今回は、11月13日~14日の日本上映開始作を中心に、セルゲイ・ロズニツァ《群衆》ドキュメンタリー 3選、日本公開中作品など10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第159弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月13日公開作
『ホテルローヤル』
釧路湿原のラブホテル、寂れたお城姿の佇まいが切ないその内幕で織りなされる人間模様。
家業継ぐニ代目娘の居心地悪さや、親から着信拒否される女子高生演じる伊藤沙莉など見どころ多く、なかでも家事と介護に疲れた中年主婦演じる内田慈がめっぽう艷良い。肉欲の残滓に薫る哀愁。
"" https://twitter.com/pherim/status/1320923203561164800
※松山ケンイチの役柄について後日追記予定。
『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』
無名の若手劇作家へ不朽の名声をもたらした戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」誕生秘話。
19世紀末ベルエポックのパリを彩った、コミカルで癖ある演劇人たち。日本の芸能事務所による嫌がらせを想わせる一幕もあり、迷作から名作への化学変化が楽しい。
"Edmond" https://twitter.com/pherim/status/1326738216846684160
『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』、舞台や演劇に興味のあるひとは、エンドロールですぐ立たないことを強烈にお奨めします。
初代シラノ役コクラン・エネから我らがジェラルド・ドパルデューへ連なる、ちょっとしたフランス近現代舞台演劇史の総覧をやってくれます。(チェーホフもでるよ!)
ジェームズ・マカヴォイ主演舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』12月公開:
https://twitter.com/ntlivejapan/status/131978265352923955...
ジェームズ・マカヴォイ主演『シラノ・ド・ベルジュラック』12月上映。#NTLive
『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』終盤の演劇装置的感動も凄かったけど、こちらは“大きな鼻の醜男シラノ”をマカヴォイが素顔でっていう狂気に謎の魅力を予感。
『THE CAVE(ザ・ケイブ) サッカー少年救出までの18日間』
洞窟内で少年ら13名が半月間孤立した、タイ/タムルアン洞窟遭難事故を再現。
物語の抑揚より経緯細部に注力するモキュメンタリー調で、政府/米軍/各分野プロの連携模様は見応えあり。そういえば全員生還を寿ぐ報道にダイバー殉職が隠れがちだったなと。
"นางนอน" "The Cave" https://twitter.com/pherim/status/1325598226179780608
『プラスチックの海』
シロナガスクジラの雄大さに憧れた少年が、40年越しで夢を叶え飛び込んだ海原の、想像を絶する汚染の無惨。
過剰にも映るその導入に対する感覚が、終幕時には姿を変える。上辺のみ報道にのる海洋事故の実態、海鳥や魚の解剖場面に驚愕。レオナルド・ディカプリオ他製作総指揮。
"A Plastic Ocean" https://twitter.com/pherim/status/1324166324130516992
オバマも出るよ!
『Malu 夢路』
ある姉妹の歳月つらぬく愛憎模様。マレーシア華僑を背景に敷くと面白いエドモンド・ヨウ(楊毅恆)、数多い日本舞台作は情感描写過剰が外連味と化すきらいを感じてきたけれど、本作はうまく合流&軟着陸した観。
永瀬正敏の飄々として枯れた中年オーラ安定、
中国語で笑う水原希子新鮮。
"无马之日" "Malu" https://twitter.com/pherim/status/1326172349339639810
『さくら』
一匹のわんことバラバラ家族。
西加奈子原作のきらめく多彩光な印象を、おっとり低めな北村匠海ナレで抑え、400頁の原作に忠実なあまりパツンパツンとなった構成を、小松菜奈の太ももが快活に突破しゆく一篇。永瀬正敏&寺島しのぶ夫婦演技の、底なし情念と不器用さ渦巻く情感表現やばい。
"" https://twitter.com/pherim/status/1327083649116737538
※西加奈子原作めぐり追記予定。
西加奈子原作『まく子』https://twitter.com/pherim/status/1105299196360310785
■11月14日公開作 《セルゲイ・ロズニツァ《群衆》ドキュメンタリー 3選》
https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa
『国葬』
スターリンの死。
葬儀に集う共産圏各国の指導者や、群衆をなす個々人がふと漏れ見せる仕草や表情。プロパガンダの意図から外れたそれら人間群像の煌めく片鱗を、セルゲイ・ロズニツァが現代へ鮮明にすくい上げる。
内に戦ぐ混乱への予兆と怯え。
“1953年3月5日”が放つ超重力に戦慄する。
"Государственные похороны" "State Funeral" https://twitter.com/pherim/status/1322013378240372736
『国葬』で、その最期を報じるラジオに耳を傾ける人々。彼を讃える放送の肩肘張った女性の声音は北朝鮮国営TVを想わせる。都市部のみならず、カフカスの峰やシベリアの雪原、蒙古の草原を背景に佇み黙す人々の光景は、その内に潜む不穏の気配を込みで、1945年8月15日の玉音放送へと精確に重なり映る。
『粛清裁判』
スターリン独裁初期の1930年、クーデターを企てた“産業党”疑惑で8名が裁かれる。
セルゲイ・ロズニツァが掘り起こした映像は、当局捏造の「事実」を演じる被告らと法曹人、傍聴する群衆の顔たちを淡々と映しだす。白々しさと滑稽さの後ろ手で息を潜める、大粛清の兆しに震撼する。
"The Trial" https://twitter.com/pherim/status/1326377489380339712
「独裁の時代、われわれは四方八方から敵に包囲されていたため、時として不必要な優しさ、不必要な慈悲心を見せたこともあった」
――《産業党》裁判でのクルイレンコ検事の演説
(ソルジェニーツィン『収容所群島』より)
『アウステルリッツ』
惨劇を記憶する場で人は集団ごと、ガイドに従い、順路通りに歩み進む。牢獄、ガス室、焼却炉。
光景の全きリアル。スマホで話し続ける女、カメラを構える男、ボトルで遊びだす少女、空を見あげる少年。奥向こうに響き始める、ナチス“後”からの呼び声。ただ見据える視線の沈黙。
"Аустерлиц" "Austerlitz"
試写メモ96/97/98「“群衆”の鮮烈、沈黙とそのリアル。」:近日完成版投稿予定
■日本公開中作品
『本気のしるし』
笑った。今年観た新作日本映画ベスト1は堅いかな。
突き抜けた不思議ちゃんと、いつも優等生的受動的なやさ男との鉢合わせ。から変転を遂げゆく関係性の編み目模様。予想不能の展開が、パズルを合わせるように嵌りゆく快感。この深化の道程こそ『淵に立つ』『よこがお』他から連なる深田晃司監督作の精髄とも。
"The Real Thing"
『淵に立つ』(2016):https://twitter.com/pherim/status/781071911669215232
『よこがお』(2019):https://twitter.com/pherim/status/1154351634492747781
余談。
『プラスチックの海』は、『プラスチック・オーシャン』の邦題でNetflixあり。
→
https://www.netflix.com/watch/80164032
言及作品が劇場公開直前の場合、ネットで観られる方法等があってもここではあまり紹介していない。が、本作については作品アカウント@poceanjpの方向性が悪い意味で微妙だなと思わざるをえず、作品内容の主旨を優先して拡散を志向。pherimツイのRTもされないしね。(選択的に自ツイをRTしてほしいという意味でなく、マスメディアの補完的位置づけとしか機能させないSNS運用法がとても頭悪くみえるという話)
Twitterの特性を理解しない宣伝アカウントの運営ほど人的リソースのムダもないと思うけれど、往々にして視野の狭い新人とか、自前ではツイッターを常用したこともないひとが担当してるのが一目瞭然となり、その無惨はRT数やlike数へ顕著に反映される。ディカプリオ製作総指揮、オバマにも独占インタビューしている作品でRT2桁いかないツイート連発とか根本がおかしい。が、そも旧態メディア優位の序列が明確ゆえ検証もされない。これは中堅以上の配給宣伝会社によくあるケース。
あげく作品アカウントの設置やめちゃったりするの。それどうみても逆行ですよ~、って。
個人的にめっちゃ好きな作品『聖杯たちの騎士』@seihai_kishiや『長江 愛の詩』@cyoukou_ainoutaでこれやられて、実はむっちゃムカついてたんだよね。どちらも記事化したし、『長江』は監督インタビューもしたから関係者の顔も見えてて当時は何も言わなかったけど、表現も作品も配給会社の所有物じゃないのに、私物化したうえスポイルさせるなよっていう。公式アカウントやるからには作品への愛情とかね、上辺だけでもいいから見せましょうよねぇ。結果として客入りへ影響し同監督後続作の日本公開にも影響でたりとか、実際あるしね。表現への冒涜に近いなにか。とまでは言い過ぎですけれど。
東京国際映画祭、そこそこ体力の限界まで観きった感。
都合38作品鑑賞。
おしまい。
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