今回は、8月21日~8月27日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第184弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■8月21日公開作
『大地と白い雲』
内モンゴルの大草原に暮らす夫婦の物語。
馬を愛し遠くを眼差す夫と、ゲルでの牧畜暮らしを守りたい妻。資本の荒波が夫の視界を歪ませ、快活な妻の心を曇らせる中国辺境映画の王道展開を、現地人でも外国人でもない北京の監督王瑞が撮る独特の距離感は興味深い。全編ガチ眼福作。
"白雲之下" "Chaogtu with Sarula" https://twitter.com/pherim/status/1427464075630440450
『大地と白い雲』を観ていて、「現地人でも外国人でもない北京の監督王瑞が撮る独特の距離感」の点で連想されたのは、同じく北京の張揚監督による『ラサへの歩き方-祈りの2400㎞』(拙稿
http://www.kirishin.com/2016/07/02/30469/)。
これに対する中国辺境監督作の資質について、『ラモとガベ』を軸に考えるところを書きました。
拙稿「チベット」という物語の形とゆくえ:
http://www.kirishin.com/2021/03/21/47931/
■8月27日公開作
『ショック・ドゥ・フューチャー』
パリ1978年。エレクトロ・ミュージック黎明期、電子の音に魅入られた音楽家アナの一日。
男社会ゆえに抑圧され続けるアナの創意が、強引に借り出した日本製リズムマシンROLAND CR-78の音で一気に昇華を遂げる描写の爽快。
“原子を踊らせ、電子回路を動かす音楽よ”
"Le choc du futur" "The Shock of the Future" https://twitter.com/pherim/status/1427104716345860099
『ショック・ドゥ・フューチャー』
主人公アナ演じるのはアルマ・ホドロフスキー。あのアレハンドロの孫で1991生。『アデル、ブルーは熱い色』にも出演。(記憶になく、多分かなりの端役)
事前情報なしに観始めちょいちょい神々しさを感じてたのだけど、画像検索で謎氷解。
→https://twitter.com/pherim/status/1429606027289268225
『ショック・ドゥ・フューチャー』監督マーク・コリンは、音楽ユニット“ヌーヴェル・ヴァーグ”プロデューサー。
主人公アナと意気投合する歌手役クララ・ルチアーニ@claralucianiはヌーヴェル・ヴァーグにも参加。クララのPVを、アルマ・ホドロフスキーが監督してたりも。↓
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
ウッドストックと同じ’69年夏、NYハーレムで30万人を動員した音楽フェス。
S.ワンダー、ニーナ・シモンらの神憑き演奏、警察でなくブラックパンサー党の警護下で沸騰する群衆の渦。
50年間眠り続けた映像の生命力が熱すぎる。
"Summer of Soul (...Or, When the Revolution Could Not Be Televised)" https://twitter.com/pherim/status/1428188033329758213
なかでも終盤に登場するマヘリア・ジャクソンの天衝く歌声。これには心底圧倒された。など追記予定。
『白頭山大噴火』
火山学者をマ・ドンソク、
北朝鮮武官をイ・ビョンホン、
特殊潜入任務負う大尉をハ・ジョンウ快演。
この配役だけで上限に達する期待値を、北朝鮮-中国国境の白頭山鳴動開始さぁどうする韓国政府!?って激熱設定&『パラサイト』のVFX集団採用で超えてくる、韓流映画巧緻の極み。
"백두산" "ASHFALL" https://twitter.com/pherim/status/1427827210497396739
『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』
パントマイムの神様マルセル・マルソーの、知られざる大戦下の格闘。
ナチス傀儡下フランスで、恐怖に強張ったユダヤの子らを笑わせ活路へ導く姿を、ジェシー・アイゼンバーグが熱演。沈黙の詩人と謳われた身体表現の源が、極めて精彩に描かれる。
"Resistance" https://twitter.com/pherim/status/1428552404790747139
『ホロコーストの罪人』
ナチスドイツ保護下のノルウェーで、幸福な日々から強制収容の地獄へ突き落とされたユダヤ人一家。
一般の警察官や民間人が、人情を保ちつつ絶滅収容所への送致に手を貸す姿は心が凍てつく。長らく看過されてきた対独協力問題を、正面から扱うノルウェー映画人の気概に感服。
"Den største forbrytelsen" "Betrayed" https://twitter.com/pherim/status/1426439522137432066
『ホロコーストの罪人』では、ナチス軍のオスロ奇襲が物語の起点となります。
この奇襲作戦の出鼻を挫いたノルウェー海軍老将の挿話から始まるのが『ヒトラーに屈しなかった国王』。主人公は現国王ハーラル5世の祖父ホーコン7世。RT先にて『国王への手紙』併せ詳述してます。
『ヒトラーに屈しなかった国王』 https://twitter.com/pherim/status/910695087910162432
