今回は、2月26日~3月4日の日本上映開始作と、第13回京都ヒストリカ国際映画祭上映作から11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第211弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■2月26日公開作
『チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー』
事実上ロシアの傀儡と化した、
チェチェン=カディロフ政権による“血の浄化”。
LGBTQ排除の実態、惨鼻極まる拷問、私刑の容認。
“恥”ゆえに公道で親族の頭を潰す暴虐。
このpost-truth下で挑まれた、深層学習型AIを駆使する撮影対象保護の先進性に目を瞠る。
"Welcome to Chechnya: The Gay Purge" https://twitter.com/pherim/status/1497377398865625091
『金の糸』(ოქროს ძაფი)ジョージア’19
79歳の誕生日当日を生きる作家エレネ。
ふと襲う寂寥、過去の影、想わぬ邂逅、そして。
91歳の女性監督ラナ・ゴゴベリゼの新作に、スターリンの大粛清で父を奪われ、母を極寒の収容所へ送られた監督自身の軌跡が凝縮される。伝統的な木造集合住宅の佇まいも薫る重厚作。
"ოქროს ძაფი" "Okros dzapi" "Golden Thread" https://twitter.com/pherim/status/1497193264977301505
■3月4日公開作
『ポゼッサー』
遠隔で人格を乗っ取り合うSFバイオレンス。
父の呪縛も色濃いブランドン・クローネンバーグ新作で、生理へ訴えるグロ描写を理知のフレームへ載せる試みにエディプス的激闘の痕跡をみる。
結果感覚的ヤバさの割に突き抜け切れない、
だが妙に飽きさせない掘り出し物B級良作仕上がる。
"Possessor" https://twitter.com/pherim/status/1499577319446355970
『MEMORIA メモリア』
ティルダ・スウィントンが耳をそばだてる。
音に体をくねらせ、忘我する。
存在しない音響技師、太古の少女の骨、
信仰を勧める精神科医、森で彼女の訪れを待つ男。
アピチャッポン初のタイ国外作は、コロンビア首都から密林へ潜りゆく。底なしの余韻に、私の空虚が共振する。
"Memoria" https://twitter.com/pherim/status/1491968334459404289
『MEMORIA メモリア』を巡り書きました。
アピチャッポンと“タイ”、イサーンとコロンビア
密林の記憶(メモリア)と記念像(メモリアル)
ティルダ・スウィントンの閾
幽霊/トンネル/宇宙船
劇レアな角度を攻めた文章かと。ぜひ。
【映画評】明滅するリアル: http://www.kirishin.com/2022/03/04/53173/
『ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』
コンゴ民主共和国東端の街ブガヴで、レイプ被害女性を長年治療してきた医師デニ・ムクウェゲの日々。
家族を殺され犯された男が兵士にされ、3桁を超える女性をレイプしたと穏やかに独白する地獄。性欲でなく支配の手段として為される凄絶。
"" https://twitter.com/pherim/status/1498638770689642499
『永遠の1分。』
アメリカ人監督2人組が、3.11テーマのコメディ映画を着想する。
上田慎一郎脚本ゆえ白人役者らの語学教材風おっとりテンポや、米国コメディ感ゼロの劇中コントなどが“カメ止め”のどんでん返しを期待させるも、全体として震災へ直面しきれない日本人男性の私小説作品という観。素朴。
"" https://twitter.com/pherim/status/1499364967140585472
受けた傷に耐えられず米国へ渡った女性歌手の歌唱や、被災者への米国での放射脳差別、主人公らによる津波被害動画の視聴場面など断片的に見入る箇所あり。コロナ描写の意図もわかるが蛇足感は拭えず、“いまさら感”の点ですべての震災描写より強いのはやや発見。
『カメラを止めるな!』 https://twitter.com/pherim/status/1029281534027608064
■第13回京都ヒストリカ国際映画祭 オンライン配信
https://historica-kyoto.com/
『すべての月の夜』
バスク語映画。
戦災で死に瀕した少女が謎の一族に救われる。
一族は吸血鬼で、少女も闇の眷属に。スペイン王位争うカルリスタ戦争からフランコ内戦へ至るバスク地方が舞台ゆえ、メタファーも余韻も極めて多層的。老い衰えゆく慕う男を不死にするか否かの哀しき決断。
"Ilargi Guztiak" "All the Moons" https://twitter.com/pherim/status/1501031246322802690
『放蕩息子』“Kholop”
ロシア富豪が息子の放蕩に業煮やし、中世へのタイムリープを装い人生修業を強制する。
要は『ウエストワールド』ロシア自分探し版という趣きで、資金力に脚本錬成が追いつかないアンバランスやハリウッド借用の容赦なさ、全編の狂躁感など今日的ロシアン娯楽作のテイスト看取。
"Kholop" "Son of a Rich" https://twitter.com/pherim/status/1498271795870253058
『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣』
https://twitter.com/pherim/status/1464424864874254344
『柳』“Willow”北マケドニア2019
北マケドニア映画。不妊に苦しむ3人の女の物語。
『ビフォア・ザ・レイン』のマンチェフスキー/Milcho Manchevski 監督作。
中世から現代まで、物言わず彼女ら人間模様を見つめつづける一本の柳の樹を通し、現代都市のただなかに呪術的世界観を湧き起こさせる。時隔てる3話構成に『灼熱』を想起。
"Willow" https://twitter.com/pherim/status/1502856971292012544
『灼熱』“Zvizdan” https://twitter.com/pherim/status/1497749576815501313
拙note「セルビアの遠い響き」https://note.com/pherim/n/ne411724b38ab
『戦場のエルナ』“Erna i krig”
肝っ玉おかんが男性兵士になりすまし、
徴兵された知的障碍もつ息子を探し戦地へ赴く。
第一次大戦期、ドイツに早期支配されたデンマーク人の苦渋を、息子想う母の目線で描く熱さ。“敵兵”とも違う“内なる悪”が、協力を餌に結婚迫る上官の狡さに象徴される良構成。
"Erna i krig" "Erna at War" https://twitter.com/pherim/status/1503564643784036354
『オシュラガ 魂の地』カナダ2017
モントリオール都心のスタジアムが陥没し、
試合中の選手が犠牲となる。
そこから始まる、開拓期へ遡る先住民と西洋の交錯と混濁の歴史。モホークの血を引く主人公研究者のみならず、登場するケベック市民各々の相貌に、イロコイ族や英仏開拓民らの転生像を配する巧緻。
"Hochelaga, Terre des Âmes" https://twitter.com/pherim/status/1506464220761583616
余談。
恒常的に寄稿していた季刊誌が休刊、色々お世話になったミニシアターが閉館。
というわけでそもそも回ってない首がより一層の春ですよ。
といってとくに危機感とか湧かないのが一番やばーい気はしますけど。
えぇ。
おしまい。
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