pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
06月19日
23:52

ふぃるめも141 地球最後のモンスター

 
 

 今回は、6月19日~6月20日の日本上映開始作を中心に、トロマ・エンターテインメント作品など計11作を扱います。(含短編2作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第141弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
 
 
 
 
■6月19日公開作

『ペイン・アンド・グローリー』

原色きらめき情緒が塊となって押し寄せるアルモドバル節健在。自伝的湿り気をドライな構成で締める巧さと、アントニオ・バンデラスの枯れた風情が中毒性あり。隔てる扉と超越する粉の反復の果てに訪れる、ペネロペ・クルス扮する母めぐるラストの仕掛けは覚醒感さえ。

"Dolor y gloria" "Pain & Glory" https://twitter.com/pherim/status/1273461676575043584




『サンダーロード』
鮮烈な笑いと涙に全身を貫かれる開幕12分が、文字通り雷に打たれるよう。妻との離婚事案に愛娘との軋轢を抱え、母の死を受け止めきれない中年警官のほろ苦き格闘。会話の間(ま)が最高に面白く、1つの表情仕草の内に悲喜劇を共存させる高テンションで突貫し切る勢いまさに雷道。

"Thunder Road" https://twitter.com/pherim/status/1273154799899496448

『サンダーロード』、監督は主演するジム・カミングス。題名はブルース・スプリングスティーン“涙のサンダー・ロード”に由来。本長編作の冒頭部でもある短編“Thunder Road”の、参列者の戸惑いからピンクの壊れたラジカセまで全てが可笑しく切ない12分ワンカットご笑覧あれ。↓

“Thunder Road” (短編)
https://vimeo.com/174957219




■6月20日公開作

『はちどり』

14歳の少女が息する1994年韓国の日常を、このうえなく精緻に掬いあげる目線の柔らかさ。気づけば心の膜を透き通るように少女が胸中で生きはじめ、少女の瞳越しに関わる人物すべてを愛しだしている。終幕後、明け渡されたこの身から世界を見つめ直すこの心の温度が感覚される、静かな傑作。

"벌새" "House of Hummingbird" https://twitter.com/pherim/status/1273938550992433157




『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』
'60年代の“雪解け”後再来した抑圧下、ブロツキーなど国外で名成す詩人作家らと、時代の荒波へ消えゆく若者達へ挽歌捧げるアレクセイ・ゲルマンJr監督作。八方破れまくりな父君とは対照的な緻密さを、『イーダ』他の撮影監督ウカシュ・ジャルが際立たせる。

"Dovlatov" https://twitter.com/pherim/status/1272723826460094465




□Troma Entertainment 1 (2以降後続予定)

『悪魔の毒々モンスター』 “The Toxic Avenger”

いじめで産廃液に浸かった青年が醜く変身。けれど心は清く優しく、盲目の姫を見守りながら腐りきった街の悪党どもを一人残らず片づける。悲運の主人公が世を糺す、エンドゲームの半世紀前に答えは出てたっていうトロマ・エンタメ1984年作。邦題がもう天才。

"The Toxic Avenger" https://twitter.com/pherim/status/1266219938886283266

『悪魔の毒々モンスター』リメイク情報を検索すると面白い。まず知事退任後のシュワちゃん出演話、次に『ソーセージ・パーティー』のコンラッド・ヴァーノン監督就任話が踊り、どちらも頓挫した後オリジナルのロイド・カウフマン&マイケル・ハーツ両監督製作関与で進行中との由。

 『ソーセージ・パーティー』 https://twitter.com/pherim/status/826055610714058752




『トロメオ&ジュリエット』 “Tromeo & Juliet”
パンク版ロミ&ジュリというにも奇天烈すぎる、トロマ・エンタメ1996年作。主人公の可憐さとストーリーの支離滅裂ぶりが完璧なる水と油で、主演Jane Jensenは存在感あるけど他の出演履歴がほぼ皆無なのは惜しまれる。ディカプリオ版ロミジュリの前年公開に公開された、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン実質監督デビュー作(だけど当初クレジットなし)など色々奇特。

"Tromeo & Juliet" https://twitter.com/pherim/status/1290180719331782656




■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『地球最後の男』"The Last Man on Earth"

サバイバルおじさん話の古典名作。感染病により滅びゆく人類と、蘇った吸血人間達とのせめぎ合いを、タイトルも確認せずぼんやり観だしたら尻上がりにテンション高揚、珠玉の幕切れに呆然として原題を知り嗚呼ってなる。映像技術は進化すれど、この表現意思の強靭さは今日稀だなと。

"The Last Man on Earth" https://twitter.com/pherim/status/1269247622285414401

別邦題『アイ・アム・レジェンド』。ウィル・スミス主演リメイク作ほかに触れるなど後日追記予定。




■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)

“Persécution”

言動のやや奇怪なダメ男と、モテるのにダメ男からなぜか離れられないヒロインと、ダメ男をなぜかストーキングするおやじ。フランス映画って大阪でいうお好み焼きだし、シャルロット・ゲンズブールってやっぱすげぇと身も蓋もなく感じ入る。ベッドシーンの突き抜けて明るくエロい哄笑とか。

"Persécution" "Persecution" https://twitter.com/pherim/status/1264913427899666434

 
 
 
“Atlantiques” (短編, 2009)
沖合のカナリア諸島=EU圏への密航志す少年の体に歴史性を纏わせる、セネガル・ウォロフ語会話主体の短篇。監督は『35杯のラムショット』娘役のマティ・ディオプ。焚き火に温まり夢語る命懸けの少年たちから、彼らを弔う墓石へと無慈悲に転じる映像の狡知。
Mubi動画: https://mubi.com/it/films/atlantiques
"Atlantiques" https://twitter.com/pherim/status/1258961088827109377

  『35杯のラムショット』 https://twitter.com/pherim/status/941948192672817152




『アトランティックス』(2019)
セネガル首都ダカール郊外の海辺を舞台に、マティ・ディオプが自らの’09短編“Atlantiques”を長編劇映画化。植民地時代に続く、形を変えた支配と隷属。恋愛ベースながらアピチャッポンへ通じる史的亡霊回帰譚に西アフリカ的呪術性を加味する力技、音と光の直球感覚が良い。

"Atlantique" "Atlantics" https://twitter.com/pherim/status/1259701569387237376

『アトランティックス』はNetflix公開中(長編のほう)。本作のカンヌグランプリ獲得は、近年傾向から同年最高賞『パラサイト』より順当。短編“Atlantiques”の中盤、若い女性が静かに涙を落とす40秒ほどの場面がある。長編『アトランティックス』直接のルーツとみると、心象はさらに深まる。

 



 余談。

 短編“Atlantiques”は、ドキュメンタリー映画というよりコンテンポラリーアートの映像インスタレーションにおける90年代からゼロ年代にかけての潮流に巧く載るものという印象を受けたが、マティ・ディオプがパレ・ド・トーキョー出身とありなるほど納得。文化多元主義モードの行き詰まりからPC文脈もテコに欧州経由で映画監督へ転身を遂げた点でもアピチャッポンに通じ、一つの流れが生まれているのかも。

  『私は黒人』 https://twitter.com/pherim/status/912681242016940032
  『そして光ありき』 https://twitter.com/pherim/status/807852026688196609

   
 “アフリカ映画”をめぐってはいずれ一度まとめ言及する所存。





おしまい。
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