今回は、11月27日~12月4日の日本上映開始作と、ポーランド映画祭2020上映作などから13作品を扱います。(含短篇4作/再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第161弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月27日公開作
『ヒトラーに盗られたうさぎ』
ピンクの兎は、ベルリンに残した愛すべきものたちの象徴として、ユダヤ少女アンナの心に生き始める。
スイスからパリへ。反ナチ姿勢を鮮明にした演劇批評家とその家族の逃避生活を描く本作、ドイツ語圏の地方文化やナチス政権誕生前夜の人間模様など質実表現に見入る。
"Als Hitler das rosa Kaninchen stahl" "When Hitler Stole Pink Rabbit" https://twitter.com/pherim/status/1315846162616782848
『君の誕生日』
セウォル号沈没事故で修学旅行中の息子を失くした夫婦を軸に、喪失との対峙を描く。
ソル・ギョングとチョン・ドヨンが、圧倒的な悲劇のあと軋みをあげる夫婦関係を熱演。新人監督イ・ジョンオン、救いのなさと正面から向き合う腰の据わりに、名匠イ・チャンドン門下の矜持を感じる。
"생일" "Birthday" https://twitter.com/pherim/status/1329988847376035841
『君の誕生日』で、わが子を失う母役チョン・ドヨンの演技に、『マルティニークからの祈り』が想い起こされた。
悲しみを夫や隣人、遺族会の誰とも分かち合えない孤独の表情は、カリブの島で収監され母国から見放された孤立のそれと、包摂の網から洩れ落ちる個を描く点で通底する。
『マルティニークからの祈り』 https://twitter.com/pherim/status/515154326725984256
『記憶の技法』
吉野朔実原作、奇妙な記憶喪失癖に悩む女子高校生によるルーツ探索の旅。
主人公役・石井杏奈&青目少年のバディ役・栗原吾郎のおっとりした間合いと、釜山の雑踏歩む孤独の旅情表現が各々終盤に活かされ印象的。鍵となる金魚屋青年演じる柄本時生は、アラサーにして燻し銀の風格。
"" https://twitter.com/pherim/status/1331429803107336192
『アーニャは、きっと来る』
ピレネー山麓に暮らす羊飼いの少年が、ナチス占領下のフランスからスペインへのユダヤ人逃亡を助ける。『戦火の馬』他のマイケル・モーパーゴ原作。
ナチス将校との情深い交流、父役ジャン・レノなど見処で、移牧を装いユダヤ人の子らと敢行するピレネー越え空撮は圧巻。
"Waiting for Anya" https://twitter.com/pherim/status/1330715071916380160
■11月28日公開作
『凱歌』
ハンセン病元患者らの来し方と今。結婚のため夫の断種手術を受け入れた無念、堕胎後の子をホルマリン漬けにされた悪夢を経て紡がれる言葉「障害者こそ子を産みなさい」の穏やかな強さに打たれる。
多磨全生園(河瀨直美『あん』舞台)の今昔を通し、日本社会の暗部照らす坂口香津美監督新作。
"Songs of Triumph" https://twitter.com/pherim/status/1331084909662781440
河瀨直美監督作『あん』 https://twitter.com/pherim/status/636537320078905344
■12月4日公開作
『燃ゆる女の肖像』
描く女と描かれる女。18世紀を生きる画家の眼は俯瞰的に、時代の制約を一身に引き受ける貴婦人を見つめそして愛する。
ヴィヴァルディと絵画の共鳴。視線の緊張がこれほど持続する映画を初めて観た。またニ人の間近で別次元の深い物語を生きる使用人ソフィの存在が決定的に良い。
"Portrait de la jeune fille en feu" https://twitter.com/pherim/status/1332916626879094784
『ノッティングヒルの洋菓子店』
パティシエのサラが急逝して閉じられた店を舞台に、残された娘が起点となってサラの親友や母、元恋人のスターシェフも加わり再開店へと挑む日々。
多民族化したロンドン・ノッティングヒルの地勢を反映し、各国の郷土菓子を取り入れ店の強みとする筋立ては今日的。
"Love Sarah" https://twitter.com/pherim/status/1332326494643785732
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『Love Suicides ― 手紙』
マレーシアの海辺、漁師村に暮らす母娘と不在の父描く、川端康成短篇「心中」翻案の試み。エドモンド・ヨウ監督2009年作。
