pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
12月05日
23:21

ふぃるめも162 第21回東京フィルメックス上映作

 
 

 今回は、第21回東京フィルメックス上映作から11作品を扱います。

 なお、今回扱う作品はすべてオンラインレンタル視聴可能です。(12/6まで)
 https://filmex.jp/2020/online2020

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第162弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
 
 

□東京フィルメックス・コンペティション部門

『風が吹けば』 “Should the Wind Drop”

紛争地ナゴルノカラバフ、唯一の空港監査のため訪れたフランス人技師の体験、そして決断。
敵対勢力せめぎ合う地勢下で、離着陸ルートが極めて限られる空港の状況自体が住民たちの逼塞と諦観をよく表す。主演グレゴワール・コラン燻し銀の消耗&苛立ち演技。

"Should the Wind Drop" https://twitter.com/pherim/status/1335021446095990784 
 



『迂闊(うかつ)な犯罪』 “Careless Crime”
イランで起きた映画館放火事件の再現を企む4人の男。
西洋の象徴として映画館が燃やされ、大量の焼死者を出した1978年の「史実」へメス入れる手つきの秀逸。時系列を激しく揺さぶり劇中映画が多用され、事実の真実性への問いを視覚化する今日的意志の明晰さは圧巻。

"Careless Crime" https://twitter.com/pherim/status/1345609737904144386




『無聲』 “The Silent Forest”
台湾の聾唖学校で連鎖した性暴力事件を映画化。
少数者ゆえに限られる選択肢と、音無しの世界ゆえに倍加する苦境の心情表現が痛切。
陰惨な暴行にもまして、大人の善意で隠蔽された暴力そのものが命を得て受け継がれゆく描写は心底怖い。
画作りに台湾映画の好趣濃縮。

"The Silent Forest" https://twitter.com/pherim/status/1343760693158297600  
  



『死ぬ間際』 “In Between Dying”
霧が追いすがる。命が解きほぐされる。
湿る大地を疾駆する。
アゼルバイジャンの、詩の朗唱が偶然映画の形をとるような一篇。帰還こそ死の本性といわんばかりの倒錯を瞳に宿す男へ贈られる、崩れ落ちる花嫁がもたらす逆様の、呪われた解放の一瞬へとほとばしる生。詩の朗唱が偶然映画の形をとったような映画。

"In Between Dying" https://twitter.com/pherim/status/1343369674998759424  
  

1987年生まれのHilal Baydarov監督、インタビュー動画面白い。
→ttps://
イランの詩人、チェーホフらロシア文学に多大な影響受けた。溝口・新藤ら神。
タル・ベーラへ師事したサラエボ時代、賭けチェスで生活費稼ぎ。等々。
 

 
 
『アスワン』 “Aswang”
麻薬捜査下の警官へ射殺の権利を与えたドゥテルテ政権下フィリピンの夜を怪物Aswangが彷徨う。抗する術のない貧困層を腐敗した警察が狙い撃ち、凶行を子供達が遊びで真似る。
家族を失うまで政権支持だったと語る人々を見据える’86年生まれの女性監督Alyx Ayn Arumpac、今後が楽しみ。

"Aswang" https://twitter.com/pherim/status/1335590279018020865 

  『ローサは密告された』https://twitter.com/pherim/status/889123911438184448
  『アルファ、殺しの権利』https://twitter.com/pherim/status/1150715223172452352
  『AMO 終わりなき麻薬戦争』https://twitter.com/pherim/status/1151465242318135297
  『評決』“Verdict” https://twitter.com/pherim/status/1206785896994885633




□東京フィルメックス 特集上映 エリア・スレイマン

『消えゆくものたちの年代記』 “The Chronicle of a Disappearance”

パレスチナにおける日常断片の集積。巨匠エリア・スレイマン長編第1作、1996年。
それら点描の連なりはしかし、ラビン首相暗殺直後の世相を反映し不穏な緊張に充ちる。自身を演じるスレイマンの、現場にいながら傍観者的な目線の虚無と全編に漲る瞋恚との対照は鮮烈。

"The Chronicle of a Disappearance" https://twitter.com/pherim/status/1346012278441693184



 
『D.I.』 “Divine Intervention”
逃走サンタが投げナイフに絶命する冒頭から、公道にガラス片を撒く怒れる親父、イスラエル軍兵士を目で殺すアラブ美人などパレスチナ巡る風刺満載。
アラファト顔した赤い風船が悠々とエルサレムへの検問を通過して、岩のドーム上をぐるんぐるん回るエリア・スレイマン2001年に込める諧謔。

"Divine Intervention" https://twitter.com/pherim/status/1335140522810200064




□東京フィルメックス 特別招待作品

『日子』 “Days”

乳首を3つもち、バンコクや香港の一室で安らう男と、露店を営むラオス人の男娼との、体温とオルゴールを介する交錯。都市の孤独と空気の静寂。
蔡明亮/ツァイ・ミンリャン、特に『郊遊』以降の媚のなさ、“映画”の枠を淡々と更新しゆく孤高の軌跡。その寡黙さは巨匠というより詩仙そのもの。

"Days" https://twitter.com/pherim/status/1350040145676836869

  蔡明亮『郊遊 ピクニック』 https://twitter.com/pherim/status/520384832598077441
  蔡明亮『あなたの顔』"你的臉" https://twitter.com/pherim/status/1275261955637301249





『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』
“Denise Ho: Becoming the Song”

香港の歌姫デニス・ホーの半生。雨傘運動以降の、香港民主化運動支持による大陸市場からの排除で収入の9割を失う描写に、香港文化人が守る沈黙の意味想う。
ポップアイコンの草分けアニタ・ムイへの弟子入りのくだりなど、香港歌謡黄金期の熱も感じられ見応えあり。

"Denise Ho: Becoming the Song" https://twitter.com/pherim/status/1340301834615808000




『平静』
美術作家の中国人女性が、東京から雪深い越後湯沢、そして香港へと旅するなかで、ゆっくりと恢復しゆく。
穏やかな革新作という印象。散見される酷評にも共感するほど従来の尺度では測りがたく冗長さを覚える一方で、映像作品としての精度は疑いなく高い。香港夜景の静謐などほんのり斬新。
[動画見当たらず]
"平静" "The Calming" https://twitter.com/pherim/status/1344514131102109697 
 
  
  

『海が青くなるまで泳ぐ』
ジャ・ジャンクー(賈樟柯)新作。山西省賈家荘村の古老へのインタビューに始まり、汾陽の文学フェスに集った賈平凹、余華、梁鴻ら各世代の作家たちへ各々の来し方を聴く。
一見よくあるドキュメンタリー構成ながら、映像や語りの背後に響かせる音響など賈映画そのもので驚く。

"一直游到海水變藍" "Swimming Out Till the Sea Turns Blue" https://twitter.com/pherim/status/1334656782556262401

本作タイトル『海が青くなるまで泳ぐ/一直游到海水變藍』は、「幼いころ海は黄色いものだと思っていた。一度遠くへ青くなるまで泳いでみようと思った」と語る余華の言葉より。余華+映画文脈で個人的に思い出されるのは胡波/フー・ボー『象は静かに座っている』評。

  胡波/フー・ボー『象は静かに座っている』連ツイ
  https://twitter.com/pherim/status/1193497320316235776

  
  
  
 

 余談。

  賈樟柯『帰れない二人』めぐる超長文拙稿:
  https://twitter.com/pherim/status/1200624996613181440
 
  賈樟柯へのインタビューに始まる香港滞在連ツイ:
  https://twitter.com/pherim/status/1153847898074841088


 ジャ・ジャンクー(賈樟柯)、新型コロナテーマの短編「来訪」公開。(4分)
 「この災難は間違いなく私たちに考える時間を与え、私たちの新しい映画文化を作るでしょう」
 主演2人は賈樟柯&平遥電影宮設計の廉毅鋭、ラストは『山河ノスタルジア』より。 https://natalie.mu/eiga/news/376487

"来訪" https://twitter.com/pherim/status/1253466577376145410

 ラスト30秒の『山河ノスタルジア』引用部、熱すぎて滾る。

  『山河ノスタルジア』 https://twitter.com/pherim/status/720841333636599808
 
 フィルメックスOnlineであと一作、未見のカザフスタン映画あり。後日追記するかもです。

 
 


おしまい。
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