pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2021年
04月10日
13:31

ふぃるめも171 水を抱く迷宮の上で

 
 

 今回は、4月9日~4月16日の日本上映開始作を中心に、11作品を扱います。(含再掲1作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第171弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■4月9日公開作

『ザ・スイッチ』

女子高生とシリアル・キラーおじさんの心と体が入れ換わるホラー版『君の名は。』、外見おっさんで中身は少女キャラがズルいくらいに全編笑える。
同じ監督クリストファー・ランドンが、『ハッピー・デス・デイ』+2Uでできなかったことを詰め込んだような変奏曲の趣き随所にあり。

"Freaky" https://twitter.com/pherim/status/1377957798462382080

『ハッピー・デス・デイ』&『ハッピー・デス・デイ 2U』は現在アマプラU-NEXT他で視聴可能。極私的に続編の『2U』はタイムリープが絡むかなり好みな展開で、『時をかける少女』よりも過激な、いわば学園ラブコメ版『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。

  『ハッピー・デス・デイ 2U』 https://twitter.com/pherim/status/1147685201033613312
  
※ジェイソン・ブラム製作+クリストファー・ランドン監督の組み合わせについては下記ツイート+RT先ツリーにて。↓(含パラノーマル系)
https://twitter.com/pherim/status/1347436335246630912




『街の上で』
下北沢に暮らす青年の日常と非日常。
古着屋で働き、古本屋と行きつけのカフェやバーへ出入りする、日々の淡々とした描写が、不意に生じる亀裂の一閃を輝かせる。下北沢だけで充足する男の垣間見る、熱く鋭い未知への兆し。再開発の今重ねるにこの主人公、擬人化された街そのものとさえ。

"" https://twitter.com/pherim/status/1378335473408466948

いま始まった。『街の上で』公開前日インスタライヴ
若葉竜也 主演(在宅)
x 今泉力哉 監督(どこかの山手線駅ちか路上)
https://instagram.com/rikiyaimaizumi/live/

  今泉力哉短篇3作連ツイ:
  『TUESDAYGIRL』 https://twitter.com/pherim/status/1319272881314918401
  『堀切さん、風邪をひく』 https://twitter.com/pherim/status/1319555548862279680
  『微温(ぬるま)』 https://twitter.com/pherim/status/1320185988992303104

  



『21ブリッジ』
マンハッタンに懸かる全ての橋を一晩封鎖、凶悪犯を追い込む辣腕刑事が、より奥底に潜む巨悪と対峙する。
癌で早逝したチャドウィック・ボーズマン遺作。製作を兼ね、己のギャラを他の俳優へ回して実現させた本作中で幾度も放たれる硬質の気焔に、死を覚悟した者ゆえの凄味をみる。

"21 Bridges" https://twitter.com/pherim/status/1379277445228994566 
 



『アンモナイトの目覚め』
シアーシャ・ローナン双眸に宿る気炎
vs ケイト・ウィンスレット練熟の気魄。
手に職ある女の誇りと、他者に支配された女の絶望とが時代的制約のもと昇華を遂げる点で『燃ゆる女の肖像』を継ぐ本作、さすが『ゴッズ・オウン・カントリー』監督フランシス・リーの新作と唸らされるしかない自然景の秀逸。

"Ammonite" https://twitter.com/pherim/status/1378553008695304193

  『ゴッズ・オウン・カントリー』 https://twitter.com/pherim/status/1087539220552474625
  『燃ゆる女の肖像』 https://twitter.com/pherim/status/1332916626879094784

 


 
『レッド・スネイク』
女性だけで構成された対IS特殊部隊《蛇の旅団》と、クルド人ヤジディ教徒の村で家族を殺されたザラの物語。
少数派の村民が味わう絶望、国際色豊かな旅団の面々、誘拐され洗脳教育を受ける少年兵と導師化するIS士官など、クルディスタンにおける紛争の諸相巡る再現描写が鮮烈。

"Soeurs d'armes" "Sisters in Arms" "Red Snake" https://twitter.com/pherim/status/1380357252146634753 

