pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
07月09日
15:38

ふぃるめも230 ワンダのじかん

 
 

 今回は、7月8日~9日の日本上映開始作と、特集企画《福岡市総合図書館所蔵作品アジア映画セレクション》上映作から11作品を扱います。(含再掲2作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第230弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■7月8日公開作

『アルピニスト』

知られざる一人の青年の、想像を絶する登攀スキルのディティールと、己と世界への誠実さ。
フリーソロのAlex Honnold始めトップクライマー達が絶賛するその圧倒的才能を捉えた映像に息を呑む。
命綱なしで氷壁登る一挙手一投足を見せる後半には、人界ならざる超越性さえ感覚する。

"The Alpinist" https://twitter.com/pherim/status/1545235610847555585




『神々の山嶺』
姿を消した天才肌登山家と、その消息を追う雑誌カメラマン。
夢枕獏x谷口ジロー漫画原作の仏製アニメ。エベレスト南西壁へ挑む後半の高峰表現が鮮烈で、これをアニメでやる新奇さにレミ・シャイエ等の欧州味を看取。マロリー登頂の謎を解く小型カメラが物語を転がす点も面白い。

"Le sommet des dieux" "The Summit of the Gods" https://twitter.com/pherim/status/1544500445519171584

  『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』 https://twitter.com/pherim/status/1168361416757170176
  『カラミティ』 https://twitter.com/pherim/status/1438332715376406529





『X エックス』
1979年テキサスの農家。ポルノ撮影に来た一行が、老婆の性を掻きたてる。
A24製作。“悪魔のいけにえ”以来の定石を踏襲しつつ、表現と現実の模倣を巡る倒錯や戦地でのPTSDなど社会諷刺を忍ばせる。何ら超能力なくヨボヨボで非力な老人夫妻が殺人鬼と化しゆく恐描写に魂凍てつく。

"X" https://twitter.com/pherim/status/1542490208922308613




『こちらあみ子』
尾野真千子と井浦新が演じる闇深い夫婦演技も素晴らしい、今村夏子デビュー小説の映画化作。
発達障害児が日常的に受ける圧と、跳ねのけるあみ子の活力との拮抗描写で見せる。
原作放つ圧倒的才能からの離脱を目指したのか後半の失速は謎。尾野真千子ほくろメイクの存在感、重畳。

"" https://twitter.com/pherim/status/1545604038536089600

あみ子役・大沢一菜はこれがデビュー作らしいけど、無言でムスッとしてる感じがほんとに原作のあみ子そのものがそこに立ってる感じ。同級生や兄貴など他の子役の演出には正直難ありと感じたけれど、彼女の存在感についてはもう満点だったな。




『恋愛の抜けたロマンス』
デートアプリを疑いつつ頼る29歳♀と、セックスコラムのネタ探しで会った29歳♀に惚れる33歳♂。
チョン・ジョンソとソン・ソック の組み合わせが信じがたく鮮烈で未来的。
移りゆく心模様を、男女のナレーションが異なるスケールでメタ化する構成の洗練度に驚く。

"연애 빠진 로맨스" "Nothing Serious" https://twitter.com/pherim/status/1544881590014455808




■7月9日公開作

『ゆめパのじかん』

子供のケガを恐れず、ケガを通す体験に積極的な価値置く川崎市子ども夢パークの日々。
危険だからと撤去された遊具たちが健在の、脇に建築資材が積まれた昭和の公園こそ理想の学校だったのかもね。
『さとにきたらええやん』の重江良樹監督作。
子供より低い目線がすごくいい。

"" https://twitter.com/pherim/status/1545379297908912128

  『さとにきたらええやん』https://twitter.com/pherim/status/740187836767297537
  『夢みる小学校』 https://twitter.com/pherim/status/1487269025449086984





『WANDA ワンダ』
家庭で子を育てる己が受け入れられないワンダは、
夫に離別され子と職を失い、強盗犯と逃避行する。
ごつごつした物質性の醸す生理的な閉塞感も生々しい、バーバラ・ローデン監脚主演1970年作。16mmの粗い画が、いくら逃亡を重ねても炭鉱町から出られない逼塞世界を際立たせる。

