》@アテネ・フランセ文化センター上映作から10作品を扱います。(予定していた4/10-11日公開作は、コロナ禍により全延期)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第136弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■4月3日公開作
『在りし日の歌』
一人っ子政策に翻弄された、ひと組の夫婦を軸に描かれる中国現代の30年。苦労が報われず、ただひたむきに日々を暮らす二人の周りで、各々に生を全うする(あるいはしない)子供たちの姿が切ない。撮影/脚本/演技のいずれも非の打ち処なく余韻は深く、中国映画本格黄金期の嚆矢とさえ。
"地久天長" "So Long, My Son" https://twitter.com/pherim/status/1245456901120208896
『暗数殺人』
キレッキレ知能犯vs実力主義刑事の対決。
『工作』他で魅せたチュ・ジフン十八番の鋭利さと、
『1987、ある闘いの真実』等での懐深いキム・ユンソクの抑制とが描く対照の鮮烈。一歩引いて2人の対峙を見守る部下役チン・ソンギュがまた渋く、韓国映画に不可欠の個性派名脇役また現わるの観。
"암수살인" "Dark Figure of Crime" https://twitter.com/pherim/status/1244943397565038593
『暗数殺人』は実話ベース、リアル世界では被害者遺体をなお捜索中とのこと。そうみるとキム・ユンソクの造形と併せ
『殺人の追憶』2匹目のどじょう感もあるが、むしろ3匹目4匹目もガチ期待の路線ゆえマイナスポイントとはならず。韓国ノワール名作安定、的な。部下役チン・ソンギュ、至近作では
『エクストリーム・ジョブ』の迷演も忘れがたく。
『エクストリーム・ジョブ』:https://twitter.com/pherim/status/1209690847941279744
『悲しみより、もっと悲しい物語』
韓流名作の台湾リメイクで、孤独な出自もつ若い男女の悲恋物。ずっと仲良いし深く相手を想う2人の未来を予め消すことで、ガツンと心奥へ訴える巧さに慄える。“わかってるのに”泣かされたうえ、“そう来たかズルいわ”とさらに涙する。若手出演俳優の全員に正直惚れた。
"比悲傷更悲傷的故事" "Bi bei shang geng bei shang de gu shi" https://twitter.com/pherim/status/1244504878417735680
■4月4日公開作
『ようこそ、革命シネマへ』
スーダンの《映画じいさん4人組》を撮るドキュメンタリー。独裁で廃れた映画復興に燃える4人が、支援なく行政はツレナイし上映会をアザーン(礼拝告知)に邪魔もされるけど、のどかに笑って乗り越えてく。そんな翁達が実は独露へ留学経験あるなど歴戦の強者揃いという渋さ。
"Talking About Trees" https://twitter.com/pherim/status/1245813308101259269
『ようこそ、革命シネマへ』のおじいさんたち、うち一人は全ソ国立大学(エイゼンシュテインら教授、タルコフスキー、ソクローフら輩出)、一人はポツダム映画TV大卒。各々露独語での母校への電話から卒業制作フィルムが発掘される場面は胸熱で、歴史が違ったら存在したろう彼らの監督作群想うと誠に切ない。
古い映画館の佇まいに、タイ西部の町ポタラムのそれを想起。
https://twitter.com/pherim/status/610989904474959872
■《フィリピン映画生誕百周年記念 フィリピン・シネマ・クラシックス》 アテネ・フランセ文化センター
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ph/philippi...