家族を惨殺・誘拐されたクルド人女性が兵士となり、行方不明の子供が敵対勢力の兵士となるなど酷似する設定が多い『バハールの涙』に比べると、モサドから元米兵まで構成員の多様さと、戦闘アクション主体ながらヤジディ教徒の苦渋など背景説明の多弁ぶりが目立つ。

  『バハールの涙』 https://twitter.com/pherim/status/1084289785571639296
  拙稿「太陽の少女たち」 http://www.kirishin.com/2019/01/18/22262/


それはそうとISに限らず、いわゆるイスラーム過激派が映画に登場する際には、しばしばその指揮官が導師(グル)化する。もちろん現実の反映という面はあれど、賢者の元型的表象とでもいうか物語る上での必然的結晶作用をそこにみる。

あと少年誘拐→洗脳軍事教育の流れはISに限らずポルポトからボコハラムまで広くみられる軍需調達の様式だけれど、中東のそれはオスマン帝国の精鋭兵イェニチェリをどこか彷彿とさせる。オスマンの残滓が、現役の作り手や現地人ないしゲリラ構成員の深層意識になお作用するということはあるのだろうか。




『ハウス・イン・ザ・フィールズ』
モロッコの山奥に暮らすアマジグ族姉妹の、穏やかにして鮮やかな日々。
嫁に行く姉を想う妹の囁きは詩そのもの。姉妹の母は「あなたはタクシーにラジオを積んで帰ってきた」と、かつて仏独の炭鉱で働いた夫を歌う。はにかむ笑顔、包み込む光、映画というこの幸福。

"House in the Fields" "Tigmi Nigren" https://twitter.com/pherim/status/1380153465511555079  

『ハウス・イン・ザ・フィールズ』監督タラ・ハディドは、かのザラ・ハディドの姪。
素朴なカット絵に反し映像と音の作り込みが尋常でなく、柔和な流れの底に確かな構築性を感じさせる。またドキュメンタリー/フィクションのあわいを採る手つきに透徹した知性の煌めきを感覚、これは今後が気になる。




『ザ・バッド・ガイズ』
マ・ドンソク主演新作。
凶悪犯の集団逃亡事件を解決すべく、突出した才能をもつ服役囚を集めた捜査班が結成される。《毒をもって毒を制す》の思いつき通りにはならない、強烈な個性同士の衝突が楽しい。
マブリーのマブリーによるマブリーファンのための腕力特化型痛快作。

"나쁜 녀석들: THE MOVIE" "The Bad Guys: Reign of Chaos" https://twitter.com/pherim/status/1379626934926143488  




■4月16日公開作

『約束の宇宙(そら)』

宇宙飛行士ママによる、子育てと大気圏突破の両立物語。
淡々と進行する訓練過程と、単に母であるというだけで降りかかる多事多難とのギャップが鮮烈で、飛行士たることと母たることに序列を置かない語り口は新しい。
バイコヌール宇宙基地や欧州宇宙機関等がロケ撮され眼福。

"Proxima" https://twitter.com/pherim/status/1380714316802887682

『約束の宇宙(そら)』エンドロールでは宇宙&子育ての両立をやり遂げた《実在の宇宙飛行士ママ列伝》が展開、半世紀前に遡る胸熱の写真群で、そこに山崎直子さん@Astro_Naokoも登場する。
昔NHKだか情熱大陸だかで観た山崎回は、まさにこの映画のドキュメンタリー版だったな。

「宇宙飛行士も完璧ではない」って言ってますけど、ほんと何しても過不足なくやり遂げますよね完璧なのでは。ってな動画感想小並感。

『約束の宇宙(そら)』でいよいよ発射が近づき、大気中の細菌やウイルス警戒のため飛行士の外界へのアクセスが禁じられる場面がある。
抱きつこうとする幼児を、帰宅した看護師パパが拒絶して泣き崩れるコロナ動画も想起され、子育てパパ宇宙飛行士の映画が“ふつうに”登場するのはいつかななど思う。




『AVA/エヴァ』
ジェシカ・チャステイン主演新作。
『女神の見えざる手』他のひりつくような冷酷さ計算高さが研ぎ澄まされつつ、実は真逆で感情の振り幅極大の女アサシン、という設定は新鮮。
一方コリン・ファレル、歳を経るごと腹黒男の小狡さ演技に磨きがかかり、どこへ辿り着くのか興味深い。

