今回は、12月3日~12月10日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第202弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
12/3日本公開作のうち、
『ナチス・バスターズ』『パーフェクト・ケア』『スティール・レイン』『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』『ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』の5作品については、前回ふぃるめも(201)↓で扱いました。
「ふぃるめも201 バスターズ&リフターズ」 https://tokinoma.pne.jp/diary/4406
■12月3日公開作
『グロリア 永遠の青春』
離婚し子育てを終え、老いの入口で孤独に直面する女を演じるジュリアン・ムーア、なお進化する還暦の閾。
『グロリアの青春』(チリ‘13)の監督セバスティアン・レリオ自身によるハリウッド・リメイク。間に『ナチュラルウーマン』を挟み、一層深化した情感演出にも唸らされる。
"Gloria Bell" https://twitter.com/pherim/status/1470210530552197120
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』
ユダヤ人天才少年が、第二次大戦下ロンドンでのデビュー公演直前に姿を消す。35年後、ホロコーストを背景とする失踪の謎が明かされだす。
ティム・ロスとクライヴ・オーウェンとの烈しくも哀しき対峙。シナゴーグでの“The Song of Names”(原題)上演は鳥肌物。
"The Song of Names" https://twitter.com/pherim/status/1467341044694286337
【映画評】神はアウシュヴィッツを赦しうるか 再監獄化する世界(5)
http://www.kirishin.com/2021/11/30/51683/
試写情報が新聞社宛てへ届いたため、手元へ届き処理段階へ入るまでに日数を費やし、結果上記記事に入れることができなかった、が入れるべきだった作品。まぁこういうことが起こるのは仕方ない。上映時期から外れるのは惜しいけれど、数カ月後に機会あれば。
『悪なき殺人』
雪積もるフランスの山里で人知れず起こる殺人に、
西アフリカ・アビジャンで暮らす若者が絡む群像劇。
誰もが少しずつ禁忌を犯すことで正気を保ち、SNS効果でその“少しずつ”が共鳴連鎖を遂げ、加速度的に重層化しゆく。
羅生門とファーゴを万華鏡へ投じ撹拌したような構成は刺激的。
"Seules Les Bêtes" "Only the Animals" https://twitter.com/pherim/status/1466973739305041922
■12月4日公開作
『クナシリ』“Kounachir”
旧ソ連出身の仏人監督が撮る、国後島の今。
人々の風貌と荒涼風景が目に楽しい。日本人引き揚げ期(1947~9)を記憶する老人が、’90s以降に感じる奇妙さ巡る語りは新鮮。
荒れ地を掘ると日本人村の痕跡が続々現れる。寺の礎石や墓石を渉猟する男2人が、源泉へ浸かる図に和む。
"Kounachir" https://twitter.com/pherim/status/1465521825383780352
『クナシリ』“Kounachir”の背景に映り込みつづけるオホーツクの大自然に、『Shari』の雪原や雪林が想起される。
国後と斜里は知床を挟み、直接は向き合わないものの風景に羅臼岳を共有する近しさは実際ある。ゆえにこそ引き立つ歴史性の差異と、作品性のそれとの間にあり得る連関に思い馳せるなど。
『Shari』 https://twitter.com/pherim/status/1451020748328357888
■12月10日公開作
『GUNDA グンダ』
ブタさんの物語として消費しない。擬人化ではなく、己こそを“擬豚化”する決心が、この映画の終幕をより際立たせる。
この近接、この精彩を可能とした今日ゆえに生じた映像の膂力の下地に覗く、社会思潮と人類学的の存在論転回との交錯。この意味でホアキン・フェニックス製作は伊達でない。
"Gunda" https://twitter.com/pherim/status/1467478395663847425
『牛』 https://twitter.com/pherim/status/1454791119078715393
『ニューイヤー・ブルース』“새해전야”
人生の節目迎えたアラサー男女4組の
X’masから元日までの7日間。
今日の韓流天下と『私をスキーに連れてって』『ふぞろいの林檎たち』の日本バブル期がダブる、圧倒的な《勢いにのる製作力》感。アルゼンチンパートの観光的仕上がりなど臆面のなさ込みで良い。
"새해전야" "New Year Blues" https://twitter.com/pherim/status/1468778546072268800
『ラストナイト・イン・ソーホー』
ロンドンへ上京しファッションを学ぶ主人公を、夜ごと襲う’60sソーホーの夢。そこで彼女は歌手志望の奔放な女性となるのだが。
アニャ・テイラー=ジョイとトーマシン・マッケンジーの鮮やかな対照に、昔日の絢爛と現代の逼塞を重ね情念の呻きを絡める巧緻の極み。
"Last Night In Soho" https://twitter.com/pherim/status/1467696241517928448
『軍艦少年』
軍艦島の空撮部は見応えあり。
夭折の母と頑固な父のもと育つ息子という定型的物語へ、軍艦島をめぐる土地性や歴史性をただ記号的に結びつけ、俳優の感情演技に依存しまくる語り口の浅さが残念。
立入禁止区域をのし歩く刑事役・赤井英和の破戒演技は面白いが、少年による模倣に説得力は感じ難い。
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『ローラとふたりの兄』
仏西部の町アングレームに暮らす兄妹3人の悲喜こもごも。関係性がこじれても、両親の墓の前では毎度神妙に並ぶ図が微笑ましい。
兄妹間のパラメータ格差へ各種の社会矛盾を凝縮させる手際など、ロンドン舞台のM・ウィンターボトム傑作『ひかりのまち』を想わせる構成の冴え。
"Lola et ses frères" "Lola&Her Brothers" https://twitter.com/pherim/status/1469868077534027778
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『僕の名はパリエルム・ペルマール』“பரியேறும் பெருமாள்” “Pariyerum Perumal”
タミル映画。ダリト(不可触民)の青年が味わう仕打ちの不条理さ。
おてんばヒロインや愛すべきバディらが彩る学園描写と、カースト意識の根深い外社会との対照に戦慄する。インド内宇宙の多様性をも体現する、風土固有の差別模様は痛ましい。
"Pariyerum Perumal" https://twitter.com/pherim/status/1468188868331864064
『僕の名はパリエルム・ペルマール』“பரியேறும் பெருமாள்”、大学内のシークエンスは、大親友とのじゃれ合いやヒロインの輝き具合など込で、『きっと、またあえる』を彷彿とさせつつもより南方的な描写が目を引きました。
インディアン ムービー オンライン@imo_vodにて鑑賞可。
→https://www.im-o.net/
『きっと、またあえる』"छिछोरे"https://twitter.com/pherim/status/1294830687015456770
余談。
『僕の名はパリエルム・ペルマール』は、ある勉強会のテーマ作として視聴。観る前と後とで世界の色や温度が変わる作品を傑作とする評価軸からも、年に何本出会えるかという傑作には相違なく。と書いて気づいたけれど、在宅視聴のドラマ・アニメ等を含めると今年みた作品数は恐らく1000本以上になるだろうなと。人生最多になるのかも。
VOD進化+コロナ適応の思わぬ効用、かな。良くも悪くも。
おしまい。
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