『奇跡の女』“Himala”
カトリック映画傑作。丘の上で聖母マリアを見たという女の告白を起点に、何もない寒村が欲望のるつぼと化し破滅しゆく描写の凄絶。混沌の中心でおだやかに凝視する主演ノーラ・オノール孤高の佇まいに慄える。フィリピン映画第2黄金期牽引するイシュマエル・ベルナール1982年作。
"Himala" "Miracle" https://twitter.com/pherim/status/1237209232811765760
『インシアン』
フィリピン愛憎復讐劇byリノ・ブロッカ1976年作。母に虐待され母の情夫から犯される薄幸の少女演じるヒルダ・コロネルの可憐さが、ダメ彼氏に捨てられる中盤からモリモリ不穏な濃度上げだす怪作。未舗装の街路と駄菓子屋、屠殺場や情宿など描写が趣深く、真実の再考迫るラストも秀逸。
"Insiang" https://twitter.com/pherim/status/1238345947983142912
『インシアン』でちょっと面白かったのが、格子窓ごしショッピングの場面群。こち亀でいう駄菓子屋の軒先に展開するもんじゃ焼きコーナーの塩梅で、路端の長椅子で飲食する男子たちとか、道路から直接買える昭和のタバコ屋的な。鏡画角や街路描写も地味に工夫されていて、楽しみどころの多い作品でした。格子窓の図
→https://twitter.com/pherim/status/1241272035956973569
『カルナル 愛の不条理』“Karnal”“Of the Flesh”
1930年代フィリピンの片田舎で起きた、ある新婚夫婦を中心とする騒動への追憶。マニラの都会生活が恋しい嫁、と心通わす聾唖青年。嫁に欲情する義父、を目撃する義妹、すべてが許せぬ夫など、愛憎肉欲連鎖の汲々たる無限回廊の全体をマルコス独裁風刺とする1984年作。
"Karnal" "Of the Flesh" https://twitter.com/pherim/status/1242809789656125440
『ノリ・メ・タンヘレ』
フィリピンの国民的英雄ホセ・リサール原作。180分上映ながらシーンが飛ぶ箇所も目立ち、その大河感 レトロ感込みで見応えあり。野心的かつ権威主義的な悪徳神父が背負うオーラの禍々しさに
『薔薇の名前』初見時の生理的恐怖をも呼び起こされた、ヘラルド・デ・レオン’61年作。
"Noli me tángere" "Touch Me Not" https://twitter.com/pherim/status/1248094519410610177
前ツイ「シーンが飛ぶ箇所」は、物語的に飛ぶ箇所と劣化に伴うフィルム裁断により飛ぶ(と推測される)箇所の両方を言っていて、鑑賞翌日に原作の邦訳本を地元図書館で借りたら、コロナ閉館して返せなくなりにけり。
『薔薇の名前』初見は小学校高学年時の父が観ていたテレビ放送で、エッシャーの面白さとセットで知った。
『シスター・ステラ・L』
敬虔な修道女が、ストライキへ巻き込まれたことから覚醒、反体制活動へ傾倒しゆくマイク・デ・レオン’84年作。ソ連圏社会派映画の南洋版という趣あり、腕を組んだ修道女たちが工場前の路上ストで人間の盾へ参加する場面など、日本の修行僧へ置き換え想像するとなかなか熱い。
"Sangandaan" "Sister Stella L." https://twitter.com/pherim/status/1259317411628544001
『シスター・ステラ・L』撮影時のマルコス独裁下、“イメルダ夫人の映画好き”をテコに“聖書引用豊富”で検閲突破した逸話がフィリピンらしくて好き。
ちなみに主演女優のヴィルマ・サントス、当初セクシー系が売りだったけれど政治家へ転身。リパ市長、バタンガス州知事を経てフィリピン代議院副議長。
『バッチ '81』“Batch '81”
40年前のフィリピン映画に卒倒しかける。ホモソーシャルなイキリ合いが奇想天外な仕方で陰惨化する、連合赤軍と『いまを生きる』を足しロッキーホラーショーで割ったようなガチのカルト作。黒人扮装からゲイいじりまでタブー満載だが、全力でマルコス独裁を腐す気概に敬服。
"Batch'81" https://twitter.com/pherim/status/1233771679781810176
ちなみに本来
『バッチ '81』を当ツリーのトップに置く予定だったのを変更したのは、このツイートは不興を買ったらしく結構なフォロワー減が見られたから。140字に詰め込むと、意図しない誤解を呼ぶ。単体ではNGなナチス意匠もゲイいじりを独裁下で遂行した点にこそ重点はあったのだけど。
余談。
『ゴジラ対ヘドラ』&『七人の侍』ポーランド版ポスター(↓)、カッコ良すぎて笑う。
→https://twitter.com/pherim/status/1234808430864420866
《ポーランドの映画ポスター》展、コロナ禍で会期途絶しちゃったけどこの2枚の存在はシェアしときたかったし、日米欧露映画のポスター同水準以上がたくさん並んでたし、京都近美に巡回予定ゆえ刺さりし貴殿参るべし。
『ゴジラ対ヘドラ』ポーランド版ポスター。粋にもほどがあるってなもんだけど、ヘドラってヘドロ由来いわゆる公害怪獣で輪郭が不明瞭。人間の業が凝縮されたゴジラとの出自の重複を文字通りダブらせて、液状由来の波紋にその通奏低音を響かせる。巧~い。粋を解説するのは野暮ってもんですが、へへっ。
→https://twitter.com/pherim/status/1238271614875123712
『七人の侍』ポーランド版ポスター。ぱっと見で七人が描き分けられてるようにも思え好奇心着火。まず↓画像より菊千代(三船敏郎)が2人、斃れてる侍に初め久蔵が想起されるも野武士と判明。剣豪久蔵は右端、隣が平八、左の赤い額当ては勘兵衛(志村喬)。残りは小太りor若者ゆえ左の青老顔不明。楽しす。
→https://twitter.com/pherim/status/1245612200502259714
おしまい。
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