pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2021年
07月01日
23:07

ふぃるめも179 七月について想う時にゴジラが想うこと

 
 

 今回は、6月19日~7月1日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第179弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■6月19日公開作

『へんしんっ!』

車椅子監督・石田智哉が表現/障碍と向き合う日々。
“映画”よりも“日記”に近い肌理。
立教大学映像身体学科の内幕、とりわけ振付家・砂連尾理が学生指導の場で動きを探っていく様子は興味深い。この監督のひたすら指先へ固執する画作り、今後化けそうな表現の核がこの辺にある予感。

"" https://twitter.com/pherim/status/1406104145744957442

ゼロ年代の始めはコンテンポラリーダンスをよく観ていて、バブルの名残りでピナ・バウシュとかイリ・キリアンとかドサドサ来日するなか大御所に勅使河原三郎、伊藤キムやニブロールなどがのして、のちNHK経由で全国区となるコンドルズや白井剛が出てきた頃だった。砂連尾理の踊りに対しては、山田うんや黒田育世などと並び相対的にクラシックでストイックな印象をもっていた。




『息子のままで、女子になる』
トランスジェンダー女性、サリー楓のビューティーコンテストへの出場と就職への日々。
建築家の夢に父との軋轢が絡む構成は驚かされた。またド核心を突くはるな愛やSteven Haynes、LGBTの浄土宗僧侶・西村宏堂の威風など登場人物が逐一興味深い。英題 “You decide.”。

"You decide." https://twitter.com/pherim/status/1405726817671995397

『息子のままで、女子になる』主人公はトランスジェンダー女性の道行きを歩みつつ、“強い男”を息子に望む父の愛に対しては、建築家として身を立てることで応えようと試みる。はるな愛に喝破され破涙する深層意識のあり様もまた、PC的には誤りでしかない《建築家=男の仕事》という一般通念に依拠している複雑さ。




■6月25日公開作

『ソウルメイト/七月と安生』
これは物凄い新星。
幼馴染の安生と七月。奔放な安生(周冬雨)を安定志向の七月(馬思純)は心の内で羨むが、時の流れがすべてを変えゆく。
香港恋愛映画の繊細さに、大陸の大河潮流が完全合流を遂げた感。切なさと壮大さの両極張る圧巻のデレク・ツァン監督デビュー作。

"七月与安生" "Soul Mate" https://twitter.com/pherim/status/1408610863716519938

『ソウルメイト/七月と安生』監督のデレク・ツァン(曾國祥)は、香港きっての個性派俳優エリック・ツァン(曾志偉)の息子。製作にピーター・チャン(陳可辛)が就いた本作、大陸に押されてばかりでない香港映画人のしたたかさを感覚します。

7月1日の感無量を演じる曾親分。↓
https://twitter.com/pherim/status/1164392972420386816




『いとみち』
祖母の津軽三味線を聴いて育った少女いと(駒井蓮)の成長物語。
豊川悦司演じるヨソ者感引きずる民俗学者父の不器用さと、青森市内のメイド喫茶が危機へ陥る不穏さとが両極を張り、“いと”を奮い立たせる道行き自体が三味線の象なす良構成。津軽弁よき、父娘の岩木山登頂も爽やかでよき。

"Ito" https://twitter.com/pherim/status/1409717106787028993

『いとみち』には、ひところ流行ったご当地少女成長譚の定型にひと捻り加えようというガッツが伝わる点、『藍に響け』に近しさ看取。

 『藍に響け』 https://twitter.com/pherim/status/1395351505851490310




『王の願い ハングルの始まり』
ソン・ガンホが世宗大王を演じるハングル創製秘話。
仏典中の梵字を手がかりに、口唇の形を文字類型へと落とし込む試行錯誤が、儒教vs仏教の対立や下級身分の仏僧信眉(パク・ヘイル)と王との信頼醸成、漢字の使用自体が明の抑圧を表す朝鮮王宮の描写を伴い胸熱至極。

">나랏말싸미" "The King's Letters" https://twitter.com/pherim/status/1407897577803042816

※メモ(後日成形予定)
オムニ  と読めるが、字幕はオム~ 。カタカナでは一般定着した表記らしい。
チベット圏を歩くとマニ石で最も頻繁にみるサンスクリットの文字列がこの文言。
一文字目のみ不完全な文字で、○が描かれ完成される


  拙稿「ことの葉の園」:http://www.kirishin.com/2021/06/24/49540/




『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』
ノアの洪水やモーゼの海割りが描かれる
サウジアラビア+日本合作アニメ。
メッカを守る主人公らと武王アブラハ率いる象の軍隊との対峙はスパルタ映画『300』の翻案として楽しめる。場面ごと変わるクルアーンと旧約聖書との温度差が興味深い。

"The Journey" https://twitter.com/pherim/status/1406852381015379973

  拙稿「ことの葉の園」:http://www.kirishin.com/2021/06/24/49540/




『1秒先の彼女』
失われたバレンタインの1日をめぐる、圧巻のラブコメ奇想。
郵便局の女とバス運転手男の“1秒”ずつのすれ違いが積み重なって生じる推進力の、うねるような元気印に圧倒される。
ポップ&ノスタルジックな映像には、時代と社会を超越したカルト作の風格充満。奇跡の源泉は欠陥にあり。

"消失的情人節" "My Missing Valentine" https://twitter.com/pherim/status/1406462731008417800

『1秒先の彼女』は、大仕立てなSFでない身近さの内に並行世界味を紛らせるストーリーラインからレトロ調の作り込みまでたしかに2020年の台湾だからこそ生まれた映画である一方で、『熱帯魚』『ラブゴーゴー』など系譜自体が国も時代も突き抜け過ぎるチェン・ユーシュン監督の、またやってくれた感満載な要は傑作。

 『熱帯魚』 https://twitter.com/pherim/status/1161849705837371392




『愛について語る時にイケダが語ること』
四肢軟骨不形成症いわゆる“コビト”の男、池田英彦初監督作にして遺作。
ガン告知から2年間の映像録と“理想のデート”映像化。欲望や夢や諦めが率直に語られる、趣味はハメ撮りという四十男の残した映像が催す扇情性自体に潜む、障害めぐる偏見の深みに慄く。

"" https://twitter.com/pherim/status/1410135616579203072




■7月1日公開作

『スーパーノヴァ』

尊厳死を決めた作家と、恋人の決断を受け容れられないピアニスト。
コリン・ファースとスタンリー・トゥッチの抑制を利かせた名演が、大自然と心優しき人々に囲まれた穏やかな場面展開のもと徐々に張り詰めゆく空気を際立たせる。認知症、同性愛などの篩いを沁み通す“静”の密度。

"Supernova" https://twitter.com/pherim/status/1410467678347620357


 

■VOD/TV配信作(非劇場公開作)

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

日本アニメ特有のポップな浮遊感に、円城塔の硬質SF宇宙が命を吹き込まれたような驚きの鮮やかさ。
ゴジラ本来の物語性はもとより、パプリカや化物語の変幻から劇団イヌカレーの眼福、果てはテネットの時間軸倒錯まで盛り込んだ、まさしく21世紀更新版の感。

"Godzilla Singular Point" https://twitter.com/pherim/status/1419301876281921542 
 


 

 余談。ここで扱う日本映画のなかで、マイノリティ主人公のドキュメンタリーがどんどん目立つようになったのは、日本映画全体の潮流や自身の趣味嗜好の反映というわけではたぶんなく、なぜか手元へ届く試写状にその傾向が強くなったからです。ひとつにはコロナ禍で大手エンタメ系から明らかに切られたことも大きいのですが、特に日本/マイノリティ/ドキュメンタリー作品を目立って多く記事化している自覚はないのでやや不思議感はあります。
 
 もっとも、その手の作品をまったく無視する国内メディアが多いのは確かなので、結果的に「あいつには送っとけ」認識されるようになったのかも。届けば一応は観ますからね。その結果、まったく言及しない場合も実際にはありますけれど。ともあれ、ありがたいことです。





おしまい。
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