今回は、6月11日~6月18日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。(含短編1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第178弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■6月11日公開作
『クローブヒッチ・キラー』
ケンタッキー州の田舎町。教育熱心で信仰も篤い父が、実はド変態の連続殺人犯なのではと疑う少年主人公のジュブナイル・スリラー。
白昼なされる凶行の底に疼く欲望の昏さを、白人保守バイブルベルトならではの抑圧的なムード描写が際立たせる。重く静かに迫り来る恐怖。
"The Clovehitch Killer" https://twitter.com/pherim/status/1402235088260112387
『インヘリタンス』
リリー・コリンズ&サイモン・ペッグ主演新作は
幽閉系サイコ・スリラー。
大資産家の娘が敏腕検事という映え設定。何が真実かでなく、何を真実として選びとるのかが迫り来る展開は、いかにも今日的Post-truthのスリラー構成。ネアカ性を封じたペッグの横顔、痺れる精悍ショット多々。
"Inheritance" https://twitter.com/pherim/status/1402825587064852483
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』
尊厳死を決断した母と、集う家族による最後の週末。
燻し銀の演技巧者の中でも、強気の底に不安忍ばせる主演スーザン・サランドン、妹や夫や息子に目配りしつつ深い疑念に囚われる長女役ケイト・ウィンスレットがともに出色。ラストの波瀾展開もお見事。
"Blackbird" https://twitter.com/pherim/status/1402975709132251137
■6月12日公開作
『犬は歌わない』
宇宙を生き抜くには野生が必要。という謎のロシア宇宙思想によりモスクワ市街で捕獲された野良犬ライカのスプートニク乗船。
その魂は凍鉄の大地へ還り野良犬たちの瞳へ偏在し、瞳を透過した映像は人間の現在を貫き通す。と見せかけ、詩的に流れる心情の虚偽を突く終盤に茫然自失。
"Space Dogs" https://twitter.com/pherim/status/1403907232576643074
よく考えたら「終盤」でもなかった。良くも悪くも当該の場面が作品の中核にならざるを得ないほどに強度はある。製作意図としてどうなのかは気になるところ。
公式による残酷場面警告 https://twitter.com/SpaceDogsJP/status/140324999247562752...
『アフリカン・カンフー・ナチス』
ヒトラーと東條英機はガーナで生きていた。
“イタ公がだらしないので”ガーナ加入の真三国同盟、打倒総統の酔拳修行を経て奇人変人集う天下一武道会化する抱腹絶倒の本作、なぜ書き始めたか監督は思い出せないらしい。
意味と無意味が転倒しまくる魅惑困惑の84分。
"African Kung-Fu Nazis" https://twitter.com/pherim/status/1403180726875418624
『アフリカン・カンフー・ナチス』を「なぜ書き始めたかわからない」という監督本人が実はヒトラーを演じてたり。
天皇バンザイとか「俺がゲーリング」だって黒人オヤジが登場する場面など右翼ネオナチにはぎりぎりアウトな人もいそうだけど、卐が卍だったりと滅茶苦茶ぶりの中にもそれなりの節度が微笑ましかったり。
■6月18日公開作
『グリード ファストファッション帝国の真実』
ファッション界帝王の来し方と、一族の絢爛。
その酒池肉林を支えるスリランカの奴隷労働。
マイケル・ウィンターボトム監督新作、エッジを効かせた画に怒り忍ばせる往年のキレ健在。巨万の富を築きながらリキシャ運転手と運賃を言い争う場面は爆笑。
"Greed" https://twitter.com/pherim/status/1405367449613004805
『グリード ファストファッション帝国の真実』主人公モデルは英アルカディアグループのオーナー、フィリップ・グリーン卿。
トップショップ他が陥った急速な失墜を、ウィンターボトムならではの洒脱で残酷な結末へ置換。軽妙さはこの監督の味だけど、近年丸くなった感もあるがこの切れ味は痛快。
『RUN/ラン』
未熟児に生まれ車椅子で育った18歳のクロエが、ある日を境に母親を疑いだす変種スリラー。
『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督ならではの巧緻。“過干渉だが面倒見の良い母親”の隠された素顔が明かされゆく仕掛けは逐一そう来るかと唸らされる。
"RUN" https://twitter.com/pherim/status/1404271477726142464
『青葉家のテーブル』
著名人の母もつ高校生優子が、風変わりな共同生活を暮らす一軒家に居候するひと夏。
⻄⽥尚美と市川実和子、元親友で長年絶縁していた母同士を演じる丁々発止が白眉。
《北欧、暮らしの道具店》の企画作だけあり、舞台となる家/多国籍風中華/美術予備校の内装はいずれも眼福。
"" https://twitter.com/pherim/status/1404642259774054401
片桐仁、『青葉家のテーブル』では息子のバンドをめぐる会話に、自分の青春の記憶が疼きださずにいられない父親役。
このひとの《浮遊する謎の生物》感がうまく機能する作品は、すなわち余裕がある作品ということなのか、あるいは闇要素の同居を阻むのか、ふしぎと和みつつ楽しめるものになりますね。
市川実和子演じる著名人母の営む創作料理店、壁の水色がすこし不自然に強すぎるなと感じたけど、ロケ場所の五反田のお店画像(後日ツイ予定)をみて納得。とはいえ北欧調導入の必要から要請されたのだろうこの水色により、コスモポリタン風だけど日本以外ではまず見ない“アジアンキッチン”味に帰結。
と書きながらプラナカンとの視覚的差異の由来など考えだすに興味深い。
■日本公開中作品
『くれなずめ』
高校帰宅部6人組が大人になり見失うもの、失くさないもの。
カースト下位の屈託を引きずり奮闘する、成人後の面々が笑えて切ない。成田凌/若葉竜也/高良健吾/浜野謙太ら皆良い。
バカ男子を見守る優等生→若ママ役・前田敦子の演技も鮮烈。礼服/学生服/喪服がダブりゆく演出の冴え。
"" https://twitter.com/pherim/status/1385789406183759873
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
“Quattro Strade” (Four Roads)
『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァケル新作短篇。
コロナ禍の今、私にできないことをレンズがしてくれる。そうして草道の奥へ独居する老人たちの手つきや奔放な子らに注ぐ陽の温もりを、古いカメラで期限切れフィルムへ映しとる知的に研ぎ澄まされた詩性の輪郭。
[mubi] https://mubi.com/films/four-roads/trailer
"Quattro Strade" "Four Roads" https://twitter.com/pherim/status/1403542537629966338
『幸福なラザロ』 https://twitter.com/pherim/status/1117991307211751424
余談。『くれなずめ』はGW公開予定が緊急事態宣言延長の余波で延期が告知され、残念だなぁと思っていたらいつのまにか公開されていました。延期の告知は届いても公開告知は届かないあたり、非常時の常態化とはいえ諸々落ち着かないものですね。
にしても直前の延期決定のうえ5/12公開ですから、当初見込んでいた平常時GWの興行収入を単に失ったうえ本来企図したPR効果も半月遅延で縮減することになり、配給宣伝担当の忸怩たる思いは想像に余りあるものが。ワクチン頒布で落ち着けば良いのだけれど。
おしまい。
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