pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2020年
11月04日
23:59

ふぃるめも158 真に襲われたオオカミ

 
 

 今回は、10月30日~11月6日の日本上映開始作を中心に、ジャン=ポール・ベルモンド傑作選など10作品+αを扱います。北欧アニメから蒼井優&田中裕子W主演新作、アルジェリア/台湾/メキシコ映画まで。

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第158弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)

 
 
■10月30日公開作

『ウルフウォーカー』

狩人の娘とオオカミ娘の出逢い描くアイルランド版もののけ姫は、森奥と城郭都市との神話的対峙も鮮やかな全編眼福作。
『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー』と傑作続きのカートゥーン・サルーン、本作でさらに超えてきたアニメ表現の圧倒的な独創性と澄明さに陶酔する。

"Wolfwalkers" https://twitter.com/pherim/status/1317664520156839936




『パピチャ 未来へのランウェイ』
アルジェリア内戦下、大学生ネジュマの企むファッションショーが、壮絶な現実を生き抜く仲間達の希望と化す。
好きな服も着られず、親しい人が凶弾に斃れゆく過酷な抑圧を体験した監督/製作出演陣の渾身の叫びを、一級の娯楽大作に比肩する高水準の映像音響に聴く。

"Papicha" "بابيشة" https://twitter.com/pherim/status/1320682389299867648 

  拙稿「身にまとう自由の奥行き、絹布の祈り。」:
  http://www.kirishin.com/2020/10/28/45896/





■ジャン=ポール・ベルモンド傑作選(10/30~)

『大頭脳』 “Le Cerveau”1969仏伊

怪盗ジャン=ポール・ベルモンドの列車強盗。
のっけの脱獄場面から一貫した、独特テンポの軽快さが楽しい。犯罪サスペンスの仕掛けやスリルに拘泥するでも、コメディの狂騒に終始するのでもない軽さに、幼いころ夕方アニメのルパン三世に感じた洒落っ気が懐かしく想い起こされ。

"Le Cerveau" https://twitter.com/pherim/status/1318748254696165377




『恐怖に襲われた街』
ジャン=ポール・ベルモンドの1973年版ミッション・インポッシブル、とでも呼びたくなる無茶ぶりアクションの奔流。
パリの街を屋上伝いに跳び回り、列車の屋根を駆け走る。さすがにそこまで想定できない知能犯への同情を禁じえない。この笑えるカッコよさは唯一無二、痺れる。

"Peur Sur La Ville" https://twitter.com/pherim/status/1321645161391120384




『プロフェッショナル』
アフリカ某国の独裁者暗殺に送り込まれた諜報員が、フランス政府に裏切られて地獄をみたのち、復讐を固く誓う1981年作。
あのアクション大作やベトナム戦争物の名場面の由来多々。旧宗主国の形を変えた支配の今日性を背景に、エンニオ・モリコーネ音楽が絨毯爆撃を畳み掛ける。

"Le Professionnel" https://twitter.com/pherim/status/1323103504110546945




■10月31日公開作

『私たちの青春、台湾』

ひまわり運動の内幕と、若者達のその後。大陸中国からの留学生視点や台湾学生の上海見聞、香港の黄之鋒・周庭との親交など新鮮な見どころ多々。
2014年の立法院占拠時は、突入した学生らによるニコ生中継をタイからずっと観てただけに、リーダー陳為廷の躓きには驚かされる。

"我們的青春,在台灣" "Our Youth In Taiwan" https://twitter.com/pherim/status/1322384208896032768




■11月6日公開作

『おらおらでひとりいぐも』

夫に先立たれた桃子さん75歳。その一見寂しげなひとり暮らしは46億年の地球史に連なっていて、無数の心模様にとり囲まれる。
田中裕子と蒼井優が桃子さんの今昔を演じ分け、がむしゃらでへこたれない姿が各々に良い。“おひとりさま”高齢化社会に別アングルを添える妙趣。

