今回は、5月6~7日の日本上映開始作と、ジャック・リヴェット映画祭上映作などから12作品を扱います。(含再掲2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第220弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■5月6日公開作
『チェルノブイリ1986』
キエフ/キーウへの転居当日に原子炉爆発を目撃した消防士の決断と愛。事故状況はもとより、死の街と化したプリピャチ住民の日常描写が胸を貫く。
HBO傑作『チェルノブイリ』を、再現性と緊迫度で堂々更新する意欲作。世界史的事件を135分へ落とし込む結晶化の手腕に唸る。
"Чернобыль" "Chernobyl" "Chernobyl: Abyss" https://twitter.com/pherim/status/1512259852407508996
HBO『チェルノブイリ』 https://twitter.com/pherim/status/1177785498783191040
拙稿「【映画評】ルーシの呼び声〈2〉」 後日URL追記
『僕と彼女のファースト・ハグ』“温暖的抱抱”
潔癖症男子と活発女子の噛み合わぬ恋。
完璧な自殺計画を妨害された男が、散らかし放題な女の部屋を掃除したい執着に憑かれる展開笑う。韓国映画リメイクながら台湾作『恋の病』も想起され、台韓の風刺成分薄まりエンタメ特化する今時の大陸風だなと。
"温暖的抱抱" "Warm Hug" https://twitter.com/pherim/status/1519149864713564161
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』 https://twitter.com/pherim/status/1426035746440323074
『マイスモールランド』
難民申請に苦しむクルド人一家。
故郷では拘束確実の状況下で為す父の決断。県境超えの自由もない娘の苦渋。
“家と学校で別世界を生きる埼玉の女子高生”を内面化した嵐莉菜の熱演や、映像の澄明さ(撮影by四宮秀俊)など多々驚かされる。是枝“分福”の川和⽥恵真デビュー長編。
"" https://twitter.com/pherim/status/1520996048453632000
広瀬奈々子『夜明け』分福ツイ https://twitter.com/pherim/status/1082232119739314178
『スージーQ』
悪魔とドライブ、キャン・ザ・キャンなど往年のナンバーと共に辿られる、女性ロックシンガーの草分けスージー・クアトロ一代記。
姉妹で組むバンドから彼女1人だけが見出されて生じた音楽一家との軋轢と克己の道。実家を飛び出たあの時に戻れたら、と問われて曇る本人の表情が印象的。
"Suzi Q" https://twitter.com/pherim/status/1520387188470738945
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
https://twitter.com/pherim/status/1515911077262868481
『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』
LA都心へも近い山岳部に’60~70s出現したロック聖地。
ドアーズ、ママス&パパス、ジョニ・ミッチェル、イーグルスetc.その磁場が放った圧倒的熱量と、テート殺害事件が招いたあえなき終焉。滾る言葉の奔流に眩暈する。
"Laurel Canyon" https://twitter.com/pherim/status/1522052249861914625
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』&タランティーノ ディカプリオ来日取材スレッド
https://twitter.com/pherim/status/1416974863240101888
『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』の終盤で、元バーズのデヴィッド・クロスビーは語る。
「歴史には頂点がある。パリの’30年代、ルネサンス期のイタリア、’65~75のLA。そこには必ず音楽があった」
“Under the Silver Lake”の80s、“mid90s”の90sへ連なるLA文化史映画としても稀有の達成。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』 https://twitter.com/pherim/status/1051105335568556032
