今回は、7月3日~7月4日の日本上映開始作と、EUフィルムデーズ2020配信作を中心に11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第143弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■日本公開中作品
『スウィング・キッズ』
朝鮮戦争下の捕虜収容所で結成されたダンスチーム。白人兵に蔑まれる黒人上官、満州出身の小柄女性、肥満パワフル中華兵などチーム構成が完璧かつ、「ないわこれ」というほど胸揺さぶられる終盤展開。『パラサイト』以上に現代韓国映画の底力を思い知らされる。マジでっていう。
"스윙키즈" "Swing Kids" https://twitter.com/pherim/status/1278886016992997378
■7月3日公開作
『カセットテープ・ダイアリーズ』
英国の田舎町に暮らすパキスタン移民2世の高校生がスプリングスティーンに触れ、恋に人生に覚醒しゆく。80'sサッチャー政権下の大量解雇や、移民排斥の風潮を背景とする抑圧的な父との関係変化など、一周回って獲得された今日性ある描写のみずみずしい青春音楽映画。
"Blinded by the Light" https://twitter.com/pherim/status/1278160999036579840
『カセットテープ・ダイアリーズ』きのう公開。
グリンダ・チャーダ監督よりリプ拝受↓。お名前末尾、大英帝国勲章を受けていたのですね。他作に『ベッカムに恋して』や『英国総督 最後の家』のある彼女、両親インド系でケニア生まれのルーツを含め感慨深いものがあります。
↓(という端言に非力な権威主義的欲望の露出を垣間見るわたくし、など敢えて言及する面倒なやつ)
“How COOL @BBTLmovie is opening in theatres in Japan! Would have loved to visit the land of my ‘sorreh’ (in-laws). Next time. @springsteen”
→https://twitter.com/GurinderC/status/1278506121607684096
Konishiwa! Thank you Japan x
→https://twitter.com/GurinderC/status/1279347896635265024
小錦と X JAPAN が並んで大団円を迎える姿が想い描かれた夜。
『MOTHER マザー』
長澤まさみ圧巻の体当たり演技。17歳の息子へ金目的での祖父母殺害教唆を図った母親めぐる実話ベースの衝撃作。殺人を犯した少年にとって、男を誑かし続ける母とは何だったか。その単純でなさを捉える監督大森立嗣の渇いた視線を、児相職員演じる夏帆の終始揺れる潤んだ瞳が際立たせる。
"MOTHER" https://twitter.com/pherim/status/1276712524604297216
長澤まさみと夏帆は『MOTHER マザー』の役柄上つねに厳しい対峙を見せるけれど、終盤のあるシーンでふと『海街diary』姉妹役で見せた愛情深いつながりが蘇ったかのように感じられた。表現されるものの下地に、時をかけ培われた演者同士の信頼感が束の間露出したようでもあり、極めて濃密な一瞬だった。
■7月4日公開作
『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング~』
性をめぐる抑圧の深淵が、鮮烈な白光に曝されむくりと姿を現す映像の静けさに震撼する。“少数者”や“障碍者”等の言分けが解体されるその場所で、扇情を避けた語りが最後に伐り出すのは本作を座視する私のリアルであるという構成の、鋭き凄味。
"Touch Me Not" https://twitter.com/pherim/status/1268821882507128834
主にLGBTsドキュメンタリー映画の文脈でPRされている本作、実は語りの手法が極めて特異な作品でもあり。そのベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)獲得は様々に考えさせられ、このキツい風潮下で一層観た甲斐覚える一篇。
■EUフィルムデーズ2020 ① (コロナ禍によるオンライン開催, ②③ふぃるめも次回+次々回にて)
https://eufilmdays.jp/
『ファイナル・カット』
ハンガリー発、450本に及ぶ名作の名シーンから編み上がる珠玉の一篇。ハリウッド名画の奏でる基調を欧州作が彩り、監督出身の旧共産圏や日香印の名作群が転調させる光の万華鏡。映りゆく変幻に、魂が抜けたように浸りきり気づけば84分が過ぎ終幕へ。この病み憑き感、良い。
"Final Cut: Hölgyeim és uraim" "Final Cut: Ladies & Gentlemen" https://twitter.com/pherim/status/1275014930618445824
『ファイナル・カット』は、6月25日まで無料公開中@ EUフィルムデーズ2020。
→https://aoyama-theater.jp/p/15474 ちな製作陣にタル・ベーラ。
タル・ベーラ監督作『サタンタンゴ』 https://twitter.com/pherim/status/1174162136920023042
さてコロナ禍オンライン開催の本EU企画、例年京橋へ出かけても満員/長蛇列の記憶が先立ち、観たい作品がきちんと観られる趣向地味に嬉しす。以下、上映他作ツイ予定。
