pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
07月25日
23:16

ふぃるめも232 沖縄から始まった

 
 

 今回は、7月22日~23日の日本上映開始作と、沖縄現代史映画から14作品を扱います。(含再掲4作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第232弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■7月22日公開作

『あなたがここにいてほしい』“我要我们在一起”
高校時代の不良男子と優等生女子が、互いに惹かれつつも様々な社会格差に想いを阻まれる。
急成長する現代中国の混沌を生き抜く若者世代の焦燥と情熱。ピーター・チャン『ラヴソング』(甜蜜蜜)へ懸想した場面も多く、時代の超速変化に脳髄シビれる。

"我要我们在一起" https://twitter.com/pherim/status/1548168624635924482

  『ラヴソング』(甜蜜蜜)動画ツイ https://twitter.com/pherim/status/1189920106987442176

『あなたがここにいてほしい』のふたりはもうひたむきで、屈託なんかしてる暇ない。
戸惑うあいだにも周りはどんどん変化していくし、乗り越えるためには困難だろうと突き進むしかないという。
そして明白に開花しつつある、岩井俊二电影的美学の新局面。これは楽しみ。

 『少年の君』https://twitter.com/pherim/status/1417815421760114689
 『ソウルメイト/七月と安生』https://twitter.com/pherim/status/1408610863716519938





『アウシュヴィッツのチャンピオン』“Mistrz”
地獄の絶滅収容所で、見世物としてリングに立たされ続け、囚人の希望となったボクサーがいた。
元囚人の孫が監督したポーランド映画だけあり、先行するナチス映画群に比べアウシュヴィッツ=ビルケナウの描写が多面的。30kg差あるドイツ人王者との対決は白熱。

"Mistrz" "The Champion of Auschwitz" https://twitter.com/pherim/status/1550828827449835520

毎年必ず公開されるナチス-ユダヤ迫害秀作映画や、なかでもアウシュヴィッツ物で連想される作品も多いなか、とくに本作に限って強く想起されたのが、ナチス兵士が英国の捕虜となり収容所内の賭けPKでキーパーの素質を開花させる『キーパー ある兵士の奇跡』。

 『キーパー ある兵士の奇跡』https://twitter.com/pherim/status/1315483025543577602
 
 


『映画はアリスから始まった』
映画史はなぜ彼女を消したのか。
物語をもつ映画を世界初撮影、自らスタジオを設立、トーキーへ至る多くの技術革新を先導しながら忘れられたアリス・ギイ、監督作千本の足跡。
女性ゆえに軽視され夫の功績と思われ語られなくなったという、悪意の不在こそ恐ろしい。

"Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché" https://twitter.com/pherim/status/1551036025060831232

 『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』
  https://twitter.com/pherim/status/1507645224847216645
 『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』
  https://twitter.com/pherim/status/1346717004355444737





『夜明けの夫婦』
コロナ禍下の二世帯住宅で繰り広げられる、一見ありふれてすっごい変な二組の夫婦と、平凡だけど奇怪な周辺人物たちの物語。
嫁役・鄭亜美の、文字通りのすっぱだか演技に圧倒され通し。石川彰子演じる姑の言葉遣いは小津映画みたいだし、細かな仕掛けが色々笑えるシリアス喜劇。

"" https://twitter.com/pherim/status/1548280731478020098




『島守の塔』
沖縄戦下で県民の生命固守を貫く知事・島田叡と、現場指揮を徹底した警察部長・荒井退造を萩原聖人&村上淳が熱演。
野球選手として名を轟かせたガッツそのままに陸軍首脳陣と対立する島田が、地獄絵図の中で迫られた選択の再現性に見入る。
軍国少女役・吉岡里帆の瞳の凄演は鳥肌級。

"" https://twitter.com/pherim/status/1548676335089815552

  拙稿「沖縄からの風 『島守の塔』主演・萩原聖人インタビュー」
  http://www.kirishin.com/2022/07/22/55330/





■7月23日公開作

『猫と塩、または砂糖』

猫に就職したアラサー男(田村健太郎)と、
壊れた世界を脇目に“白”へと退行する超越娘(吉田凜音)。
アル中の父、屁理屈息子、色々ヤバい居候父娘に囲まれた“母の常識”の崩れゆく描写がコミカルな分、演じる宮崎美子のふと見せる歪んだ表情が怖い。
池田成志&諏訪太朗重畳。

"" https://twitter.com/pherim/status/1549626113022099456




■沖縄返還50周年関連 日本過去公開作(VOD配信作)

『生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事』

第二次大戦末期、死地と覚悟のうえ沖縄へ赴任、軍の横暴へ抵抗した島田叡。
人々の食糧買いつけのため、無制空権下を自ら台湾へ飛ぶ選択に始まる勇断の数々。うすら寒い“死して虜囚の”等々のドグマに憑かれた軍部から遥かに遠い足跡に、真の独立自尊をみる。

"" https://twitter.com/pherim/status/1533081856794836992




『生きろ 戦場に残した伝言』2013
緒形直人&的場浩司 W主演のTBSドラマ。
各々戦中最後の沖縄県知事・島田叡&気骨の沖縄県警察部長・荒井退造を熱演、都度挿入されるドキュメンタリー部も関係生存者の回想含み見応え大。
本作制作班に、2021年映画『生きろ 島田叡』↑監督佐古忠彦の名あり胸熱。(続
[予告動画見当たらず]
"" https://twitter.com/pherim/status/1534368689797369856




『遥かなる甲子園』1990
沖縄に実在したろう学校野球部の、疾走するひと夏。
山本おさむ漫画でも知られる、基地の風疹流行を背景とする物語の映画版で三浦友和/田中美佐子/植木等/柄本明など出演陣豪華。
萩原聖人17歳も入魂の快演。生徒が背負うものの描写に、ウクライナ映画『ザ・トライブ』も想起され。

"" https://twitter.com/pherim/status/1549948862676504583

 『ザ・トライブ』https://twitter.com/pherim/status/661195215277916160




『ハクソー・リッジ』
戦争映画の極北がまた一つ。沖縄・前田高地の凄惨。『パッション』を凌ぐ血肉の騒擾、砲火を浴び信仰を貫く姿影。メル・ギブソンが太平洋戦争を撮ればという期待値を完璧に充たす本作が、祈る男を通し鮮烈に描くのは、社会の要請に馴致された近代的自我とは隔絶した人間の精髄。

"" https://twitter.com/pherim/status/873904299448745986

  拙稿「燃えさかる炎の下で 『ハクソー・リッジ』」
  http://www.kirishin.com/2017/07/07/7286/





『沖縄スパイ戦史』
敗戦間際、沖縄・八重山各島へ配置された陸軍中野学校の兵士達が仕掛けた裏の戦争。本土決戦を遅らせる駒として児童スパイを量産し、住民を消費する戦術の一貫性に震撼。ひめゆり隊など沖縄戦の主なイメージをなす本島南部の惨劇とは別種の壮絶を、多数の証言から炙りだす意欲作。

"" https://twitter.com/pherim/status/1021022625114480641




『サンマデモクラシー』
糸満の豪傑女将が、米国占領政治へ叛旗を翻す。
その名は玉城ウシ。
ウシ告発によるサンマの関税撤回争う裁判は琉球政府下の主婦層から強烈に支持され、“米軍が最も恐れた政治家”瀬長亀次郎を伴い祖国復帰運動へのうねりと化す。
進行するほど熱気増すこの現代史絵巻、圧巻。

"" https://twitter.com/pherim/status/1404994104157638656




『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』
日本で戦前に法令運用された座敷牢“私宅監禁”の存在が、沖縄戦と米軍統治により沖縄でのみ戦後も残り続けた哀史。
竹富島の観光客ゆきかう穏やかな情景と、そこに住まうおばあの記憶語りとのギャップの烈しさ。拘禁性精神病という自家撞着、の今日性思う。

"" https://twitter.com/pherim/status/1488511461630816261




『沖縄の民』
沖縄戦描く1956年作。
米軍実写を混ぜる特撮は稚拙だが戦場描写の強度極まり、仕草のキレや声の張りは半端なく、役者&製作陣の多くが直の戦争体験をもつと感覚される。
沖縄出身の主人公らが誰ひとり沖縄語を話さない日本映画。返還など夢であった時代性。左幸子&若き長門裕之ら佳き。
[予告動画見当たらず]
"Okinawa no Tami" https://twitter.com/pherim/status/1533842851179933696

『沖縄の民』戦後描くラストでは、児童が将来の夢記す作文を朗読するも、米軍機の着陸音にかき消される。
地獄を生き延びた女性教師は、疎開した恋人を迎え希望を一つまた失う。不穏な不協和音が鳴り響き彼女の硬直顔と慄える瞳がクローズアップされ幕は切れる。今日の日本映画には絶無の、この激烈。



 

 余談。
 
 沖縄返還50周年にかこつけた、沖縄映画インタビューシリーズ。
 
  拙稿「どぅなんの風 『ばちらぬん』『ヨナグニ 旅立ちの島』監督インタビュー」
  http://www.kirishin.com/2022/05/06/54159/
  拙稿「ジェンサンの風 『義足のボクサー GENSAN PUNCH』主演・尚玄インタビュー」
  http://www.kirishin.com/2022/05/26/54440/
  拙稿「沖縄からの風 『島守の塔』主演・萩原聖人インタビュー」
  http://www.kirishin.com/2022/07/22/55330/



 風なの。





おしまい。
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