今回は、7月29日~30日の日本上映開始作と、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022短編部門上映作などから14作品を扱います。(含短編5作/再掲2作)
※SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペ長編および国内コンペ長編部門については近日扱う予定です。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第233弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■7月29日公開作
『女神の継承』
イサーンの寒村に受け継がれてきた祈祷師一族の、
血と呪縛絡まる不可視の格闘。
地霊を敬う妹、十字架へ逃れた姉、怨恨背負う姉の娘。
羂索巡らす儀式を襲う地獄の血焔が凄まじい。
國村隼が分け入った韓国僻村から、ナ・ホンジンがタイ東北部へ飛び製作した憑依の継承、深甚。
"랑종" "The Medium" https://twitter.com/pherim/status/1550454518621450240
ナ・ホンジン監督作『哭声/コクソン』https://twitter.com/pherim/status/922607993195130880
『女神の継承』の凄味はタイ土着信仰ギミックを使い、初めから国際市場へ向け撮られた点。
移住後はタイホラーもよく観たけど、どれも“タイ人の当然”を当然として省略するため、国外では物好きしか楽しめない。
一方本作は、韓流の鍛えられた巧さをタイで活かした。画期的。(続
『Siam Square』https://twitter.com/pherim/status/866609194488573952
追記用メモ:
キリスト教会尖塔の、夜闇に発行する赤い十字架。ヴィジュアルからして韓国の福音派系。
お寺ではないお寺のような怪しい儀式 (慎重にゾーニングされた仏教ギミック)
ヒンドゥの導師っぽいおっさん、ベリーダンサーっぽい姐御
サラーム海上っぽい呪術師すてき
『なまず』“메기/ Maggie”
ポップな怪奇世界を飄々と生き抜く恋人たち。
韓流映画には珍しい種の軽快奇想コメディ。恋人役イ・ジュヨン&ク・ギョファンと名優ムン・ソリのおとぼけ演技がばり楽しい。
デビュー長編ゆえの沸騰ぶりに、台湾奇想電影の極北“熱帯魚”“1秒先の彼女”の陳玉勲も想起され。
"메기" "Maggie" https://twitter.com/pherim/status/1551532603877888003
『熱帯魚』https://twitter.com/pherim/status/1161849705837371392
『1秒先の彼女』https://twitter.com/pherim/status/1406462731008417800
『1640日の家族』
6歳まで育て上げた里子を、実親へ返すことを求められた里親家庭を襲う哀しみと混乱の嵐。
実子を手放す事情抱える実親へ、家庭復帰のチャンスを与えるフランスの練られた里親制度ゆえに、里親へ求められるハードルが一層上がる様を説明的でなく描く後半が、本当に切なくも惹き込まれる。
"La vraie famille" "The Family" https://twitter.com/pherim/status/1552633995959353344
『1640日の家族』は、監督自身の体験に基づく物語。『LION ライオン 25年目のただいま』も原作は書き手自身の自伝的作品でしたね。
クライマックスの演技は凄まじく、ストーリーの外へ突き抜けて映り込む人間の真実をみる思い。殊に母親役メラニー・ティエリー。30回のリテイクの末うまれたアドリブが決まったというから驚きつつも納得。
『LION ライオン 25年目のただいま』https://twitter.com/pherim/status/849560634345869312
『霧幻鉄道 只見線を300日撮る男』
2011年7月の新潟福島豪雨災害により、鉄橋が3箇所で流失した奥会津の只見線。
その峡谷美を撮り続ける写真家・星賢孝を軸に描かれる、復旧へ向かう只見線周辺の人間模様が興味深い。
説明的な扇情演出が過剰気味ながら、圧倒的風光と人々の地道さとの対照鮮烈。
"" https://twitter.com/pherim/status/1552483157748121600
三陸鉄道『たゆたえども沈まず』https://twitter.com/pherim/status/1367683967357313024
■7月30日公開作
『アンデス、ふたりぼっち』
標高5千m超の高地にとり残された老夫婦の暮らし。
アイマラ語と共に滅びゆく世代の生活を映すゴツゴツと荒削りな映像から、過去に覚えがない種の衝撃を受ける。
34歳で夭折したオスカル・カタコラ監督のデビュー長編にして遺作が宿す、先住民放置政策への鋭い批判。
"Wiñaypacha" "Eternity" https://twitter.com/pherim/status/1552847952401793025
『UTAMA~私たちの家~』 URL近日追記
オスカル・カタコラ監督へのインタビュー記事がめっちゃ面白いので追記予定。
日本語訳もwebに挙がってた。
→https://eiga.com/news/20220723/2/
けどこの記事、出典どころかインタビュアーの名さえ載せないのは大手映画メディアの意識としてどうなんでしょうね映画.comさん。
(そら配給から提供された宣材が元で権利上は料理自由なんだろうけど姿勢がざんねん)
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 国内コンペティション短編部門
https://www.skipcity-dcf.jp/films/#js
『サカナ島胃袋三腸目』
豚のとん吉と魚のさかな子が、巨大魚の腹の中でおたまじゃくしの坊やを授かる。
狂気ほとばしりブラックユーモア溢れる世界観が往年のディズニーアニメやH&B版“動物農場”を強烈に想わせる。たぶん物凄い少人数でこの再現性を獲得したろうあたりにもヤバさ感じる若林萌監督作。
"3 Intestine Road, Fish Island" https://twitter.com/pherim/status/1553931968500629505
『動物農場』https://twitter.com/pherim/status/1314887578772885504
『こねこ』
道端の猫をめぐる同級生男子からの道徳問答が心に引っかかる、多感すぎてすべて受け身にならざるを得ない高校生女子。
おずおずと逡巡する様が瑞々しい主演・モカ&犬飼直紀と、大人な未来を象徴する司書役・藤井咲有里のパキッと明晰な演技が好対照な、山口あいり監督作/是枝ゼミ作品。
"Kitten" https://twitter.com/pherim/status/1555387078212730880
『ストレージマン』
コロナ禍で職を失い家族に見放され、家さえなくした30代男(連下浩隆)が、管理人の目を盗みトランクルームに住み始めると、そこには非合法の先住民達が。
八方塞がりの中、言葉を交わす見ず知らずの女性に妻の面影を重ねてしまう心理描写が、滅法鋭く胸に刺さる萬野達郎監督作。
"Storage Man" https://twitter.com/pherim/status/1556515647185887238
『喰之女』“Swallow” by Mai Nakanishi
上昇志向バリバリの女優シューラン(韓寧)が、控えめな女優仲間ミミ(劉黛瑩)にマウントしつつその美貌の秘訣を尋ねると、謎の招待制晩餐会へ招かれる。
美術衣装からメイクまでホラー演出の水準がヤバい中西舞監督作。この監督はブレイク間近の予感しかない。
"SWALLOW"
『しかし、それは起きた。』
担当するクラスから自殺者を出した教師女性が、その母親の訴えにも、イジメ加害を告白する生徒たちにも無反応に淡々と事後処理をこなしゆく。
説明台詞を一切省き、最小限の描写で深層へと降りゆく演出&教師役/巽よしこが見事な吹田祐一監督作。
[動画見当たらず]
"But It Did Happen"
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 関連企画 パパママ・シアター
https://www.skipcity-dcf.jp/films/#pm
『娘は戦場で生まれた』
陥落間近のアレッポで子を産むと決断する母。未来の娘への語りかけが全編を占める本作がもつ、シリア紛争描く過去の傑作全てを凌ぐ訴求力。その切実な願いや声音に宿る絶望の昏さに並置された、喜びと光差す一瞬とを封じ込めた映像の、ほとばしるような生命力に圧倒される。
"For Sama" https://twitter.com/pherim/status/1231801801977950208
拙稿「紛争地に響く痛切な祈り 『娘は戦場で生まれた』」:
http://www.kirishin.com/2020/03/10/41757/
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 チャリティ上映「ウクライナに寄せて」
https://www.skipcity-dcf.jp/films/#ukr
『ラブ・ミー』
伝統婚を控えたトルコ人兄貴がウクライナへの買春ツアーへ連行され、鉢合わせた最高級娼婦の身内トラブルに巻き込まれるうち互いに恋してまう。
オデッサの売買春描写や中盤の地下鉄駅行脚が興味深く、圧倒的異次元を生きる男女がピュアに惹かれ合う展開にのめり込む。
"Sev beni" "Love Me"
超越的美人に連れられた地下鉄駅行脚の場面、登場する駅構内や車体のスタイル&サイズ感がモスクワ地下鉄舞台の『メトロ42』そのもので、ああ同じソ連文化圏だなぁって。
『メトロ42』“Метро” https://twitter.com/pherim/status/1513486843429355520
拙稿「ルーシの呼び声(4)」 URL近日追記
『この雨は止まない』
ひとりのクルド人青年が、シリア紛争で各地へ離散した一家を訪ねる。
紛争から逃れた先ウクライナでは、別の紛争が襲い来る。クルディスタンの現況を象徴するかのようなパッチワーク模様の11章構成。その写真集をめくるような静けさと、予想外の仕掛けにより締められる衝撃と。
"This Rain Will Never Stop" https://twitter.com/pherim/status/1448647570889211908
『この雨は止まない』を観ながら幾度も脳裡をよぎったのは、アキ・カウリスマキ『希望のかなた』主人公でフィンランド語の話せない難民役を演じたクルド人俳優シェルワン・ハジへインタビューした記憶だった。彼自身は欧州へ“移民”する以前、ダマスカスへ“留学”していた。(続
インタビュー with シェルワン・ハジ: http://www.kirishin.com/2017/11/30/10088/
■日本過去公開作
『熱狂 ドンバス交響楽』
製鉄所の勇姿と、大地駆る農耕機の躍進。
スターリン5ヵ年計画を、ショスタコーヴィチ交響曲3番が全力で祝すジガ・ヴェルトフ1930年作。音へ特化したサスペンス調の導入が意外性あり魅せる。
老婆祈るキリスト像が抹消されゆく不穏と、
笑う工員や踊る農婦らとの鋭き対照。
"Энтузиазм: Симфония Донбасса" "Entuziazm (Simfoniya Donbassa)" "The Donbass Symphony" https://twitter.com/pherim/status/1544227191004995584
拙稿「ルーシの呼び声(3)『アトランティス』『リフレクション』『ナワリヌイ』《特集上映:ウクライナの大地から》」
http://www.kirishin.com/2022/07/06/55065/
余談。『アンデス、ふたりぼっち』の項で映画.comの意識の低さを嘆いたのだけど、これは先立つ事例もあってのことで。さらには映画メディアとか配給とかふだんから日常的に海外の気風や思潮へ触れているはずなのに、めっちゃドメスティックな感覚かつバブル時代引きずる頭の古さを随所に覗かせるの、日本社会の縮図でしかなく残念すぎる。無自覚なので、外部から批判されても「そんなことはないと思います」とか実際なにも考えずに言えたりするしね。
この感覚に組織のなかで若い世代まで染まってゆくの、ほんと勘弁マジやめち。
さいきんツイッターは極力この手の闇展開を避けることにしているので、そのぶんここ余談コーナーの暗黒面堕ち率が高まりましたの。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペ長編および国内コンペ長編部門については近日扱う予定です。
おしまい。
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