今回は、12月25日の日本上映開始作と、《吉開菜央特集 Dancing Films》、《ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020》上映作などから13作品+αを扱います。
(含短編5作/再掲3作/ドラマ1クール)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第165弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■12月25日公開作
『AWAKE』
吉沢亮 x 若葉竜也が演じる、将棋プログラムと人間の仁義なき戦い。
2010年代当時ニコ生で齧りつくように観たPONANZA vsプロ棋士の電王戦をベースとするktkr感に加え、開発者と棋士が奨励会の同窓という設定が熱い。屈託ありまくる道行きの先で、一直線にトップへ立った若手棋士へ挑む姿は痛快。
"Awake" https://twitter.com/pherim/status/1340126338892500992
『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』
ケニアの僻村に暮らすお婆ちゃん“ゴゴ”が、小学校へ曾孫と一緒に入学する。カラッとした映像は爽快で、助産師として蓄えた知恵も豊かな学生服のゴゴが、問題用紙に一喜一憂する姿は可愛らしい。
修学旅行先で、在来民族の伝統衣装を着た老婆と交歓する場面は殊に胸熱。
"Gogo" https://twitter.com/pherim/status/1341941438653710336
『世界の果ての通学路』 https://twitter.com/pherim/status/483110624168120320
『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』監督パスカル・プリッソン(Pascal Plisson)の前々作『世界の果ての通学路』@sekai_tsugakuroは、観客席の暗がりで数年に一度レベルの号泣をしてしまった、記憶に濃い一作。「この類の作品」と簡単に括ってしまうと見落とす不思議で稀有な資質を、この監督作からは感じとる。
『ジョゼと虎と魚たち』
車椅子女性ジョゼとダイビング青年との出逢い。
アニメ映像の軽快さ、彩度の高さが印象的。
塞ぎ込んだ少女時代や、青年の先行き不安など暗い境遇からの、描かれる人魚への象徴的な昇華が清々しい。あとジョゼの暮らす玉串川周辺と、天王寺や梅田ほか大阪の都心描写楽しす。
"Josee, the Tiger and the Fish" https://twitter.com/pherim/status/1339404803659558912
『ソング・トゥ・ソング』
テレンス・マリック監督&エマニュエル・ルベツキ撮影で『聖杯たちの騎士』『トゥ・ザ・ワンダー』の系譜継ぐ本作の舞台は音楽業界。
毎度の超絶豪華な出演陣がひしめき合う中心で静謐保つルーニー・マーラの不思議な佇まいを、疾走するルベツキ・マジックが引き立たせる。
"Song to Song" https://twitter.com/pherim/status/1342055301575426049
"Song To Song"、イギー・ポップ、パティ・スミス、レッチリ、リッキ・リー(画像順)らが神的出演。またルベツキ撮影作としては過去作を更新する眼福ぶりだったが、テレンス・マリック作品としては『聖杯たちの騎士』が現状この系列の頂点。バンコクで観たのは半年以上前で、日本公開は無い感じかも。
↑を含む、タイ公開時連ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/933322529241931776
3年遅れの本作日本公開をめぐっては、『聖杯たちの騎士』国内配給のPR完全失策余波ともいえ、後日追記するかも。以前も書いた苦言ゆえしないかも。
『香港画』
2019年香港の騒乱を、一日の時刻経過へ再編凝縮したドキュメンタリー。近しさと遠さ。日本人監督の撮影ゆえだろう、映りでる香港の若者たちとの静かな距離感は印象的。
路面に散らばる催涙弾の薬莢、積み上げられた歩道柵。この連続ツイートの過程で体験した香港そのものが映っていた。
"Hongkong - Ga" "Montage of Hong Kong" https://twitter.com/pherim/status/1342440536767008769
[香港滞在連ツイ’19] https://twitter.com/pherim/status/1158270628710846464