"" https://twitter.com/pherim/status/1319805778098749440

『おらおらでひとりいぐも』の田中裕子と蒼井優。

同一人物の老若を別々の俳優が担当する映画はよくあるけれど、一人の女性に焦点を当てて、傍目には孤立した老後の独り身暮らしの背後に、長大な物語を浮かび上がらせる構成は今日的で、肌合いは全く異なりながら『ジョーンの秘密』が想起され。半世紀前を瑞々しく描く点でも。

 『ジョーンの秘密』https://twitter.com/pherim/status/1291562472722243584




『ストックホルム・ケース』
拉致監禁の被害者が犯人へ親愛の情を抱く“ストックホルム症候群”の語源となった事件を映画化。
こんな陽気で心優しいイーサン・ホークに拉致されたら男でも惚れる。という茶々はさておき70’s北欧の衣装&銀行建築再現が目に嬉しく、軽妙な犯罪サスペンス展開は愉快痛快。

"Stockholm" https://twitter.com/pherim/status/1323819561913704448




『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
NYの寵児へ迫るドキュメンタリー、『ティファニーで朝食を』から遺作『叶えられた祈り』への疾走。
ゲイのカミングアウトを経て、背負ったアイコンを演じ切る絢爛さがそのまま奈落にも映る放埒ぶりと、『冷血』執筆時の集中力とのコントラストは真に鮮烈。

"The Capote Tapes" https://twitter.com/pherim/status/1323454708657266689




■日本公開中作品

『セノーテ』

観客席の昏がりから、縦へと潜りゆく体験。降り注ぐ水流が湖面を割る破裂音、青の水底に煙る白光が震わせる影。
粗く映りでる顔たちの温もりに、訪のう人としてそこに立ち、底へ沈む小田香の異彩までも幻視される。湖底へ覗く濃藍の回廊、闇の奥。沈黙の中に生きる神を彼らは知らない。

"Cenote" https://twitter.com/pherim/status/1319479884012351488

『セノーテ』で極私的に一番アガったのは、湖底から横へつづく水中洞窟の闇へ分け入る場面。

40m以深の免許取得ではサブでカメラ科目もあるけど、水中で深度維持したまま撮影に集中とか難しいはず。習いたてらしい小田監督、手足の一部を湖底に常に固定させ撮ったのかなとか。https://twitter.com/pherim/status/803103535386632196

生贄の過去も語られる『セノーテ』、山形ドキュメンタリー映画祭時の評価では『鉱 ARAGANE』と比べ落ちるというものを散見。
その筋でみると子供のナレには不似合いな言葉の硬さとか、聖域侵犯がもつ観光性への無言及など確かに気にもなるけど、これ半ば以上はカタカナ語の「ドキュメンタリー」がもつ文脈の狭さゆえかと。

例えば差し込む光とか水滴の弾ける音。『風の教会』などは題材と製作経緯に照らせば水滴への執着は明らかに過剰で、むしろこのひとの本領はそちらに広がっていて、それは「ドキュメンタリー」の画域の外にある。とはいえ実験映画みたいな括りもまたズレしか感じないので、そこは余計な評価など気にせず今後もガンガン深堀りしてほしいですね。  
  
 


 余談。
 
 今週は、映画館で観る映画の本数が個人史上最多になりそう。(長篇40本超)
 東京国際映画祭プレス初フル参加のためだけれど、さすがに日中の意識がかなり別モードになりますね。なかばフレーム内が現実で、リアルは白昼夢と化すような。

 以下おまけ。

『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』 Rhyme Anima
ニコ動TOPで見かけ、1&3話を見通す始末。物語とは別に、突然歌うよの『輪るピングドラム』『さらざんまい』感覚、『デュラララ!!』の池袋精密再現ノリだけで観ていられる。
歩道や階段レベルでわかる場所が渋谷六本木でなく池袋という謎快楽。
(池袋背景場面→https://twitter.com/pherim/status/1319648714235899904)

"Hypnosis Mic: Division Rap Battle: Rhyme Anima" https://twitter.com/pherim/status/1319648714235899904




おしまい。
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