pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2021年
04月30日
20:22

ふぃるめも173 イスラーム映画祭6上映全作

 
 

 今回は、イスラーム映画祭6(東京2021/2/20-3/5+α, 名古屋3/20-26, 神戸5/1-7)全上映14作品を扱います。(含再掲4作)
 
  イスラーム映画祭6公式HP:http://islamicff.com/
  ※東京上映2週目は緊急事態宣言により延期、今後開催予定。

  拙稿「イスラーム映画祭6主宰・藤本高之さんインタビュー」:
  http://www.kirishin.com/2021/02/19/47470/


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第173弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
『ザ・タワー』
新世代が家庭を築くたび、手作業で高層化しゆくベイルートのパレスチナ難民キャンプを、11歳の少女ワルディが闊歩する。
その中腹から、視線の上下だけで各世代のリアルを一望する中盤のショットが神懸かり的。ナクバ(大災厄)から70年、2次元アニメで回想される過去との対照は鮮烈。

"Tårnet" "البرج" "Wardi" "The Tower" https://twitter.com/pherim/status/1364533508589322244 

『ザ・タワー』は全編アラビア語のパレスチナ方言で、難民各世代の克明な内面描写と併せその当事者性の強さが印象的。ところが監督Mats Grorudは76年生まれのノルウェー人、難民キャンプ勤めの母からの影響との由。レバノン舞台の傑作アニメ『戦場でワルツを』に比肩する深度。

  『戦場でワルツを』 https://twitter.com/pherim/status/1365219524161675266




『私の娘の香り』
トルコ南部に唯一残るアルメニア人の村で、ISの傷負うクルド人少女と、テロで家族を失くしたアルメニア系仏人女性が出会う。
難民キャンプに少女の姉を探す2人の旅路。随伴するトルコ人男性の両親もまたテロの犠牲者で、重奏化する迫害の残響下、幽かに煌めく希望はひたすら熱い。

"Kızım Gibi Kokuyorsun" "Scent Of My Daughter" https://twitter.com/pherim/status/1381578292755529730




『汝は二十歳で死ぬ』
スーフィズムが根づくスーダンの村で、出生時に導師から「この子は二十歳で死ぬ」と予言された少年とその母。
孤立する母子の生活に風穴を開ける男の、マレビトゆえの軽さと視野の広さは象徴的で、運命論に支配された狭い村こそバシール独裁下スーダンそのものと気づかされる。

"ستموت في العشرين‎" "You Will Die at Twenty" https://twitter.com/pherim/status/1383772514757713922 
 
『汝は二十歳で死ぬ』、母のどっしりとした存在感と、息子のため懸命に奔走する姿にコンゴ発の秀作『わたしは、幸福(フェリシテ)』が想起され。

  『わたしは、幸福(フェリシテ)』 https://twitter.com/pherim/status/944764961183506433
 



『結婚式、10日前』
内戦で延期された結婚を前に試練が襲う若い2人。
イエメンで初めて国内製作→国内公開された作品で、内線下に撮影された緊張感が全編に充ちる。第2夫人にしようと花嫁簒奪を目論む大家のギトギトした強欲など脇役個性も凄い。予告動画がアツいのでみて↓

"تريلر فيلم 10 أيام قبل الزفة" "10 Days Before the Wedding" https://twitter.com/pherim/status/1385431884386107397




『痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者』
ドイツの森を走る車道脇で花を売るトルコ移民の男性が、銃撃で命を落とす。
移民同士の揉め事とみて家族を容疑者にさえした警察と、連続殺人の凶行に及んでいたネオナチ過激派に通底する偏見の分厚さ。ペッツォルトの妻アイスン・バデムソイ監督作。

"Spuren - Die Opfer des NSU" https://twitter.com/pherim/status/1389236695275499528

『痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者』監督アイスン・バデムソイはトルコ生まれ。本作から想起されたのはトルコ移民2世のファティ・アキン『女は二度決断する』。

  『女は二度決断する』 https://twitter.com/pherim/status/989812428983562241

こちらでは妻を白人とする脚本が移民排斥の諸相を精彩に際立たせたけれど、地でいく事件&構成だなと。


『シェヘラザードの日記』
レバノンの女性刑務所における演劇セラピー模様。
牢内なのに皆パワフル&奔放で驚かされる。
強制婚からDVまで炙り出される苦境はまさに、千夜一夜を語り通すシェヘラザードの中世そのもの。収監へ至る壮絶な来し方に、現代社会の暗部を凝縮させたような普遍性を感覚する。