youtubeにも公式っぽい良画質の全篇掲載が。(↑)
『ANIARA アニアーラ』
火星への移住船が事故で動力を失い、乗客がセラピーAIに救いを求め、果ては宗教化していくスウェーデン宇宙SF。地球は放射能まみれでもう住めず、火星にも着けない巨大船内を覆う孤立感描写は来るものあり、幕切れのスケールがもたらすゾクゾク感好き。ハリウッドにない
欧州SFの良さ充満。
"Aniara" https://twitter.com/pherim/status/1277438205059428353
「欧州SFの良さ」一例として。↓
『スターシップ 9』 https://twitter.com/pherim/status/890373779053989888
『ヴァトレニ ~クロアチアの炎~』
'98年W杯を席巻したクロアチア代表“Vatreni”の躍進。戦場か試合かの選択を味わったユーゴスラビア紛争直撃世代が、大国ドイツを破りジダン&アンリのフランス代表と対峙する胸熱展開に感涙やむなし。現代人の精神に深く根差す「ナショナル」が沸騰する光景の圧巻。
"Vatreni" "Vatreni: A Flame Has Been Thrown" https://twitter.com/pherim/status/1275352612724805633
『ヴァトレニ ~クロアチアの炎~』のクライマックスは'98年W杯で、日本との対戦もありましたね。当然、日本代表チームも「伏兵的な強敵」として登場します。カズと北澤の代表洩れで激震が走り、中田英寿が勇躍するも彼らヴァトレニが日本の予選突破を阻んだ、あの試合を相手視点からみる新鮮さ。ヴァトレニ良記事リンク
→https://soccermagazine.jp/_ct/17340142
『父から息子へ ~戦火の国より~』
父子愛が、ジハード戦士への道に少年を駆り立てる。シリア人監督の潜入取材が映しだすリアルの悪夢性。ヌスラ戦線下でアルカイダへ忠誠誓う父が、子を愛し客を丁重にもてなす誇り高き人物だからこそ、愛された記憶抱える少年兵が雄壮に育ちあがる光景は突き刺さる。
"Kinder des Kalifats" "Of Fathers and Sons" https://twitter.com/pherim/status/1287239401630846976
『父から息子へ ~戦火の国より~』は、同じシリアの今日を描く近作中でも群を抜く傑作ドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』と、多くの点で対称をなす作品。この「息子」と「娘」“たち”の未来を想わずにいられない。
『娘は戦場で生まれた』 https://twitter.com/pherim/status/1231801801977950208
『ケースのためにできること』
自閉症の息子と、人生を息子へ捧げると決心した両親の終活物語。両親死後の息子の生存手段が次第に懸案化する光景は、様々に福祉制度の進んだオランダでさえこれかという深刻さを見せ、社会的包摂の困難を考えさせられる。息子の日本語能力は驚愕もので、終幕が衝撃的。
"Het beste voor Kees" "Only the best for our son" https://twitter.com/pherim/status/1279973327096803328
『猿』(’18ブルガリア)
父が昏睡状態となった異母姉妹と、女装趣味を隠す教師が不意にもつれ合う。全編のアンニュイ調が心地良く、ドタバタの騒擾感は不思議にないまま紆余曲折を経て漕ぎつける終幕の、仄かな解放が良い。現実感を宙吊りにする仕掛けが多いなか、一層引き立つ12歳マヤの快活さが素敵切ない。
"Маймуна" "Monkey" https://twitter.com/pherim/status/1281950376934006784
『ルーザーとしての私の最後の年』
スロヴェニア発の高学歴ワープア女性残酷物語。鬱屈として一見冗長な日常の端々に、世代間格差や充実の制度保障が逆に足枷となるEU的今日性などふとした台詞へ紛れ込ませた脚本研磨の痕跡が窺えるだけに、院生バイト感醸す字幕騒動
https://eufilmdays.jp/news/ も趣深い。
"Ne Bom Vec Luzerka" "My Last Year as a Loser" https://twitter.com/pherim/status/1277966222609412098
余談。
今世紀欧州からの小津安二郎『大学は出たけれど』応答作と、『ルーザーとしての私の最後の年』を観つつ感じる。ふと印側チベット圏への入口となるマナリの町で仲良くなった、地理学博士持ちのオートリクシャ(三輪taxi)の運転手の声を思い出す。世の人安からず憂へ合へるげに。
→https://twitter.com/pherim/status/1269589737007796240
字幕事件については、商業ベースでなく文化事業ベースになると、制約や緩さから翻訳通訳周りの事故はそもそもありがち。だけれどなるほど、オンライン時代にはこうなるかと。藝大にいたクロアチアからの国費留学生の記憶が「院生バイト感」の源。ベネチアの娘↓はその妹。
https://twitter.com/pherim/status/1267598894726148102
おしまい。
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