今回は、2月25日の日本上映開始作と、《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021》劇場公開作などから11作品を扱います。(含短篇4作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第210弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■2月25日公開作
『GAGARINE/ガガーリン』
実在したパリ郊外団地ガガーリン。
1963年造の老朽建物に暮らす少年ユーリは、ある日家族に置き去られる。
解体手続きの進む現実と、少年の育む宇宙への夢との混濁、ロマ少女との淡い恋。家こそ人の輪郭なんだよっていう。
“パリ郊外映画(Le cinéma de banlieue)”傑作にして住宅/廃墟映画の画期作。
"Gagarine" https://twitter.com/pherim/status/1495597726033416193
宇宙物楽しみってくらい事前情報なしで観たら、老朽団地に暮らす少年の物語で、その浮き立つリアリティに圧倒された。
少年は団地を絶対に離れられない。自分を見捨てた母親がいつ迎えにきてくれるかもしれないから。そこ以外に“自分”はないから。
ロマ役リナ・クードリ可憐。ドニ・ラヴァンも出る。すばらし。
“パリ郊外映画(Le cinéma de banlieue)”スレッド https://twitter.com/pherim/status/1234164785815515136
【映画評】瓦礫のうえで http://www.kirishin.com/2022/02/25/52929/
『ゴヤの名画と優しい泥棒』
犯人から、“身代金は年金受給者のBBC受信料へ”と奇妙な要求が届いた、ロンドン・ナショナル・ギャラリー史上唯一の盗難事件(1961)を映画化。
粋で誇り高い下町老夫婦の切る啖呵がとにかく楽しい。BBCは映らないTVで受信料徴収人へ抗うくだりなど、似てるな島国同士感。
"The Duke" https://twitter.com/pherim/status/1497048601939230724
『選ばなかったみち』
エル・ファニング x ハビエル・バルデムの切なき競演。
若年性認知症を患い、初恋の人と出身地メキシコに留まる“if”と、スランプに陥って逗留したギリシャでの“if”を生きる作家の父。父が生きるもう1つの世界=米国での現実を支える娘が直面する、ラストの破壊力に震撼する。
"The Roads Not Taken" https://twitter.com/pherim/status/1496317919323697154
『選ばなかったみち』をめぐり書きました。
名優ハビエル・バルデムと、レイナルド・アレナス『夜になるまえに』。
NY移民社会と認知症描写にみる、弟子の足を洗うイエスの影。
(他GAGARINE/ガガーリン、焼け跡クロニクル言及)
【映画評】瓦礫のうえで http://www.kirishin.com/2022/02/25/52929/
キューバ文学&『夜になるまえに』スレッド https://twitter.com/pherim/status/802433968637296641
『選ばなかったみち』には、娘役エル・ファニングと車移動する作家の父役ハビエル・バルデムがNYの車窓を眺めるシーンがあり、NYで自死したレイナルド・アレナスを演じる『夜になるまえに』のハバナ市街を流す車窓場面がダブり胸熱。
↓はジョニー・デップとの対峙場面。
https://twitter.com/pherim/status/1500416507721183239 (動画ツイ)
『ハ―ド・ヒット 発信制限』
子供を乗せた車に爆弾が仕掛けられパパ大変。
海山の風光明媚な釜山の街を舞台とするカーチェイス。チョ・ウジン初主演xキム・チャンジュ初監督の初並びでこのスケール感、飛ぶ鳥落とす韓流ならでは。悪役チ・チャンウクも見所。
社会批判の鋭さは『スピード』より『新幹線大爆破』に近い。
"발신제한" "HARD HIT" https://twitter.com/pherim/status/1495959479158210562
『焼け跡クロニクル』
べつのものが映り込んでいる。
フィルムの残骸から新たな一篇を編む原將人の営みと、焼け跡から新たに歩みだす家族の足どりとの、しなやかな同軌。
“伝説的監督の挑戦”が宣伝口上ながら、子ら想う妻・原まおりの息遣いこそを真の主役とする構成の巧みさに、本作の精髄をみる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1496123142833840131
【映画評】瓦礫のうえで http://www.kirishin.com/2022/02/25/52929/
『ボブという名の猫2 幸せのギフト』
ストリートミュージシャン&茶トラのぬこ活劇続編、
第1作より諸々面白い。
インド移民親父や中華系の親友(恋人未満)、ビッグイシュー販売や動物衛生局との対峙、動物出演への批判に対するメタ応答まで、今日的ポリコレ処理により更に深み増す手際に感心。
"A Christmas Gift from Bob" https://twitter.com/pherim/status/1497774587689332737
■日本過去公開作
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
ミュージシャンの夢砕け、ロンドンで薬物依存のホームレス生活を送る青年が、1匹の茶トラと出逢い再起を果たす実話ベースぬこ活劇。
リアル動物が主役のよくある映画と不思議に違いを感じたらこの茶トラ様、実話本人(猫)出演と知る。 断薬描写も印象的。
"A Street Cat Named Bob" https://twitter.com/pherim/status/1496978935975800841
■《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021》 2022/2/25~3/24 東京/大阪/名古屋
http://www.vipo-ndjc.jp/screening/ippan2021/
『なっちゃんの家族』
両親の不仲に疲れきった10歳の少女が家出し、
祖母宅へ立て篭もる。
味方につく祖母(白川和子)や、予想外の着地など展開が超楽しい道本咲希監督短篇。少女役・上坂美来、冴えない父役・斉藤陽一郎各々良く、世間体に生きるダメ母役・須藤理彩の目ヂカラに圧倒される。#ndjc2021
"" https://twitter.com/pherim/status/1494143047323447296
『LONG-TERM COFFEE BREAK』
風来坊に惹かれ結婚したバリキャリ女性が、
純正ヒモ化する夫に翻弄され人生の苦味を知る。
佐野弘樹、福田麻由子ら役者みな良い。とりわけ主演の藤井美菜、同じく翻弄され聖母視されるキム・ギドク『人間の時間』に対し、本作ラストの決めは爽快。藤田直哉監督短篇。
"" https://twitter.com/pherim/status/1495202609744867328
『遠くへいきたいわ』
娘を亡くした女性と、母を亡くした少女の交錯。
今日の戸越銀座を舞台としながら、小劇場演劇のような言い回しが独特の時空を生みだし、“自死”が重りとなって先の読めない不穏さを醸しだす。電子音も手伝いラストの解放感にまで滲む昭和レトロ調の心地よさ。団塚唯我監督作。
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『少年と戦車』
校内イジメという逃げ場のなさをブチ破る、
湖底に沈んでいた旧式戦車、
というギミックが痛快な青春断片。
着想は詩的なのに構成が散文的ないびつさと、登場人物の半数を占める不良3人の造形が平板すぎて退屈さを醸す点は惜しい。竹中貞人監督作。
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余談。
ndjc:若手映画作家育成プロジェクト。映画・TVなど映像製作周辺の業界ですでに実績ある監督たちが集う様々な短編企画より、こちらのほうが断然面白いという事実には希望を感じます。これってつまり、代理店やプロダクション主導のドメスティックな慣行に染まりさえしなければ、日本映画は依然イケる、超有望ってことかもですね。
おしまい。
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