pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
11月18日
01:29

ふぃるめも160 空をまたぐふたりの姉

 
 

 今回は、11月20日~21日の日本上映開始作を中心に、国内公開未定作など10作品を扱います。

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第160弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)


 
 
■11月20日公開作

『滑走路』

厚労省の若手官僚(浅香航大)が、NPO提供の非正規雇用者自死リストから、同じ25歳の青年に目を留め調べだす。
自死青年の高校生時代(寄川歌太)を巡る回想に、妊娠して恋人に違和感をもつ切り絵作家(水川あさみ)が絡み、現代社会の生きづらさを多層的に浮かび上がらせる筋立ては心へ響く。

"Runway" https://twitter.com/pherim/status/1327807313902596096




『ホモ・サピエンスの涙』
極上の動く絵画。老夫婦の何気ない午後も、呑んだくれの会話もヒトラーの最期さえ、人間のかたどる光景として等価に愛される。
映画という、区切られた矩形へ世界を流し込むその視線が、不意にこちらを見据える表現性の孤高。終幕後、観客により映画のつづきが生きられる。

"Om det oändliga" "About Endlessness" https://twitter.com/pherim/status/1327446327962214402

※ロイ・アンダーソン過去作と絡め後日追記予定




『おろかもの』
婚約者がいる兄の浮気を目撃した高校生女子が、対峙した浮気相手にむしろ共感し、結婚式テロを共謀するも心は迷い。
兄の裏切りからバディ展開へ至る痛快さ。揺れる情感醸す笠松七海、エロスの底に脆さ強さを漂わせる村田唯のW主演良い。葉媚演じる同級生中国娘のアクセントも好趣。

"Me & My Brother’s Mistress" https://twitter.com/pherim/status/1328608237889851392

ひとはなぜ『卒業』を一度はしたい衝動に駆られるのか。みたいな一幕へ突っ走る『おろかもの』、テイストはまったく異なれど濱口竜介『永遠に君を愛す』も想起され。半径5mの関係性の編み目が醸す空気の濃い密度とか。

  『永遠に君を愛す』https://twitter.com/pherim/status/870656200634912768
  『PASSION』https://twitter.com/pherim/status/868475053767180288


  
  

『泣く子はいねぇが』
男鹿半島のなまはげと、今日的な家族事情の妙なる混淆。
仲野太賀と吉岡里帆の扮する当世夫婦模様もさることながら、旦那の親友役演じる寛一郎の洒脱な風情に目を引かれる。民話の生理的な直接性と新世代の醒めた距離感との狭間で、なまはげが色鮮やかに更新されゆく様は圧巻。

"Any Crybabies Around ?" https://twitter.com/pherim/status/1329259696050499585




『ボルケーノ・パーク』
『トゥームレイダー』や『コン・エアー』などの名匠サイモン・ウェストによる、中国資本の火山パニック映画。
主人公サイドの警告も経営者の耳には響かずそらみたことか大惨事、ってなジュラシック・パーク然とした筋立てで隙がなく映像も迫力満点、栄枯盛衰を感じる一作。

"天火" "Skyfire" https://twitter.com/pherim/status/1329042908448661504  




『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』
深圳から香港へ通学する高校生が、iPhoneの密輸に手を染めエスカレートする青春物。
白雪/バイ・シュエ監督は’84年生まれの女性で北京電影学院卒。一国両制下での“越境通学”と関税格差由来の密輸を背景に敷くこうした作品が、大陸側から出てくる新時代感。

"过春天" "The Crossing" https://twitter.com/pherim/status/1328892667279728640
 
主演・黄堯(ホアン・ヤオ)の醸す凛とした存在感が良い。あと、雪が見たいという親友との北海道旅行の約束が金稼ぎの発端となり、男子との恋愛感情が展開をこじらせるあたりの若気の至り炸裂感。

黄堯演じる主人公が親友と北海道旅行を夢みるシーン。
https://twitter.com/i/status/1327113965780910080
実際香港の若者世代は驚くほど日本のことをよく知り、気軽に日本へ出かけてます。で、その逆はあまりない。この感じは20年前とすっかり逆転してますね。