"Wanda" https://twitter.com/pherim/status/1543524826886705152

『WANDA ワンダ』、同時代のウーマンリブとは逆行する1人の女のリアルを描くがゆえ、’70年公開時は興行的に無風。
その一方デュラスやソフィア・コッポラなど鋭い感性の宿主が絶賛、イザベル・ユペールが版権獲得、のちオリジナルフィルムが発掘されるとスコセッシ財団が修復という公開への熱き道程。

エリア・カザン-ゾーイ・カザン関連追記するかもー。




■福岡市総合図書館所蔵作品アジア映画セレクション @アテネ・フランセ文化センター 2022/6/27-7/2
 http://www.athenee.net/culturalcenter/program/as/asiancin...

『悪夢の香り』1977
村へ架かる唯一の橋を渡ること。無数の橋架かるパリ。月へ橋を架けた男フォン・ブラウンへの憧れと決別。
真昼の村に、アポロの月面着陸報じるラジオの興奮響く。500年の航海はここから始まったとガッテンのタヒミック痛快第1作。

"Mananangong Bangungot" "Perfumed Nightmare" https://twitter.com/pherim/status/1542709747207380996

  『500年の航海』 https://twitter.com/pherim/status/1085136091047387137
  『アポロ11』 https://twitter.com/pherim/status/1144807901615153154


『悪夢の香り』(1977)冒頭の、若きタヒミック本人がジープを引いて橋を渡ろうとする場面。
なかなか渡れないこの感じ。強烈に想起されるあの作品。フリードキン版『恐怖の報酬』公開も1977年。なるほどなぁ。楽しいなぁ。って。

  『恐怖の報酬』 https://twitter.com/pherim/status/1065081326879961088
 
 
 
 
『牛』“گاو”
イラン映画1969年の画期作。牛愛でる親父が留守の間に最愛の牛が死亡、親父の愛を知る村人達は牛が失踪したと口裏合わせるが親父は心神喪失、牛へ同化し始める。秘密を守るため知的障碍者を隔離し、小さな嘘が雪だるま式に膨張するなど象徴的な描写の逐一を、陰影の濃い映像が際立たせる。

"گاو" "The Cow" "Gaav" https://twitter.com/pherim/status/1210069670276952064

ちなみに1979年イラン革命後の映画禁制下、『牛』“گاو”をホメイニ師がホメたことから、イラン映画は製作再開されたという。つまりダリウシュ・メールジュイ監督の本作なしにキアロスタミ、マフマルバフ、パナヒもない文字通りの画期作。なお数ある牛映画中でも『東北タイの子』が想起され。

  『東北タイの子』https://twitter.com/pherim/status/836407413989232641




『トゥルー・ヌーン』
タジキスタン映画。ソ連崩壊により突如生まれた国境線に分断される村が舞台。地雷を重要モチーフとして国家を戯画的に描き、ミニマルに要素を切り詰める手法にボスニア内戦を描く名作『ノー・マンズ・ランド』が想起された。主人公であるロシア人測候所長の外部者視点も印象的。

"Qiyami roz" ノシール・サイードフ / Nosir Saidov https://twitter.com/pherim/status/976660682715222016




『土曜の午後に』“শনিবার বিকেল”2019
2016年ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件を元とする、
全編ワンシーン&ワンカットの挑戦が実った傑作。
瞬きもためらう緊張感の連続に、
計算され尽した役者の動きとカメラアングルの精密さ。
表出するテロリズムの闇と人間の断絶、
イスラーム問答の鋭さに唸る。
[すっごい変な動画群しか見当たらず]
"শনিবার বিকেল" "Shonibar Bikel" "Saturday Afternoon" https://twitter.com/pherim/status/1545753826573316096

 

 

 余談。福岡市総合図書館所蔵フィルムについては、下記拙稿注記にて詳しく述べてます。

  拙稿「【映画評】ルーシの呼び声(3)」 http://www.kirishin.com/2022/07/06/55065/

 ↑地味に今年イチ気合入った記事なのに、更新直後のサイト不具合もあり全然読まれておらず。まだ重たい状態続いてるみたいだけど、
 
 読んでね(は~と)。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
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