pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2021年
04月17日
00:22

ふぃるめも172 踊る十日ときみの百年

 
 

 今回は、4月17日~4月24日の日本上映開始作と、《トーマス・ハイゼ レトロスペクティブ [初期作品特集]》上映作などから11作品を扱います。(含短編3作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第172弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)

 

■4月17日公開作

『風が踊る』 (風兒踢踏踩, 1981)
女性カメラマン・シンホエと、
視力を失った青年チンタイの恋。
侯孝賢/ホウ・シャオシェン第2作。前半に映り込む80年代の若者文化、田舎の学校へ赴任する後半ともバブル期日本より落ち着きが感じられ、恋仇もいながらふわりとした語り口とあわせ台湾味堪能の逸品。

"風兒踢踏踩" "Cheerful Wind"

→デジタル・リマスター版上映@台湾巨匠傑作選2021:https://taiwan-kyosho2021.com/




『きみが死んだあとで』
1967年第1次羽田闘争で落命した京大生・山崎博昭への追想と、のち過激化した学生運動への再考。音楽・大友良英。
余りにも強烈な数年間を共有した人々の相貌。三田誠広や詩人の佐々木幹郎はじめ、同じ高校の同学年から輩出した多士済々を未だ生かす一個の死の重力に慄える。

"" https://twitter.com/pherim/status/1382918473861324801 

『きみが死んだあとで』の冒頭部ですでに、この熱を自分は知っている、と感じだしていた。それは自分の学生時代ではなく、震災後の国会前デモなどでもない。バンコクで巻き込まれ、香港や台湾で歩いた、サトーンやエラワン廟前交差点封鎖の反政府デモ、雨傘や太陽花學運のそれだ。

  雨傘RT付き香港滞在連ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1160735992086589443

『きみが死んだあとで』の主要登場人物・三田誠広の『僕って何』や『いちご同盟』は十代の頃に読んで面食らった記憶があり、佐々木幹郎さんには現代美術系の私的勉強会で幾度かお話を伺った機会があり、代島治彦監督前作『三里塚のイカロス』と併せそう繋がるかという意外なる納得感。

  『三里塚のイカロス』 https://twitter.com/pherim/status/905760844067123200

 


■4月23日公開作

『ブックセラーズ』

ニューヨーク古書ビジネスの今昔物語。
過去の絢爛に対し、未来話は電子化とネット圧力に暮れなずむかと思ったら、革装本や稀覯本の物としての魅力へ焦点化する後半がむしろ眼福。
暗い顔でもどこか楽しげな古書人たち良い。フラン・レボウィッツ女史の喋り倒しも素敵スパイス。

"The Booksellers" https://twitter.com/pherim/status/1383253374863167490 
 
神田の老舗古書店の重鎮たちが揃い踏みする映画はぜひ観たい。
同じNY舞台の楽器屋ドキュメンタリー『カーマイン・ストリート・ギター』も想起され。

  『カーマイン・ストリート・ギター』 https://twitter.com/pherim/status/1160039030085435392

「フラン・レボウィッツ女史の喋り倒し」については、彼女が主役のNetflix番組 by スコセッシを巡り後日別立てツイート予定。

  『都市を歩くように フラン・レボウィッツの視点』
   https://www.netflix.com/title/81078137

 

 
『SNS 少女たちの10日間』
12歳の少女に扮した3人の女優が各々SNSで友達募集。
すると10日で2458名の男達から連絡が。
劣情の抑制を知らない面々の異様さがはじめ際立つも、やがて彼らの扱いに長けゆく3人へ感心し、後半の意外なツイスト展開まで飽きさせない。映り込むチェコの社会状況も興味深い。

"V síti" https://twitter.com/pherim/status/1383616497222766595

「意外なツイスト展開」について説明。相手が12歳の少女だと思い込み誘いをかける男達に犯罪性は無論あるのだが、実際には成人女優側が騙している以上、一部の脅迫男を除けば法的な犯罪とは言えないケースあり。直接対面する後半、このねじれが予想外の局面を引き出してくる。




■4月24日公開作

『ハイゼ家 百年』

旧東独出身監督トーマス・ハイゼの家族が残した、
膨大な手紙や写真群。
戦争の世を憂う祖父14歳時の作文、強制収容所で書かれた父の手紙、奔放な母の足跡、秘密警察との交接。
世紀をまたぐ定点観察から浮かびあがる、固有名を突き抜けた“Heimat (≒故郷)”の奥行きに息を呑む。

"Heimat ist ein Raum aus Zeit" "Heimat Is a Space in Time" https://twitter.com/pherim/status/1378910745975431171




■トーマス・ハイゼ レトロスペクティブ <初期作品特集> @ゲーテ・インスティトゥート東京 4/3
 https://www.goethe.de/ins/jp/ja/ver.cfm?fuseaction=events...

