今回は、12月11日~18日の日本上映開始作と、ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2020、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020、東京フィルメックス各上映作から12作品を扱います。(含再掲2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第164弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■12月11日公開作
『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
ヴォーグ等を通じ1970~90年代モード界に君臨した写真家の生涯。
ユダヤ出自+ワイマール気風、ナチス=レニ・リーフェンシュタール美学の影響、ランプリングやイザベラ・ロッセリーニの回想、魂が衝突するスーザン・ソンタグとのTV討論など、ひたすら熱い。
"L'Homme Qui Avait Vendu Sa Peau" "The Man Who Sold His Skin" https://twitter.com/pherim/status/1336137147112325120
『ハッピー・オールド・イヤー』
おまちかねタイGDH映画。留学帰りのインテリアデザイナーが、実家お掃除から心の大掃除へ。
昔の男から借りたカメラを起点に広がる心の波紋を描く繊細さは『ダイ・トゥモロー』のナワポン監督ならでは。こんまりメソッドのフェイク動画が、ひっそり基調を彩る妙味。
"ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ" "Happy Old Year" https://twitter.com/pherim/status/1333600363119722499
タイ公開時ツイート:https://twitter.com/pherim/status/1220909531271585793
(↑英題“Happy Old Year”はまだ決定前段階で、“How to Ting”と表記されてました。)
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』
老舗高級料理店のバッグヤードを主舞台とする人間模様。社会的包摂の不足と心の充足。
DV警官の夫から息子と逃れる妻役ゾーイ・カザンや、料理店マネージャー役タハール・ラヒムほか、燻し銀ビル・ナイ含む主要キャスト皆がさり気なくベスト演技みせる不思議快作。
"The Kindness of Strangers" https://twitter.com/pherim/status/1335783973792825345
■12月18日公開作
『声優夫婦の甘くない生活』
ソ連崩壊の混乱下、ロシアからイスラエルへ移民した声優夫婦による新生活コメディ。
ロシア移民向け海賊版ビデオに吹き替えをのせる違法ビジネスで夫が見せるこだわりや、テレクラ業で発揮される妻の腕前が笑えてせつない。(ガス)マスクなしで孤立する場面の今日性とか。
"Golden Voices" https://twitter.com/pherim/status/1336864749703741440
『また、あなたとブッククラブで』
還暦超えの友人4人組それぞれのロマンス模様。
読書会に官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』をブチ込む経営者(ジェーン・フォンダ!)の派手な私生活を、他の3女性が超えゆく顛末の楽しさと、ダイアン・キートンに惚れるアンディ・ガルシアの神構図感。
"Book Club" https://twitter.com/pherim/status/1337607725597913089
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020上映作
https://www.skipcity-dcf.jp/films/international03.html
『南スーダンの闇と光』“Hearts and Bones”
虐殺の記憶と記録を巡る、戦場カメラマンと難民の対峙と友情。陥る苦悩が白人定型に過ぎるも、カメラの攻撃性(shooting!)を炙りだす描写良い。
全編シリアスなあまり、Matrixのエージェント・スミスがこんな人間的になっちゃって、など不謹慎妄想よぎる。
"Hearts and Bones" https://twitter.com/pherim/status/1334850440064688128
■第21回東京フィルメックス・コンペティション部門
https://filmex.jp/2020/online2020
(他11作ふぃるめも162にて→https://tokinoma.pne.jp/diary/4012)
『イエローキャット』 “Yellow Cat”
カザフスタン、大草原のただなかで映画館を開こうと夢みる男。
ヒロインとの距離の甘酸っぱさはサイレント名画のようで、アラン・ドロン、雨に唄えばなど映画愛詰まる引用多く、前科者ゆえ世間から弾かれ、暴力のしがらみに追われる男の佇まいはどこか寅さんを想わせ懐かしい。
"Yellow Cat" https://twitter.com/pherim/status/1338690945903075333
■ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2020
http://cinematrix.jp/dds2020/
『十字架』
チリ’73.9.11クーデター直後の混乱下、製紙会社の労組工員19名が虐殺される。加害者らの証言を、今日を生きる別人たちが朗読し、今日の穏やかな現場周辺の映像や資料/写真が重なり映る。
何気ない風景、ありふれた日常の底から湧き上がる呼び声に耳を澄ませることの必要と困難とを想う。
"The Crosses" https://twitter.com/pherim/status/1333413320213204996
『ラ・カチャダ』
エルサルバドルで露店を商う、シングルマザー5人の演劇ワークショップ。
演技する中で、無意識化された記憶が直にからだへ蘇り、心が後追いする過程の映りゆく様は驚異的。感情の振り幅大きく喜怒哀楽の彩度は高く、深刻でも最後には笑い飛ばすラテンの明るいノリが切なくも良い。
"Cachada" "Cachada: The Opportunity" https://twitter.com/pherim/status/1338631311171305472
想起2作。インドネシア’65年の大虐殺を生き延びた女性たちの合唱団と、女性の元受刑者やHIV/AIDS陽性者によるアマチュア劇団を扱うドキュメンタリー映画。
『私たちは歌で語る』 https://twitter.com/pherim/status/1320514182706417664
『トークバック 沈黙を破る女たち』(『プリズン・サークル』坂上香監督前作、記事内にて言及)
http://www.kirishin.com/2020/01/30/40675/
『エクソダス』
イラン-アフガン国境の出国管理所。経済の波と国家の壁に揺れる人々の断片を摘むバフマン・キアロスタミ監督作。
あの巨匠の息子が、カメラの暴力を遺憾なく振る舞う仕草にまず驚く。12歳少年が官吏に問われ「イランではクズ拾い、アフガンでは学校」と笑って去る場面は殊に沁みる。
"Exodus" https://twitter.com/pherim/status/1334329984970702848
『ある夏の記録』でジャン・ルーシュは、パリの若者達が人生や政治を巡って議論を交わすなか進行する映画制作そのものを写しとる。一貫した楽天的なムードの下、白昼のコンコルド広場を歩く女性がふとホロコースト犠牲者の父へと語りだすシーンが纏う、見えないものへ向き合おうとする表現意志に震撼。
"Chronique d'un été" "Chronicle of a Summer" https://twitter.com/pherim/status/903414888373960704
『ある夏の記録』冒頭、女性二人が「あなたは幸せですか」と道行く人へ尋ねる。伊丹十三が同じことをする映像を以前観たけれど、元ネタこれかと。またアフリカばかり撮るルーシュに「自分の部族を撮れ」とエドガール・モランが促したのが本作の起点とか。なるほどあの雑踏での距離感は人類学由来かと。
『なにがあっても大丈夫』https://twitter.com/pherim/status/1334288309892182018
余談。
《ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2020》上映作の一つ
『二重のまち/交代地のうたを編む』は新春全国公開予定ゆえ、別立てで近日ツイート予定。
コロナ禍オンライン配信についていこう、次観られる機会あるかわからない作品はできるだけ観ていこうとしたところ、こういう時期もあっていいかな、という度を越してアップアップした冬の入り口。仕事につながり得るという言い訳も弱くなった感あり(コロナ余波で新規の原稿依頼が来るような気配がかなり薄れるなど)、また「ことし1年は映画に特化してみよう」との方針立てた2020年も終わりに近づいたためもあり、またシフトチェンジの時期ですのと心密かにおもうなど。
映画についても来年は、書くほうへ重心を移す見込みです。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh