今回は、5月23日~6月6日の日本上映開始作(含新作オンライン配信)と、フレディ・M・ムーラー特集
《マウンテン・トリロジー》上映作、国内劇場未公開作など12作品を扱います。(含短編2作+再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第139弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■5月23日公開作@リビングルームシアター https://www.reallylikefilms.com/livingroomtheater
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
中国映画第8世代を牽引する、’89年生まれのビー・ガン監督新作が現象させる夢幻の深淵。劇中人物と同時に3Dメガネをかけるという一見ちゃちな仕掛けが齎す、後半60分ワンカットの劇場体験に驚嘆する。時代時代の制約を作品昇華へ転じる真の画期作きたこれ。
"地球最后的夜晚" "UN GRAND VOYAGE VERS LA NUIT" "Long Day's Journey into Night" https://twitter.com/pherim/status/1233025952046665728
■6月5日公開作
『燕 Yan』
渡り鳥の名をもつ青年ツバメが、母に見捨てられた幼少期の傷を抱え、母の故郷台湾へと旅立つ。母役・一青窈の演技がひたすらに切なく、光の使い分けにより回想場面や台湾の夜市など各々に醸す情緒の深さが印象的。渋味の効いた周辺人物の配置も良い。カメラマン今村圭佑の監督長編第1作。
"Yan" https://twitter.com/pherim/status/1264457814728036353
『燕 Yan』は6/5劇場公開。旅情溢れる映像は外出自粛で鈍った感性に効くかと。
本作で劇映画デビューとなった今村圭佑の、撮影監督としての代表作“Lemon”米津玄師MVを巡るツリー紐づけ↓。MVで踊る吉開菜央による監督短編群連ツイ(未完)の一部です。こちらも公開待ち遠しく。
https://twitter.com/pherim/status/1245952000400846848
■6月6日公開作@リビングルームシアター https://www.reallylikefilms.com/livingroomtheater
『凱里ブルース』“路邊野餐”
後半41分に及ぶワンテイク長回しが恐ろしく魅惑的。主人公らが集落を抜け川を渡り、山谷に加え時空まで越えてしまう映像の、制約が生む表現の奥行きに圧倒される。新作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の手法的原点窺えるビー・ガン監督26歳時のデビュー作。
"路邊野餐" "Kaili Blues" https://twitter.com/pherim/status/1250264457655156736
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』『凱里ブルース』を巡り書きました。
フー・ボーら新世代の共通項。タクラマカン砂漠ロプノールの《エリア51》的想像力とUFO、中国“天安門以前”の若者文化など。
【映画評】地球最後の晩餐 ビー・ガン監督インタビュー/キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2020/02/29/41571/
■フレディ・M・ムーラー特集《マウンテン・トリロジー》(渋谷終了/阿佐ヶ谷・横浜・高崎近日予定)
https://gnome15.com/mountain/#theater
『山の焚火』“Höhenfeuer”
アルプス山中で暮らす一家を撮る信じがたく峻厳な映像は、聾唖の少年による姉への思慕へ焦点化する中盤から異様な角度で深化しだす。薪の弾ける音、鏡の光や焔の輪郭、遠い雷鳴。雲海を見下ろす山肌から垂直に命の深淵を覗き込む切り詰められた構成が、これら細部のリアルを際立たせる。
"Höhenfeuer" "Alpine Fire" https://twitter.com/pherim/status/1258606789567713280
『緑の山』“Der grüne Berg”
アルプス山間に浮上した放射性廃棄物処理場の建設計画。交わされる議論は日本でも馴染みあるものながら、『山の焚火』監督フレディ・M・ムーラーの撮る予定地山野の緑は不穏で神話的な予兆さえ響かせる。山の住人らの悪い予感の鋭さに、3.11後の我々は慄えるしかない1990年作。
"Der grüne Berg" https://twitter.com/pherim/status/1263679319391404033
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『武器庫』“Арсенал”
ウクライナ・ソヴィエト戦争前線に立つ兵士の狂顔、ポリシェビキの煽動に沸きたつ正教司祭達、そして造兵廠に立て籠もった市民によるキエフ1月蜂起へ。中盤からの映像攻勢凄まじく、終盤サイレントなのに吹き飛ばされたアコーディオンが断末魔あげ我昇天。ドヴジェンコ1929年作。
"Арсенал" "Arsenal" https://twitter.com/pherim/status/1256154075281780736
アコーディオンと機関銃との線路上での不意の出会い。動画→
https://twitter.com/pherim/status/1259786244633944064
『武器庫』“Арсенал”のギラつく一幕。ドヴジェンコは1894年生まれ。チャップリンの5つ歳下、バスター・キートンより1つ歳上。技術的制約を共有しながら、まるで異なる映像感覚を宿してますね。
ウクライナ正教の司祭らが咆哮する、ドヴジェンコ『武器庫』の一幕。若い“同志”の革命論理に高揚するじいさま達、「神が解放されし母なる地ウクライナのため祈ろう」と陶酔の境地へ。正教会のコロナ対応を巡っては前に連ツイしたけれど、大地へ寄り添う姿勢が通底してます。写真&RT→
https://twitter.com/pherim/status/1236844700541190146
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
