今回は、6月26日~6月27日の日本上映開始作を中心に、国内劇場未公開作など12作品を扱います。
英仏、アルジェリア、韓国の質実作から名作4Kレストア、ロシア・台湾・北朝鮮・北マケドニアのドキュメンタリーまで。(含短編2作・再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第142弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■6月26日公開作
『ワイルド・ローズ』
カントリーソングへの情熱抱え、グラスゴーに生まれたことを悔やむシングルマザー格闘の日々。持ち前のバイタリティが素行の悪さとなり、収監され社会的偏見と劣等感を背負う姿は今日的で、意外なきっかけからファイトバックが始まる筋立てに唸らされる。良作音楽映画の系譜を更新する一篇。
"Wild Rose" https://twitter.com/pherim/status/1274574308870774784
『ワイルド・ローズ』 6/26日本公開。
UKドラマ出身の監督トム・ハーパー、次作がフェリシティ・ジョーンズ&エディ・レッドメインの『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』('19)で、映画はまだ寡作ながら、奥行きと抜けある物語表現が今後の跳躍を予感させ楽しみ
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』 https://twitter.com/pherim/status/1214429593299349505
『SKIN/スキン』
全身タトゥがもたらす誇りと悔恨。
人種差別集団ネオナチの、血縁伴う生活共同体の側面を熟視してなお映される悪辣無法のリアリティは重い。そこからの離脱に要する悔改の深さと超人的な克己心を、長期に及ぶ全身皮膚の“痛み”を通して表現するユダヤ人監督ガイ・ナティーヴの巧緻。
"Skin" https://twitter.com/pherim/status/1272364043370553346
“Skin” ('18短編)
ガイ・ナティーヴ長編『SKIN/スキン』製作の足がかりとなった本作は、長編版とは全く異なる鋭さで差別意識の連鎖する様をえぐり出す。暴力と衝突の気配に満ち溢れた描写の根に、監督出身地イスラエルの緊迫を幽かに聴きとる。20分作、公開6/18 24:00迄。→
http://skin-2020.com
"Skin" https://twitter.com/pherim/status/1273255824593350656
唯一両作出演のダニエル・マクドナルド、このうろたえる瞳の演技、とても良い。後日追記予定。
『悪の偶像』
ひき逃げ犯の父と、被害者の父との対峙。秀作韓国ノワールの例に洩れず権力の腐敗、障害者差別など切り取られる社会背景が鮮烈。殊に延辺朝鮮族自治州出身者のハルビンへの劣等感が重いトーンを奏でる展開は印象的。名優ソル・ギョングとハン・ソッキュによる非対称対決は見応え十二分。
"우상" "Idol" https://twitter.com/pherim/status/1276076794127372288
『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』
ロシアって今もこうなん、とコーチが乱発する全人格否定の罵詈雑言に慄く。それらを淡々と聞き流し鍛錬を続ける新体操選手マルガリータ・マムーンや、互いに世界飛び回る水泳選手彼氏とのスカイプも印象的。五輪金獲得など栄光を寿ぐ演出を一切省く演出の割り切りが清々しい。
"Over the Limit" http://twitter.com/pherim/status/1246663507946246144
『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』は、6/26公開。怒号を浴びながら淡々とノルマをこなすマルガリータ・マムーンの姿には、“ロシア選手”の語が纏いがちな《国の誇り背負う者の孤独と栄光》というイメージを突き放す凄味あり。ザ・現実の渇いた手触り。
『ハニーランド 永遠の谷』
北マケドニアの渓谷で全盲の老母と暮らす、欧州最後の自然養蜂家ハティツェ。母娘の日々を脅かすトルコ移民一家の到来が象徴する消費文明の騒擾に差し向けられた、深く澄明な彼女の眼差し。その佇まいが放つ強靭な古代性、刻々と損なわれゆく世界の音なき叫びに戦慄する。
"Honeyland"
『ハニーランド 永遠の谷』中盤以降の展開は、演出介入なければ神懸かりすぎる構図と展開の連続。真偽を疑う向きがあるのもうなずけるほどだけれど、いずれにせよ極上の映像的豊穣。いかにもサニー・フィルムが配給しそうな作品でもあり。
→https://twitter.com/kohsukearita/status/12731875873859952...