■吉開菜央特集 Dancing Films @渋谷ユーロスペース 12/12~25
https://naoyoshigai.com/dancing-films
『Grand Bouquet』
吐息と肉感と跳躍の謎空間にとり憑かれる。予備知識なく短編集試写を観だし、どれも予想外に良く驚いたので以下ツリー化。ともあれ、美術館の内部検閲受け一部黒塗り上映に至った映像こそ本作と鑑賞後に知る。美醜の閾を“空気”が削いだと推察できる、ストレートで鋭利な表現でした。
"Grand Bouquet" https://twitter.com/pherim/status/1235505989618556928
言葉が花になる。宇宙に襲われる夢。呑み込まれた闇の底に薄白く、小さな輝点が浮かんでいる。大きく息を吸い込み、全身の力を集め、一気に吐き出す。くり返すうちある一瞬、幽かに波うつ、光の糸のような力線が世界を貫いてゆく。そうやって最後の最後で、どうしてかいつも。
『ほったまるびより』
まっくろくろすけ肌着娘版、の妙趣。古民家にただよう無邪気な妖精と、積年のほこり降り積もる木箱や桐箪笥の内で忘却された物どもとの交信とか。吉本ばななの昔の小説の、家人を失った古民家の昏さと、遺品整理に来た女の子の太ももが放つ活力との対照描写が想い起こされる。
"Hottamaru Days" https://twitter.com/pherim/status/1236590137720500224
メイがはたくと霧散するススワタリとも異なる『ほったまるびより』で踊り手が体現するナニモノか。呼吸や肌の生気にキメ手を感じ、清原惟『わたしたちの家』の《家/空間》性よりは《息/人間》寄りに感じたけど、空間を踊りへ利用するだけに留まらない場的感性、のようなもの。
https://twitter.com/pherim/status/949940717396271105
『わたしたちの家』:https://twitter.com/pherim/status/949940717396271105
承前)身体で魅せたいあまり映像表現としては失敗しがちなダンス映画も多いなか、いと面白き味わい。土地性をめぐりては鑑賞後、円山から静々と歩み降りたる渋き谷の底にてインドネシアの郷土料理ルンダンなる杯を坐して戴くに、旨かりけり。ハラール印あり。かの茶屋の出す汁・咖喱飯の類、甘露なり。(画像ないと全くイミフなつぶやきですね
→https://twitter.com/pherim/status/1239030631184470017)
『静坐社』
京都のすでに取り壊された邸宅を撮る不思議ドキュメンタリー。そこは大正期に静坐なる健康法を流行させた岡田虎次郎旧邸で、洋風意匠施された昭和初期木造家屋の内に宿る息吹を、和服姿の踊り手が肌身へ取り込み可視化する。埃の生理、記憶の肌理。ほったまる進化系統樹のひと房みた思い。
"Breathing House" ↑動画は短編4作込み、個展"Breathing Room"向けに編集されたもの https://twitter.com/pherim/status/1240827259159642112
ちなみに米津玄師“Lemon”MV↓で踊り続ける女性が、当ツリーで扱う各作監督の吉開菜央さん。試写は若手監督がよく挨拶に立つ場所で行われたけど、体が言葉より先に動く監督の姿はひときわ珍しく、あのダンサーと知り腑に落ちる。こういう表現が映画やドラマにもっと増えたらいい。
吉開菜央が踊り、米津玄師の歌う“Lemon”の教会。見憶えあってググるに「西片町教会」伊藤為吉設計と。でも違和感覚え、仔細にMV観返すとやはりヴォーリズ風味、てか前に書いたスコットホールでしたの巻
拙稿「質実の歩みの意味」|キリスト新聞HP
http://kirishin.com/2018/07/30/16350/
MV公開前のPR画が西片町だった由。
それにしても米津玄師“Lemon”MV、こう観ると吉開菜央監督作と真逆かつ強く呼応して感じられ。踊るのは主に聖堂最後方左端の長椅子上だけど、ここで凡百MV風にカメラが回転したり動くと全てが崩れる。踊りの構成が場と密着するためで、つまりこの視点固定の制約と、本人の映像進出とは恐らく表裏の関係性。
■《ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020》特集上映 @アテネ・フランセ, 2020/11/17-21/3/13
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/s_h/s2020_2...