“Dzma” (Brother, 2014)
ソ連崩壊後、内戦の気配漂うジョージア首都トビリシで、グールドの音色に心躍らせる弟と、犯罪の道へ引きずり込まれる兄。ピアノの才が開花しゆく様を見守る周囲の大人達やダメ兄の視線こそ、弟世代の監督による表現の中核で、柔らかな35mm映像がこの心象風景を優しく浮きあがらせる。
"Dzma" "Brother" https://twitter.com/pherim/status/1254255930763382784
同じトビリシ舞台の兄弟物新作、『ダンサー そして私たちは踊った』。
『ダンサー そして私たちは踊った』: https://twitter.com/pherim/status/1226344413862907904
“Spielzeugland” (Toyland)
一緒にピアノを習うユダヤ人の友達が、遠くへ家族と旅立つことに。「おもちゃの国へ行くの」とごまかす母と、一緒に行くと聞かない少年の行動が導く、せつなくも予想外の結末。時代の悲哀を14分の物語へ封じ込めた珠玉短編2007年作。(全編視聴可↓)
"Spielzeugland" "Toyland" https://twitter.com/pherim/status/1255346069334089728
“Spielzeugland” 、ヒトラー独裁下におけるドイツ人少年の心模様と、その母の一筋縄でない強靭さが描かれるあたり『ジョジョ・ラビット』が想起され。
ナチス映画を巡っては拙記事「アウシュヴィッツの此岸」もよろしければ
→
http://kirishin.com/2018/09/06/16812/ (扱う3作ともアマプラ有)
“Pharos of Chaos”
南仏の運河で悠々と暮らすスターリング・ヘイドン翁の語る、波瀾万丈の人生航路。史上最も美しい男優と謳われながら、パルチザン支援の軍務を終えた大戦後は赤狩りの追求を受ける。密告者として証言台に立った彼の回想は誇らしさと苦渋とが寄せては返し、揺らぐ水音の余韻が深い。
(↑動画前半部) "Leuchtturm des Chaos" "Pharos of Chaos" https://twitter.com/pherim/status/1257619237574602753
“Pharos of Chaos”でのスターリング・ヘイドンの語りは数節ごと“huh,” “huh?”と入る間投詞が特徴的で、はじめやや耳障りでも聴くうち癖になる。船弦に当たる水音や酒瓶内の揺れる水面と語りに親しさ感じ検索すると、監督はストローブ=ユイレ作に音響参加しておりなるほど納得。
当該箇所抜粋動画→https://twitter.com/i/status/1244201473610833921/video/1
“Der Havarist”(The Shipwrecker)
スターリング・ヘイドン自伝に基づくドイツ製再現劇。マッカーシズムに濯われる最中のヘイドンと後年の彼とを俳優2人で演じ分ける趣向は、当人が独語を喋り続ける違和感も手伝い馴染めず。揺れる船上からの街景くり返しはいかにもストローブ=ユイレ亜流で単にダルい。
(↑動画後半部) "Der Havarist" "The Shipwrecker" https://twitter.com/pherim/status/1262939129362255872
“Les Petites Mains” (Little Hands)
工場閉鎖に絶望した労働者男性が、交渉のため工場監督官の幼な子を誘拐、森中へ遁走する。激しく転倒したのち幼児の手に触れられ頓悟するくだりは台詞もなく、どこか禅の考案を想わせる。母の目盗みスマホで遊びだしたり木苺食べ比べる赤ちゃんの表情演技は名優級。
"Les Petites Mains" "Little Hands" https://twitter.com/pherim/status/1254975354369830912
メイキング動画によると、化学工場という設定のロケ地は、フランス最後の煉瓦工場の一つとの由。大量のドラム缶で化学っぽく見せているが、たしかに映り込む棚などにその痕跡が散見され工場萌え的興味にもやや応える。やや。
“Les Petites Mains”メイキング:https://vimeo.com/376334659
“Zud”
牧畜を営むモンゴル人一家に暮らす少年の成長物語。草原を疾駆する乗馬シーンがくり返され、生粋の精度誇る少年らの馬術は草原&馬クラスタ垂涎級。ポーランド人女性監督Marta Minorowiczによる’16年作。光景が全体の構成を圧倒する点は、中央アジアのステップ草原を撮る外国人監督作が陥りがち。
"Zud" https://twitter.com/pherim/status/1248532409714225152
かつてはソ連系監督の独壇場だった中央アジア大草原映画、しかし時代は変わる。ただ『オルジャスの白い馬』にも通じて、正味の現地人製作映画に比べ“Zud”は物語る膂力にやや欠ける。反面この力弱さが功奏して、好きな子を巡る少年と親友との会話は、余計な力みの取れた好場面。
“Horse Thieves”: https://twitter.com/pherim/status/1216621427131998208
この点、近年のチベット映画隆盛は良い潮流だなと。ちなみにモンゴル語で"Zud"=「ゾド」は、日照りや寒波等による飢饉を意味するらしく、より具体的には数百万頭の家畜が犠牲となった2010年の大寒波を指して使われる語とのこと。年的にこの大寒波に着想された作かもしれない。
余談。2ヶ月ぶりのふぃるめも劇場公開予定作かきこ。まぁ1作だけなんですけど。ともあれ、ね。
にしても6月2週以降は本来の予定作が詰まっちゃって、各所で調整混乱中なんだろうなと。もう5月も最終週に入ろうという段階で、本来4,5月公開予定だった各作品の公式HP他、いまだ日付確定告知してるところほぼない状態だったりします。映画館、再開してもとりあえず1席空けとかでしょうから、採算的に有望な作品はやはり後に回したかったり、いや一刻も早くお客入れたかったりとか、各所で悶着あるでしょうの。いずれにせよ6月は来ますので、2020年上半も最終コーナー。ってマジかよ。ちょまてよ。時の。
おしまい。
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