『一体何故この連中の映画を作るのか?』(1980年36分)
東ベルリンの不良兄弟を自宅に訪ねる本作への、映画大学教官のコメントをそのままタイトルとした学生ハイゼ、結果大学≒映画界との関係悪化へ至った反骨の実習作。
淡々と過去の悪行を並べる兄弟と、老母の穏やかな佇まいとが同居する様は奥ゆかしい。

"Wozu denn über diese Leute einen Film?" https://twitter.com/pherim/status/1381213097424134147




『家』(1984年56分)
ベルリンの壁崩壊5年前に撮られた、東ドイツの役所窓口での人間模様。
旧東側をめぐる一般的イメージとは真逆をゆく人々の多様さ、カメラの前で見せる喜怒哀楽の自然さ。新郎新婦だけの結婚式場面は特に印象的。公務員による宗教性を省いた誓いの文言や、壁のホーネッカー肖像画など。

"Das Haus 1984" https://twitter.com/pherim/status/1381922861435154432 




『人民警察』(1985年60分)
旧東独の警察内部。警官たちがイキイキと素の人間臭さを晒す光景に驚愕。また警察建物ゆえに硬質な内装デザインへ紛れ込む、独特の社会主義テイストがたまらない。
人民警官になりたいと目を輝かせる少年、数年後には夢の終わりゆくリアルが薄白いベールと化し隔世の感奏でる1985年作。

"Volkspolizei 1985" https://twitter.com/pherim/status/1383383771827773440




『マテリアル』(2009年166分)
再統一を挟む東独十年の諸相。壁崩壊直前の東ベルリン議会前広場での集会は、歴史が沸点を超える瞬間を見るようで胸熱。
劇場稽古、警察会合、囚人の独白。素の暴力性をむき出すネオナチ青年団と、対峙する善良然とした市民集団が晒す抑圧的欲望との対比は皮肉かつグロテスク。

"Material" https://twitter.com/pherim/status/1384359274386653185 




■日本未公開作

上記『マテリアル』(Material)や、次にツイートする“Gegenwart (現在)”含む、トーマス・ハイゼ作品の幾らかが本人のVimeo channelで観られる。
https://vimeo.com/thomasheise
セリフなし65分作の“Gegenwart”は特にオススメ。音やカットの繋ぎに極度の繊細さが編み込まれ、全編静謐ながら一切の弛緩がない。

“Gegenwart”(2012/65min)
工場かビルの地下管理区画のような場所で、淡々と作業する人々。台詞は一切ない。何かの計器ボタンが映り、焼却設備が映る。火葬場だとわかる。
X'mas休暇中の職場は棺桶が渋滞して忙しい。日常の流れ作業と死。冒頭の雪降る荒野と、踊る人々映す終幕で本編挟む演出の切れ。

"Gegenwart"

※全編オンライン視聴可。https://vimeo.com/160442660
 字幕不要の内容。


“Nachtmusik”(2018/13min)
夜闇の屋外で、画面中央のみが照らされいかにも南米原住民という風の民族衣装を着た高齢の男女が一人ずつ立ち、順に歌い奏でる。特徴的な片手太鼓や角笛と、独特の発声とリズム。付帯情報を一切調べず観た。とりあえず、アルゼンチン北端ボリビア国境域Tinkunakuの先住民Kolla族の人々であるらしい。(以後縁あれば、拾う関連情報もあるだろう)
https://vimeo.com/239312254 ※youtube見当たらず
"Nachtmusik"  



 
 
 余談。トーマス・ハイゼ監督作“Gegenwart”は、上述ゲーテでのレトロスペクティヴ上映日に渋谷哲也さんが一押ししていたので観てびっくり。“Nachtmusik”はたまたま再生ボタンを押したらモノが意外すぎて気になった、という程度の。同監督のvimeoチャンネルには他にも観たいものがあり、後日追記に及ぶ所存なり。

 あと、ここふぃるめもでは1時間以上を長編、1時間未満を短編と一応の定義を今更。172回目にして。70分台の映画はよくありますしの。つまり56分作の『家』は短編で、60分作の『人民警察』は長編とカウントします。「ふぃるめも1回は長編10本をベースに、短編は基本2本以上を長編1本とカウント、端数は前後回で調整」(再掲作はカウント外)という作業を実はずっと続けているので、一応の。





おしまい。
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