『mid90s ミッドナインティーズ』 https://twitter.com/pherim/status/1494837313678942210
『死刑にいたる病』
阿部サダヲ演じる、透徹したサイコパス連続殺人犯が滅法良い。
獄中の犯人に翻弄される岡田健史 岩田剛典の青年役と、過去に傷もつ母役/中山美穂の昏い演技とが阿部のサイコぶりを引き立てる。
白石和彌監督作『孤狼の血』松坂桃李 &『凪待ち』香取慎吾に並ぶ強キャラ再臨。
"" https://twitter.com/pherim/status/1521471258382434306
■5月7日公開作
『ヨナグニ〜旅たちの島〜』
高校進学のためには、島を離れなければならない与那国の中学生達。
忘れられゆく島の言葉、岸壁に佇む野生馬、台湾の風を感じる琉球舞踊。空へ発つ小型機を見送る下級生から、見送られる卒業生へ。イタリア人監督の撮る草はらのそよぎが響かせる、不可逆のリアルの手触り。
"Yonaguni" https://twitter.com/pherim/status/1516971683344617474
『ヨナグニ 旅立ちの島』では中盤、与那国織をまとい化粧した少年の舞踊場面がある。そこに台湾先住民の舞踏を貫き粤劇の光を幻視する。
監督へ訊くと本作の撮影年、彼は島へ残った唯一の中学卒業生なのだという。
与那国馬の鞍上から、飛びたつ同級生を見送る背姿の余韻。
粤劇少年の日々描く『My Way 乾旦路』 https://twitter.com/pherim/status/697212055200239617
台湾南東沖の離島蘭嶼舞台作『海だけが知っている』 https://twitter.com/pherim/status/1061063247355240448
拙note「クリスマスをめぐる冒険」バンコク華僑団地&粤劇探訪記
https://twitter.com/pherim/status/1521662818793451521
拙稿「」監督インタビュー for 『ヨナグニ〜旅たちの島〜』&『ばちらぬん』 近日URL追記
『ばちらぬん』
与那国の失われゆく言葉を映しとる
’97年同島生まれの東盛あいか初監督作。
土着どぅなん語で紡がれる物語の情緒性に加え、島民の語る与那国織の租税史や御嶽での祭祀、台湾アミ族に通じる竹造舟などドキュメンタリー要素が秀逸。“デビュー作には全てが詰まる”の典型で今後も楽しみ。
"" https://twitter.com/pherim/status/1520228359212466177
『ばちらぬん』の中盤、おばあが語る場面に感極まる。
それは雨乞いの歌と儀式の再現に始まり、継ぎ手不在のため“神のしきたりを閉じる”亡きおじいの決断が訥々と語られる。
島で祭事を担った祖父の話に涙溢れる東盛あいか監督の、しかし表現の道を選んだ遠因をここに聴きとる。形を変えた継承では。
拙稿「」監督インタビュー for 『ばちらぬん』&『ヨナグニ〜旅たちの島〜』 近日URL追記
■日本公開中作品
『不都合な理想の夫婦』“The Nest”
巨額取引に才覚もつ英国人夫(ジュード・ロウ)と、
独立心旺盛で馬を愛する米国人妻。
夫の野心に導かれNYからロンドン郊外の屋敷へと引っ越すと、対等だった関係性に軋みが生じる。
怪異表現皆無にも関わらず、心を覆いゆく闇の深さ演出が並のホラーを凌駕する。
"The Nest" https://twitter.com/pherim/status/1519928048815992832
『不都合な理想の夫婦』中盤で妻は、夫が馬を“高い買い物”としかみてなかったと知る。
それは自覚する以上の失望を妻にもたらし、日常を暗転させる。闇へ抗うように農家の泥仕事を請け負う様はまさにサバイバルホラー。迫る闇の斥力にダーク・アンド・ウィケッドが想起され。
『ダーク・アンド・ウィケッド』
https://twitter.com/pherim/status/1462984035844513795
■ジャック・リヴェット映画祭【デジタルリマスター版】
https://ttcg.jp/human_shibuya/movie/0851600.html
『セリーヌとジュリーは舟でゆく』
司書のジュリーと魔術師セリーヌの奇妙な真昼の冒険。
次元跳躍の軽快さが“時かけ”級のリヴェット1974年作。
ちょっと面白くてちょっと退屈、が150分続いたあと残り40分からの鰻登りで呆然自失。
まぶしいほどの活力に充ちた余韻のうちに、懐かしくも鮮やかな風。
