pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
06月13日
23:13

ふぃるめも140 ゴーストに触れるまで

 
 

 今回は、6月5日~6月13日の日本上映開始作を中心に11作品を扱います。(含短編2作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第140弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
 
 なお下記3作については、ふぃるめも138、139にて扱いました。コロナ禍公開延期モードで情報若干錯綜ちう。

 6月5日公開作『燕 Yan』
 6月6日公開作『凱里ブルース』
 6月12日公開作『ホドロフスキーのサイコマジック』 


 
■6月5日公開作 
 
『デッド・ドント・ダイ』

ロメロのゾンビが珈琲飲みだすジム・ジャームッシュ新作は、ビル・マーレイのおとぼけ演技が七福神級に和めるし、アダム・ドライバーはカイロ・レンネタ挟むの忘れず、ブシェミもスウィントンもノリノリで、その全体が現代人のゾンビ化を痛烈に皮肉って笑わせる極上愉快作。

"The Dead Don't Die" https://twitter.com/pherim/status/1243740637846896640

『デッド・ドント・ダイ』今日公開
まったり時空の匠ジャームッシュによる本作、意外に目立つ酷評の大半が、本格ゾンビホラーを期待し膝がっくんされた系。でも実はティルダ・スウィントン主演の吸血鬼物“Only Lovers Left Alive”同様、ジャンル自体のパロディ化は彼の持ち味の一つだったりします。

ちなみにジャームッシュ『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』では、ティルダ様が旅鞄を本で埋め尽す場面に白石一郎『海狼伝』の文庫旧版が。カフカ『変身』(Kafka, Die Verwandlung)も独語で読む姐御の粋。笑顔とハート3つ人にケチつける暇あるなら本や映画に充てると良いんだぜ~。→劇中画像 α:https://twitter.com/pherim/status/1269945566156349440

他、『デッド・ドント・ダイ』に関しては200RT↑ 600fav↑と若干回ったため、リプを細分化。ツリー上にいろいろ書いてます。https://twitter.com/pherim/status/1243740637846896640




『未成年』
ふたりの女子高生が、親同士の不倫によって衝突、各々に歩みだす成長譚。劇中ではだらしない父親を演じる名優キム・ユンソクの初監督作ながら、問題児と優等生のコントラストは鮮やかで、母親ふたりを交えた密だけど湿りすぎない関係性描写も巧い。厚み増す韓国映画にまたも名匠到来の感。

"미성년" "Another Child" https://twitter.com/pherim/status/1269467058636337152

『未成年』監督&出演のキム・ユンソク、近年は『暗数殺人』『1987、ある闘いの真実』など妥協のない硬派な役柄の多い彼による、自身の監督作だからこそ遠慮なく披露したおとぼけ小物親父の演技も笑える見どころ。そも初監督作で女子高生2人x母親2人の関係性へ焦点を当てたことも興味深く、たまにいる“硬派なふりして少女漫画好きな青年”出身かなと親しみさえ。

 『暗数殺人』 https://twitter.com/pherim/status/1244943397565038593
 『1987、ある闘いの真実』 https://twitter.com/pherim/status/1037866854830620672





■6月6日公開作@仮設の映画館 https://www.temporary-cinema.jp/

『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング~』
性をめぐる抑圧の深淵が、鮮烈な白光に曝されむくりと姿を現す映像の静けさに震撼する。“マイノリティ”や“障碍者”等の言分けが解体されるその場所で、扇情を避けた語りが最後に伐り出すのは本作を座視する私のリアルであるという構成の、鋭き凄味。

"Touch Me Not" https://twitter.com/pherim/status/1268821882507128834




■6月12日公開作

『コリーニ事件』

殺人の国選弁護を担当するトルコ系の新米弁護士は、被害者が己の恩人であり、殺害動機はナチス時代に遡ると知る。
お気に入り現役作家の一人フェルディナント・フォン・シーラッハが原作ゆえの高い期待値に、存分に応えてくれた鋭利な仕上がり。この底なしに渇いた情緒は唯一無二。

"The Collini Case" https://twitter.com/pherim/status/1271392726982909952

以下シーラッハをめぐり日を空けて連ツイ予定。




『15年後のラブソング』
ロックオタクな恋人との倦怠期も長いヒロインが、恋人の心酔する“90年代に消えた伝説のミュージシャン”と不意に出逢ってしまった後の恋模様。中年クライシスに嵌る三者三様の挙動は予想がつかず、往時との時差を包摂するイーサン・ホークのくたびれたおじさん演技は殊に極上。

"Juliet, Naked" https://twitter.com/pherim/status/1266945456845647872




『その手に触れるまで』
ダルデンヌ兄弟新作は、生真面目なメガネ少年がイスラム過激派思想に感化され、女性教師を襲う過程へ迫る。不意の接吻、掌の温もり、胴体を貫く痛み。多文化社会の軋みを圧縮したような鬱屈から少年を解き放つ導師の囁き。体へ直に響く重い肉感表現がこれら全てを際立たせる。

"Le jeune Ahmed" "Young Ahmed" https://twitter.com/pherim/status/1270208922566094848

  試写メモ79「信仰は問題なのか」 https://tokinoma.pne.jp/diary/3844

『その手に触れるまで』映画評を十ほど読む。自身出稿済みなので答え合わせの楽しさあり、冷静にみてメジャー誌全国紙の著名評論家よりよく書けたと感じるケースは正直増えた。でも例えば、ロジックもつ監督ゆえの斬り込み光る濱口竜介のインタビューとか素朴に感動、痺れる。https://www.asahi.com/articles/ASN645148N63UCVL01D.html




『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』
町外れにこんな屋敷があったら恐いよね、という幼少時のあらゆる想像を詰め込み具現化させた脱出ホラー。『ホステル』のイーライ・ロス製作で『クワイエット・プレイス』の脚本家2人が監督しただけあり、敢えてのB級チープ演出も細部まで作り込まれてる匠の技。

"Haunt" https://twitter.com/pherim/status/1270554376122142720 
 
『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』は今週末6/12公開。せっかくなので、↓はタイの映画館での経験談。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』鑑賞時に起きた出来事。映画館でポップコーン頬張りながらって、そういえばもうずいぶんしてないなり。 
 https://twitter.com/pherim/status/925903065131057152
 
イーライ・ロス『グリーン・インフェルノ』にまつわるツイ後日追記予定とおぼえ書き。
なんなら『グリーン・フロンティア』へ展開したいかも。

 『グリーン・インフェルノ』 https://twitter.com/pherim/status/652378203147796480



 
■6月13日公開作

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』

溌剌にして可憐。17歳でパリへ家出し、シャネルに命名されたある女性の一代記。花形モデルからゴダール映画のミューズへ、そして男社会の仏映画界からNYへ。4番目の夫である本作監督(米国人)の、ヌーヴェルヴァーグの熱烈傍観者ゆえの愛着目線へ滲む憐情。

"Anna Karina, souviens-toi" "Anna Karina, Remember" https://twitter.com/pherim/status/1271689436682530816



 
■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『ゴーストタウン・アンソロジー』
少しずつ何かがズレた、カナダ・ケベックの田舎町。新参の女性は、夜ごと不可解な気配に苛まれている。親しく懐かしき死者たちがある日から、生前の姿で白昼の雪原に黙して立ち始める。ただ切なくどこかユーモラスなその光景の孕む、ふしぎな温もりが心に沁み入る。

"Répertoire des villes disparues" "Ghost Town Anthology" https://twitter.com/pherim/status/1267303024394858496

この“類縁の死者がそこにいる感じ”のふつうさが良い。此岸彼岸を隔てる膜は浸透圧次第でいつどちらへも浸潤しだす理を、あちらへ取り込まれゆく住人の無感情ともいえない無表情で表現する。その時ゆらめく太古の息吹は、雪原ノワール傑作『ウインド・リバー』の妙趣へ通じる。

『ウインド・リバー』 https://twitter.com/pherim/status/1020660175810674693




■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)

“The End”
不思議なものを観た。走るスーツ男に始まる本作は、開幕十秒で“THE END”と終幕告げられ、いやタイトルかと気をとり直すも無映像の独白が数分続く。ビートニク詩人監督クリストファー・マクレーンによる6人の最期の一瞬めぐる画語りの、無意味化するほど高揚しゆく言い知れない魅力の奥行き。

"The End" https://twitter.com/pherim/status/1267075587966828544

“The End”の訥々としたナレーションの調子は“Paterson”を想わせるが、あのWilliam Carlos Williams詩のまったり多幸感が醸す充溢とは対極のささくれ立つ寒々しさが“The End”では全編を占め、核のキノコ雲映す終幕でこの終末的時代感覚の反映表現かと初めて納得された1953年作。

  『パターソン』 https://twitter.com/pherim/status/898840555362304000

あと、タイトルログ“The End”の終幕における2秒ほどの回収演出は、抜けがあって良いけど短かすぎてたぶんあまり気づかれない。(のでいずれ観るかもしれない誰かのため、ひっそり書きつけておく)
 

 
 

 余談。てかオマケ。

 短編作品“CURVE”。暗くした部屋でヘッドホン/イヤホンにて、10分作品なのでスマホとかも遠ざけどうぞ。

 “CURVE” https://vimeo.com/221821296
  
 緊迫感がすごい。崖落ちして岩に挟まった腕を切る実話ベースの『127時間』も想起させるけど、周到な準備のもと一発ネタを撮り切るスタンスが秀逸。リプ欄↓の考察群も良いので鑑賞後ぜひ。
https://twitter.com/pherim/status/1270653510497890304





おしまい。
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