今回は4月24日~5月16日の日本上映開始作(新作オンライン配信)を中心に、国内未公開作など計14作品を扱います。(含再掲5作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第138弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■4月24日公開作@アップリンク・クラウド https://uplink-co.square.site/
『ホドロフスキーのサイコマジック』
相談者の睾丸にぎり「ここが生気の源だ!」と咆哮するアレハンドロ翁固有の行動療法ドキュメンタリーにして、過去作群の演出解説でもある一粒で二度おいしい作品。その突飛な表現や言動の逐一を貫く、世界と対峙した独自の論理大系が放つ孤高の煌めきに圧倒される。
"Psychomagie, un art pour guérir" https://twitter.com/pherim/status/1257877423237902337
■5月2日公開作@仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/
《仮設の映画館》 きょうから上映本格化。作品別に、ゆるりと以下ツリー投稿します。この春に始まった他の新たな映画配信と異なるのは、劇場と配給+製作とで売上が折半される点と、恒久設置を意図しない「仮設」性。わが家に天幕上映がやってきた、みたいな心地で。ぜひ。
『精神0』
想田和弘“観察映画”第9弾、舞台は『精神』(’08)と同じ岡山の精神科診療所。患者の独白が逐一衝撃だった前作と、誰にも全人格応対する山本医師82歳の膂力示す本作とを、山本医師突如の引退に揺れる古参患者達の風貌が架橋する。激変した夫人の佇まいに、不可逆の時間経過と情緒の深遠をみる。
"Zero" https://twitter.com/pherim/status/1254614367263326209
まずは『精神0』。想田和弘監督 @KazuhiroSoda には以前お話を伺いました。
「観察映画における瞑想性をめぐって」: http://kirishin.com/2018/04/30/13609/
「観察」の語りだすとき: https://twitter.com/pherim/status/1004912795480031232
細部を積み重ねていく、とはその折に出たお言葉。型通りの外面だけで人間を語る向きとは対極の質実さが『精神0』には具わっています。
『タレンタイム~優しい歌』
真の傑作。マレーシアの多民族多文化模様が、ありえないほど精緻な技巧により一筋の物語へと練り上げられたヤスミン・アフマド渾身の遺作。マレー系優遇社会での華僑印僑の屈折、死者への悔恨、少数者の葛藤、描かれる赦しと愛の全てが混淆し共鳴し合い舞台上で昇華する。
"Talentime" https://twitter.com/pherim/status/1256826169493581826
観た人の多くが生涯ベストに挙げるほどながら、ヤスミン監督夭折後の権利関係から未配信/未ソフト化の伝説的傑作。未見のかたはこの稀少機会にぜひ(懇願級)
RT先等にて本編中に精霊&天使の臨在をみる流れ→
https://note.com/pherim/n/n5abe0e209b0e
『どこへ出しても恥かしい人』
フォークシンガー友川カズキの日常。生活費を競輪の大穴に賭け、別居中の息子らとの接点も競輪というロクデナシ男が、ライヴに立つと豹変する鮮やかさ。ヴィンセント・ムーン映画で見せた本物感が気になってたけど「生まれた時から途方に暮れてる」と微笑む素敵なダメ加減、痺れる。
https://twitter.com/pherim/status/1224246121683271685
『グリーン・ライ ~エコの嘘~』
多国籍企業が唱える“環境に優しい”の連呼=《グリーン・ウォッシュ》の実態に迫る。論理と検証で攻めるいかにもドイツ製ドキュメンタリーな出来映え。東南アジアでLCC乗ってると、下界が見渡すかぎりパーム林なんてことはありがちで説得力感じざるを得ず。リアルの残酷。
"Die grüne Lüge" "The Green Lie" https://twitter.com/pherim/status/1258223771338473472
本筋とは別にノーム・チョムスキー翁が印象的。マイケル・ムーア作や9.11物など彼の映像登場時って鋭い舌鋒で角立てる役回りが多いけれど、錯乱した現実へ肉薄する本作ではむしろ抑制的に、個人にできることを切々と説いてます。
『巡礼の約束』
ラサへの五体投地巡礼を決心する妻、とまどう夫、わだかまる息子。傑作『草原の河』から3年、さらに物語的厚み増すソンタルジャ新作は、遺灰を混ぜた携帯仏ツァツァや灯明の花など小道具の逐一までが味わい深い。終盤で旅に加わる母なしロバの、全て持っていきかねない名演がまた妙趣。
"阿拉姜色" "Ala Changso" https://twitter.com/pherim/status/1225250426045419520
ソンタルジャ監督+主演ヨンジョンジャさん(チベットの代表的歌手)にインタビューしました。
「巡礼の約束、チベットの気脈」:http://www.kirishin.com/2020/02/10/40878/
ギャロン地方文化と仏教世界観に加え、中国当局の検閲、近年のチベット映画概観なども。
■5月8日公開作@仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/
『島にて』
山形の離島、飛島の暮らしを撮るドキュメンタリー。過疎高齢化のもと、若い移住者や“戻って来るな”と教育されたが戻ってきた若者らの纏うしなやかな空気感が清々しい。失われゆく伝統、なお息づく風習、明日への眼差し。積み重なる時の厚みを解きほぐす手つきの一つ一つが細やかな質実作。
"" https://twitter.com/pherim/status/1255755417159778304
■5月12日公開作@仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/
『タゴール・ソングス』
極私的に大好きだけれど偉大すぎる存在だった詩聖タゴールを、ダッカの若者がラップへ取り入れる光景の自然さにときめく。タゴールの足跡を追ってコルカタの女子大生が日本へ旅する展開とか胸熱。ベンガルは詩の大地だと感じた学生時の放浪体験を素敵にアップデートしてくれた。
"Tagore Songs" https://twitter.com/pherim/status/1247356672273575937
試写メモ79『タゴール・ソングス』:近日更新予定
■5月16日公開作@仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/
『プリズン・サークル』
日本の刑務所におけるTC(Therapeutic Community=回復共同体)の試み。更生へ向けたその有効性が端的に描かれ、若い民間職員らの熱意が胸を打つ。また撮影へ至る困難が映像の端々から窺われ、受刑者の来し方に迫る砂絵アニメは絶妙、全面導入には遠い現状も指摘される良構成。
"Prison Circle" https://twitter.com/pherim/status/1220179353645936640
『プリズン・サークル』坂上香監督@KaoriSakagamiにインタビューしています。(with @numatakazuya)
「“沈黙と否認の文化”に一石」https://twitter.com/pherim/status/1226504732102889474
刑務所と日本社会、悔改と懲罰、プライバシーと取材の困難。死刑囚表現展、
『少女は夜明けに夢を見る』を巡ってなど。
また下記は、作品本体をめぐる拙記事。媒体Web非掲載のためネット公開初出です。
「回復共同体、という物語。」 https://tokinoma.pne.jp/diary/3647
■日本過去公開作(含映画祭上映作)
『ユマニテ』
他人の傷みをわがものとする神経繊細な警部補は、少女強姦殺人事件に為す術なく、想い寄せる女性には翻弄され。現場の灰空と野原、フランドル片田舎の不穏さ映す味わいは、大陸対極岸の傑作
『殺人の追憶』を想わせる。デュシャン《遺作》借用の無闇さが凄い。ブリュノ・デュモン’99年作。
"L'humanité" https://twitter.com/pherim/status/1246185856290795520
ブリュノ・デュモン監督他作として↓。後日追記予定。
『ハデウェイヒ』:https://twitter.com/pherim/status/761714789626224640
■日本国内劇場公開未定作(含VOD公開/DVDスルー作)
“Auf Einmal” (All of a Sudden)
ホームパーティで一夜の契りを結んだ女が発作に襲われ、焦った男の判断ミスから死亡。親族や職場、警察から一斉に嫌疑の視線を浴びる男が、寡黙に形勢逆転を図りだす。ドイツ住宅街の醸す不穏な夜の冷たさが世界のリアルを暗示する、トルコ出身監督Asli Özge’16年作。
"All of a Sudden" "Auf Einmal" "Ansızın" https://twitter.com/pherim/status/1252794143153156104
“Я не вернусь”“I Won’t Come Back”
ロシアからカザフタンをめざす、傷心女性とホームレス少女のバディ物ロードムービー。冤罪で警察に追われる英文学講師は、偽装入所した児童施設で少女と出会い逃亡の旅路へ。途上で少女の語る民話が主人公の歩みを暗示し、成長でなく降下へ安寧を見出しゆく物語にしみじみと共感。
"Я не вернусь" "I Won’t Come Back" https://twitter.com/pherim/status/1252435075779575808
エストニア人監督Ilmar Raagによる2014年作。
正直めっちゃ好き。
“Three Quarters”
ブルガリア映画。ピアノ海外修行を志す姉、腕白盛りの弟、宇宙物理学者の父、不在の母。即ち3/4の家族が奏でるリズムの調律に苦心する姉と、姉の旅立ちを拒む弟のじゃれ合いが和めて切ない。ほのぼの日常描写の全てが、父が民謡をふと歌いだす終盤に突如神話化して見える構成の秀逸。
"Three Quarters" https://twitter.com/pherim/status/1249891669786279936
『喜喪』“Last Laugh”
大陸農村部に多くいそうな愛らしいお婆ちゃんが、子供らの家庭をたらい回しにされるたび小さな波乱が起きていく。小津『東京物語』への懸想半端なく、不意に笑う神経障害に罹る後半はジョーカー老婆版から楢山節考への地獄展開。道教への信心深い所作が逐一丁寧。張涛’15作。
"喜喪" "Last Laugh" "Laughing to Die" "Le rire de Madame Lin" https://twitter.com/pherim/status/1247782298793082888
余談。GW明けたら緊急事態宣言延長で、5月公開予定だった新作群と、6月公開予定作試写の延期&再延期のお知らせメールラッシュな月曜昼なう。文面は丁寧なビジネスライクだけれども、行間から聴こえるのは阿鼻叫喚地獄だよ。日本が貧すれば鈍するの国へゆるりと堕ちゆくことはもちろん覚悟していたけれど、このさきの急降下を意味するこれら断末魔はシュールだな。
などあれです。バンコク宅撤収し、最低1年は映画に特化した日常送ってみようなど目論んでいたあちきはほんのり世を儚みつつ、はんなり茶をすすってみたりするのです。茶々っといくよ。いっちゃうから。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
05月11日
19:15
1: apriori
『島にて』が見たいけど、海外なので見れない・・・
妻の実家の近くの島なんですよ。
義弟が釣りにいってマグロゲットしたり、豊かな海です。
05月12日
01:49
2: pherim㌠
やはり地域縛りかけてるんですね。正直本作単体の時限的有料公開は誰の利益も損なわず、権利上の問題も現実的には生じにくいように思うのですが、恐らく踏み切るメリットも少ないという判断なのでしょう。
なるほど沖合の孤島だとマグロも釣れちゃうんですねぇ。日本海の幸よすなぁ。
05月12日
03:47
3: apriori
公式HPに海外からはダメ、ってあったんで。
VPN刺すってのもできるんですけど、こういうところの指示には従いたいなぁ、と。
まぁ義弟が釣り具メーカーのリアル釣りキチなんで、なんでも釣るんですよね
現在アメリカ在住で、ロックダウン中のアメリカで釣り具バカ売れらしいです。
釣りと狩りのための外出はOKらしいので。