今回は、4月29日~5月14日の日本上映開始作を中心に、18作品を扱います。(含短編10作)
※『海辺の彼女たち』と『海辺の家族たち』、どちらも本稿で扱いますが全くの別作品です。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第174弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■4月29日公開作
『FUNNY BUNNY』
ピンクうさぎのぬいぐるみ男2人による「絶対に借りられない本」をめぐる図書館強盗編。からの、時を経たラジオ局襲撃編。
小劇場演劇のムードや間合いがこれほど絶妙に変換された映画を観るのは初めて。中川大志&関めぐみの輪郭明瞭な演技と、岡山天音のボヤけ感とが好バランス。
"ファニーバニー" https://twitter.com/pherim/status/1385205844258791424
■5月1日公開作
『海辺の彼女たち』
ベトナム人女性3人のたどり着く場所。
孤立、戸惑い、希望、悲嘆。
異境の夜を生き抜く3人の表情へ密着し続ける藤元明緒監督新作。技能実習制度の実態を声高には訴えず丹念に掬い撮る。
偽造IDを使わざるを得ない状況へと至る必然。
現実的決断ゆえにこそ考えさせる終幕の秀逸。
"Along the Sea" https://twitter.com/pherim/status/1386895322585001992
終幕における選択は考えさせる。反感をもつひともいるだろう一方で現実的にはそれしかない。その現実の狭さこそ問題だという表現。
拙稿「最果ての彼女たち」 http://www.kirishin.com/2021/06/13/49370/
■5月7日公開作
『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』
妻を無自覚に軽くみていたスター小説家が迷い込んだ並行世界では、有名ピアニストとなった妻に過去の男と扱われ。
多世界展開が“いまここ”を見つめ直す契機となる流れって、どうしてこうも秀作揃いになるのかと不思議で仕方ない (大好きだ)。
"Mon inconnue" "Love at Second Sight" https://twitter.com/pherim/status/1383978590874705927
『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』の作品評では、『アバウト・タイム』や『エターナル・サンシャイン』への類似言及が多いけれど、本作が全面的に依拠するのは『天使のくれた時間』。
男女の逆転構図や、主人公の書くSF小説がガルシア=マルケス的に現実へ貫入しだす点は今日的。
(画像比較→
https://twitter.com/pherim/status/1388339787535458306)
で、『時をかける少女』なんかも広くはこの流れの一粒と言えるけれど、そのなかで超絶お勧めしたいのは『COMET/コメット』だ、とあまりにも知られてないのでひっそり書きつけておく。日本ではほとんど上映されなかった本作、『MR. ROBOT』のSam Esmail監督初期作よ~。
『ジェントルメン』
ガイ・リッチー監督&マシュー・マコノヒー主演新作。
英国没落貴族と暗黒マネーが手を結ぶクライム活劇。
ヒュー・グラントやチャーリー・ハナム、コリン・ファレル、ヘンリー・ゴールディングら渋面中年俳優たちが逐一セコくて笑えて、地味に風刺も鋭く最終的には皆カッコ良い。
"The Gentlemen" https://twitter.com/pherim/status/1387955157292310531
『ローグ』
猛獣 vs 傭兵。
南アフリカの大地で、過激派拠点から知事の娘を奪還する傭兵部隊、反撃するテロリスト集団。
というサバイバル・アクションに始まり、中盤ワニアタックからの母ライオン格闘が本編、胸熱。人身売買やトロフィーハンティングの暴虐を背景に置く社会派志向が地味に利く。
"Rogue" https://twitter.com/pherim/status/1387260595225829379
『ローグ』でライオンの毛皮なめし工房へ凝縮されるトロフィー・ハンティングのグロテスクさに、映画『サファリ』の研ぎ澄まされた風刺が想い起こされる。
“彼らだけが悪者なのか”という問いは結局、イスラーム過激派も多国籍企業操る富裕層も突き抜け観客自身を貫いてくる。