台詞はほぼなく、原作の謎めいた終盤を省く簡潔な構成が、かえって川端短篇特有の素っ気なさに通じる。手紙の中国語文が不思議と情感を醸して良い。
"Love Suicides" "信" https://twitter.com/pherim/status/1331248476466933762
※後日、川端康成「心中」引用ツイート追記予定。
エドモンド・ヨウ監督新作『Malu 夢路』 https://twitter.com/pherim/status/1326172349339639810
※以降、同監督作連ツイ予定。
■ポーランド映画祭2020 @東京都写真美術館ホール, 11/20-11/26
http://www.polandfilmfes.com/
『ソラリスの著者』
スタニスワフ・レム本人が軽快に語る姿は、SF読者必見の面白さ。
資料豊富で再現劇も高水準。身分証を偽造しナチス期ポーランドをレジスタンス側で生き延び、ソヴィエト時代にもスターリン風刺の寸劇を身内で上演。稀代の想像力は露見即極刑の状況で一層加速したかと納得の56分。
https://vimeo.com/187692062
"Autor Solaris" https://twitter.com/pherim/status/1329728589210632192
『ヨハネ・パウロ2世 あなたを探し続けて』
ポーランド出身の第264代ローマ教皇、本名カロル・ユゼフ・ヴォイティワの生涯。
現教皇フランシスコもよく報道にのる教皇外交文脈の起点が説得的に描かれる。エルサレムのシナゴーグ訪問、“解放の神学”めぐるメキシコ訪問時の議論は殊に見応えあり。
"Jan Pawel II: Szukalem Was..." https://twitter.com/pherim/status/1330843049862123521
『マイクテスト』“Próba mikrofonu”
1980年ワルシャワの化粧品工場で、ラジオ局員(ウォジンスキ監督)が工員へ突撃インタビューを敢行、工場幹部が内容に異を唱える。
社会主義下での「皆が経営者」という名目の虚構とリアル。老工員のぶっちゃけ語りに鼻白む幹部の図楽しす。《マルツェル・ウォジンスキの世界》の一。
https://vimeo.com/14887764
"Próba mikrofonu" https://twitter.com/pherim/status/1331376399144259585
『なにがあっても大丈夫』(1995)
“地面の下には何があるの?”
公園を駆け回る6歳の少年が、ベンチに安らう老人たちへ無邪気で深遠な質問を投げかける。命、神、鉤十字について。
観る者の笑いを誘う会話から、ポーランド分割期の苦渋回想へ連なる構成の秀逸。1995年作、マルツェル・ウォジンスキの世界。。
"Wszystko moze sie przytrafic" "Anything Can Happen" https://twitter.com/pherim/status/1334288309892182018
『なにがあっても大丈夫』“Wszystko moze sie przytrafic”に、ある伊丹十三作品が想起された。都心のサラリーマンへ若い女性が直截に“不躾な”質問を投げるインタビュー作品だけれど、題名製作年思い出せず。
『タンポポ』等を除きその全体像は国際的に殆ど知られない伊丹同様の膂力を感じる。
伊丹作の詳細は思い出せないが、その元ネタかとひとり合点したジャン・ルーシュ『ある夏の記録』(’61)は思い出せた。引用RT↓はその連ツイ部。Twitter外部記憶説。
のんきな会話からホロコースト犠牲者への悼みに連ねる構成は『なにがあっても大丈夫』へ通じる。(と独り合点)
『ある夏の記録』(連ツイ):
https://twitter.com/pherim/status/903441916179517440
『配達されなかった手紙』
亡くなった家族へ、天の神様へなど配達不能の手紙を処理するポーランド唯一の部署映す、マルツェル・ウォジンスキ(Marcel Łoziński)2009年作。
投函された想いの数々に目を凝らす職員達が、現に存在することの不思議な驚異。風の中へ昇華する終幕の、円熟した詩性に唸る。
"Poste Restante" https://twitter.com/pherim/status/1342476127764279296
余談。
ポーランド映画祭2020については、近日別立て記事執筆更新予定。コロナ縮小開催ながら、よく練られた構成でした。
ポーランド映画祭2019上映13作(「ふぃるめも125 ポーランド映画とゾンビの未来):
https://tokinoma.pne.jp/diary/3574
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh