pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
02月12日
23:53

ふぃるめも208 ちょっとオーストラリアだけ

 

 今回は、2月11~12日の日本上映開始作と、《香港映画祭2021》《CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭》上映作などから15作品を扱います。(含再掲5作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第208弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■2月11日公開作

『ロスバンド』

ロック大会を目指し、少年少女が北欧のフィヨルド大地を一路北上する爽快ジュブナイル・ロードムービー。
七転八倒の少年コンビと9歳のチェロ少女、父の期待が重い青年の4人組が各々困難を切り抜ける姿は清々しく、デスメタルシャウト花嫁、引退当日の老警官など脇役も逐一楽しい。

"Los Bando" https://twitter.com/pherim/status/1491383140489003009




『ちょっと思い出しただけ』
伊藤沙莉がベスト・オブ・ベストの煌めき、凄すぎる。
その発光を引きだす池松壮亮の懐深さも圧巻。
失意の青年と女性ドライバーの恋が描く軌跡、その残響。演劇畑の松井大悟監督作とあって会話台詞が全編面白いなかでも、ふたりのやり取りはその日常温度がもう神話的。

"Just Remembering" https://twitter.com/pherim/status/1466739196845260810

  東京国際映画祭観客賞受賞時ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1457631366623817732

『ちょっと思い出しただけ』あす公開。
もうね。楽しみすぎるShortcake
毎年挙げるベスト映画の中には、初見の感動がデカ過ぎて、勿体なくて多くを語れず二度目も観れずって作品があり、この意味で『A GHOST STORY』と並ぶ超巨星が本作です。今回は万難を排して観ますけど。観るゾ

   2021年映画ベスト10 https://twitter.com/pherim/status/1475317954728595456
  『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』 https://twitter.com/pherim/status/1073117521572581377





『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』
黒海→ヒマラヤの前半は映像爽快、まさに理想の自転車旅。パキ警察追尾篇楽しすぎ。
だがアジア地勢に明るい人間なら皆疑う箇所でやはり彼らは挫折する。そこに始まる失調を隠さず締める誠実さこそ、人生の通過儀礼を見るようで麗しい。

"Austria 2 Australia" https://twitter.com/pherim/status/1489853251746820101

  “Blutch”超絶爽快ヒマラヤ旅 https://twitter.com/pherim/status/1477135171363217414




『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
1940年代アメリカ、FBIに敵視されながら人種差別の不正を歌い続けたディーバ孤高の軌跡。
偽装逮捕の憂き目に陥っても、むしろ先鋭化する反骨姿勢。抗う必然を腑分けする展開からの、リンチ殺人描く反KKK歌《奇妙な果実》熱唱場面に脳髄震える。

"The United States vs. Billie Holiday" https://twitter.com/pherim/status/1490594486749057029

ビリーは死後、アヘンを所有したとして死体の足に手錠され逮捕される。当の連邦麻薬局長官アンスリンガーはのちケネディ大統領から功績を報いられたという後日談がなかなか壮絶。
あとエンドロール中盤に始まる“La La Land”実在歌姫版とも言えるオマケ場面かなり好き。
時代が変われど相似形の軌跡を描いたホイットニー・ヒューストン。ドラッグをめぐる悲劇の社会構造的側面。

  『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』
  https://twitter.com/pherim/status/1077922714034159616





『国境の夜想曲』“Notturno”
ジャンフランコ・ロージ監督新作。
同監督名作『ローマ環状線』から『海は燃えている』の地中海経て混迷の中東へ上陸した質感は、しかし暴力と死の気配漂うその場所で、例えばパトリシオ・グスマンの静謐さとは真逆の軋みをあげる。超越でなく拮抗を選び続ける映像美学。

"Notturno" https://twitter.com/pherim/status/1488715038286176263

  『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』 https://twitter.com/pherim/status/508867705277906944
  『海は燃えている』 https://twitter.com/pherim/status/829540157674057728

  パトリシオ・グスマン『真珠のボタン』 https://twitter.com/pherim/status/712830494564442112
  パトリシオ・グスマン『夢のアンデス』 https://twitter.com/pherim/status/1449000996483440654

  
『国境の夜想曲』、東京国際映画祭2020上映時の邦題は『ノットゥルノ/夜』
自分は過去作との連環を楽しみに観てかなり満足したのだけど、紛争地を美しく撮ることに戸惑う人も少なくないようです。
この“映像美”を巡り濱口竜介xジャンフランコ・ロージ対談に言及ありました。https://bitters.co.jp/yasokyoku/interview2.php

  
  
  
■2月12日公開作

『標的』

1991年、元慰安婦への取材報道を捏造と糾弾された元朝日新聞記者・植村隆と家族による、その後の長きに渡る格闘の日々。
日本の左翼系ドキュメンタリーにありがちな正義御免の稚拙さが一切ない、綿密丹念な手つきは信頼できる。殺人予告を伴う脅迫の数々と、本人や娘の穏やかな風体との対照は余りにも鋭い。

"The Target" https://twitter.com/pherim/status/1492106088627331073




■日本公開中作品

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

珠玉の眼福作。
『グランド・ブダペスト・ホテル』の箱庭を、幻都パリへ領域展開しきった緻密なディティールのひとつひとつに見惚れる。
大作10本分の作り込み&絢爛の出演陣を結晶させた特濃度、精巧すぎる神構成を一切邪魔しないストーリーラインの単純さ。極の上。

"The French Dispatch" "The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun" https://twitter.com/pherim/status/1493056236232736770

  『グランド・ブダペスト・ホテル』 https://twitter.com/pherim/status/481229088154071040
  『犬ヶ島』 https://twitter.com/pherim/status/999979009931792384

 
 


■CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭
 https://crosscutonline.jfac.jp/?lang=Japanese

『愛のスープ』(รักนะ ซุปซุป)タイ
宮廷料理を夢みるムスリム少女ミニーの修行大冒険。
ムラユ料理(マレー系イスラム料理)専門のタイ王室宮廷料理人の娘で深南部出身の主人公、という設定が新奇。
南部系料理長+華僑系支配人の構図や、教育番組的主旨をタイ娯楽映画のノリでやってのける旨さアロい。

"รักนะ ซุปซุป" "My Love is Soup" https://twitter.com/pherim/status/1493594909739487236

  タイ深南部映画スレッド https://twitter.com/pherim/status/1312201611037483010

主人公らが深南部ナラティーワート県へ出かける中盤で、場面転換のショットでバンコク都心南部ナラティーワート通りを垂直に収める空撮があり、拙バンコク宅建物もに映り込んでいて笑う。タクシー運転手にこの通り名を告げると、しばしば「遠いよ!高いよ!」と冗談を言われたものだ。(東京で浜松町と頼み、浜松?とからかわれるのに近い)
引用RT




『川は流れを変える』
トンレサップ湖からメコン川へ至る流れの傍らで息づく暮らし。
学校を辞め父の漁船に乗るムスリム少年、不作で水牛を売り払っても借金が残る農夫、森が伐採され縫製工場へ住み込む少女。1979年生まれカンボジア難民家庭出身の女性監督Kalyanee Mamによる、抑えの利いた手つきが心に残る。

"A River Changes Course" https://twitter.com/pherim/status/1496830726003560455




■CROSSCUT ASIA アンコール
https://crosscutonline.jfac.jp/?lang=Japanese

“Taklub”(Trap)’15フィリピン
ブリランテ・メンドーサが眼差す、被災する生と死。
台風ヨランダが6千の命を奪ったレイテ島の町Taclobanの2013年を生き抜いた、実在する3人を軸に描く。
うち初老女性の深い眼差しに惹かれ、もしやと確認すると33年後のノーラ・オノール(↓)で驚く。質実として強靭なる再現劇。

"Taklub" "Trap" https://twitter.com/pherim/status/1489094913211781121

  ノーラ・オノール主演1982年作『奇跡の女』“Himala”https://twitter.com/pherim/status/1237209232811765760

※配信邦題 『罠(わな)~被災地に生きる』
@loren_legarda



『カンボジアの失われたロックンロール』
仏コロニアル&米カルチャー混淆の60年代カンボジアン・ロックシーンが放つ底抜けの明るさと、クメール・ルージュによるまったき断絶。歌い踊る若きシアヌークの無邪気さが散った後の凄惨と、失われた時代への憧憬を語る生存者達が見せる表情の明暗は忘れがたい。

"Don't Think I've Forgotten: Cambodia's Lost Rock and Roll" https://twitter.com/pherim/status/1091600614633525248

