今回は、5月13~14日の日本上映開始作、マティ・ディオップ特集上映作、ウクライナ/ロシア関連過去作などから14作品を扱います。(含短篇2作/再掲4作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第221弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■5月13日公開作
『夜を走る』
不況下の鉄屑工場でうつむきがちに生きる男が
ある夜を境に爆発、閉塞した日常世界の全体が崩れだす。
“ジョーカー”にも、“タクシードライバー”にもなれない鬱屈から狂気の笑顔を咲かせる足立智充の怪演を、玉置玲央の人情や川瀬陽太の正気と、猖獗極まる松重豊とが際立たせる闇快作。
"Drive into Night" https://twitter.com/pherim/status/1522856026252640256
『ジョーカー』 https://twitter.com/pherim/status/1187199233180356608
「バットマンの死」拙blog https://twitter.com/pherim/status/1305503180189396993
『シン・ウルトラマン』
神妙なる愉悦。
開幕1分の剛速球でシン宇宙没入、痺れる東京摩天楼空戦、実写エヴァを予感させる独特カット始め極まる視覚快楽。
そして神配役。端役まで嵌まりすぎて戦慄、西島秀俊のうろたえ至宝。庵野的破れは薄味ながらこれでもかの怪獣愛&団地愛、メタ笑撃の連打堪能。
"" https://twitter.com/pherim/status/1525086871503933441
『生きててよかった』
木幡竜のファイトが全編魅せる。ドニー・イェンとの共演で磨かれた規格外の身体演技。
物語的整合性を妻らの内面より優先する終盤展開は古めかしくも、映画的面白さに充ち終始見入る。“セックス”の語が浮くのに対し、2人の交情が放つ熱量莫大。あと親友の妻役 長井短↙出色。
"" https://twitter.com/pherim/status/1523134981224407041
『教育と愛国』
パン屋が教科書から消えた謎を探ると、文科省検定に対する出版社側の“忖度”で和菓子屋等へ置き換わったと判明する。これは怖い。
最近目立つ理念空転型の安っぽい左翼系ドキュメンタリー群とは一線画す構成の緻密さ、質実さが印象深い。牽引者不在のまま傾斜しゆくホラー社会の端景。
(斉加尚代監督/2022年/日本/107分)
"" https://twitter.com/pherim/status/1523510134714286080
『劇場版 おいしい給食 卒業』
絶対的給食愛を誇る教師の冒険。
ヒロイン土村芳、駄菓子屋婆 木野花など前作より布陣強化。完食主義へ陥る弊害に気づく給食センター職員演じる、白髪化も著名な元NHKアナ登坂淳一が白眉。
転任したのに生徒配置や給食おばさんが同じという風刺的ホラー味も良い。
"" https://twitter.com/pherim/status/1524219497724678144
■5月14日公開作
『パイナップル ツアーズ』デジタルリマスター版
沖縄映画。
ヤマトから来た青年への島の娘の片思いを、周りのユタや船頭らが実らせる第2話は、沖縄へ移住した自らの軌跡を投影するかのような中江裕司監督作(ナビィの恋、盆唄)。
など相互連環する3話3監督構成。不発弾の不穏さ孕むほのぼの深趣。
"" https://twitter.com/pherim/status/1525257590761959425
『盆唄』 https://twitter.com/pherim/status/1093871458604863488
■〈特集上映〉マティ・ディオップ特集 越境する夢 @イメージフォーラム 4/23-5/6
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema202204...
『アトランティックス』(2019)
セネガル首都ダカール郊外の海辺を舞台に、マティ・ディオプが自らの’09短編“Atlantiques”を長編劇映画化。植民地時代に続く、形を変えた支配と隷属。恋愛ベースながらアピチャッポンへ通じる史的亡霊回帰譚に西アフリカ的呪術性を加味する力技、音と光の直球感覚が良い。
"Atlantique" "Atlantics" https://twitter.com/pherim/status/1259701569387237376
短篇版“Atlantiques”(2009) https://twitter.com/pherim/status/1258961088827109377
『アトランティックス』はNetflixでも公開中(長編のほう)。本作のカンヌグランプリ獲得は、近年傾向から同年最高賞『パラサイト』より順当。短編“Atlantiques”の中盤、若い女性が静かに涙を落とす40秒ほどの場面がある。長編『アトランティックス』直接のルーツとみると、心象はさらに深まる。
“Atlantiques”(2009)
沖合のカナリア諸島=EU圏への密航志す少年の体に歴史性を纏わせる、セネガル・ウォロフ語会話主体の短篇。監督は『35杯のラムショット』娘役のマティ・ディオプ。焚き火に温まり夢語る命懸けの少年たちから、彼らを弔う墓石へと無慈悲に転じる映像の狡知。
Mubi動画: https://mubi.com/it/films/atlantiques
"Atlantiques" https://twitter.com/pherim/status/1258961088827109377
短編“Atlantiques”からは一昔前の映像インスタレーション風味を感じたが、マティ・ディオプがパレ・ド・トーキョー出身と知りほほぅと。文化多元主義モードの行き詰まり経て欧州PC文脈テコに映画監督として名成す点でもアピチャッポンへ通じ、一つの映像潮流ここにあり、かも。
アピチャッポン直近作スレッド https://twitter.com/pherim/status/1491968334459404289
“In My Room” [Miu Miu Women's Tales #20]
マティ・ディオプ(Mati Diop)新作は、コロナ禍ロックダウン下の古びたパリ高層住宅の一室一室を、心象の幻灯機により穏やかに映しだす。
他界まで20年の独居暮らしを送った祖母との会話記録から再発見される心の旅路と、故人との絆めぐる優しい可能性。
"In My Room" https://twitter.com/pherim/status/1314036849174700032
マティ・ディオプ/Mati Diop “In My Room”、
youtube↓, mubiとも全編 日本語字幕つき公開中。(他11言語、設定から選択可)
《Miu Miu Women's Tales》の公式HPでは、女性監督たちによる同プロジェクトの短篇20作品を観られます。
→https://miumiu.com/jp/ja/miumiu-club/womens-tales/womens-...
