今回は、5月29日~6月5日の日本上映開始作を中心に、《新文芸坐シネマテーク》上映作など12作品を扱います。(含再掲2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第177弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■5月29日公開作
『のさりの島』
熊本天草の商店街。流れ着いたオレオレ詐欺青年と、閑古鳥なく楽器店の老婆、地元ラジオ局のアナウンサー女性が織りなす優しき虚実。
藤原季節ら主演陣の他、大火が人々へ残した傷を背に負う柄本明の微笑の迫力、シャッター並ぶ夜の路上で魂のハーモニカ奏で続ける小倉綾乃など鮮烈。
"" https://twitter.com/pherim/status/1397754558965641217
『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ 4K完全無修正版』
ジェーン・バーキンの溌剌。
ベリーショート&スレンダーな四肢放つ
キラッキラの生命力。
とは対照的な、ゲイのイイ男に惚れお尻を突かれまくる物語へ潜む、当時の旦那兼監督セルジュ・ゲンスブール精神性の罪深き業。美しすぎてああ汚したい。
"Je t'aime... moi non plus" "I love you… me neither" https://twitter.com/pherim/status/1398259406257614850
共演若きドパルデューめぐり追記予定。
撮影監督Willy Kurant、2021年5月1日没。享年87歳、合掌。
『ラプソディ オブ colors』
大田区の民家に生じたバリアフリー社会人サークル“colors”怒涛の日々。
障害者風俗嬢の素顔、議員立候補、ヘルパー青年の炸裂ダンス、colors代表の明るさと進行する重度障害。沸騰する人間模様を構成が抑えきれず、撮り手の人間観を“健常者”が逸脱しゆく終幕は殊に秀逸。
"" https://twitter.com/pherim/status/1398492850732498946
■6月4日公開作
『幸せの答え合わせ』
結婚29年目に訪れた夫婦の危機と、シーフォードの白い断崖。
ビル・ナイ、凄演。千の感情を溜め眉の歪み一つへ凝縮させる名演技に圧倒され通し。
アネット・ベニング&ジョシュ・オコナー加わる親子の関係描写は芳醇かつ脚本の秀逸さに驚くも、名脚本家の初監督作と知り納得。
"Hope Gap" https://twitter.com/pherim/status/1400295146609020943
ジョシュ・オコナー+英国緑野絶景の組み合わせは、『ゴッズ・オウン・カントリー』を連想させ。後日追記。
『ゴッズ・オウン・カントリー』 https://twitter.com/pherim/status/1087539220552474625
『コンティニュー』
同じ日を延々繰り返し、
世界の謎へ肉薄するタイムループ活劇。
妻の科学者役ナオミ・ワッツやラスボス役メル・ギブソンと完璧に張るフランク・グリロ、覚醒。
8bitゲーム調の冒頭から名作MAD『エアーマンが倒せない』展開、ギャラガの父子プレイまでファミコン世代愉悦の快作。
"Boss Level" https://twitter.com/pherim/status/1399207977874202625
『パージ』シリーズなどフランク・グリロめぐり追記予定
『シドニアの騎士 あいつむぐほし』
謎の生命体ガウナから生まれたつむぎと、衛人(モリト)のエースパイロット谷風による身長差15mの恋。
にもまして、ガウナの圧倒的攻勢と叛逆者“落合”の暴虐が招く人類側の絶望感描写に震える。製作時期の重複するシン・エヴァと同期→更新する展開も複数あり、両作の共時性に感銘。
"Kights of Sidonia: Ai Tsumugu Hoshi" https://twitter.com/pherim/status/1386175157861904389
『シドニアの騎士 あいつむぐほし』きょう公開。
公式が #シドニア完結 と記す意味は観ればわかるのだけれど、別世界線でも時系列遡行でも良いからもっと観たい、とは想わせるシドニア宇宙観。
弐瓶勉本来の東亜重工的、すなわち無限空虚宇宙に漂う鋼鉄的硬質味から離陸した鬼っ子つむぎの妙趣。
『トゥルーノース』
北朝鮮。強制収容所の内幕を主題に、
現在進行形の地獄絵図を活写する告発エンタメ作。
『夜と霧』他ナチス物由来かと連想誘う場面場面こそ、しかし最も真へ迫る表現たり得るとも感覚され、不謹慎と受けとる客の不評さえ十全と覚悟する、在日4世監督の巧緻と気構えに唸らされる。
"True North" https://twitter.com/pherim/status/1400696937775464454
『トゥルーノース』は感情移入を誘う演出が巧すぎて、素朴に感動しかねない自分を抑える努力が必要だった。
感動ポルノ的消費を通じ暴虐の周知が為されるスピルバーグ『シンドラーのリスト』の轍が意図されたとしてアリだと正直思うし、わざとポリゴン粗目とするウェルメイドな攻殻的野心も凄い。が(続
『わたしは金正男を殺していない』https://twitter.com/pherim/status/1313313239799799808
例えば『わたしは金正男を殺していない』では独白の凄絶なリアリティを、構成の限界から半ば無視されるもう1人の“実行犯”女性が支えていた。
北朝鮮の内幕告発映画には付き物のこの種の“破れ”が『トゥルーノース』には一切ない、ことに惹起される不穏さ。今後考えてみたい。
『田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版』
村人たちの俗物性にあてられ消耗しゆく、
新任司祭の魂の叫び。
ロベール・ブレッソンの震えるほどスタイリッシュな映像で綴られる、超絶シリアス青年の心のゆくえ。全方位から畳み掛かる救いなき試練の数々に、切なくも可笑しみさえ覚える魔的怪作。
"Journal d'un curé de campagne" "Diary of a Country Priest" https://twitter.com/pherim/status/1398856578409787392
『田舎司祭の日記』を巡り書きました。
本作に着想された『タクシードライバー』とスコセッシ起草の4Kリマスター財団など。
他《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選》《カトリーヌ・スパーク特集》『アメイジング・グレイス』等。
拙稿「コロナ禍中に古典を観る」 http://www.kirishin.com/2021/05/25/48831/
■6月5日公開作
『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』
香港の歌姫デニス・ホーの半生。雨傘以降、香港民主化運動支持に伴う大陸市場からの排除で収入の9割を失う描写に、香港文化人が守る沈黙の意味想う。
ポップアイコンの草分けアニタ・ムイへの弟子入りの下りなど、香港歌謡黄金期の熱も感じられ見応え充満。
"Denise Ho: Becoming the Song" https://twitter.com/pherim/status/1401467296799887361
初見時ツイ(東京フィルメックス2020,ふぃるめも162):
https://twitter.com/pherim/status/1340301834615808000
『戦火のランナー』
スーダン南部の村へ戦火が迫るなか、
両親の決断で一人逃げ出した8歳のグオル・マリアル。
難民キャンプから米国へ移民、マラソン選手として五輪出場級の記録を出すも代表する国がない。やがて新生南スーダンの星となりゆく彼ゆえの重圧描写に、“円谷幸吉”の現在位置をみる思い。
"Runner" https://twitter.com/pherim/status/1401179052770095108
『戦火のランナー』で、画的・感情的に最も極まったのは、すっかり大人になり功成り名遂げてから村へ帰る場面。
両親は文字通りにのたうち回り、地面を転げ回る。極限を超えた喜びの身体表出。この場面を観るだけでも十分に価値ある鑑賞体験だった。
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
『密航者』“Stowaway”
3人分の酸素しかない火星探査船内に打ち上げ後、
4人目の搭乗者あらわる。
宇宙飛行士の高潔イメージそのままに悪意一切なしの極限展開を、この監督&配役で魅せてくれるNetflixの勢いに痺れる。粉骨砕身のアナ・ケンドリック。
萩尾望都『11人いる!』の精妙なる21世紀更新版。
"Stowaway" https://twitter.com/pherim/status/1386513296103067650
■新文芸坐シネマテーク
https://www.facebook.com/bungeicinema
『ジャック・リヴェット、夜警』
クレール・ドゥニが、師匠筋リヴェットのドキュメンタリー製作を依頼された一作。聞き手は批評家セルジュ・ダネイ。
“顔”を巡る議論で始まる本作、リヴェットと並び印象的なのがドゥニならではの黄昏感醸すパリの表情群。関係性の創造的豊穣と、他者映す倫理の深淵。
"Jacques Rivette - Le veilleur" https://twitter.com/pherim/status/1395755717852753921
クレール・ドゥニ連ツイ『死んだってへっちゃらさ』『35杯のラムショット』
https://twitter.com/pherim/status/939502846529101824
マティ・ディオプ連ツイ“Atlantiques”『アトランティックス』“In My Room”
https://twitter.com/pherim/status/1258961088827109377
余談。『戦火のランナー』では、202“0”年東京五輪出場資格をめぐる顛末が終盤に登場します。前橋における南スーダン選手団と地元住民との交流はすでに報じられ始めてますね。彼らにとっての東京五輪は、こちらからみるそれとはまったく異なるのだろうなとか。来てくれた以上は良い滞在となることを願うばかりです。
おしまい。
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