「一国両制下での“越境通学”」で思い起こされるのは、2016年訪香時の見聞。内陸部出身で香港留学中の大学院生の語る雨傘運動観や、息子を香港の神学校へ通わせる三自愛国教会牧師の佇まいとか。
(なにかしらリンク追記予定)




『フード・ラック!食運』
焼肉映画。ダチョウ倶楽部の寺門ジモン初監督作でEXILE NAOTO主演。ってどんなものか不安もあったけど、民放調の下卑た笑いにも走らず、全編ストレートに焼肉愛の表現だった。
石黒賢や土屋太鳳、大泉洋や松尾諭らの演じる個性的人物群が逐一楽しい。牛肉焼きたくなる一作。

"Food Luck" https://twitter.com/pherim/status/1328270528017121285 
 
『フード・ラック!食運』の、人間ドラマを描きつつも主役はあくまで“食”であり続けるノリに、マレー半島域のソウルフード肉骨茶と日本のラーメンとの融合を軸とするエリック・クー『家族のレシピ』が想起され。脇を固めるのが、久々目にする大物タレント陣というテイストも。

  『家族のレシピ』https://twitter.com/pherim/status/1102046949702696960


 

■11月21日公開作

『空に聞く』

震災後の陸前高田で、災害FMのラジオパーソナリティを務めた阿部裕美さんの日々。
今は料理屋の厨房に立つ彼女の、地震さえなければ電波に乗ることもなかったろう声に耳を傾け続けた住人たちの佇まいが柔和であればあるほど、格闘の日々が重みを増して感じられる。浸り切る時間の充溢。

"" https://twitter.com/pherim/status/1329582085724459008 

自然災害と戦災の違いはあれ、状況に促され素人の始めたラジオ放送の声が土地に暮らす人々の希望となりゆく『空に聞く』の道行きから、クルド作品『ラジオ・コバニ』が想起された。
生の声音が、記号化された立場や役回りを突き抜けて人を繋げる光景を、説明台詞なしに描きだす。
 
  『ラジオ・コバニ』https://twitter.com/pherim/status/1001092225428684800




■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『トトとふたりの姉』

母は服役中、父は不在の3人姉弟。ブカレスト郊外の家は不良の溜まり場となり、ドラッグの売買が行われ警察に突入される。
ルーマニア都市低所得者層の住環境が垣間見える映像体験。次第に皆の希望となりゆくトトの踊るヒップホップ、四肢のキレが群を抜く様は実際見応え充分。

"Toto și surorile lui" "Toto And His Sisters"




■国内劇場未公開作(含VOD/DVDスルー作)

“Nainsukh”

18世紀北インドの細密画家Nainsukhの生涯。
その代表作と実人生の一幕を重ね合わせる趣向は、どの場面も静物的でシンメトリカルな絵画のよう。パラジャーノフ映画から幻想性を除去しデジタルで仕上げたような歪つさ醸す質感が、役者の胸毛や髭の剃り痕などに生々しく露わとなる2010年作。

"Nainsukh" https://twitter.com/pherim/status/1357692478032257024


 
 

 余談。

 “Nainsukh”は映像だけでなく、音もやや過剰にクリアな印象があった。とはいえ音自体を楽しむ分には良い澄明さで、とくに鳥の鳴き声はバンコクで日々聴いて親しみのあるもので、昔タイの友人に聴いた鳥の名を忘れかけてたので少し調べた。Asian Koel、和名ではオニカッコウの近親らしい。

 東京国立博物館 東洋館地下の第13展示室については幾度か呟いてきたけれど、実はこの部屋の奥通路がインド細密画の常設エリアだったりする。
 
  東博・東洋館地下最奥の第13室:https://twitter.com/pherim/status/1228691060534046720
 
 適時入れ換わる展示作のキャプションには作家名でなく流派名のみ記される印象があり、Nainsukh作の有無は不明(あるとすればムガル派に含まれるはず)。ともあれ、かくして細分化しゆく好奇心や良し。





おしまい。
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