"يوميّات شهرزاد" "Yawmiyat Scheherazade" "Scheherazade's Diary" https://twitter.com/pherim/status/1387783225133596676

『シェヘラザードの日記』からの連想作品としてはイランの『少女は夜明けに夢をみる』や『プリズン・サークル』(拙企画記事http://kirishin.com/2020/01/30/40675/)の坂上香監督
@KaoriSakagami
が女性受刑者劇団を撮る『トークバック 沈黙を破る女たち』も記憶に新しい。監獄と演技の再生力。

  『少女は夜明けに夢をみる』: https://twitter.com/pherim/status/1190093731157827584
   拙稿 メヘルダード・オスコウイ監督インタビュー: https://twitter.com/pherim/status/1207974612560015362
   拙稿 坂上香監督インタビュー: http://www.kirishin.com/2020/01/30/40675/

  
『シェヘラザードの日記』の特色は、演劇セラピー指導者が映画も監督している点(ゼイナ・ダッカーシュ監督@zeinadaccache)も。後日追記するかも。




『青い空、碧の海、真っ赤な大地』
インド西南端ケーララ州から、
北東州ナガランドへの男2人のバイク旅。
突如姿を消した恋人を追う旅なのに、途上で出逢う女性達が激しく魅力的。マラヤーラム語を軸に登場言語実に9語の豊穣、『モーターサイクル・ダイアリーズ』を正しく継承するインド小宇宙版。

"Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi"
 



『長い旅』
息子「なぜ飛行機では駄目なんだ」
父「海の水は天に昇るまでゆっくりと清められる。巡礼も同じだ。飛行機よりも列車が、列車よりも車がいい。旅の間、魂は少しずつ浄化される。お前の祖父は徒歩で旅立った。俺は毎日丘に登って父の帰りを待っていた。巡礼から戻る父の姿を最初に見たかったからだ」

フランスからメッカへ、モロッコ系移民で敬虔なムスリムの父と、信仰心のない息子による衝突と宥和の旅路。シリアス&コミカルな父子のドラマ良し、欧州~アラビア半島のロードムービー眼福で、カーバ神殿へ至る終盤描写はまさに圧巻。

"Le Grand Voyage" https://twitter.com/pherim/status/1382540836693413891

  2016年初見時連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/771971004423897089
  (アテネ・フランセ上映特集『現代ヨーロッパ映画(その1)-移民・難民・越境・辺境・マイノリティ』)





『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』
イスラーム開祖ムハンマドの事績描く大作’76。ハリウッド俳優版と同時に製作されながら幻の存在と化していたアラブ・キャスト版。聖遷を経たメッカ奪還までの攻防が軸で、多神教時代のカーバ神殿再現めっちゃ見入る。図像化禁忌のムハンマドへの視覚憑依に謎感動。

"" https://twitter.com/pherim/status/1363123651537559552
 
  初見時連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1239127421598613504

“『アル・リサーラ』のムハンマド視覚移入は図像化に相当しない”が端的な根拠になるかと。ただ「なぜお目をそらすのです!」と信徒が視界に居座ろうとする仕草などVR体験に近い新鮮さがあり、アラブ文学者の岡真理さんに立ち話で質問したところ「私も同じことを感じた」と。(続

ムハンマドの視覚簒奪との反感も誘いそうなほどにコントロール感伴う『アル・リサーラ』のこの演出に対しては、私見を言えばクルアーン井筒俊彦訳が“解釈”とみなされ許容されるのに近い感覚が働くのかなと。シーア派初代イマームのアリーなど、躍動する叉裂き剣に覇気宿る表現が滅茶カッコ良かった。

それで岡真理さんへ尋ねた主旨は、ムハンマドの偶像化よりも記号化寄りの、映画よりは文学へ傾くものだったけど、慌しい場に相応しいものではなかったし、『アル・リサーラ』上映後トーク登壇者の方が岡さんへ声をかけたのを機に身を引いた。お話を聞けて良かったです。感謝。

『アル・リサーラ』トークはシリア人ジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさん。作品解説とムスタファ・アッカド監督の遍歴語る前半は絶妙な冗談で会場を沸かせ続け、アレッポの惨状語る後半は涙ぐみ言葉に詰まる一幕も。恐縮されていたが、具体言及伴うこの振幅こそ強烈な“メッセージ”を体現してた。