"AVA" https://twitter.com/pherim/status/1381454469083238401 




■日本公開中作品

『水を抱く女』

裏切った男の命を奪う水の精霊ウンディーネと同じ名をもつ史学者の愛。街の歴史と湖の底の闇。
ドイツ映画を牽引するペッツォルトが、神話を下地に現代ベルリンを撮るとこうなるのかと驚く。全編にバッハ充溢。色調の抑えられた万華鏡を内に宿す、精巧なドイツ製玉手箱を覗きみた感。

"Undine" https://twitter.com/pherim/status/1381082356879032322

  クリスティアン・ペッツォルト前作『未来を乗り換えた男』
  https://twitter.com/pherim/status/1081535150544932864


『未来を乗り換えた男』を観た際は、クリスティアン・ペッツォルトという固有名をまったく意識しないまま特異な語り口に驚いたのだけれど、「リアリズムを貫徹する映像だからこそ、目に見えない歴史の幽霊が一層不気味な光彩を帯び迫り来る」は『水を抱く女』にもそのまま当て嵌まる。歴史の幽霊。

『水を抱く女』を観ながら、アピチャッポンが幾度か想起された。都市と森の違いはあれど、何の違和感もなく人と精霊が同居している“常態”から現代社会のリアルを逆照射する姿勢、なのかな。『ブンミおじさんの森』とか『トロピカル・マラディ』、『世紀の光』の病院建物と医療器具の醸す虚数的な存在感も。

  アピチャッポン映画連ツイ(他にもある):
   https://twitter.com/pherim/status/699900485189251072
   https://twitter.com/pherim/status/698651415372107777
   https://twitter.com/pherim/status/700807039543455744
   https://twitter.com/pherim/status/924951926436806656

  
  
  
 
■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『海底47m 古代マヤの死の迷宮』

洞窟ダイヴへ挑むガールズ4人組が、無謀にも水底のマヤ遺跡を奥へ進んでびっくり。
低予算サメ映画快作『海底47m』監督による後継作。制約下のリアリティ追求が迫真性を生んだ元祖に比べ、水へ潜った瞬間から各方面へ媚びだす演出が残念。B級進化したサメは和める。

"47 Meters Down: Uncaged" https://twitter.com/pherim/status/1381842800388448256

  『海底47m』 https://twitter.com/pherim/status/893735487411638272
  

  


 余談。『街の上で』を試写で観たのは一年前の春先だった気がする。マスコミ試写には珍しくスタッフや出演者が大勢いて、誰とは書けないけれど手洗いで中心人物のひとりが隣に立って軽く会釈したりもして、映画自体が試写室からそう遠くない下北沢を自然に描いている作品というのも手伝って、そこから抜け出てきた/迷い込んだようでとても不思議な感覚だった。

 RTした公開前夜のインスタライヴ(上述)、ながら作業で自分も観たけれど、コロナ延期した本作の撮影時と今とでは監督と主演俳優どちらの立ち位置もだいぶ変わり、てかわかりやすく言えばブレイク前後ってくらいに変わったはずだけれど、素っ気なく中華料理屋や工場のバイト話を始めていて和む。抜けのあるこの感じは、芸能事務所や代理店作法に雁字搦めの日本映画には貴重よなって思うしほんと、大事なこと。
 




おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh

コメント

2021年
04月10日
14:13

下北沢、この十数年間、絶対に欠かすことなく毎週月水金に通ってますが、映画やドラマになるような街だとは気づかないです。まあ、なんか若者が多いなとは思ってますが。気づかない人間にはそんなものなんでしょうね。

2021年
04月10日
17:29

下北沢のカフェとか古着屋でバイト生活、というのは周辺の大学・専門学校生のある種あこがれのライフスタイルになってますね。

岡崎京子の時代からすでにそうでしたけど、渋谷がファッションの街と言われても地元商店会の古老たちにはピンと来ないとしても当然だろうなと思うし、新海誠の新宿キレイキレイアニメ群は自分でもマジかーって感じました。そんなもんなんでしょうね。

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