■6月27日公開作
『さらばわが愛、北朝鮮』
朝鮮半島の南北分断が確定した直後の1952年、全ソ国立映画学校へ留学した8人の青年。金日成批判に転じて帰国の途を失い、残りの生涯をソヴィエトで生きた彼らに焦点を当てた本作の、異郷の孤独と信念による結束をめぐるミニマルに研ぎ澄まされた構成の透明度に息を呑む。
"굿바이 마이 러브NK: 붉은 청춘" "Goodbye My Love, North Korea" https://twitter.com/pherim/status/1269838576851709952
『ようこそ、革命シネマへ』の主人公、スーダンのおじいさん4人組の1人もまた青年期に全ソ国立映画学校(VGIK, 現全ロシア映画大学)へ留学している。在学期が重なっているか否か未詳ながら、似たケースは多くあったのだろうと想像するだけでも胸熱だし、個の生も現実に残る作品も本当に些細な運命の歯車次第だよなとあらためて。
『ようこそ、革命シネマへ』 https://twitter.com/pherim/status/1245813308101259269
『ようこそ、革命シネマへ』のスーダン翁にも全ソ国立映画学校留学組が1人。『さらばわが愛、北朝鮮』の青年らと在学期が重なるか微妙だが、多くあったろう類似の出逢いを想像するだけでも胸熱だし、個の生も現実に残る作品も本当に些細な運命の歯車次第だよな、とあらためて。
https://twitter.com/pherim/status/1245813308101259269
『ポネット』 4K レストア版
母との再会を信じて疑わない、少女ポネット祈りの日々。
その痛切を、自らも妻の夭折を受け入れられない父の若さが輪郭づける。子役演技に驚かされる名作は数あれど、横綱の座を四半世紀守り続ける本作の閾。肌感覚を透過してインナーチャイルドまで震わせるこの4Kレストア、麗しう。
"Ponette" https://twitter.com/pherim/status/1276440214957785088
『あなたの顔』"你的臉"
蔡明亮/ツァイ・ミンリャン監督新作の主役は「顔」だ。セリフなしに映され続ける「顔」は、属性や個性が切り離された「物」と化す。この複雑な表面をもつ「物」がふと動き、語り始める。瞬時に「顔」が蘇る。密やかだが不可欠のバイプレイヤーとして、坂本龍一の音が寄り添う。
"你的臉" "Your Face" https://twitter.com/pherim/status/1275261955637301249
昨秋初見時ツイ https://twitter.com/pherim/status/1068397996054765568
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
“La tendresse”
どういうことだろう。フレンチアルプスの雪渓を滑走中に転倒した青年が、親友とともに担ぎ込まれた病院へ良い感じの彼女が訪れるが何も起こらず、離婚した両親は息子の見舞いをきっかけに通じ合わせるが何も起こらない。クライマックスもカタルシスも一切ないまま終わるこの心地よさがたまらなく愛おしい。
"La Tendresse" "Tenderness"
※MARION HÄNSEL監督作。
“The Repentant”(التائب)
アルジェリアの雪降る荒地を疾駆するターバン兵。過激派組織から脱走した主人公の”悔改”を主題とする本作の底に響き続ける、信仰を騙りつつ身代金誘拐や見せしめ殺戮へ堕す愚行を除き難い社会への烈しき懐疑に戦慄する。アルジェの錬熟監督Merzak Allouache長編第16作。(’12)
"التائب"(El Taaib) "Le repenti" "The Repentant" https://twitter.com/pherim/status/1263398349731885058
ちなみにヴィゴ・モーテンセン主演+カミュ原作『涙するまで、生きる』は、“The Repentant”同様にアトラス山脈(アルジェリア北中部)舞台の秀作。アルベール・カミュといえば『ペスト』のコロナ禍読書ブーム牽引も記憶に新しいけれど、そも彼本人がアルジェリア出身なのでした。
『涙するまで、生きる』 https://twitter.com/pherim/status/635809185339301889
雪被るアルジェリア大地の絶景とは別に、“The Repentant”と『涙するまで、生きる』では“己の罪を自覚し逃亡する”ムスリム青年の姿が共通する。後者でこれ演じるレダ・カテブは、寡黙で孤高の佇まいもつ役柄を十八番としていて、ヴェンダース『世界の涯ての鼓動』でも主役喰う存在感。
『世界の涯ての鼓動』: https://twitter.com/pherim/status/1154990468775567361
『アルジェの戦い』。アルジェリア秀作映画の流れで言及もう一つ。本作のヴェネツィア映画祭グランプリ受賞時、フランソワ・トリュフォーを除くフランス代表団全員が退席したという逸話には、今日なお様々に示唆されるものがありますね。
『アルジェの戦い』 https://twitter.com/pherim/status/784158915780980736
“The Remembered Film”
森の中を、独ソ戦下のソ連兵とドイツ国防軍兵士、ユーゴ紛争を戦うコソボ兵士やイラクへ攻め込むアメリカ兵らが彷徨い、語る。それなりに出来の良い各時代各国軍装が小ざっぱりしており、兵士の顔が皆ツルッとした現代人顔な浮遊感。ロケ地のベネルクス森林(多分)は眼に優しい。
"The Remembered Film" https://twitter.com/pherim/status/1249258159190900736
“The Remembered Film”はベルギーの若手監督Isabelle Tollenaere’18年作。彼女の新作“Victoria”が今年ベルリン国際映画祭カリガリ賞獲得。(同賞は原一男『ゆきゆきて、神軍』,園子温『愛のむきだし』など受賞) かの広大な近世植民の地の来し方と今に想い駆られる予告編ですね。
→https://twitter.com/pherim/status/1253521431452741632
余談。
“The Remembered Film”ツイートにて引用RTしたサニー・フィルムの有田浩介さんからリプが。実は彼、ぼくが原稿仕事をするようになってから最初にできた業界内の友人でもあり。個人で映画配給を行う若手のなかでもその質と幅で抜きんでた実績を重ね、様々な分野から注目を浴びてもいます。
上記6/26公開作『ハニーランド 永遠の谷』の項で触れた「サニー・フィルム」がまさに有田さんの個人配給会社。映画の公式サイトにはよく著名人やメディア人の推薦コメントが載りますが、地味にぼくの公式コメントデビューも彼の配給作品でした。日本の映画配給に関する問題意識は強く、活動も幅広い今後大期待の存在。というわけで、おまけの記事紹介。↓
有田浩介さんインタビュー:https://neutmagazine.com/interview-kohsuke-arita
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh