今回は、2月4日の日本上映開始作と、連続講座
《現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜》vol.2上映作から11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第207弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■2月4日公開作
『夢みる小学校』
この学校を出た子は、その先で出逢う少なくない周りの子達にとってさえ救いになると確信される。
前へ倣えの軍隊規律になおすがる世間とは真逆の、皆が個を発露させる稀有の光景。義務教育との綿密な法的すり合わせで独自教育を実現させる公立校長の挿話も凄い。端的に希望を感じる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1487269025449086984
これほど全員があたりまえに自分の頭でものを考え行動する集団の風景は、子供に限らず日本で他に見た記憶がない。
『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』 https://twitter.com/pherim/status/1341941438653710336
『世界の果ての通学路』 https://twitter.com/pherim/status/1358054957119729664
『ギャング・オブ・アメリカ』
ラスベガスを築いた梟雄マイヤー・ランスキー。
マフィア組織へ経営思想を持ち込む実話ベースの描写は新鮮で、ルチアーノやカポネらお馴染み面子の実直な計算高さが興味深く、FBIの徒労感切ない。
ハーヴェイ・カイテル無数の主演作中でも、『スモーク』に並ぶ名演。
"Lansky" https://twitter.com/pherim/status/1486175103100796929
『ギャング・オブ・アメリカ』は、ユダヤ出身属性ゆえの屈託を描く点も印象深い。
フラミンゴホテル経営に成功したランスキーは、中東戦争最中のイスラエルへ巨額の武器支援を行うも、後年自身の亡命を拒まれる。
往年のヤクザ映画や香港警察物にも通じる、国家とマフィアの気宇壮大な折衝描写良い。
『ギャング・オブ・アメリカ』、いかにもギャングな演技を皆マジメに追求する姿はメタ風刺っぽく、可愛らしささえ。
ちなランスキー役は過去、ダスティン・ホフマン、デ・ニーロほか錚々たる系譜あり。
トム・ハーディ怪演の『カポネ』始め近年のイメージ深化、楽しいですね。
『カポネ』 https://twitter.com/pherim/status/1364775410777477122
『パイプライン』
送油管から石油を盗みだす《盗油団》の七転八倒。
ソ・イングク&イ・スヒョク主演新作。
「見よこの圧倒的才能を」って主役の穿孔技術を見せつける序盤から、どんなマニアックな仕掛けも大活劇へ仕立てる韓国エンタメの勢いに笑う。怪力掘削男や地中透視男など秀逸キャラ配置で魅せる。
"파이프라인" "Pipeline" https://twitter.com/pherim/status/1485450165817610244
『パイプライン』を観て懐かしく思い出されたのが、
『アタック・ザ・ガス・ステーション!』。
『シュリ』が韓国映画再評価(多くの日本人が初体験)の機運を生んだ頃の公開作。ガス関係の犯罪映画という他に、制約状況を面白くみせる工夫でも共通。個人的に『シュリ』と似て非なる衝撃を受けた一作。
『再会の奈良』(又見奈良)
失踪した養女を探す老婆と、老婆を助ける元刑事とを演じるウー・イエンシュー/䬗彦姝x國村隼による非言語のかけ合いが突き抜けて面白い。
帰国しても居場所を得られない中国残留孤児の数十年が凝縮された導入アニメを含め、カウリスマキ調の渇いた演出の軽妙さに目を瞠る。
"又見奈良" "Tracing Her Shadow" "Seeing Nara Again" https://twitter.com/pherim/status/1487734716962795523
『鈴木さん』
戦前の天皇制おもわせる全体主義島国のある町へ、反体制の嫌疑がかかる男が迷い込む。
全編を引っ張る、主演いとうあさこの自然体演技は見もの。しかしこの演技力への、練れてない演出脚本の依存度があまりに高い。シリアス過剰が孕み得る可笑しさもこのため生じず、生真面目さゆえの平板さが風刺本来の棘を潰した感。
"Mr.Suzuki-A Man In God's Country-"
■連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」vol.2 12/11日(土)~12/17日(金) 全国24館
https://www.arthouse-guide.jp/
『クローズ・アップ』“Nema-ye Nazdik”1990
巨匠モフセン・マフマルバフになりすました男の犯行+裁判過程を再現するキアロスタミ1990年作。
関係者すべて本人起用という触れ込みを遥かに超え、裁判本番が撮影された上、犯人とマフマルバフ当人とがバイク2人乗りでテヘラン市中を走り抜ける。虚実の奥向こうから覗く真実。
"Nema-ye Nazdik" "Close-Up" https://twitter.com/pherim/status/1469954159583830019
深田晃司監督『クローズ・アップ』講義の豊穣。
キアロスタミの怪物性を、作家視点から解析する手際の鮮やかさ。『友だちのうちはどこ?』の柔らかな光に潜む演出の凄味、カメラの暴力性。
E.H.カーの引用語りに、『淵に立つ』以来感じてきた構造的分厚さが自ずと回想される。
『本気のしるし 劇場版』 https://twitter.com/pherim/status/1336668412559249409
『よこがお』 https://twitter.com/pherim/status/1154351634492747781