『サファリ』4連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/956855821287043072
■5月8日公開作
『アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.2 川本喜八郎監督特集上映』(4K修復版)
なるほどこれは神。
人形劇三国志で著名な川本喜八郎、切り絵調の2次元作『詩人の生涯』の空想的社会主義風味な暗黒描写が圧巻。
『道成寺』の若僧に追いすがる夜叉の恐怖演出はトラウマ級。声・黒柳徹子の擬態音も楽しい。
"" https://twitter.com/pherim/status/1388688914399973376
『アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.3 岡本忠成監督特集上映』(4K修復版)
現代の日常に潜む寓話描く前2篇と奇譚系の後3篇、スタイルの自在さに驚く。狐と老婆の親交描く人形劇『おこんじょうるり』に突出した持ち味を感覚。ジブリやシンエヴァへ帰結しない日本アニメの潮流が根太くあるのだなと知る。
"" https://twitter.com/pherim/status/1389534132703678469
■5月14日公開作
『シドニアの騎士 あいつむぐほし』
謎の生命体ガウナから生まれたつむぎと、衛人(モリト)のエースパイロット谷風による身長差15mの恋。
にもまして、ガウナの圧倒的攻勢と叛逆者“落合”の暴虐が招く人類側の絶望感描写に震える。製作時期の重複するシン・エヴァと同期→更新する展開も複数あり、両作の共時性に感銘。
"Kights of Sidonia: Ai Tsumugu Hoshi" https://twitter.com/pherim/status/1386175157861904389
公式が #シドニア完結 と記す意味は観ればわかるのだけれど、別世界線でも時系列遡行でもいいからもっと観たい、とは想わせるシドニア的世界観。
弐瓶勉本来の東亜重工的、すなわち無限空虚宇宙に漂う鋼鉄的硬質味から離陸した鬼っ子つむぎの妙趣。
『ファーザー』
老いて益々盛んなアンソニー・ホプキンスが、
認知症深まりゆく81歳の主観世界へ観客を引きずり込む。
記憶の時系列や顔と名の対応はシャッフルされ、無意識の不安や欲望に現実が歪められ、今どこにいるのかさえ不確定化するこの日常という魔界。キレッキレのタップダンス披露付き。
"The Father" https://twitter.com/pherim/status/1390143589003390983
『ファーザー』の大きな見どころは、燻し銀の脇役達。
実質W主演の長女役Olivia Colman(画像↑前ツイ)に始まり、
『高い城の男』ナチス高官役が光るRufus Sewell↖
貴婦人の含み笑いが比類なきOlivia Williams↗
揺れる瞳に芯潜ませるImogen Poots↙
『シャーロック』の兄役も鮮烈なMark Gatiss↘etc.
→画像:後日追記
『海辺の家族たち』
マルセイユにて家族と他者めぐる物語を紡ぎ続ける監督ロベール・ゲディギャン&主演アリアンヌ・アスカリッド夫妻新作は入り江の小さな町が舞台。
ほどかれゆく兄妹3人の絆が、不意に現れる難民の姉弟3人を匿う決断から変容しだす展開に、地中海性の温もりと“近しさ”を感覚する。
"La villa" "The House by the Sea" https://twitter.com/pherim/status/1390503184217493509
『海辺の家族たち』では、町の上空にそびえる石造りの高架橋を流線型の列車が頻りに往来する。車窓からは一瞬で通り過ぎる端景の内で完結する、実人生を賭けた物語はさながら箱庭。
前半部の騒擾から『たかが世界の終わり』も連想され「たかが橋のたもと」など独りごちおり。
グザヴィエ・ドラン『たかが世界の終わり』 https://twitter.com/pherim/status/828467892534382592
余談。『海辺の彼女たち』と『海辺の家族たち』は純然たる別作品なりよ。公開時期も重ねてきたけどカンペキ偶然と思われ。しかし混同しチケットを買い間違え、あるいは取り違えて映画館に着くケースは確実に生じるでしょうね南無阿彌陀佛。
おしまい。
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