『カンボジアの失われたロックンロール』オンライン無料公開今夜(2/3 23:59)まで。
黄金期の大歌手たちと、地獄のポルポト時代。その苦難を未だ知らない若きシアヌーク国王の演奏する姿は軽やかにして切ない。




『ピート・テオ特集』(『15マレーシア』)
ヤスミン・アフマド遺作短編"Chocolate"含む、ピート・テオ製作の15監督オムニバス。全てヤスミン没後2ヶ月以内に完成され、ヤスミン映画常連の熟練俳優たちが若手監督らの各作へ散らばる様は、彼女の遺伝子継承をみるようで熱い。(link: http://15malaysia.com/) 15malaysia.com 等にて全作鑑賞可(英字幕)

"15Malaysia" https://twitter.com/pherim/status/1156139620792328193

『15マレーシア』“15malaysia”、《CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭》にてきょう24時まで日本語字幕付きで観られます。“Pete Teo Special” https://crosscutonline.jfac.jp/wp/movie/pete-teo-special/...
ヤスミン・アフマド映画常連の俳優たちも楽しんで演じたりメガホンとったり。隠れた垂涎作です。




■香港映画祭2021
 https://hkfilm2021.wixsite.com/official

『夜香、 鴛鴦 、深水埗』 (夜の香り/Memories to Choke On, Drinks to Wash Them Down)
香港の今を活写する4話構成。
老婆とフィリピン人メイドのかけ合いで魅せる“出城記”、
おもちゃ屋の昭和感がたまらない“玩具故事”、若い教師男女のグルメ行脚が薫る“鴛鴦”。
そして民主派女性候補の闘い追う“深水埗”の活力に見入る。
各々良趣の掘り出し物。

"夜香、鴛鴦、深水埗" "Memories to Choke On, Drinks to Wash Them Down"




『幻愛』(夢の向こうに/Beyond the Dream)
統合失調症の青年が一目惚れする女性と、
彼女に瓜二つな精神科研究生。
異なる人格を演じ分けるセシリア・チョイ/蔡思韵に見入る。ズームイン/アウトや鏡像、トンネル等を使った虚実の転換演出と、いかにも香港な恋愛描写が楽しいキウィ・チョウ2019年作。

"幻愛" "Beyond the Dream" https://twitter.com/pherim/status/1476907863713132549

   周冠威/キウィ・チョウ監督新作『時代革命』 https://twitter.com/pherim/status/1457270313599660032

  【映画評】香港の心のゆくえ http://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/





『あなたを思う』(看見你便想念你 / I miss you, when I see you)
豪州へ移民し心を病んだ青年と、香港で家庭を築こうとする青年。かつて苦い別れを経験した2人が再会し、一時的な同居を始める。
プロの俳優らが脇を固めるなか、主人公役ジュン・リー/李駿碩(後述)の醸す朴訥とした存在感が活きる。

"看見你便想念你" "I miss you, when I see you" https://twitter.com/pherim/status/1416774132604174338 
 
続)李駿碩/Jun Liには、’19年夏デモ騒乱下の香港でインタビューした。https://twitter.com/pherim/status/1167669359453593605
いまや香港新世代監督の旗手だが、日本軍占領下の九龍描く短篇『1944年の秋』(四四年秋/Days of Fall,後述)も実は彼の作ではと憶測。(未確認)
図星なら公表監督名Fisherは、暗黒啓蒙のMark.F由来だろう。
 
  李駿碩『吊吊揈』“My World” https://twitter.com/pherim/status/1168085723053842432

  マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』(よみめも57) https://tokinoma.pne.jp/diary/3655 第4項目


李駿碩にはケンブリッジ留学期があり、専攻は哲学メイン、国際関係論サブ、香港政情に対するこの数年の身振りを考えても、2017年の自殺までロンドンを中心に活動したマーク・フィッシャーから影響を受けているだろう蓋然性は高い。憶測が図星か否かは別として。


 


 余談。
 
 《CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭》は、観ようか微妙に迷うライン上の作品が多く、他事優先するうち気づいたら残り1日になっていて多くを見逃しました。計画性とゆとり。人生で一度くらいは手に入れたいものですね。手に入れたい。入れども。入れるとき。入れよう。入れろ。





おしまい。
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