『国王への手紙』 https://twitter.com/pherim/status/839265782638882816
■日本公開中作品
『サイダーのように言葉が湧き上がる』
出っ歯を気にするYoutuber少女と、俳句に生きるコミュ障少年による、ひと夏の心の冒険。
画作りがやたらに斬新かつ懐かしく、全編アンビエントに心地よい音作り。俳句がモールという名の環世界を沸騰させるライムと化す、独特のリズムに体が丸ごと魅入られる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1421344540485513216
『サイダーのように言葉が湧き上がる』の場面画像と、戦前戦間期の版画家・川瀬巴水(1883-1957)。画作りに感じた懐かしさの由来。
大正の浮世絵復興を志した新版画運動へ、令和の最新アニメが共鳴するこの流れは嬉しくも頼もしい。「ゴッホの絵が動く!」とかを遥かに超えた、想像力と形の継承&転回。
川瀬巴水作品との画像対照 https://twitter.com/pherim/status/1422345509390360601
『サイダーのように言葉が湧き上がる』と新版画運動、今度は吉田博(1876-1950)より。
天候や水面の反映等、版画の制約由来の描線や色面が受け継がれてますね。時代時代の制約に生涯をかけ挑んだ末に生じた昇華を、制約が克服された後代の人間はしばしば越えられない。でも継承は可能という好例にも。
吉田博作品との画像対照 https://twitter.com/pherim/status/1432919281377808390
※新版画展へ言及予定。
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『ザ・ドア 交差する世界』
マッツ演じる後悔男が奔走する並行世界スリラー。ドイツ娯楽作特有の翳りとB級感、娘のプール事故描く序盤の耽美さ良い。
マッツ・ミケルセンの過去作観たくてアマプラ鑑賞。マッツのドイツ語リップシンクが変、なんとドイツ人役者の吹替で公開、のち本人が再吹替したと。
"Die Tür" "The Door" https://twitter.com/pherim/status/1431257289671864320
後半展開の鍵となる隣人おじさんの佇まいに、ドイツ映画“Herbert”が想起された。実際に演じている役者は別人なんだけど、ぼってりとした体躯と、ほんのり諦念ただよう存在感とか。Thomas ThiemeとPeter Kurth、どちらも名優で日本公開作も多々。『帰ってきたヒトラー』『希望の灯り』etc.
“Herbert”https://twitter.com/pherim/status/867208286868709377
“Herbert”pherimブログ https://pherim.hateblo.jp/entry/2017/05/27/235926
※マッツ・ミケルセン主演新作『アナザーラウンド』試写の流れで観たなり。
『アナザーラウンド』 https://twitter.com/pherim/status/1429433683530838023
■VOD/TV配信新作(非劇場公開作)
『BECKETT ベケット』
ギリシア舞台の逃走アクション、ジョン・デヴィッド・ワシントン主演新作。(デンゼル息子)
バルカン半島の絶景眼福、極左組織と米大使館と汚職警官が絡む今日的スラヴ展開も良い。テネットが意識された半開きの口&広角/ロングの盛り合わせが来る度ちょっと和む。坂本龍一音楽。
"Beckett" https://twitter.com/pherim/status/1426757728505012224
『TENET テネット』IMAXレーザーGT https://twitter.com/pherim/status/1312230005259161600
『スイートガール』
ジェイソン・モモア主演Netflix新作。
製薬会社へ復讐を誓う男と、父見守る娘の逃避行。
医薬めぐる陰謀論渦巻くコロナ世相の反映が趣深い。
驚きの終盤展開には正直、伏線不足ゆえの蛇足感も。この不足を副題“Family fights as one(ふたりなら負けない)”で繕う仕草はやや新鮮。
"Sweet Girl" https://twitter.com/pherim/status/1430356074691928072
余談。『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』『ホロコーストの罪人』をめぐっては、直近および秋公開のナチス/ユダヤ映画とからめた映画評記事を近日執筆予定。毎年必ず新作配給あるジャンルだけれど、今年はとくに目立つ感。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
08月25日
03:27
1: いなだ つつみ
白頭山大噴火ですけど、韓国人もやはり、廃墟願望というか、(もちろん想像の中で)壊れた自分の町を見たいとか、廃墟になった自分の知ってる町を見てみたい、作り出してみたいというのがあるんだろうな、と感じます。
08月25日
11:14
2: pherim㌠
北朝鮮からミサイルの雨、という小学校から叩き込まれる地獄図イメージが、白頭山から降り落ちる溶岩弾と半強制的に重なるのではと想像します。
子供の頃、チェルノブイリ後の大人たちからの刷り込みで「雨浴びちゃいけない」と思わされた時期があったのを思い出すなど。