『35杯の ラムショット』"35 rhums"
パリ郊外の労働者地区に暮らす黒人父娘。多くを望まない父の質実と、恋人に惹かれながら父想う娘の逡巡。炊飯器にも露わな小津リスペクトが、終幕でみせる優美な飛躍に息を呑む。要素の総合でなく全体が全体のまま素晴らしい。体感されるこの充実は、映画を観る幸福そのもの。
"35 rhums" https://twitter.com/pherim/status/941948192672817152
■ウクライナ/ロシア関連過去作(VOD配信中作品)
『LETO -レト-』2018
ベルリンの壁崩壊前’80年代のレニングラードで、西側音楽ロックに青春の炎を燃やしたアングラの若者達。
実在の伝説バンドКино/キノ発祥を描く本作は、『インフル病みのペトロフ家』のセレブレンニコフ監督前作。鋭い映像感覚&名曲連打に加え、共同住宅コムナルカ描写も熱い見処。
"LETO" "The Summer" https://twitter.com/pherim/status/1512765165502042118
『インフル病みのペトロフ家』 https://twitter.com/pherim/status/1511907278848364545
拙稿「【映画評】ルーシの呼び声〈2〉」 後日URL追記
『メトロ42』“Метро” 2012
モスクワ地下鉄パニック大作。
制作費900万$のSFX眼福。
予感された著名なロシア地下鉄宮殿の建築探訪味より、スターリンの脱出専用駅廃墟、半世紀前に忘れ去られた防空壕などソ連期の無機質な亡霊たちが跳梁跋扈する地底探検味の圧倒する垂涎展開。掘り出し物でした。
"Метро" https://twitter.com/pherim/status/1513486843429355520
地底探検物スレッド https://twitter.com/pherim/status/1380771001286324224
“スターリン時代の地下鉄駅に大祖国戦争の英雄たちが描き出されたように、『メトロ42』では他でもないこの空間に、21世紀の新たなヒロイズムの物語が投影される”
本田晃子『都市を上映せよ』
東京舞台のSF等で頻出する“幻の新橋駅”、いわばそのモスクワ版。なんといふご馳走。
パト2幻の新橋駅&鉄橋爆撃ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1514493457091362817
拙稿「【映画評】ルーシの呼び声〈未定〉」 後日URL追記
『オーガストウォーズ』“Август. Восьмого”2012
ハリウッドSF 昭和ロボットアニメな冒頭から、南オセチア紛争ガチ描写へ一転する振り幅極大な母子の試練物語。
“平和のため”隣国攻めるロシア兵が軍無線でなくスマホで連絡、「首都は今日中に落とす計画だった」とボヤくなど今日性抜群すぎてヤバい。
"" https://twitter.com/pherim/status/1515299489950490629
拙稿「【映画評】ルーシの呼び声〈未定〉」 後日URL追記
■VOD配信/TV放映作
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
ダニエル・クレイグの007卒業作。
和服ラミ・マレックと北方領土の孤島感。
鑑賞中何度も想起されたのは、’98年の英国実験映画メイキング↓で、商業進出前のティルダ・スウィントンにベタ褒めされ、照れてる駆け出しのクレイグ青年で。いや遠くまで来たもんだ。
"No Time to Die"
デレク・ジャーマン『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』メイキング言及ツイ
https://twitter.com/pherim/status/831993758799388673
余談。マティ・ディオップ特集は、本人監督作、出演作、実父監督作を1つずつ観る予定が、各々異なる理由と事情によりすべて観られず。今回挙げたのは再掲ツイのみとなり果てたり。
コロナ禍の影響も手伝い名作4K上映が流行だけど、この春のフランス系過去作特集上映の拡張ぶりは、ミニシアター動員をめぐりそれとも異なる地殻変動が起きつつある予感さえ。渋谷でハリウッド新作より人が入りつづけ、しかも客層があからさまに新しい(若い)。
このモードへ自分が20代の頃触れてたらどうだったろう、とは想像しちゃいますね。当時すでにあった名作群だし、いずれも重厚にして新奇、確実に影響は受けてたはずなので。
おしまい。
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