今回は、5月22日~5月28日の日本上映開始作と、《SPAAK! SPAAK! SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ》上映全5作の計10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第176弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■5月22日公開作
『ペトルーニャに祝福を』
北マケドニア映画。32歳独身の主人公女性は、母に促され就職面接へ向かうもセクハラに遭い、帰途遭遇した女人禁制の伝統儀式へ闖入する。
“神は在る、彼女の名はペトルーニャ”が原題直訳。十字架のゆくえを軸に、バルカン正教文化における性差別模様を炙りだす構成の鮮烈。
"Gospod postoi, imeto i’ e Petrunija" "God Exists, Her Name Is Petrunya" https://twitter.com/pherim/status/1395943476534013954
■5月28日公開作
『ローズメイカー 奇跡のバラ』
バラ園主のパワフル頑固おばちゃんと、
更生めざす職業訓練生らの織りなす七転八起。
父から継いだバラ園を救うため、訓練生の前科から突飛な復活策の着想へ至る園主の豪胆さを、練熟のカトリーヌ・フロが熱演。交配過程や業界描写、嗅覚へ訴える演出の工夫に新鮮味。
"La fine fleur" https://twitter.com/pherim/status/1396674738433380353
『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』
《本物》だけがもつこの迫力、臨場感。
教会の天井を突き抜けるゴスペルの歌声に、聴衆が地響きで応答する。ソウルの女王が、実父である著名牧師の前で見せる少女のような照れ笑い。
1972年収録、のち47年お蔵入りした映像が孕む熱量に眩暈する。
"Amazing Grace" https://twitter.com/pherim/status/1395584686177456128
1972年、LAのバプテスト教会で収録された音はアルバム化され300万枚のヒットに。しかし映像は、なんとその後47年もの間保管庫に眠り続けた。当時ドキュメンタリーの製作は未経験であったシドニー・ポラック監督が、撮影のスタートとカットを知らせるカチンコを使用し忘れたためで、デジタル技術が進化する今日までどんな神業編集技師にもこのミスを埋めることは不可能だった。
など『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』をめぐり書きました。↓
拙稿「コロナ禍中に古典を観る」 http://www.kirishin.com/2021/05/25/48831/
『狂猿』
デスマッチの雄・葛西純への密着ドキュメント。
地上波では放送不可の“情熱大陸”極北篇。
血みどろ、傷だらけになりゆく姿を魅せるのが仕事、という狂世界。後楽園6mダイヴを噂に聞く程度の門外漢ゆえ、素朴に皮膚を切り裂きリアル失血三昧と化す光景に言葉失くす。見世物の今日的先鋭態。
"Kyo-en" https://twitter.com/pherim/status/1399571526291099653
『HOKUSAI』
阿部寛演じる版元・蔦屋重三郎が最の高。
歌麿&写楽を世に出した男が振る舞う、のち北斎へ化ける青年の野生を飼い慣らす懐の深さと余裕。
ぱつんぱつんに張り切った柳楽優弥の若き北斎、老いて枯れない田中泯の晩年北斎、佇まいも真逆な遊郭の歌麿(玉木宏)ほか構成抜群の絶品絵師活劇。
"HOKUSAI" https://twitter.com/pherim/status/1396319608156549120
『HOKUSAI』で、蔦屋は若き北斎へ舶来の世界図を見せ矜持を語る。この誇り高さがのち老北斎から戯作者・柳亭種彦(瑛太)へ伝播する裏テーマの秀逸。
滝沢馬琴(辻本祐樹)との衝突/友情も描く映画は後半、幕府禁制下での表現者の苦闘へ焦点化しゆく。北斎の《波》放つ熾烈さが孕む瞋恚の呻きに戦慄する。
『5月の花嫁学校』
ジュリエット・ビノシュ爽快新作。
“良妻賢母”を育てる田舎アルザスの家政学校校長が経営不安に苦しむなか、“理想の女性”をめぐる社会通念自体が揺らぎだす。
最高に笑える、完璧な主婦像を語る名優らの悪ノリ演技。その底に潜む、パリ5月革命前夜の1967年を通した現代風刺はしかし滅法鋭い。
"La bonne épouse" "How to Be a Good Wife" https://twitter.com/pherim/status/1397030754169724930
『5月の花嫁学校』の背景とする、1968年パリ5月革命がフランス社会に与えた影響。
これ次項カトリーヌ・スパーク上映特集(全国順次公開中)における『女性上位時代』(’68)のイタリア社会描写にも重なり、“1968”の衝撃の大きさが窺われます。
半世紀前の熱風、残響を聴きとる現在。
『女性上位時代』 https://twitter.com/pherim/status/1401905454427430912
■SPAAK! SPAAK! SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ 5/21~
http://www.spaak2021.com/
『狂ったバカンス』('62)
美少女に惑わされる中年男描く、
イタリアンバカンス映画。
中年クライシスに嵌る男には抗いがたい若者達の奔放さ、その中核で輝くカトリーヌ・スパーク17歳の炸裂する魔性。男の哀愁は欧州経済に呑まれゆくイタリアへと重なる。
映画音楽神エンニオ・モリコーネ初期作品。
"La Voglia matta" https://twitter.com/pherim/status/1394567504215699460
観ている間はカトリーヌ・スパークに魅入られ通しの『狂ったバカンス』だけど、振り回されるおっさん周りの描写が妙なる後味を呼び2度おいしい。
北米インディアン姿で取り残されるカットや、EEC(EU前身)にアドリア海対岸の共産圏への恐れを重ねるセリフなど、首相輩出のスパーク家あっての演出かと。
『太陽の下の18才』('62)
ナポリ湾イスキア島を舞台とするリゾート狂騒曲。
ニコル・モリノとニコラ・モリノ。一字違いの男女の出逢いを軸に展開する若者たちの、疲れを知らない《若気の至り》の奔流のさなかにあって恒星のごときカトリーヌ・スパークの存在感はまさに別格。ファッションがまた逐一眼福。
"Diciottenni al sole" https://twitter.com/pherim/status/1397384197400981509
『禁じられた抱擁』('63)
放蕩息子の二流画家が、奔放女性に恋する沼堕ち物語。
「別の男と旅に出るけど帰ったら好きに抱いて」など言われ、母に貰った金で思い通りにならない女体を覆う地獄絵図。富裕な母とカトリーヌ・スパーク扮する小悪魔が、敵対しつつも腑抜け男を蝶番として鏡像関係を結ぶ良構成。
"La noia" https://twitter.com/pherim/status/1399377349594861578
『女性上位時代』('68)
社会的地位ある男たちの変態性欲を遍歴する、
若き未亡人の風変わり冒険成長譚。
カトリーヌ・スパークの艶やかさが、デビュー時よりも大人味増して趣深い。
肉欲のカオスから後半一転、意外な解放へと向かう堅物医師との出逢いが生む推進力に、’68年特有の熱が感覚される。
"La Matriarca" https://twitter.com/pherim/status/1401905454427430912
《SPAAK! SPAAK! SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ》をコロナ禍下にみる試みなどめぐり書きました。↓
拙稿「コロナ禍中に古典を観る」 http://www.kirishin.com/2021/05/25/48831/
余談。『狂ったバカンス』('62)には、17歳の主役カトリーヌ・スパークによる「ムッソリーニなんて知らないわ」というセリフが登場します。劇中の若者たちの年齢は17-8歳のはずだけれど、これって要はほぼ1945年生まれという設定なんですね。これは『女性上位時代』の1968年“若者たちの叛乱”を担った中核世代にも相当します。
→https://twitter.com/pherim/status/1404722891904622601
集団化した人間の忘却能力は、属する個々人をも驚愕させる。「日本がアメリカと戦争したことを知らない若者」なんてことをメディアはよくネタにするけれど、この力が暴力へ転じた際の勢いはそんな生易しいものではあり得ない。なんてことを思いながら性がスパークするイタリアン'60sシネマを眺める夕。
おしまい。
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