『シチリア!』(↑12/17, 2/6上映)
ストローブ=ユイレが、ヴィットリーニ小説『シチリアでの会話』の一部を翻案。
農夫や漁師が投げ合う言葉のごとりとした物質感が、極私的シチリア像にマッチして浸れる。あと列車客室場面の映画的魅力とか。いかにもネオレアリズモ調に渋く決まったカットも多く、1998年作なのは意外。
"Sicilia!" https://twitter.com/pherim/status/1326011463308255232
『ジャン・ブリカールの道程』
ストローブ=ユイレ最後の作。ロワール河を下る船からコトン島を撮る映像が水平に流れ続け、生涯この地に生きたブリカールによるナチスの虐殺を巡る回想語りがそこに重なる。樹木と水と空、痕跡が見当たらない風景それ自体の訴求力を想う。
"Itinéraire de Jean Bricard" https://twitter.com/pherim/status/1060562205417005058
『湖の人びと』 "Gens du Lac"
ストローブ84歳の作('17)。舷側に腰かける男がスイス人作家Janine Massardの同題小説を朗読する。当地の過去を語る声の他は、長閑な湖面のみが終幕の転回まで映される。レマン湖の“風光”はそのようにして異化され抵抗される。『ジャン・ブリカールの道程』から十年の余韻
"Gens du Lac" https://twitter.com/pherim/status/1062587166461636608
■国内劇場未公開作(含VOD/DVDスルー作)
『サバハ』
仏教ギミック豊富な韓流ホラーサスペンス。
日本なら陰陽師など道教/神道が引き受けそうな因習を仏教が体現し、現代的理性を表象する牧師探偵が読み解く。唐突なヘロデ王ロジック笑う。
チベット仏教指導者を田中泯が演じ、ダライラマ14世風に明晰な英語でジョークを飛ばす姿も楽しい。
“사바하” “SVAHA : THE SIXTH FINGER” https://twitter.com/pherim/status/1343446304664342529
『サバハ』は梵語svāhā由来で娑婆訶/사바하、般若心経での“そわか”。「ヘロデ王ロジック」↑では“敵の王キリスト”の抹殺謀るユダヤ王描くマタイ福音書の引用で善悪の対象化→転倒を端的にこなす巧さ。過去の見聞総動員迫るギミック探求に応える韓国エンタメ、恐るべき楽しさ。
『哭声/コクソン』
https://twitter.com/pherim/status/922607993195130880
■オンライン配信作
『Sweet Home -俺と世界の絶望-』
閉鎖系ゾンビバトル傑作。ってただの終末SF展開には当然留まらず、半ばジャンル化したビル一棟内部で完結するサバイバル物の、これは頂点に立つ極上娯楽作。
Netflixの果敢さ豪勢さと、国策が支える韓流ドラマの精巧さとがベストマッチしたこの作り込み、驚異的。
"스위트홈" https://twitter.com/pherim/status/1344129909996748800
※「半ばジャンル化したビル一棟内部で完結するサバイバル物」めぐり近日連ツイ予定
余談。
「半ばジャンル化したビル一棟内部で完結するサバイバル物」草稿メモとして。
名作『レオン』『ダイ・ハード』から、ソウル郊外『#生きている』まで。
『ディーパンの闘い』パリ郊外 https://twitter.com/pherim/status/694714165835931648
『レ・ミゼラブル』パリ郊外 https://twitter.com/pherim/status/1232142772452282369
『クーデター』仮想カンボジア https://twitter.com/pherim/status/648624171828711425
言うまでもなくコロナ禍で「外へ出れない」心情をくすぐる仕掛け。製作予算の制約という文脈からは閉鎖系SF『CUBE』や、閉鎖系ホラー『REC』にも連なる豊作ジャンルとも言えますね。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh