今回は、10月23日~24日の日本上映開始作を中心に15作品を扱います。(含短篇8作/再掲1作)
河瀨直美新作、ナチス関連新作2篇、泥酔系ノワール、黒沢清&今泉力哉&ジョナサン・グレイザー短篇など。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第157弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■10月23日公開作
『キーパー ある兵士の奇跡』
捕虜となった元ナチス兵士が、収容所内の賭けPKを機縁に戦後マンチェスター・シティの伝説的守護神となりゆく実録物。
戦場、ダンス、サッカーなどアクション場面も秀逸ながら、各人が《家族友人を殺した憎きドイツ人》への葛藤を超えて赦し、仲間へ迎え入れる描写の瑞々しさが染みる。
"Trautmann" "The Keeper" https://twitter.com/pherim/status/1315483025543577602
『朝が来る』
河瀨直美新作は、子を育てられない母たちと、子を産めない夫妻との交接を描く。
特別養子縁組というテーマ設定、『あん』『光』に続く社会的少数者への焦点化が活きまくる、これぞ映画という物語へ惹き込む力に圧倒された。井浦新、蒔田彩珠の熱演光るも殊に永作博美、神懸かり的。
"True Mothers" https://twitter.com/pherim/status/1316578113199828992
とにかく濃密な感情表現の連続。とりわけ光に託された情感の奥行きは河瀨直美映画ならでは。各場面から連想される過去作多々あれど、鑑賞中もっともちらついたのはなぜか宇多田ヒカル『桜流し』MV(河瀨撮影)初見時に受けた衝撃の記憶。たぶん言外の密度がものすごい感じ、そこに込められた母的なものとか。(あのMV全編、いまネット上にないんですね。)
『光』 https://twitter.com/pherim/status/868026548279844864
『あん』 https://twitter.com/pherim/status/636537320078905344
※『あん』のツイートは5年前のものだが、雑で驚く。マゾゆえ逆に曝したくなる類いの。この水準の傑作ではもう絶対にしないレベルの手抜き感に溢れるが、同時に今より一ツイートにかける時間が長かったことも思い出される。にもかかわらず末尾に「傑作。」と書くことで、己の不明を補わんとする浅ましさとか。
『ストレイ・ドッグ』
ニコール・キッドマンが、人生に疲れきった刑事演じる泥酔系ノワール。
若き日の潜入捜査と現在とが同時並行する筋立てや、音と視線の風変わりな強調が孕む独特テンポに中毒性あり。クライム・ノワール物名手の評高い日系監督カリン・クサマ、すべてが収束しゆく一瞬の光には神々しさすら。
"Destroyer" https://twitter.com/pherim/status/1316215814207365121
『おもかげ』 “Madre”
幼い息子が失踪したフランス西部の浜辺へ移り住んだスペイン人の母親に訪れる、ある少年との十年後の出逢いと再生。
失踪直前の6歳児からかかる電話に対し、遠くにいて何もできない母の恐怖描く冒頭部の緊迫と、中盤以降の意外な心模様への展開とのコントラストは切なく眩しい。
"Madre" https://twitter.com/pherim/status/1291939654501986306
『ヒトラーに盗られたうさぎ』
ピンクの兎は、ベルリンに残した愛すべきものたちの象徴として、ユダヤ少女アンナの心に生き始める。
スイスからパリへ。反ナチ姿勢を鮮明にした演劇批評家とその家族の逃避生活を描く本作、ドイツ語圏の地方文化やナチス政権誕生前夜の人間模様など質実表現に見入る。
"Als Hitler das rosa Kaninchen stahl" "When Hitler Stole Pink Rabbit" https://twitter.com/pherim/status/1315846162616782848
『ヒトラーに盗られたうさぎ』、幼きクロエ・モレッツを想わせるハニカミ笑顔のRiva Krymalowski、演技素人らしいが今後も観てみたい。
“なぜユダヤ人がクリスマス祝うの?”