"Céline et Julie vont en bateau" "Phantom Ladies Over Paris" https://twitter.com/pherim/status/1521097744676712449
きのう渋谷でみた古い3時間映画がとんでもなく良くて、今夜も渋谷で別監督の古い3時間作の席を買ってあるのだけれど、朝からの低気圧と冷たい雨に負けそうな夕べ。
この迷い、行けば9割行って良かったと思うやつなんだけど。今高画質の全編UPをみつけてしまい、心が。もうだめねこのk
#今宵のねこさま
→https://twitter.com/pherim/status/1519971541957906432
『ジャック・リヴェット、夜警』
クレール・ドゥニが、師匠筋リヴェットのドキュメンタリー製作を依頼された一作。聞き手は批評家セルジュ・ダネイ。
“顔”を巡る議論で始まる本作、リヴェットと並び印象的なのがドゥニならではの黄昏感醸すパリの表情群。関係性の創造的豊穣と、他者映す倫理の深淵。
"Jacques Rivette - Le veilleur" https://twitter.com/pherim/status/1395755717852753921
クレール・ドゥニ連ツイ『死んだってへっちゃらさ』『35杯のラムショット』
https://twitter.com/pherim/status/939502846529101824
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『嵐が丘』
ジャック・リヴェット監督作『嵐が丘』は、エミリー・ブロンテ原作のもんどり打つ情念を抑制し、淡い光と渇いた空気へ晒すことで野生の性をむき出しにする。敢えて余韻を断つような素っ気ない転換の連続が、言い知れない何かの痕をかえって心に深く刻みつける。賢しげに仄めかさず透徹する。その潔さ。
"Hurlevent" https://twitter.com/pherim/status/890949387882340352
余談。
前に突如2000字近いDMを送ってきて、自プロデュース映画の試写鑑賞を求めてきた某人から、あるわかりやすいタイミングでリムられておりトホホ。正直粗さも際立つ作品を巡ってそれなりに練ったpherimツイは、バズるとはいかないまでも一定数拡散のうえ実際の動員へ貢献したことも確認してるけど、「メディア記事化の検討のためにはなるべく早めにお知らせほしいので次の機会もあればよろしく」との旨返信し、「~心より感謝いたします。今後とも~」の定型文が返ってきたままになってた人。
いやまぁね。浅ましさ丸出しにするのは失敗でしょう。自主映画の監督自身が中身やってる作品アカなんかはしばしばやりがちなムーヴで、監督はそういう馬鹿さも持ち味になり得るから一概に否定する気にもならないんだけど、この人その作品の監督ですらないからね。こういう“粗さ”が、彼自身の関わる作品表現の弱さへ直結していることへの自覚も恐らくないのだろう。これはもう本当に直結しがちなのだけど、もちろんそんなことはふだん呟かないし、信頼関係醸成のうえでなければ本人へ話すこともない。赤の他人を単に無料の宣伝駒として使い捨てゆくこの履歴が、今後彼の関わる作品にどう表出されゆくのかはちょっと興味が湧きますね。
(ちなみにこれは一度まとめて書き置きしようと思ってることだけど、単にダメで見どころを一切感じない作品というものは極稀にあり、そういうものについては観たとしてもツイートはしない。少しはダメ出ししたほうが良いと感じる作品も少なくないが、映画館苦境下の宣伝担当者の意も汲んでその種のつぶやきを作品公開前に投稿することも基本ない。件の作品は終盤の蛇足こそ無惨だが、そこへ至るまではかなり良質のドキュメンタリーになっていたのでふつうにツイートした。)
ともあれ。彼は労働問題を扱う作品に加え、東日本震災関連作にも多く手をだすひとなので、余計にね。正論を採用すれば一定の公的資金も関心層も付いてしまう領域には分野を問わず跋扈する、リベラルの皮をかぶったショボい功利&権威主義志向の持ち主の影をここにみる。もちろんその影は現状投影に過ぎない可能性も残るので名前は出さない。でもそれだけの話で、ドメスティックな感覚に馴れきったあげく、マジ領域で売られたケンカはマジに買ってく人間が世の中には結構いるってことにも無自覚なうえ恐ろしく安易に他人を舐めてかかる人間が、ちょっと映画界にさえ多すぎてもうだめねこの国。
という余談枠のダシに使い捨て返したり。(お粗末さまでした)
おしまい。
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