今回は、11月19日~20日の日本上映開始作と、《よみがえる台湾語映画の世界》特集上映作から11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第199弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■11月19日公開作
『茲山魚譜 チャサンオボ』
天才学者と、好奇心あふれる漁夫青年の友情と決別。
朝鮮22代正祖没後のカトリック弾圧下、離島へ流された丁若銓を演じるソル・ギョングの、朱子学を通じた論理思考により自然への探究心を飼いならす様は憑依そのもの。王でなく民を描く韓国史劇映画の画期作。
"자산어보" "The Book of Fish" https://twitter.com/pherim/status/1459691184624791552
『茲山魚譜-チャサンオボ-』を巡り書きました。
本草学と博物誌、金薫/キム・フン原作『黒山』にみる1801年のキリスト教弾圧と丁若銓が見据える今日。航海者 文淳得、イ・ジョンウン、李氏朝鮮史劇映画の系譜等。
【映画評】信従のまなざし、遠流の明晰。| キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2021/11/19/51548/
『モスル あるSWAT部隊の戦い』
イラク第2の都市モスルでISISに抗い独自に闘う、鉄の掟もつ警察官有志のSWAT部隊。
瓦礫の街での近接戦闘再現が凄まじい。アベンジャーズのルッソ兄弟製作による、非米軍視点を極めた映像音響の迫真性。廃墟に潜むイラン特殊部隊との取引、クルド兵描写など見処大漁。
"Mosul" https://twitter.com/pherim/status/1459146102049939464
『リトル・ガール』
わたしは女の子、と訴え続けるサーシャ。
小児精神科医の前で、母に配慮し黙り込むも涙を零れ落とす7歳少女が背負うもの。
大人達の排斥的反応は、未だあのフランスでさえと驚かされるこのドキュメンタリーは、一方で家族友人ら味方に立つ人々がどれほど重要かを教えてくれる。
"Petite fille" "Little Girl" https://twitter.com/pherim/status/1452984505359237120
『リトル・ガール』をめぐり書きました。
心と体、性の“正常”をめぐる抑圧の無意味の意味。
子どもの感性と大人の不毛。
ほか『MONOS 猿と呼ばれし者たち』『グレタ ひとりぼっちの挑戦』『スウィート・シング』言及。
【映画評】子どもの宇宙とこの自由 | キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2021/10/27/51237/
『COME & GO カム・アンド・ゴー』
大阪キタ。ベトナム人技能実修生、ミャンマー⼈苦学生、香港移民家庭、韓国人風俗嬢集団等々もはや文化混淆とか超えた特濃日乗。
三線をせつなく奏でる沖縄出身のAV制作会社社長、に騙されかける徳島出身のネットカフェ難民娘など、輪郭蕩ける“日本”描写も趣深い。
"Come and Go" https://twitter.com/pherim/status/1455525807342772225
『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』“Podolskiye kursanty”
激戦必至の独ソ戦天王山。ポドリスクの士官候補生3500名投入2500名戦死の泥沼描写、その迫真。
近年機密解除された文書に基づき、戦車ほか博物館保存物動員の物量規模と古風な青春ドラマの並走する、大作量産期を迎えたロシア映画の我が道ゆく感が味わい深い。
"Podolskiye kursanty" "The Last Frontier" https://twitter.com/pherim/status/1460438975420657666
(若い兵士らと看護師らのロマンスパートが余計という感想目立つけど、そうじゃないんだ。ソ連映画/ボルシチウェスタンの連なりだと、そっちが同じくらい大事な感受性育ってるんよっていう、ひそやかなる反駁ヒソヒソ)
『光と影のバラード』 https://twitter.com/pherim/status/1138383219655495682
■11月20日公開作
『ユダヤ人の私』
アウシュヴィッツ他4つの強制収容所を知る男。
戦後無数のユダヤ難民をパレスチナへ逃がし、自国オーストリアの責任を訴えてきた相貌と声音の軋み。ナチスへ転嫁した人々との共生、止まない脅迫。
ホロコーストの今日性巡る表象の可能性と不可能性が、その皮膚の翳りを象りゆく。
"Ein judisches Leben" https://twitter.com/pherim/status/1461908317459165186]
拙稿「ホロコーストの自画像」 近日追記予定
『ゲッベルスと私』https://twitter.com/pherim/status/1009265307708416000
■《よみがえる台湾語映画の世界》@国立映画アーカイブ&アテネ・フランセ文化センター 2021/10/2-17
https://2021.tiff-jp.net/news/ja/?p=56666
『チマキ売り』“燒肉粽” 1969
チマキ売りの少女、と父。
台湾語映画。泥棒を間男と見誤った父の母への折檻から、一家は不幸のどん底へ。「俺はバレないよう外で浮気してるのに!」と父が吠える冒頭から、常識ラインが異次元な会話と、昭和映画の並行宇宙のような画作りとのギャップが香ばしくも趣深い。
"燒肉粽" "The Rice Dumpling Vendors" https://twitter.com/pherim/status/1449346291293581316
『モーレツ花嫁 気弱な婿さん』“三八新娘憨子婿” 1967
結婚を親に拒まれた男女の駆け落ちからの展開が、
予想外の連続すぎてのけぞる辛奇監督作。
実は男の老父と女の老母が昔破れた恋仲で、杖と大根を手に突如カンフーファイトを始める奇天烈さ。古い慣習と新しい生活文化の混淆描写も興味深い。
"三八新娘憨子婿" “Foolish Bride, Naive Bridegroom” https://twitter.com/pherim/status/1464944890433839114
『危険な青春』“危險的青春” 1969
溢れでる若者の活力と風俗産業の闇に権力者が絡む、時代のエネルギー充満する逸品。
若い娘は男のため&金のため翁の愛人になるし、男は男で色々クズい所業に出るのだけれど、観ていて心がザラザラしない。情景描写の瑞々しさ、放埒の底にみてとれる誠実さゆえか。
"危險的青春" "Dangerous Youth"
『五月十三日 悲しき夜』“五月十三傷心夜” 1965
姉妹で同じ男に惚れる林摶秋監督作。歌謡場面がとても多く、どれも耳馴染みないはずなのに、なかなか聴かせる。
大稲埕(台北北西部旧市街)の祭り撮影部(中盤)で知られる作品らしく、確かに迫力あり資料価値も高そう。女の闘いの行方は熾烈かつ予想外。
"五月十三傷心夜" "May 13th, Night of Sorrow" https://twitter.com/pherim/status/1469309748508237828
『夫の秘密』“丈夫的秘密” 1960
身籠った貧しい愛人を、愛人と同窓生の裕福な妻が夫の不届きを知らず保護してさあ大変。
竹田敏彦小説&松竹作がベースの台湾語映画、東宝に学んだ林摶秋監督作。異様なユーモアの不意に炸裂する楽しさが、日本家屋で展開する不思議宇宙。
表情演技がほんと良い。
"丈夫的秘密" "錯戀" “The Husband's Secret” https://twitter.com/pherim/status/1462350599144415240
余談。
台湾語はいわゆる中国標準語(北京語/普通話)由来の台湾華語とは異なる台湾在来の中国語方言で、台湾語映画は戦後約2000本ほど撮られたとされる。
同時期に国民党政府主導で撮られた台湾華語映画との差異も諸々(例えば日本との距離とか、モラルの描き方など)際立っているようで、奥は大変深そうです。
おしまい。
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