“クリスマスはドイツの文化だ”
オリヴァー・マスッチ演じる父のこの応答は、文化表現めぐる本作の誠実さがよく露出する場面。
その父役オリヴァー・マスッチは『帰ってきたヒトラー』主演以降『DARK』ほか渋面スター街道驀進なう。直近『ある画家の数奇な運命』でのヨーゼフ・ボイス役の怪演も良かったけど、本作での気骨ある演劇批評家役は、演劇人でもある彼自身の反骨精神が投影されてか硬質の芯ある仕上がり。
『帰ってきたヒトラー』https://twitter.com/pherim/status/742609905341718528
『ある画家の数奇な運命』https://twitter.com/pherim/status/1311497317195759616
ドイツ製NETFLIXドラマ『DARK』、物語の面白さ半端なく、ハリウッドかというほど手のかかった映像も見応えあった。というかドラマも過去作映画も実は結構観ているけど、そこまでツイートの余力が及ばない、という感じも今年は崩れてきたのでその端緒に。時間からくり物ほんと好き。
■10月24日公開作
『アリ地獄天国』
ブラック企業の内実にのけぞる。青年が闘うアリさんマークの引越社の内幕は差別ヘイト違法圧迫なんでもござれで、労働基準法違反が霞むほど。
本社前での抗議活動を、上階から見下ろす社員達が差し向けるスマホレンズの醸すひんやりとした無言の圧に、“地獄”の正体の尾を見た心地。
"An Ant Strikes Back)" https://twitter.com/pherim/status/1318022945990602752
■日本公開中/公開終了作品
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
変わりゆく光景を、歴史もつ丘上の家が見つめる。
白人富裕層の街への変貌が呼ぶ、古い黒人コミュニティの崩壊。その下に横たわる、日系人収容の残滓。『ムーンライト』を継ぐ、リアリスティックでありながら寓話的な映像の肌合いに惹き込まれる。
"The Last Black Man in San Francisco" https://twitter.com/pherim/status/1319121235809202177
※余力あるとき『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』との関連で追記したく。
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』
https://twitter.com/pherim/status/1073117521572581377
■国内過去公開作品
『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』
黒沢清短篇2013年作。三田真央の足技光る湾岸カンフーアクション。懸想するラスボス柄本佑の殴られっぷり素敵。
同じ横浜舞台で同年に頓挫した、トニー・レオン&前田敦子&松田翔太出演予定の同監督作『一九〇五』の、そこはかとなく漂う気配。
"Beautiful New Bay Area Project"
■ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 今泉力哉短篇オンライン配信(10/18-25)
https://www.shortshorts.org/2020/autumn/topics/news/ja/10...
『TUESDAYGIRL』
今泉力哉短篇2011年作。河川敷の緩い関係性と、淡々とした若者生活に訪れる転機を描く44分。
予想外の展開重ねテンションを切らさず閉じる巧さは、他短篇も全て観たいと思わせる。「別れたい」が通奏低音にも感じられ。高木珠里の狂笑と、無音の仁王立ちラストによるW締め強烈。
"" https://twitter.com/pherim/status/1319272881314918401
『堀切さん、風邪をひく』
今泉力哉短篇。見知らぬ姉妹から意味不明の告白を受けた男ニ人の混乱を描く17分作品。2011/3/12撮影との由。
頭のなかは大混乱しつつも直立不動な男ニ人のうろたえ演技楽しす。荒削り感が瑞々しく、「絶対モテナイ」を内面化し切ったような喋りの間(ま)がホント可笑しい。
"" https://twitter.com/pherim/status/1319555548862279680
『微温(ぬるま)』
互いに二股かけるカップルの双方宅で繰り広げられる、半径2mの恋愛群像短篇、今泉力哉2007年作。
クズっぷりに無自覚な愛され男が騒動の果てに、一切成長しない物語性の無さが良い。アゴごついのに飄々とした芹澤興人の初期出演作としても楽しい。息のながい名優路線期待しとう。
"" https://twitter.com/pherim/status/1320185988992303104
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
“Szél” (Wind)
3人の農婦が立っている。みな左を向き、風に吹かれ佇んでいる。
カメラは右方向へパンし始め、ハンガリーの田園風景を映しだす。映像がぐるりと360°回り終えると、彼女たちは踵を返し、各々の生活へ帰りゆく。日常を司る内面規律の凶暴なる素顔を炙りだす、恐るべき着想に戦慄する。
"Szél" "Wind"
“The Fall”
金箔能面の男が樹上へ追い詰められ、振り落とされ、井戸の底へ放逐される。
集団ヒステリーの暴力と匿名性。穴の底へ差し込む月夜の青を鈍く照り返す能面の金色が、降り注ぐ不条理に引き裂かれゆく個の苦悶を鋭利に象る。怪作“アンダー・ザ・スキン”のジョナサン・グレイザー短篇2019年作。
"The Fall" https://twitter.com/pherim/status/1317371837643280385
“Under the Skin”:https://twitter.com/pherim/status/464743516833198080
“Strasbourg 1518”
踊り念仏の今日態。
それに伝染した者は、息途絶えるまで踊り続ける。ダンス熱、ダンシング・ペストとも呼ばれ史上幾度も記録されたうち、最大の被害を出した1518年ストラスブール事件を着想源とするジョナサン・グレイザーのコロナ禍応答作。
解放する。憑依する。さもなくば死。
"Strasbourg 1518 "
余談。
Strasbourg 1518: reliving a 16th-century ‘dancing plague’ in lockdown
https://www.theguardian.com/stage/2020/jul/19/strasbourg-...
ジョナサン・グレイザーといえば、しかし何をおいてもJamiroquai
“Virtual Insanity” MV(1996)なんです、極私的には。
狂ったこの狭窄社会も悪くない、罪に溺れた奴らの下で新たな祈りを希求する。這い回る甲虫と迸る鮮血の赤。カラスがニ度飛び立ったあとの世界で、もう四半世紀も息している、現実。
"Virtual Insanity" https://twitter.com/pherim/status/1318046104450068480
おしまい。
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