『淵に立つ』 https://twitter.com/pherim/status/781071911669215232
マフマルバフ作としてはギャベやサイクリストがこの講義含めよく言及されるけど、亡命後の『独裁者と小さな孫』など汎カフカス的で烈しい。深田監督の現況踏まえても、権力性への言及は示唆的だった。
9.11テロ後読み漁った中で、最も印象強かった本の著者が彼と今さら知る。
『独裁者と小さな孫』 https://twitter.com/pherim/status/686833749376413696
『マッチ工場の少女』“Tulitikkutehtaan tyttö”1990
淡々とつづく日常と、内に逆巻く孤独の嵐、愛への希求。
誰にも見向きされず工場で働き、文学に心を遊ばせ毒親家庭を生きしのぐ女性が踏み出す、一歩の熱量。表情仕草から一切の余剰を削ぎ落とし、不思議な距離感で寄り添うカウリスマキ・タッチが昇華するその究極温度。
"Tulitikkutehtaan tyttö" "The Match Factory Girl" https://twitter.com/pherim/status/1490308169687453696
『希望のかなた』 https://twitter.com/pherim/status/929560909755793408
※岨手由貴子x大江崇允トークをめぐり後日追記予定。
『鳥の歌』“Para recibir el canto de los pájaros”1995
16世紀スペインのアンデス征服を主題に“批評映画”を撮る目的で、先住民村へ入った製作班。
やがて彼らは幻の祝祭“鳥の歌”めぐる撮影不可能性に直面する。無自覚の権力性をむき出すその醜態へ映り込む、ボリビア・ウカマウ集団の放つ現代世界への疑義は鋭い。チャップリン実娘出演。
"Para recibir el canto de los pájaros" "Birdsong" https://twitter.com/pherim/status/1470660574736687105
『鳥の歌』小田香x太田昌国トーク
セノーテの水流が底部で連なる闇中の洞の先へ予感されたもの。ボリビアの山里で撮影班が引き返した透明の壁の向こう側に息づくもの。その、不可視のものにくるまれる瞬間こそを望んでいたと気づくのは終わったあとなんだよな、いつも。
『セノーテ』ほか小田香作品群 https://twitter.com/pherim/status/1319479884012351488
『セールスマン』(メイスルズ兄弟, 1969)
「教会から来た」と意図を隠して家へ上がり込み、週1$(現7$)の出費を悩む労働者家庭へ聖書事典を売りつけるため、全米を旅して周る男たち。
信仰とモラルをテコに低額ローンへ主婦を巻き込む彼らの屈託を、一切の解説なしに映し続けるリアルの鮮度に見入る。
"Salesman" https://twitter.com/pherim/status/1470893588737593354
『セールスマン』想田和弘講義
観客質問に対する、通り一遍でない応答が逐一興味深い。(Q.アフレコの倫理性 A.俺はしないがグレーゾーン等)
想田監督自身が、被写体への暴力性を巡りメイスルズ兄弟やワイズマンへ尋ねてきたという話、自分も頻繁にする質問(↓)ゆえやや恐縮。
「観察映画における瞑想性をめぐって 想田和弘監督インタビュー」
https://note.com/pherim/n/nff4f08eb6307
『ビリディアナ』“Viridiana”1961
尼僧の頽落、燃ゆる荊冠、最後の晩餐腐す大乱闘。
亡命先からフランコ政権下の母国へ出戻ったルイス・ブニュエルが吐き出す気魄。自殺前の笑い、身障者のキリスト化etc.. カンヌ最高賞獲るもバチカン激怒し伊西で上映禁止、という受容さえも呑み込むような表現の強さに嗤う。
"Viridiana"
※広瀬奈々子x稲川方人トークをめぐり後日追記予定。
『ある夏の記録』でジャン・ルーシュは、パリの若者達が人生や政治を巡って議論を交わすなか進行する映画制作そのものを写しとる。一貫した楽天的なムードの下、白昼のコンコルド広場を歩く女性がふとホロコースト犠牲者の父へと語りだすシーンが纏う、見えないものへ向き合おうとする表現意志に震撼。
"Chronique d'un été" https://twitter.com/pherim/status/903414888373960704
『ある夏の記録』“Chronique d'un été”1961
冒頭、女性二人が「あなたは幸せですか」と道行く人へ尋ねる。伊丹十三が同じことをする映像を以前観たけれど、元ネタこれかと。またアフリカばかり撮るルーシュに「自分の部族を撮れ」とエドガール・モランが促したのが本作の起点とか。なるほどあの雑踏での距離感は人類学由来かと。
ジャン・ルーシュ1958年作『私は黒人』 https://twitter.com/pherim/status/912681242016940032
余談。
『現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜』Vol.1をめぐり、謎の熱量ある駄文を昨年書きました。思い入れを垂れ流すのみ、まったく練れてない文字通りの駄文です。よろしければ。↓
「夢七夜」https://note.com/pherim/n/nff4f08eb6307
初年度は、最寄りの上映館である渋谷ユーロスペースは30歳以下優先販売で満席となる回が複数あり、幾度か横浜まで出かけて観たのが意外に良い鑑賞体験となったのも思い出深い一週間でした。
なお今回の第7夜『イタリア旅行』“Viaggio in Italia”(1954)については数回先のふぃるめもにて扱う予定です。
下記オマケ動画↓。
"Viridiana" (1961) - Dog Scene
いやおうなく主が変わりゆくわんこさま。※ただし健康わんこにかぎる。
みんな何かの奴隷ですよ、みたいな。
自分はまぁ、体験とつぶあんの奴隷だぬ。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh