pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
06月27日
12:26

ふぃるめも228 特集《ウクライナの大地から》上映全作

 
 

 今回は、シネマヴェーラ渋谷にて開催の特集企画《ウクライナの大地から》(6月4~17日)上映全10作を扱います。なお本特集全体をめぐり、下記拙記事にて詳しく述べました。

  拙稿「ルーシの呼び声 (3)」 http://www.kirishin.com/2022/07/06/55065/

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第228弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■《ウクライナの大地から》 シネマヴェーラ渋谷 2022/06/04 ~ 2022/06/17
 http://www.cinemavera.com/preview.php?no=277

『誓いの休暇』
短い休暇で母の元へ帰る旅上の七転八倒。
戦争映画で全編切ないのに心踊り笑い通しの痛快作。
宮崎駿お気に入りも納得で、ヒロイン元気印はジブリ主人公そのものだし、BGMはタイミング&音景がばり久石譲。
グリゴーリ・チュフライ1959年作、大傑作との不意の出逢いに驚くしか。

"Баллада о солдате" "Ballad of a Soldier" https://twitter.com/pherim/status/1536318447365537792




『女狙撃兵マリュートカ』1956
赤軍の天才狙撃兵が捕虜の白軍中尉を護送中に難破、
2人きりの孤島生活で愛炎上。
中尉がいかにも白軍な貴公子で、ワイルドな女兵士から漏れだす乙女心かわゆす。局所的愛の勝利。
白い砂漠と青い海原の構図も映えるチュフライ長編第1作。

"Сорок первый" "The Forty-First" https://twitter.com/pherim/status/1538716148472365058

  『砂漠の白い太陽』 https://twitter.com/pherim/status/1141527807199027200




『君たちのことは忘れない』
第2次大戦で夫戦死&長男行方不明の母が、
死を装って次男を匿うと長男生還さあ大変。
物っ凄い情念の応酬。次男は屋根裏から恋人の結婚式を目撃し絶望、長男出奔、母憔悴の無間地獄。
戦勝の松明掲げ走る白馬が夢幻に美しい、上映禁止&海外発禁のチュフライ1977年作。

"Трясина" "Untypical Story " https://twitter.com/pherim/status/1539805205541560320




『大地』“Земля”1930
怒れる農夫と猛る機械。
農業の集団化(コルホーズ)政策進む中、黒光りする農耕トラクターの到来に割れる大地の農民たち。黙する神父叫ぶ農婦撮る正面性の膂力。
ホロドモールの影にじり寄る、『ズヴェニゴーラ』『武器庫』に続くサイレント《ウクライナ3部作》完結編。

"Земля" "Zemlya" "Earth" https://twitter.com/pherim/status/1540893738133618688

  『武器庫』 https://twitter.com/pherim/status/1256154075281780736




『がんばれかめさん』1970
子ども目線のワンパク世界で、
かめさん逃げて!ってなる。
俺も昔は女子と殴り合った、とか正直発言で若い教師を困らせるイケオジ学者など周辺人物も魅力的。
普段の検閲は厳しいのに、子ども映画にはリアル戦車小隊まで動員するソ連のツンデレ映画熱奥ゆかしい。

"Внимание, черепаха!" "Vnimanie, cherepakha!" https://twitter.com/pherim/status/1544659562107916288




『処刑の丘』
元教師のパルチザン2人が、
過酷な雪中行軍の末ナチスに囚われる。
全体状況は映されず、映像は2人の視界が及ぶ軍装の着脱や民家での隠匿など細部へ特化する。
女性監督の撮る戦争映画系譜の極北に輝く、ラリーサ・シェピチコ1976年作。処刑描く終盤はもう神話的。

"Восхождение" "Voskhozhdeniye" "The Ascent" https://twitter.com/pherim/status/1546858152053747712




『猟人日記“狼”』1977
森番の男と娘の日々。ツルゲーネフ原作。
領主の森守る職務ゆえに、近隣の農奴から嫌われ暴行にさえ遭う男はしかし、寡黙に全てを受け入れる。
母も教育も不在のもと暮らす娘の、野性味帯びる知性の煌めき。森奥での具体描写の連続から析出される表現性の高みに陶酔する。

"Бирю́к" "Biryuk" "Lone Wolf" https://twitter.com/pherim/status/1548518343648239616

“私は自分の憎むものと同じ空気を吸って、一緒にいることができなかった。それには恐らく私には相当の忍耐力と強い性格が足りなかったのであろう。私は敵に対して、より強い打撃を与えるために是非とも敵から遠ざかる必要があった。私の眼に、この敵は判然たる形象を持ち、一定の名を持っていた。敵というのは、ほかならぬ「農奴制度」であった。”
ツルゲーネフ/Турге́нев




『長い見送り』“Долгие проводы”
神経症的に過保護な母と、
逃れたいのに離れがたい少年のもつれる愛憎。
電話の声や代筆される言葉など間接的にのみ登場する父性的な要素と、独創的なカットが印象的。
その特異性から度々BANされ、ソ連崩壊後もオデッサでロシア語映画を撮り続けた監督キラ・ムラートワ1971年作。

"Долгие проводы" "Довгі проводи" https://twitter.com/pherim/status/1556212765408505856

  全編: https://ok.ru/video/2122604350062
  ※51年たってるので版権切れ、なのかも?


『長い見送り』“Долгие проводы”で、
母は己の鏡像を通し、息子をみつめる。
という象徴的なカットをポスターヴィジュアルにて拡張する。旧ソ連映画の知的ムーヴ。検閲の介在が内省的に深化させるこの時代的制約モードが20世紀的に思えた過去が懐かしい今日このごろ。例えば今後の香港映画とか引用RT

陳可辛『甜蜜蜜』のOP&ED主人公カットを母子でやられてびっくり。(時系列逆)




『灰色の石の中で』1983
魚料理とブロンド女性、命を吸いとる灰色の石に気をつけなさい。
妻を失くした判事との埋まらない溝を抱えた幼き息子が、伯爵邸廃墟に棲む貧しき兄妹との出逢いから船出する心の旅。
キラ・ムラートワがクレジットを拒むほど当局に編集介入され諸々カオス。異様な構図多々。

"Среди серых камней" "Серед сірих каменів" https://twitter.com/pherim/status/1562272790837075969




『死者からの手紙』1986
核戦争後の地下廃墟に暮らす老科学者と孤児達。
タルコフスキー/ストーカーの清冽とゲルマン/神々のたそがれの混沌を同時に感覚、両原作者のストルガツキー弟が脚本参加と知り胸熱くなる。
核爆発描写含む反戦映画にして、孤児らが吹雪のなか歩む姿とか鳥肌たつ美しさ。

"Письма мёртвого человека" "Dead Man's Letters "

  タルコフスキー『ストーカー』ゾーン突入時動画ツイ https://twitter.com/pherim/status/1408973016910860289
  アレクセイ・ゲルマン『神々のたそがれ』 https://twitter.com/pherim/status/589375565410406400


ストルガツキー兄弟はユダヤ系で、幼少時スターリングラード攻防時も母と街の中にいて、弟ボリスが天文学を専攻したのは学科別ユダヤ人制限のためらしい。諸々、なるほどなと。



 

 余談。今回扱った映画はすべてソ連体制下で撮られた作品たちですが、実際のツイートではタイトル横にウクライナ国旗を付記、たまにロシア国旗他を併置するなどしました。
 
 にもかかわらず原題表記は、基本ウクライナ語ではなくロシア語メインとしています。これはウクライナで撮られたり監督がウクライナ出身ゆえにウクライナ国旗を付した作品であっても、ソ連映画の枠組みで撮られたロシア語作品である場合が多いからです。まぁ違うといっても一文字違うとかなんですけどね。
 
  キリル文字勉強してますよツイ: https://twitter.com/pherim/status/1540644422953877504
 
 というかツイッター絵文字、ソ連国旗くらい実装しても良いとおもうのだけど、ソ連があるのに~はないのか的クレームが殺到しちゃうんでしょうね。ウクライナ侵攻までの21世紀ロシア映画は、金はかかっててもハリウッド猿真似感が拭えない方向へ舵を切りつづけてきたけれど、いまだその影響も濃いソ連映画が育んだ独自性はやはり、忘れ去ってしまうにはあまりにも惜しい資産でしょうと。この独自性の強度と充実度の点では日本と香港の凋落、イタリアやイランの停滞もあり、ほかにはもう世界にインドとフランスくらいしかなくなっている現状、ゆえにこそ。ねぇ。

  拙稿「ルーシの呼び声 (3)」 http://www.kirishin.com/2022/07/06/55065/




おしまい。
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