今回は、10月7日~14日開催の山形国際ドキュメンタリー映画祭2021上映作から13作品を扱います。(含再掲3作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第191弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 インターナショナル・コンペティション
https://www.yidff.jp/2021/program/21p1.html
『光の消える前に』“Before the Dying of the Light”
’70年代モロッコ前衛芸術運動の熱狂。
若者が巡らす感性の鋭さや、深夜1時に始まる秘密映画祭の熱気に見入る。
砂埃舞う半世紀前のカサブランカ街路や往年のポスター群など、よくもこれだけ稀少なフッテージを発掘してくれたと興奮&感謝の労作。
"Before the Dying of the Light" https://twitter.com/pherim/status/1447906730935869450
『ナイト・ショット』 “Visión nocturna”
ある夜、屋外でレイプされる。映画学校の生徒だった女性は、のちの日々を撮り続ける。
優しく愉快な友人たち、冷淡な医師や警察、変わらず続く世界の姿を、暗視モード(Night vision)が対象化する。Carolina Moscoso Briceño, チリ2019年作。
断絶と継続。ふいに漏らされる結句の鮮烈。
"Visión nocturna" "Night Shot" https://twitter.com/pherim/status/1446609331118489600
『発見の年』“El año del descubrimiento”
バルセロナ五輪とセビリア万博が催され、労働争議と通貨統合で紛糾した1992年のスペインを生きる人々。
紫煙を燻らせバーで語る面々を2画面併置で200分間映す冗長さによってこそ、レコンキスタ完了と新大陸到達の1492年から500年の時間軸が活きる構成は圧巻。
"El año del descubrimiento" "The Year of the Discovery"
『ボストン市庁舎』“City Hall”
御年90歳を越えたフレデリック・ワイズマン、
その集大成にして野心作。272分をもたせる技量が半端ない。
市長マーティン・ウォルシュによる市民との旺盛極まる対話努力を軸に、市行政の多面的発光が齎す陰翳を余す処なく汲みとる不可能を成し遂げた、ほとんど奇跡にも近い巨篇。
"City Hall" https://twitter.com/pherim/status/1447765133753683972
『ボストン市庁舎』、全国公開11/12~。
なお今夜、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 @yidff_8989 にて単回オンライン上映、10/12(火)18:30~(~24:04/1時間の猶予あり)。 →
https://online.yidff.jp/film/city-hall/
そして23:14から、フレデリック・ワイズマン御大Q&A登場!! \(^o^)/ (↑Zoom@上記URL内より)
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』 https://twitter.com/pherim/status/1051659069134532608
『エッセネ派』"Essene" https://twitter.com/pherim/status/1056378071706611712
特に『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が良かった人などは、本作のスケールに圧倒されること請け合い。
婚姻の場面、誓いの言葉を読み上げる役人の背景がファイル棚で、女性の同性婚カップルである今日性 この場面を冒頭10分かつボストン・レッドソックスの優勝祝賀式の直前に置くワイズマン仕草。この抑揚あっての4時間半が飽きさせない。
『最初の54年間ー軍事占領の簡易マニュアル』
領土的野心ある政治家必携ガイドという体裁で、パレスチナ占領の来し方を語る。
アヴィ・モグラビ監督本人を導き手とした、元イスラエル兵達の証言という形式は斬新。凄惨な内容含むそれらは告発にも近いが、心情的な吐露は省かれる。凶暴の渇いた双眸。
"The First 54 Years - An Abbreviated Manual for Military Occupation" https://twitter.com/pherim/status/1452283983325118469
『理大囲城』(理大圍城 / Inside the Red Brick Wall)
2019年11月香港理工大学での、11日間に及んだ学生と警察との攻防。
千人以上の逮捕者を出したこの騒動、内部で何が起きていたかを直に捉える映像は、その物量で報道由来のイメージを破壊してくる。窮して籠絡されゆく仲間を見送る影姿の孤独。
"理大圍城" "Inside the Red Brick Wall" https://twitter.com/pherim/status/1412285678801494029
『理大囲城』(理大圍城 / Inside the Red Brick Wall)、
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 @yidff_8989 にてオンライン配信、10/10(日)14:30~& 10/11(月)13:30~。
→https://online.yidff.jp/film/inside-the-red-brick-wall/
雨傘運動の2014年や一層先鋭化した2019年に香港滞在した自分の眼にも、大変衝撃&観甲斐ある一篇でした。
■山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 アジア千波万波 プログラム
https://www.yidff.jp/2021/program/21p2.html
『言語の向こうにあるもの』
パリ第8大学開講《外国語としてのフランス語講座》。
仏語へのバラつく距離を抱えた学生らによる、文学とジェンダー巡る討議の醸す意外な断層。時折乱入する別室の教師含む、不意の白熱ポイントが面白い。
個が伐り出されゆく様は爽々しく、日本の授業では想像し難い。
[動画見当たらず]
"Beyond the Language" https://twitter.com/pherim/status/1451534817686745090
例えば日本語で、あるいは(自分の場合)タイ語でこうした授業が成立するかを想像すると事態はより鮮明になる。
ヴァンセンヌ・サンデニ1969年創設、哲学学科byフーコー。心理分析学科、フェミニズム学科など世界初設立。
監督Q&Aにおける、ニシノマドカ監督の風変わりなバイタリティに惹きつけられた。狭い観測から僭越ながらいえば、欧米社会のテンションに触発されて穏やかな人格から発現するタイプで、ずっと日本にいる日本人やアジアに移住した日本人には全くみない感じ。
マフムード・ダルウィーシュ “私達だって、私達も人生を愛している、そうする方法がある時には”
@パレスチナの祭典2009年。
『異国での生活から』“逃跑的人”“The Lucky Woman”
台湾のベトナム人出稼ぎ労働者たち。
搾取からセクハラまで不法滞在化する人々の諸相。たった3時間の✈️距離なのに、わが子の成長を見守れず10年が経った母の決断。自由経済と国境の不自由。
『海辺の彼女たち』拡大版の感。
"逃跑的人" "The Lucky Woman" https://twitter.com/pherim/status/1450392593691385857
『海辺の彼女たち』 https://twitter.com/pherim/status/1386895322585001992
『リトル・パレスティナ』
シリア首都ダマスカス。スラム化したパレスチナ避難民居住区の、紛争激化により孤島化し飢餓状況へ陥った地獄絵図。
雑踏行き交い、店の看板は色彩に溢れ、街路樹が繁る一見ありふれたアジアの光景ながら、人々が食料を探す目で野犬や雑草を見つめる様は想像を遥かに超える。
"Little Palestine, Diary of a Siege" https://twitter.com/pherim/status/1453352483208630281
『沈黙の情景』
廃墟化した海際のリゾートに、往時のアナウンスが木霊する。「ワニや森の猛獣たちに気をつけて。さぁ冒険の始まりだ!」
メキシコ太平洋岸に浮かぶその島で、人類が変身を遂げたあとも自動再生をつづけるスペイン語声が呼び起こす、文明のあり得た煌めき。幽き残響。
"The Still Side" https://twitter.com/pherim/status/1449725989961940996
本編中の会話を男女の監督2人が担当しているのだけど、うち男性のMiko Reverezaはフィリピン出身。廃墟映像を背にしながら、太陽帝国時代にメキシコ西岸とフィリピンを往来したスパニッシュガレオン航路を語るモードにグッときた。Gooood.
ヨハン・ヨハンソン『最後にして最初の人類』 https://twitter.com/pherim/status/1418023357274935297
オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』 https://twitter.com/pherim/status/1449261427236110336 よみめも近日
『最後にして最初の人類』に絡め一文ものす可能性。(直近の余力の問題から低可能性)
■山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 日本プログラム
https://www.yidff.jp/2021/program/21p3.html
『へんしんっ!』
車椅子監督・石田智哉が表現/障碍と向き合う日々。
“映画”よりも“日記”に近い肌理。
立教大学映像身体学科の内幕、とりわけ振付家・砂連尾理が学生指導の場で動きを探っていく様子は興味深い。この監督のひたすら指先へ固執する画作り、今後化けそうな表現の核がこの辺にある予感。
"Transform!" https://twitter.com/pherim/status/1406104145744957442
ゼロ年代の始めはコンテンポラリーダンスをよく観ていて、バブルの名残りでピナ・バウシュとかイリ・キリアンとかドサドサ来日するなか大御所に勅使河原三郎、伊藤キムやニブロールなどがのして、のちNHK経由で全国区となるコンドルズや白井剛が出てきた頃だった。砂連尾理の踊りに対しては、山田うんや黒田育世などと並び相対的にクラシックでストイックな印象をもっていた。
『きみが死んだあとで』
1967年第1次羽田闘争で落命した京大生・山崎博昭への追想と、のち過激化した学生運動への再考。音楽・大友良英。
余りにも強烈な数年間を共有した人々の相貌。三田誠広や詩人の佐々木幹郎はじめ、同じ高校の同学年から輩出した多士済々を未だ生かす一個の死の重力に慄える。
"Whiplash of the Dead" https://twitter.com/pherim/status/1382918473861324801
『きみが死んだあとで』、今夕配信。十代の感受性がとらえる学生闘争と、半世紀後の今との交錯。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 @yidff_8989 にてオンライン上映、10/8(金)18:00~。→
https://online.yidff.jp/film/whiplash-of-the-dead/
内に生きつづけるもの、終わらないこと。登場する人々の意外な接点も新鮮でした。
■山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 特別招待作品
https://www.yidff.jp/2021/program/21p9.html#si
『武漢、わたしはここにいる』
劇映画撮影のため武漢入りしたクルーがパンデミック発生に遭遇、迫真のドキュメンタリー撮影班と化し都市封鎖の現場を捉える。
153分の衝撃。報道由来の武漢封鎖イメージとリアルの落差は鮮烈で、抜き差しならない危機のもと人々の相貌に宿る温度と人情味が印象深い。
[動画見当たらず]
蘭波 "Wuhan, I Am Here" https://twitter.com/pherim/status/1455894024565379073
余談。30分の短編でも1作品1300円という視聴料が正直ネックになりました。情けないといえば情けない話ですけど。
中国の田舎で撮られ続けたシリーズとか相互関連で複数出品されてるのだけど、“全部観たいバリア”に跳ね返され一つも観ずに終わる稀によくある症候群。
タイとの往還もあり、山形会場へはまだ行ったことがなく。前回まではオンラインの特別配信+一部東京上映のみ、今回はコロナ対応ゆえ初めて2桁観られた感じ。とはいえ記者パスがとれさえすれば、限界まで全部観て新聞掲載へつなげる価値があるのも確かなので、状況が許せば来年以降はトライしとう。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021国際コンペで大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)に輝いたのは『理大囲城』。言うまでもなくこれは作品水準から順当という以上に意義深い。国内に土壌/市場をもたない大陸中国のドキュメンタリー作家にとって、従来から「山形」の存在は途轍もなく大きいからだ。
『理大囲城』の受賞はむろん、当局が中国籍作家の山形への出品を締め付けにかかる恐れさえ生む一方で、長期視野では仮に当局が動いたらそれこそ勲章として機能し、山形の牽引力は深みを増す。政治性を含み込むこうした決定を下してこその国際芸術祭なのだが、日本=「芸術に政治を持ち込むな」の国では稀有の達成、誠にめでたう。
おしまい。
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