アッカド監督が爆弾テロに斃れたとの話に、岡真理さんの本を読む機縁となった演出家ガンナームの師匠カナファーニー爆死を想起。想起の場こそ大切と感じるゆえ、ナジーブさん激推し“シリア大空襲”参加投稿は、伊達男エドワード・サイード大写しにて。

『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』に登場する多神教時代のカーバ(カアバ)神殿。周囲の地べたが覗けるこの構図、みた瞬間に心あたりがと感じたら、直近のコロナ報道だったという。https://afpbb.com/articles/-/3271944

神殿内部の偶像が原始的でおどろおどろしく、いかにも邪教っぽい造形でちょっと笑いました。




『ラシーダ』
アルジェ近郊の女性教師が、過激派の若者から学校への爆弾設置を強要される。
アルジェリア映画初の女性監督作で、爆弾の製造から凶行へ至る冒頭に始まり、村のハマーム(公衆浴場)や結婚式などディティール演出も目を惹く、『パピチャ』前史とも言える迫真作。

"رشيدة" "Rachida" https://twitter.com/pherim/status/1388497137755856898

  『パピチャ 未来へのランウェイ』 https://twitter.com/pherim/status/1320682389299867648




『マリアの息子』
イランの片田舎、流麗にアザーンを唱える少年は、村のカトリック教会に立つマリア像へ母の面影をみる。病に倒れた神父のため少年が奔走するいかにもイランイランした本作は、しかし子供の目を通すことで信仰と心の本来性を鮮やかに問い直し、アクションも地味に頑張る意欲作でした。
[動画見当たらず]
"ﭕﺴﺮ مريم" "Son of Maryam" https://twitter.com/pherim/status/1387351923121033217
 
 
イランの多宗教混淆模様を描く本作、田園風景も目に嬉しく、舞台はアゼルバイジャン&アルメニア国境(&ウルミエ湖)近くの村。
主人公の母の名がマリアムで、コーランにも登場するイエス=イーサーの母マリアと同名。正教でなくカトリック教会なのも興味深い。

  2017年初見時連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/821325732970270721




『ミナは歩いてゆく』
アフガニスタンの今を生きるミナ12歳の溌溂。
母をタリバンに殺され、父は麻薬中毒。アルツハイマーの祖父を世話し路上で物売りする日々のせわしさの先で待つ、身を売られるか全てを捨てるかの究極選択。
ミナ役少女の佇まいが放つガッツと生命力に終始魅入られる怒涛の珠玉作。

"Mina Walking"

  『ボクシング・フォー・フリーダム』 https://twitter.com/pherim/status/979581355825668097
  『ソニータ』 https://twitter.com/pherim/status/919715708321243136





『孤島の葬列』
バンコクに暮らす今風の若者3人が、
タイ深南部へと旅するロード・ムービー。
旅が深まるに従いおびえだす非ムスリムのトーイが、バンコクと深南部との心理的距離を象徴する。謎の離島へ渡る後半の神秘展開にふさわしい存在感を放つ“伯母”の華僑語りに『地獄の黙示録』の深淵をみる。

"มหาสมุทรและสุสาน" "The Island Funeral"  
  
『孤島の葬列』の女性監督Pimpaka Towiraがディレクターを務めた「タイ深南部若手映画制作者プロジェクト」は、全編日本語字幕つきで2020年インターネット上映された。また『孤島の葬列』共同脚本のKong Rithdeeは『改宗』を監督し、日本ではイスラーム映画祭2にて上映。
  
  タイ深南部若手映画制作者プロジェクト短編連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1312201611037483010
  『改宗』:https://twitter.com/pherim/status/823128706956697600

  


 
『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』
アレッポ空爆で家族を失った幼い姉妹の、隣人マリアムとの逃避行。
8歳の姉とマリアムとの心の距離を主軸に描かれる、トルコを通過しゆく難民模様の細部描写が見せる。EU行きボート乗船時マリアムの下す決断が、打ち込まれた楔のように鋭い余韻を残す。

"The Guest: Aleppo - Istanbul" "The Guest: Aleppo to Istanbul" https://twitter.com/pherim/status/1296780536816398336





 余談。冒頭に挙げた主催者インタビュー、建築連載が止まってる現状、恒例感を醸してる唯一の原稿仕事だったりします。それにしてもコロナ禍の本映画祭へのピンポイント爆撃のような精確さは何なのか、と。東京はともかく、ちょうど開催時期に併せて兵庫緊急事態宣言とか。

 ここだけでしか観られない、本当に良い映画を毎回確実に混ぜ込んでくる映画祭です。お近くの方はぜひ。





おしまい。
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